【THIS IS MY CLUB】「ビッグクラブになるために重要な年」 経営者としてヴィッセル神戸を守り抜くブレない姿勢

Business
2020.07.05

新型コロナウイルスにより長らく中断となっていたJ1も7月4日、いよいよ再開する。
Jリーグが再開となったが、新型コロナウイルスの第二波、第三波が来る可能性もある中で、「今後のスポーツ界はどのような選択をしていくのか考えなければいけない時期でもある」と楽天ヴィッセル神戸 代表取締役社長 立花陽三氏は言う。東北楽天ゴールデンイーグルスの代表取締役社長も兼務している立花氏だからこそ見える、今後のスポーツ界に必要なことは何か、経営者としてこの状況の中どのような考えを持つことが大切なのか、話を聞いた。

※このインタビューは再開するJリーグをさらに盛り上げるための取り組み「DAZN Jリーグ推進委員会」の活動の一環、17のスポーツメディア連動企画となります。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真提供=ヴィッセル神戸)

危機的状況を乗り切るアイデアとモデルチェンジの準備が重要になる

――Jリーグ再開に向けて新型コロナウイルスに関する公式検査(PCR検査)の第1回目の結果が昨日、発表されましたが、Jリーガー、スタッフ含め約3000人中、陽性数は0件という結果でした。この結果を受けて、立花社長はどのように感じられましたか?(編集注:取材6月25日)

立花:まずは一つのハードルを越えたのかなと思いますが、今後まだ第二波、第三波が来るという可能性はあるので、これからも継続的に検査を行っていくことが重要ではないかなと考えています。

――ヴィッセル神戸は3月下旬に、Jリーグの中で1人目となる酒井高徳選手が新型コロナウイルス感染症の陽性判定が出てしまいましたが、だからこそ対策も含めて、この間、徹底してきたと思います。具体的にはどのような形でやられてきましたか?

立花: 2月の時点から、おそらく全クラブの中でも選手、スタッフ含めてかなり厳しく制限はしてきたつもりでした。にもかかわらず、クラブ内で陽性判定が出てしまい、非常に残念でしたし、ショックを受けたのも事実です。その後、行動履歴などを見ましたが、状況的に我々が設けた規定の範囲の中から出てしまったので、改めて、より厳しく制限をかけざるを得なくなったのが現状でした。そういったことが、練習量の制限や精神的ストレスも含めて選手たちにプレッシャーを与えてしまっているのではないかという危惧はありましたし、その両にらみが本当に難しいと今でも感じています。これからもそのバランスを取っていくのは大変だと思っています。

あとは、今も社会問題になっていますけども、(感染者特定などの)犯人探しや安全な距離感の保ち方というのは、今回非常に苦労しました。

――クラブ内で陽性判定が出たことは複雑な気持ちだと思いますが、それによって、新型コロナウイルスに関するさまざまな理解が深まることもありますよね。

立花:そうですね。対策を取ることに関しては、より徹底できるようになったと思います。ただ、本当に見えないものなので、逆にその恐怖を改めて感じたのは事実ですね。

――東北楽天ゴールデンイーグルスの代表取締役社長も兼務されていますが、楽天のほうでも、神戸で行っていることを同じように生かしているのですか?

立花:楽天の選手たちにはすごく負担をかけてしまいました。他球団がチームで練習している中でも、練習場を封鎖して、個人でトレーニングをさせていました。そのため、投げる場所がないので特にピッチャーには、本当に苦労をかけてしまったなと。

プロ野球は先に開幕しましたが、開幕までに逆にケガをしたりする可能性が高かったので、これは今でもケアしていますが、本当に難しい問題だなと思っています。

――まだまだ収束していない中で、今後プロスポーツクラブ、Jリーグクラブとして、どのようにこの問題に立ち向かっていけばいいと考えていますか?

