
Bリーグ、今季中止に次ぐ苦渋の決断 「耐えるシーズン」の来季、特例で守るべきものとは?
今季の中止、来季のB1からB2への降格停止を決定していたBリーグは、新たに来季に向けた決定事項を発表した。B1はB2から信州ブレイブウォリアーズと広島ドラゴンフライズが昇格し、東西10チームずつの2地区制で開催。またB2からB3への降格が停止され、B3からB2への昇格も行われない。そこから読み解くことができる、Bリーグが苦渋の決断をしてでも守るべきものとは?
(文=大島和人、写真=Getty Images)
来季のB1は東西10チームずつの2地区制へ
Bリーグは4月24日の理事会で、来季(2020-21シーズン)のクラブライセンス交付に関する決定を行った。例年は2度に分けられる発表が今季は一括となり、時期も後ろ倒しにされた。新型コロナウイルスが及ぼす影響を、見極める必要があったからだろう。
今季(2019-20シーズン)の中止、翌シーズンに向けたB1からB2への降格停止は既に3月末の段階で発表されていた。アリーナ要件によりB2ライセンスを得られなかった東京エクセレンスのみ、B3降格が決まっている。
大河正明チェアマンは3月末の発表でこう説明していた。
「残留プレーオフなしに降格チームを作ることはできない。一方で昇格を目指して投資し、47試合を戦ったB2クラブをまったく昇格させぬわけにもいかない。ライセンスの保有を前提に、B2の上位2チームをB1に昇格させる。2020-21シーズンはB1が20チーム、B2が16チームになる」
4月24日にはB1・B2ライセンスの交付状況が発表されている。B1ライセンスの認定は計24クラブだ。既にB1所属だった18クラブに加えて、B2の仙台89ERS、茨城ロボッツ、群馬クレインサンダーズ、信州ブレイブウォリアーズ、広島ドラゴンフライズ、熊本ヴォルターズにも交付された。
今季はB1のチャンピオンシップ、B2のプレーオフなどポストシーズンも中止されたため、順位はレギュラーシーズンの勝率で決まった。B2の西地区王者・広島、中地区王者・信州がいずれも40勝7敗で、そのままB1昇格を決めている。
過去4シーズンは3地区制で行われたB1だが、来季は東西10チームずつの2地区制で開催される。地区分けは総務省の都道府県コードに基づき、こう確定している。
<2020-21シーズンB1地区分け>(★印が昇格チーム)
【東地区】
レバンガ北海道
秋田ノーザンハピネッツ
宇都宮ブレックス
千葉ジェッツ
アルバルク東京
サンロッカーズ渋谷
川崎ブレイブサンダース
横浜ビー・コルセアーズ
新潟アルビレックスBB
富山グラウジーズ
【西地区】
信州ブレイブウォリアーズ(★)
三遠ネオフェニックス
シーホース三河
名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
滋賀レイクスターズ
京都ハンナリーズ
大阪エヴェッサ
島根スサノオマジック
広島ドラゴンフライズ(★)
琉球ゴールデンキングス
B2連覇の信州“悲願”のB1ライセンス交付
ライセンス審査は「競技」「施設」「人事組織体制」「法務」「財務」の5項目について行われる。判定に大きく影響するのが施設と財務だが、信州はこの2つの基準をクリアするために苦しんだ。昨春はB1ライセンスの交付を受けられず、B2を制したにもかかわらず今季の昇格を逃している。
そもそも2018年6月期の決算で債務超過だった信州には、今季のB1ライセンスを申請する資格がなかった。ただしクラブは特例を目指して動いた。2019-20シーズンの申請時期は2018年11月末で、同年の秋には前年度の決算内容も見える。それを受けて最速で動ければ、別の結論がありえた。
財務要件に関していうと、しゃくし定規に振り落とす判断がされるわけではない。短期的な回復が認められる場合は、一時的に基準をクリアしていなくても柔軟に対応される可能性がある。信州も2018年11月末の申請時点で新たな出資の呼び込みなど資本政策を済ませていれば、今季のB1ライセンスを交付された可能性があった。しかしそれは極めて難しい挑戦で、信州はハードルにまったく届かなかった。
一方で1年前の失敗が生かされた部分もある。昨季(2018-19シーズン)の信州は昇格に向けた集客キャンペーンを打ち、一定の成果を出した。また千曲市と長野市の絡む調整により、ホームアリーナをことぶきアリーナ千曲からB1基準の規模を持つホワイトリングに移している。2019年6月期の決算では債務超過も解消された。ライセンス交付が難しい状況を伏せてキャンペーンを進めたクラブの姿勢に批判はあったものの、体制固めは進められていた。
大河チェアマンは直近のWeb会見で、信州の経営についてこのように述べている。
「先期(2019年6月期)の苦い思い出があり今期(2020年6月期)は資本を積み増し、新しいアリーナでチャレンジを始めた。新型コロナウイルスの影響で今期の着地は事業収入が3億円内外になると思うが、来期(2021年6月期)はB1昇格を前提として5億円の営業収益を考えているとのことです。先般の資本政策に加えて、新しい支援者が現れ、しっかり(信州)ブレイブウォリアーズを支えていくとお約束いただいている」
信州は2018年度(2019年6月期)の営業収入が3億2942万円。昨季はレギュラーシーズンがフルに開催された上、プレーオフセミファイナル、ファイナルの入場料収入という上積み要因もあった。今期の売上は横ばい、微減となる見込みだ。
