大学生が上位指名予想のドラフト。過去データで探る「隠し玉」は即戦力の社会人

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2020.10.25

10月26日、毎年注目が集まるプロ野球ドラフト会議が行われる。新型コロナウイルスの影響によりさまざまな大会中止や活動に制限があるが今年はNPBで活躍していた選手が独立リーグに加入したことによって独立リーグに注目が集まった年でもあった。注目が集まる独立リーグ、社会人リーグからNPBで現在も活躍している選手、ドラフト候補として注目される選手にはいくつかの共通点があった。共通点とあわせて今年のドラフト会議で注目される選手を紹介する。

(文=西尾典文、写真=Getty Images)

プロ野球チームで活躍しているあの選手も実は社会人野球出身

いよいよ今月26日に迫ったプロ野球ドラフト会議。過去3年間は高校生の選手に1位指名が集中したが、今年の中心となりそうなのが大学生だ。投手では早川隆久(早稲田大)、野手では佐藤輝明(近畿大)に人気が集中すると見られており、早くも早川はロッテ、佐藤はオリックスが1位指名を公言している(10月15日現在)。この2人以外にも投手であれば伊藤大海(苫小牧駒澤大)、野手であれば牧秀悟、五十幡亮汰(ともに中央大)など有力候補は多く、1位指名の12人のうち半数以上を大学生が占める可能性が高いだろう。

しかし忘れてはならないのが社会人野球の選手たちだ。チームの絶対数が少ないため目玉となるような選手が出てくる頻度は高くないが、昨年行われた第2回WBSCプレミア12でも山岡泰輔(オリックス・東京ガス出身)、嘉弥真新也(ソフトバンク・JX-ENEOS出身)、小林誠司(巨人・日本生命出身)、源田壮亮(西武・トヨタ自動車出身)と4人の選手が侍ジャパンに名を連ねている。また近年大きくなっているのが独立リーグの存在だ。今年は増田大輝(巨人・四国アイランドリーグ徳島出身)、和田康士朗(ロッテ・BCリーグ富山出身)などが一軍の戦力となり、優勝を争うチームにとって欠かせない存在となっている。そこで今回はここ数年の指名から見える社会人、独立リーグの傾向を探りながら、今年のドラフト会議で注目される選手についてもピックアップして取り上げてみたいと思う。

まず社会人だが、過去10年間に指名された選手の出身チームを多い順に並べてみると、トップ10は以下のような顔ぶれとなった。

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1位 JR東日本:17人
2位 ENEOS:12人
3位 Honda:10人
4位 大阪ガス:9人
5位 Honda鈴鹿:8人
5位 日本生命:8人
7位 NTT東日本:7人
7位 セガサミー:7人
7位 トヨタ自動車:7人
10位 東芝:6人
10位 日本製紙石巻:6人
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1位は2位以下を大きく引き離してJR東日本がトップとなった。2011年から9年連続でプロ選手を輩出している。主な顔ぶれとしては十亀剣(西武)、田中広輔(広島)、田嶋大樹(オリックス)などで、一軍の戦力となっている選手が多いというのも見事だ。そして過去3年間の指名選手は田嶋、板東湧梧(ソフトバンク)、太田龍(巨人)と高校から社会人に進んだ選手というのも特徴的だ。都市対抗野球大会、社会人野球日本選手権と大きな大会は負けたら終わりのトーナメントである社会人野球の場合、どうしても完成度の高い大学卒の選手を重宝する傾向が強いが、JR東日本は高校卒の選手を起用しながら育ててきている証拠といえる。今年も高校卒4年目の西田光汰がドラフト候補に名を連ねており、在籍2年目以下の若い選手にも好素材は多い。しばらくこの流れは続く可能性が高そうだ。

2位のENEOSは12人のうち6人が東京六大学出身、3位のHondaは10人のうち4人が東都大学出身、5位タイの日本生命も8人のうち5人が東都大学出身と強豪大学を卒業した選手がはっきり多い傾向が見える。毎年のように大学球界でもトップクラスの選手たちが入社してくるため、まずは試合に出るためにも高いレベルの競争を勝ち抜く必要があるというのが特徴といえるだろう。

日本生命と都市対抗野球近畿地区で覇権を争う大阪ガスは近本光司(阪神)、小深田大翔(楽天)と2年続けて大学から入社した野手が1位で指名されているが、プロに進んだ9人のうち半数の4人が高校卒で入社しており、このあたりはJR東日本と通じるものがある。また野手を4人輩出しているというのも非常に特徴的といえるだろう。