立花:ネガティブに捉えていただきたくはないですが、正直に申し上げて、これはかなり危機だと思っています。ワクチンや薬などが開発されて、この病気に打ち勝つ日までは、お客さまを入れられない状況は続くと思うので、プロスポーツの根底のビジネスモデルが崩れたと思います。もっと言うと、その中で、今後また試合ができない状態が起こり得ることも考えないといけないと思っています。

そういう意味では、この危機的状況を乗り切るには、かなりのアイデアとビジネスのモデルチェンジをしておく準備が重要だと思っています。新型コロナウイルスに打ち勝って元の生活に戻るシナリオのパターンと、まさにニューノーマルと言われている、新しい世界のプロスポーツビジネスを考えないといけない。その両方を今考えないといけない分岐点に来ていると感じています。

このままでいいのか、どこかのタイミングで議論をしないといけない

――立花社長のこれまでのスポーツチーム経営理念は、やるべきことを行って、結果を出してきているというイメージがあります。神戸でもようやく初タイトル(天皇杯)を取って、まさにアジアを目指してこれからというタイミングでこの状況になりましたが、その中でモデルチェンジ、スタイルを変えていくのはすごく難しいことだと思います。どういうマインドで向き合っていこうと考えていますか?

立花:正直、まだ台風の中にいるというか、先が見えない状況だと思っています。我々だけでなく、本当にリーグ全体が存続できるのか、というぐらい大きな話だと思います。世界のサッカーを見ても、フランスのリーグアンなどは今シーズン途中での打ち切りをしたりしていますけども、また第二波、第三波が来た時、Jリーグもどうなるかわからない状況だと思うんですね。

Jリーグにおいては、この数年で放映権の比率が大きくなり、Jリーグ全体が大きくなるということで、我々もそれに乗って、大きくエクスパンドするビジネスモデルを追求してきました。サッカー界が盛り上がって、我々も盛り上げる一翼を担いたいという思いで、ここ数年ギアを踏み続けてきたんですけれども、今の状態というのは、ストップというよりは、何をどうすればいいかわからないぐらい難しい状態だなと考えています。

ですので、5年後に世界のサッカー界がどうなっていて、リーグはどういう状態で、どこを目指してやっていくのか、我々だけでなく、やっぱりちゃんと議論していかないといけないと思います。投資家や親会社、といったステークホルダーの方々にもきちんと説明をしなきゃいけないので、本当に自分たちだけの問題ではないぐらい大きな問題だなと思っています。

――確かに、世界が変わってしまったようで、何を目指してやっていけばいいのかわからない状態ですよね。

立花:今はそういう議論ができる状態じゃないのも理解はしていますが、本当にこのままでいいのかというのは、どこかのタイミングで議論をしないといけないと思います。Jリーグも、今までのビジネスモデルに戻れるシナリオと新しい世界のものというのは、どこかで議論し始めないといけないんですけれど、まずはリーグを再開・開幕することと、一クラブもつぶさないということを念頭に置くということだったので、そこに我々も賛同させていただいた、というのが現状です。

――Jリーグ中断期間中にクラブの内外で行ったことの中で、良かったことや、今後の活動に生かせるようなエピソードがありましたら教えてください。

立花:選手もスタッフも本当にみんな頑張ってくれて、インターネットを活用した新しいファンサービスにもトライしてくれています。こういった新しいビジネスモデルはまだまだ事業規模としては小さいものですが、これらのビジネスモデルがだんだん立ち上がっていき、これを続けていくことが重要だと思います。そういう施策によって、試合を見にきた人たち、来なかった人たちに対するアプローチがまだ弱かったことが再認識できたので、それぞれのお客さまに対するアプローチを模索しながらトライ&エラーをくり返しつつやり続けないといけないと思っています。ただ、それがすぐに経営のコアになるビジネスモデルかというと、それは全くそうではないので、これからもさまざまなことを試しながらやっていく必要性があると思います。

あとこれは我々だけの話じゃないですが、今回Jリーグとプロ野球が一緒になってスポーツ界をリードする形になって、新型コロナウイルス対策連絡会議などを行っています。賛否両論あると思いますが、それでもこうして一つになって行っているということは、素晴らしいことだなと僕は感じています。

――プロ野球とJリーグが公式で定例会議を行うのは初めてのことですよね。

立花:はい。いろいろな声があるのは当然ですが、方向性含めてオープンディスカッションできていることは素晴らしいと思っています。

――Jリーグは平常時から、毎月、実行委員会で各クラブの代表が集まり、そこで議論や情報交換を行っていますが、ほかの競技団体でもそういった情報交換や会議がより活発に行われていくといいですよね。