ただしBリーグは新型コロナウイルスの影響を踏まえて、ライセンス判定の基準を緩和している。事業収支、純資産、売上高といった要件が今回の財務に関する審査では考慮されていない。資金繰りに関しては「通常開催した場合に資金ショートを起こさない期末残高」という基準でチェックされた。信州へのB1ライセンス交付を妨げる材料は当然なかった。
“耐えるシーズン”の経営を安定させるための特例
広島と信州はいずれも初のB1昇格で、飛躍のチャンスだ。特に広島は2018年12月に英会話スクールでおなじみのNOVAが新オーナーとなり、財務状況や経営体制はB1レベルにバージョンアップされている。
信州もB2連覇というコート内の結果には非の打ち所がない。勝久マイケルHC(ヘッドコーチ)は37歳という若さだが、2016−17シーズンに島根スサノオマジックをB1昇格に導き、信州でも卓越した手腕を見せている。今季はエースでポイントガードの石川海斗が熊本に移籍したものの、アースフレンズ東京Zから獲得した西山達哉がその穴を埋める活躍を見せた。西山も含めて主力はB1経験のない選手ばかりだが、勝久HCが遂行力の高いチームを作り上げた。
確かに信州は経営的になお背伸びをしている感が否めない。B1に昇格すればスポンサーは一時的に集めやすくなり、リーグからの分配金も増える。ただし残留のための強化をしようとすれば、予算を増やす必要がある。予算は一度増やすと、絞ることが難しい。コート内外の成長をシンクロさせられれば、クラブは飛躍できる。一方でバスケットに限った話ではないが「背伸びした体制作りをして、1年で降格する」流れは経営的に極めて危険だ。
そのような懸念を持っていたが、Bリーグは経営を安定化させる特例を用意した。先述の通り2020-21シーズンはB1が20、B2が16クラブで開催される。2021-22シーズンに向けた昇降格はB2→B1の昇格2枠が予定されているものの、B1→B2、B2→B3の降格が停止されることになった。またB3からB2への昇格も行われない。
デメリットも当然あるだろう。例えば降格の停止により理論上は「0勝60敗の残留」が起こる。しかし残留ギリギリのチームが無理な出費をする必要がなく、2022年を見越して計画的に投資できる。大河チェアマンは述べる。
「“耐えるシーズン”という中でB1・B2の1クラブも破綻しない、資金繰り難に陥らないように何をするのがベターな選択か話し合った。B1は最大22チームまで増えるが、もともとの18クラブにその先2年をかけて戻すことも合意されている」
「B3のクラブは1年我慢していただく」
Bリーグは開幕から3シーズンに渡って、経営的にも順調な成長を続けてきた。クラブの買収案件も増え、成長に向けた投資がトレンドだった。転じて2020-21シーズン、2021-22シーズンは成長以上に存続が問われる。だからこそ人件費などの投資を抑制しやすい昇降格のレギュレーションが用意された。
一方でB2からB1の昇格枠を残した理由について、チェアマンはこう語っていた。
「複数年契約も含めてB2からB1への投資をしているクラブもある。そこをシャットアウトすることはできない」
2020-21シーズンのプレーオフは開催される見込みで、今季のようにB1ライセンスを持っているクラブが1位、2位を占めればそのまま昇格することになるだろう。B1クラブが翌シーズンのライセンスを取れなかった場合の取り扱いや、B1ライセンスを持っていないクラブがB2の上位を占めた場合の取り扱いはこれから議論される。
B3からB2への昇格が行われない背景については、このような説明があった。
「B3から昇格を認めるとB1・B2の数が増える。1クラブあたりの配分金が減り、経費も増え、色んな意味でリーグとクラブの経営を圧迫する要因になる。断腸の思いだが、B3のクラブは1年我慢していただく結論にせざるを得なかった」
B1に比べて時間差はあったが、2018年以降はB2の経営強化も進んでいる。存続が危ぶまれる状態だったクラブも財務的に引っ張り上げられた。とはいえBリーグの人材や資金には制約があり、戦線を無限に広げられるわけではない。
B3はプロチームと実業団の混成リーグで、Bリーグとは運営法人も分けられている。リーグ戦は偶数チームが原則で、入れ替え戦を開催せず昇格を認めるならば複数チームをB2に昇格させる必要がある。新規参入クラブは経営や運営のフォローが必要で、リーグは人的リソースをそこに割かざるを得ない。さまざまな条件も勘案して、Bリーグは現有勢力をまず守る決定を下したのだろう。
新型コロナウイルスのような世界経済を揺るがす、社会の変動が伴う重大な事態が起こった場合には、平時と違う要素を検討する必要がある。バスケット界も実際に、2月末からイレギュラーな判断を強いられている。競技レベルの維持向上や公平性の確保は極めて大切な価値だ。しかしBリーグは葛藤を見せつつ、クラブ存続を最優先する制度への切り替えを済ませた。
<了>
新型コロナ「最悪のシナリオ」にBリーグはどう挑む? 経営基盤の脆弱なクラブも「破綻させない」
Jリーグ「降格無し」は正しい決断なるか?「問題発生してから判断」を選択しなかった理由とは
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