阪神・梅野隆太郎、15年ぶりVへの覚悟。「3年やって一人前」の先に見出した答えは?

Career
2020.01.20

シーズン最後に奇跡的な6連勝を飾り、大逆転でクライマックスシリーズへの進出を決めた。横浜に乗り込んだファーストステージでは、1点を争う痺れるような展開を制した。阪神タイガースにとってまさに劇的なシーズンとなった2019年。「3年目」を迎えていた梅野隆太郎は、その先に何を見いだしたのか。15年ぶりのリーグ優勝に向けて、覚悟は決まっている――。

(文・撮影=遠藤礼)

「3年やって一人前」、梅野にとって中身の濃かった2019年

2年でも、4年でもない。「3年やったら一人前」――。プロ野球界でよく耳にする言葉だ。なぜ「3年」なのかと問われれば答えに窮してしまうが、確かに絶妙な数字なのかもしれない。そんなことを思ったのは、阪神タイガース・梅野隆太郎の“3年目”を間近で目にしてきたからに他ならない。

福岡大から2013年のドラフト4位で入団。2016年までの3年間は浮き沈みの激しいプロ生活を経験したものの、2017年からレギュラー捕手に定着し、3年連続で100試合以上に出場。昨年は打率.266、9本塁打、59打点とキャリアハイの成績をマークし、特に守備では「梅ちゃんバズーカ」と称される強肩と、球界屈指のブロッキング力を武器に2年連続でゴールデングラブ賞も受賞した。オフの契約更改では球団の生え抜き捕手では史上初となる大台の年俸1億円に到達。1軍の主力メンバーに定着し、ちょうど3年目となった2019シーズンは多くのものを得た1年だった。実際、本人も先発捕手として出場が増え続けた当初から「3年」という節目は密かに頭にあったという。

「よく周りからも“3年やって”という言葉は言われていたので一つの目標というか、1軍で試合に出始めた時は意識はしていましたね」。果たして、その先の景色に大きな変化はあったのか。3年間、正捕手としてマスクをかぶり続け、湧き出る手応えのようなものはあったのか。28歳は小さく首を振った。

「3年やって何か自分の中で確固たるものを得たとかは実際、ほとんど無くて。それは昨年の1年間、シーズンを戦って強く思った。レギュラーシーズンの最後6試合で全部勝てばクライマックスシリーズ(CS)に進出できるという状況で6連勝して。その後のファーストステージでも1点を守り切るという試合の連続だった。最後にああいう状況になるなんて予想してなかったですし、まだまだキャリアの中で経験できていないことがこれからもたくさんあるんだろうなと感じた1年だった」

タイガースの2019年は文字通り「劇的」だった。9月15日を終えた時点で3位広島カープとは4.5ゲーム差で残り9試合。Bクラス濃厚でポストシーズン進出が「絶望的」といえる状況に陥りながら6連勝フィニッシュを含む8勝1敗の快進撃を見せ3位に滑り込んだ。勢いそのままで横浜に乗り込んだ横浜DeNAベイスターズとのCSファーストステージも2勝1敗で突破。1試合も落とせず、1点も与えられない痺れるゲームの連続は何物にも代えがたい経験となったことは間違いない。個人としても4月の開幕4戦目で読売ジャイアンツ・岡本和真と接触して左足薬指を骨折しながら、強行出場を続けた同9日には甲子園でサイクル安打も達成。痛みに耐えながら戦った序盤、そして未体験の緊張感を味わった終盤と、中身の濃さもキャリアで郡を抜いていた。

憧れの大先輩OBからかけられた言葉

ファイナルステージで巨人に敗れて長いシーズンが終わった瞬間、「3年」という個人的な感慨は微塵も無かった。「ただ、優勝したいと思った」。充実感や達成感ではなく勝負に敗れた純粋な悔しさと、予想しなかった展開の連続で幕を閉じた長い「1年」が終わった疲労感だけが体に残っていた。そもそも「3年やって……」とは、周りが評価する基準の一つであって、本人が意識することでもない。それでも、ただ一つ、梅野には分かったことがある。

「経験できていないことは常にある。当たり前ですけど、3年やったから全部知れたわけじゃない。今年も新たに経験することも絶対、出てくるだろうし。それを自分の中で引き出しとして増やすためには(先輩の話を)聞いているだけじゃ無理なんで。やっぱり試合に出て実際に経験しないと増えていかないので。より目の前の一試合に出たい、全力で戦いたいという思いは強くなりました」。

キャリアハイの1年を過ごし、「この大台を目標にこの世界に入ってきた」という年俸1億円も手にした。それでも、今はチームの中で一定のポジションまで上り詰めたという「実感」より、プレーヤーとしての「渇望」が勝る。そんな中、憧れの大先輩の言葉で覚悟は決まった。昨年12月、毎オフに会食しているOBでもある城島健司氏(現・ソフトバンクホークス球団会長付特別アドバイザー)にゲキにも似た言葉をかけられたという。

「ジョーさん(城島)といろんな話をさせていただいた中で“もっとどん欲になれ”“もっと上を目指してチームを背負う捕手になっていけ”という言葉がすごく印象に残っている。捕手としてまだまだ上を目指せる、目指していかないといけないんだと」

1月中旬、連日気温20度を超える沖縄・宜野座で梅野は先輩の能見篤史らと自主トレに励んでいた。「ここ最近、試合に出させてもらっている中で、(他球団の)リーグ優勝の場面を見ることがやっぱり悔しい。本当に歓喜……チームで優勝をつかめるようにしたい」

マスク越しに見えてきたのは、戦う集団として追い求める唯一無二の栄光と、無限に伸びしろのある捕手というポジションの奥深さ。あえてその言葉を使うなら、梅野隆太郎という一人の捕手にさらなる「高み」の存在を気付かせた「3年」だったのかもしれない。

<了>

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