立花:まさにそう思います。先ほども言いましたが、僕は本当に今回の新型コロナウイルスは、もしかするとワーストシナリオでいくと、プロスポーツ界が終わってしまうシナリオさえ本当にあると思っているので、そうならないために、先手、先手を打たないといけないと思っています。

プロ野球が先に開幕しましたけども、そこでやっているビジネスモデルはJリーグにも通ずるものがいっぱいあるので、それはお互いに今後ともやり続けていくことが大切だと思います。サッカー界、野球界どちらからもアイデアが出てくるので、それをうまく両方の場で行っていったら、非常に面白いことになると思います。

PCR検査のスピード感も、Jリーグがすぐに行ったことは、本当に素晴らしいことだと思いますし、やっぱりお互いが良いムーブメントを作っているように感じます。

代表取締役社長の兼業は周りのスタッフあってこそ

――立花社長は楽天(プロ野球)と神戸(Jリーグ)、両方の代表取締役社長を兼務されていますが、どんな形で業務をこなしているんですか?

立花:正直、会議などが重なったりしていて大変なこともあります。ただ、両方の事業部にしっかりしたスタッフがいて、補強面では楽天はゼネラルマネージャーに石井一久、神戸はスポーツディレクターとして三浦淳寛がいますし、事業ビジネスの部分もしっかりとした組織になっています。なので、今はもう安定しているかなと個人的には思っています。

――三木谷(浩史)会長との関係性の中で、立花社長が2つの代表取締役社長を行えているのは、人事、マネジメントを大切にしているから、ということですね。

立花:そうですね。それと、Jリーグとプロ野球の社長を兼務しているメリットとしては、パ・リーグの社長会などで各球団の社長が集まった時などに、「Jリーグではこういうことが起こっていますよ」とか、「Jクラブではこういうことをやっていますよ」ということを共有させていただいたりしています。

――代表取締役社長を神戸も兼任してほしいと三木谷会長から言われた時は、どんな気持ちでしたか?

立花:最初は、正直、驚きました。ただ、引き受ける際には、しっかりとしたマネジメントをさせていただこうと。社長に就任する前から代表取締役副会長という立場では経営を見ていたので、ある程度目には見える形だったのは大きかったです。いきなりやっていたら大変だったと思います。

――そう考えると、楽天の代表取締役社長になられた時のほうが大変だったのでは?

立花:そうですね。スポーツビジネスも何もわからなかったので。

神戸は就任前からある程度、状況を知っていましたが、プロ野球とは違う難しさもあります。プロ野球は試合数が多いので、トライ&エラーをくり返しやすいんですけれども、サッカーは試合数が少ないので、1回のミスが本当に後々響いてしまうんです。そこは大きな違いがありますね。でも、大きな流れという意味では、プロ野球もJリーグもエンターテインメントで、コンテンツが違うだけ、という理解でやっています。

――立花社長が、代表取締役社長として就任した2017年から、神戸は一気に改革されてきた印象があります。

立花:そんなことはないです(笑)。「スポーツ」にはパワーがあって、人々をモチベートさせる非常にパワーを与えるものだから、大きなマーケティングチャンスもあるし、「楽天」のブランドイメージを継ぐ上でも非常にインパクトがあります。理解をしてくれている会社がバックにいるので、ここまでやってこれていると思います。ただ、今回の状況というのは全く想定になかったので、非常に申し訳ない気持ちもあり、まずは勝ってお返しすることしかないかなと思っています。

――2017年以降、神戸は本当に多くのビッグネームを獲得してきました。選手のレベルアップももちろんですが、それによってスタジアムが満員状態になり、本当に神戸はJリーグそのものを変えるような存在になっていると思います。

立花:そうですね。(ルーカス・)ポドルスキ選手が来てくれて、そのあとに(アンドレス・)イニエスタ選手や(ダビド・)ビジャ選手らが来てくれて。改めて感じたのは、日本人というのはスポーツでも一流のものであれば絶対に見に来てくれますし、高いお金を払ってでも絶対に見たいというマインドを持った人が多いんだなと。そういったカルチャーがある国なんだなと。やっぱり良いものを見せ続けることが重要だなと思っています。

