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藤川は新球試投、ローテ争い・遊撃サバイバルの激化。開幕延期に見える阪神の変化
3月20日に予定されていたリーグ開幕が延期されたプロ野球。新型コロナウイルスという未曽有の危機に、選手たちも明日の見えない状況に置かれている。だが一流のアスリートは、どんなアクシデントが起きようとも自分のやるべきことを見失わず、前を向き、時にチャンスへと変容させる。それは“タテジマ”の戦士たちにも同じことが言えそうだ――。
(文=遠藤礼、写真=Getty Images)
選手会長・梅野隆太郎の印象的な言葉
「球春」が突然、遠のいていった。ボールパークに歓声がとどろかない「非日常」の終わりは、なかなか見えてこないのが現状だ。3月9日、プロ野球は都内で臨時の12球団代表者会議を開き、20日に予定していたセ・パ両リーグの開幕延期を決めた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けてあらゆるカテゴリーの大会、スポーツイベントが自粛、中止の措置を取る中でプロ野球界も大きな決断を下した。
オープン戦も中盤から終盤に入っていき、「3・20」へ向けて身心ともに仕上げの段階に入っていくタイミングで決まった小休止。個々の立場、コンディションに違いはあれど、ほとんどの選手にとって調整に狂いが生じてしまったことは否定できないだろう。
そんな中で、阪神タイガースの選手会長・梅野隆太郎の言葉が印象的だった。
「こういう時だからこそプロとしての自覚を持って、戦っている姿をテレビとかでファンに伝えたい。開幕した時に最高のプレーを見せられるようにできることをやって、準備していくだけだと思う」
球場に足を運べなくなったファンの失望感に思いを寄せるとともに、前を向き、自らコントロールできることだけに注力することを強調した。
実際、日々取材しているタイガースの選手たちも声をそろえるようにこの突発的に生まれた空白の時間を「プラス」に捉えようとしている。いくら異や不満を口にしても、開幕の時期を自力で操作できるわけではない。操作不能なものに心を乱し、無駄に時間を過ごすのではなく、プロのアスリートはいかにこのアクシデントをチャンスに変え、パフォーマンス向上につなげられるかに思考を切り替えていく。タテジマの男たちも決して例外でなかった。
藤川球児は与えられた猶予期間を活用
いち早く試合へのアプローチを変えたのは39歳のベテラン・藤川球児だった。13日のオリックスとのオープン戦(京セラドーム)で6回から登板すると、従来の配球では少なかったスライダーを多投。T-岡田に3ランを浴びるなど1回5失点という結果にも、収穫を口にした。
「変化球の練習。やることを決めてやっている。相手に合わせて投げていないので。今日はスライダーを1つ使いたかった。カウントも取れたしシーズンで使えたら」
本来なら開幕までちょうど1週間の段階で、新たな球種を試すことは考えにくい。
そもそも、今季は東京五輪イヤーで開幕は前倒しになるため、背番号22も春季キャンプから意識的にペースを早めた調整に着手。そんな中でシーズンインがずれ込むイレギュラーな事態を迎えても百戦錬磨のクローザーは柔軟な対応を見せた。オリックス戦の試合後、担当記者の囲み取材でスライダーを投じたことに「延期だからこそできることか?」と問うと、うなずいた。
「そうそう。ここから先は試合数も増えて相手のデータも増える。いろんなことをやっていくべくき。今やるべきことと、シーズンでやることは、自分の中では別なんで」
言葉通りに受け取れば、シーズンを見据えてスライダーの精度を高める時間が増えたとも受け取れるし、他球団に対して新たにマークすべき球種を印象付けることにもなった。今後は左打者へのチェンジアップも試すことも宣言。与えられた猶予期間をシーズンでのパフォーマンス向上、対戦相手との駆け引きにつなげることも考え、すでに再スタートを切っていたのだ。
青柳晃洋が口にした“ファンのありがたさ”
一方で、今年5年目を迎え、ローテーションの一角を担う青柳晃洋は特異な周辺環境を大きな力に変えようとしている。2月下旬から無観客の状態でマウンドに上がり続ける。3月8日の巨人戦では初めて甲子園で登板。「僕レベルでも、緊張感は落ちる。僕の場合はやっぱりオープン戦でも歓声があった方が気合も入りますし。緊張して最初のストライクを取って落ち着いていくという流れがある。正直、ちょっと練習の延長戦上になってしまった感じがあった」と振り返る。一方で思いを巡らせたこともあった。
「ファンのありがたさというのを感じてますね。あれだけのファンの方がスタンドに入ってこその甲子園だと思う」
これまで以上に声援を力に変えられる機会だと捉えて“その日”を待つ。
故障者にとってはチャンス、レギュラー争いも激化
チーム編成に目を向ければ、故障者には傷を癒やす時間が与えられたことにもなる。キャンプ中に自身も左足を痛めた能見篤史は「ケガしてる投手とか(開幕が)伸びたことで戦力としてそろうのでいいことかなと思う」と落ち着いた口調で話した。40歳左腕は2011年の東日本大震災での開幕延期を経験している。そして、右足の張りで調整が遅れていたセットアッパー候補の岩崎優は、延期が決まると本隊を離れて2軍に合流。滑り込みで開幕1軍入りする必要がなくなり、じっくりとファームで状態を上げる方針で「自分にとってはよかったと思う。しっかり合わせます」と決意を新たにした。
また、各ポジションのレギュラー争いも“延長戦”に突入。北條史也と木浪聖也の遊撃サバイバルは激しさを増し、藤浪晋太郎、ロベルト・スアレスらが参戦している開幕ローテーション残り2枠も、長いサバイバルを勝ち抜いた“勝者”がその座につくはずだ。
そして、プロとしてファンも置き去りにはしない。矢野燿大監督の発案で12日には練習前に選手が集まってSNSなどを使ったファンサービスの企画会議を実施。早速、13日からInstagramの機能を使って練習の様子を生配信すると、17日からは球団の公式YouTubeチャンネルで甲子園での練習をライブ中継し、球場に来られない人たちとの距離を縮めた。戻ってくると信じている“日常”へ、ファンと選手が向ける視線は聖地で重なる。プロフェッショナルな集団として、猛虎はプレーボールを待ち焦がれるファンの前に必ず現れる。
<了>
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