古くからの強豪チームが多いが、新興勢力で健闘しているのが2005年創部のセガサミーだ。大学時代には評価のそれほど高くなかった宮崎敏郎(DeNA)はセガサミーで力をつけてプロ入りし、いまやリーグを代表する打者となっている。西武の中継ぎ陣を支えている森脇亮介も大学では伸び悩んでいたが、社会人で一気にスピードアップを果たした。今年からは四国アイランドリーグの香川で長く監督を務め、多くの選手をプロに送り込んだ西田真二氏が新監督に就任しており、今後さらにその勢いが増す可能性もありそうだ。

埋もれていた才能を発掘しNPB入りを目指す優れたブランディング

ここまではチーム別に見てきたが、チームが所属している地域別に過去10年間の指名選手をまとめてみると以下のような数字となった。

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東京:41人
東海:40人
近畿:37人
西関東:22人
南関東:18人
中国:15人
東北:13人
九州:12人
北関東:12人
北海道:3人
四国:1人
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最も多いのはJR東日本、NTT東日本、セガサミーなどが所属している東京で41人。次いで加盟している企業数が最も多い東海、そしてここ数年の2大大会で上位進出チームが目立つ近畿という順となった。この3地域は都市対抗予選も極めて厳しく、実績のある強豪が敗退するということが毎年のように起こっている。そのような厳しい環境での競い合いが個人のレベルアップにつながっているという面も確かにあるだろう。

次に過去10年で独立リーグから指名された選手の出身チームを多い順に並べてみると、トップ5は以下のような顔ぶれとなった。

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1位 香川(四国):16人
2位 徳島(四国):15人
3位 新潟(BC):7人
3位 埼玉武蔵(BC):7人
3位 石川(BC):7人
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こちらは香川と徳島の2チームが抜けだしている格好だ。香川は先述したように西田監督が2007年から12年間監督を務めてきた影響が大きい。人材の入れ替わりが激しい独立リーグでこれだけ長い期間指揮を執った例は他にはなく、四国の中でもNPB入りを目指すなら香川というブランディングができたことも大きいだろう。2013年には又吉克樹(中日)が2位で指名されているが、これは独立リーグ出身の選手では最高順位となっている。近年、四国で香川を上回る勢いがあるのが徳島だ。育成での指名が多い独立リーグにあって、15人中7人が支配下での指名というのは見事である。高校卒や大学を中退した選手を積極的に獲得し、若い段階でのNPB入りを目指すという戦略がマッチしている。今年もドラフト候補に挙がっている選手が多く、この流れは続いていきそうだ。

リーグの立ち上げは後発のBCリーグだが、年々球団数を増やしており、それに比例してNPB入り選手も増加している。昨年西武から3位で指名された松岡洸希(埼玉武蔵出身)は高校時代主に内野手で、先述した和田も高校の野球部ではなくクラブチームでプレーしていた選手であり、埋もれていた才能をうまく発掘している印象が強い。また一昨年は村田修一(元巨人)、昨年からは西岡剛(元阪神)、今年からは川崎宗則(元ソフトバンク)といったNPBでも大物だった選手も積極的に受け入れており、彼らが若い選手に好影響を与えているという側面もあるだろう。

今年のドラフト会議注目選手の共通点とは……?

そんな中で今年のドラフト候補として紹介したいのが石田駿(BC・栃木)、鈴木駿輔(BC・福島)、戸田懐生(四国・徳島)の3人の投手だ。石田は九州でも屈指の強豪である九州産業大でプレーしていたものの、選手層の厚さもあって4年間で一度も公式戦の登板がなかった投手である。しかし4年生の夏頃にフォームを見直したことで急激にスピードアップし、今年に入ってからは最速153キロをマークするまでとなった。コントロールには課題が残るものの、サイドからこれだけの勢いのあるボールを投げ込む投手は貴重であり、リリーフタイプとして面白い存在だ。鈴木と戸田は高校時代からある程度知られた選手だったが、鈴木は青山学院大、戸田は東海大菅生を中退して独立リーグ入りしたという共通点がある。ともに力をつけてスピードアップを果たし、そのストレートはコンスタントに140キロ台後半をマークするまでになった。リーグ戦での成績も申し分ないだけに、指名の可能性は十分にあるだろう。

3人に共通していることは独立リーグがなければ野球を辞めていた可能性が高いということだ。また彼らほどではないにせよ、大学で伸び悩んだ選手が社会人で復活するというケースも決して少なくない。企業も独立リーグもチームを運営することが厳しい社会情勢ではあるものの、日本の野球界にとってはなくてはならない存在である。そういう観点からも今年のドラフト会議を注目してもらいたい。

<了>

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