――神戸に対し、三木谷会長もこれまでの規模とは違う額の投資を行うようになりましたが、大きな投資をするタイミングだからこそ、立花社長が代表取締役社長に抜てきされたと僕は思っています。

立花:お金をかけてもらった分、しっかりとした結果を出さないといけないので。クラブとしての売り上げも倍を目指してやっています。そういう意味では、今年はまさに天皇杯優勝から良いスタートダッシュが切れて、これからどうやって新しいビジネスモデルを世の中に出そうかというプランがいっぱい出ていた中だったので、ブレーキを踏まなきゃいけないこの状況は本当に残念です。いろいろと仕掛けをしていたので、我々としても大きな誤算でした。

ビッグクラブの仲間入りするために重要な年

――予期せぬ状況の中、立花社長にとってこの状況を乗り越えるためにどのようなことを大切にしていますか?

立花:今の状態は、選手、スタッフを守ることがまず最初で、次にJリーグを無事に再開することだと思っています。でも、やっぱりまだお客さまを入れられない状況は正直、難しいですね。スポンサーの方々、年間シート購入の方々の中には、厳しい状態にあるお客さまもいらっしゃるので、どうやってコミュニケーションを取っていくかは、本当に難しいです。ただ、ご理解いただいているお客さま、スポンサーの方が本当に多くて、サポートいただいていることには感謝しかないです。この方々に今の状況をご理解いただいて、何とか一緒に乗り越えて、クラブを存続させて、クラブを盛り上げていただけるように、今お願いしている段階です。

僕が新型コロナウイルスに効く薬を作るのは無理なので、僕のやることはやっぱり、試合を開催した時に選手たちに100%のパフォーマンスを出してもらうことと、ファン・サポーターがスタジアムに入れるようになった時に、安心安全を完全に守り切るために準備することだと思います。なので、新型コロナウイルスのことを議論するよりも、そっちのほうにギアチェンジしていっていますね。

また状況が状況なので、新型コロナウイルスについてもいろいろと勉強しましたが、結局、我々が何をやるかといったら、やっぱり素晴らしい環境を作り続けることだけなので、そこがブレないように、そこだけに集中しています。

――今シーズンは日程も含めて特殊なシーズンになりますが、その中で神戸としてのクラブ目標と意気込みを聞かせてください。

立花:初タイトルが取れて、ファン・サポーターの方たちの期待も多いと思います。今年勝ち切ることで、ビッグクラブ、本当に強いクラブチームにやっと仲間入りできると思うので、何としてもタイトルを取れるようにしたいですね。本当に重要な年だと思います。

戦力的にも十分戦えるというふうに感じています。ただ、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)もあり、本当に過密日程なので、そこは監督含めたチームのマネジメントが重要かなと思っていますね。この日程を乗り切るのには、かなり健康で安全な状態を作らないと難しいです。ケガ人が続出したら、それこそシーズン中に復帰できなくなってしまうので。

――初めて出場するACLも変則的な日程で行うことになりそうですし、この状況を経験しているチームはないので、だからこそチャンスというのもありますよね。

立花:そうかもしれないですね。クラブとして、「アジアナンバーワンを目指そう」という中で、今年はそこに挑戦できる切符を持っているので、何とか最終地点まで行きたいなと思っています。

<了>

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PROFILE
立花陽三(たちばな・ようぞう)
1971年1月10日生まれ、東京都出身。
株式会社楽天野球団、楽天ヴィッセル神戸株式会社 代表取締役社長。
大学卒業後、ソロモンブラザーズ証券に入社。その後証券会社を渡り歩き、2011年にメリルリンチ日本証券執行役員に就任。2012年8月 株式会社楽天野球団 代表取締役社長に就任。2015年3月に株式会社クリムゾンフットボールクラブ(現・楽天ヴィッセル神戸株式会社)の代表取締役副会長に就任。2017年10月 楽天ヴィッセル神戸株式会社の代表取締役社長に就任。株式会社楽天野球団の代表取締役社長職と兼務となる。

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