危険、迷惑、騒音問題…日本の「スケボー」を変える20歳・池田大亮の等身大の夢
10月10日、東京・新豊洲にナイキジャパンがデザインを手がけたスポーツパーク「TOKYO SPORT PLAYGROUND SPORT × ART」がオープンした。「スポーツの日常化」を掲げ、ヨガやダンスなどを楽しめる広場、回転遊具や全長約280mのランニングトラックのほか、3×3のバスケットボールコート、ボルダリングにヒントを得た立体ジャングルジム、そしてバンクやボックス、レールなどを備えたスケートボードプラザと、若者に人気のニュースポーツを取り入れたセクションが用意されている。
特にストリートの「遊び」から生まれたスケートボードは、体験や練習環境が乏しい競技でもある。13日に行われたオープニングイベントのゲストで、「ストリート」「パーク」の両種目ともに高いレベルでこなす万能スケートボーダー、池田大亮にスケートボードを取り巻く環境の変化について聞いた。
(インタビュー・構成=大塚一樹[REAL SPORTS編集部]、写真=NIKE)
ストリート発祥の「遊び」から競技へ 新種目のスケートボード
スケートボードは、ストリートカルチャーから生まれた新しいタイプのスポーツだ。もともと街中にあるものを利用して自由に滑り、トリックに挑戦する競技とは一線を画すものだったこともあり、ルールや採点方法が確立されたのは、1990年代にX Gamesが誕生してからのこと。
8月に20歳になったばかりの池田大亮は、物心ついたときから競技としてのスケートボードに触れ、地元開催の大会で正式種目に採用されるという大きな転機を経験している。
「ホームにしている新横浜のパークにも、キッズのスケートボーダーが増えていたり、ファミリーで滑りにくる人もいるんですよ」
正式種目決定の追い風を受け、日本におけるスケートボードの注目度は一気に上がった。池田が盛況ぶりを語った新横浜公園スケボー広場をはじめ、スケートボード競技を楽しめる「パーク」が増えてはいるが、スケートボードの本場・アメリカとは量、質ともに比べるべくもない。
「やっぱりスケートパークとなると限られちゃいますね。使用料金を気にしないで滑れるとか、夜でも滑れたりする場所は少ないので」
現在は日本を拠点している池田だが、同世代のトップスケートボーダーたちがそうしているように、アメリカで技を磨きたいという意向がある。

日常の中にスケートボードが当たり前にあるアメリカ
「新型コロナウイルスの影響で今すぐというわけにはいかないんですけど、収束したら行きたいなというのはあります」
行くとしたら、ロサンゼルスかニューヨーク。どちらもスケートボーダーが当たり前のように受け入れられている街だが、ロサンゼルスとニューヨークでもスケートのスタイルの違い、街の空気による違いがあるのだという。
「ロサンゼルスはやっぱりすごいですよね。あちらではスケートボードが普通に移動手段になっていて、自転車みたいな感覚で使われているんです。街中に普通にパークもあるし、日常の中にスケートボードが当たり前にあるくらい浸透しているんです。ニューヨークもあれだけ都会なのに結構有名なスケートボーダーがいたりして」
そんなスケートボード先進国アメリカでも、ストリートカルチャーから市民権を得てカルチャーへ、そして競技へと発展していく過程で街頭の構造物破壊や事故、危険性の問題からストリートでのスケートボードが規制された時期もあった。
日本でも道路交通法はもちろん、騒音や危険性の問題から名指しで「スケボー禁止」の立て看板を立てられたりと、時にスケートボーダーが「厄介者」扱いされることもある。
「日本ではスケートボードをやっている人は、見た目や格好も含めてちょっと悪いという印象があるかもしれませんね。ストリートで勝手に滑るのはダメですけど、もともとアンダーグラウンドなところから始まったこともあって、そういうところにかっこ良さを感じる人がいるのも少しはわかります。もちろん注意されないようにルールを守って滑らなければいけないですし、自分さえよければいいというのは通らないので。
パークで滑るのは人によって楽しみ方もいろいろだと思いますが、自分だったら大会のために練習したり、トリックを試したり、ただ楽しむために滑りにいったりしています。競技としてのスケートボードにもまた違ったかっこ良さがあるし、うるさいとか迷惑とか言われるだけじゃなくて、『がんばってね』ってめちゃくちゃ応援してくれる人もいるんですよ。そういう声は素直にうれしいですよね」

「現役スケートボーダーにパークの設計を相談してほしい」
競技としてのスケートボードの認知向上によって、日本でもスケートパークが増えているが、海外のパークを知る池田にとってはもどかしさもあるという。
「ただの公園を造るのと違って、『スケートパークを設計する人』ってこれまでいなかったと思うんです。コースの設計とかがミスってて滑りづらかったり、セクションがスムーズじゃなかったりというところもあるので、そこは変えていきたいなという思いはあります」
日本にスケートパークが増え始めた歴史の浅さから仕方ないことかもしれないが、これには明快な解決方法があると池田は言う。
「現役のスケートボーダーに『こういうパークを造るんだけど』って、相談してくれればいいと思うんです。自分もちゃんと言えるし、敷地や環境に合ったスケーターが滑りやすいスケートパークが造れるはずなんですよね」
こうした動きはすでに始まっていて、例えば池田より4歳年上のスケートボーダー、瀬尻稜は、コンペティティブなコンテストの世界に身を投じつつ、大会プロデュースやコース設計にも積極的に取り組んでいる。
「自分もやってみたいなというのはありますね。日本のパークって、セクションがある程度決まってしまっていて、このパークはあのパークに似てるなと思うことがあるんですけど、海外はパーク一つひとつの個性を体感することができるんです。そういうパークのほうが自分の練習になったりするので、『何かこのパーク、海外っぽいな』と感じるようなパークを造ってみたいという思いはあります」
コーチはInstagram。台頭目覚ましい10代の新しい練習方法
急激に競技として普及が進んでいるスケートボードは、10代の選手の台頭が目覚ましいスポーツでもある。特に女子選手は、世界選手権女子パークで13歳にして優勝を果たした岡本碧優をはじめ、10代前半の有力選手も少なくない。
「キッズのスケーターは技を覚えるのが早くて、テクニックがある、すごいトリックを決める選手が増えているなという印象はあります。もっとがんばらないと(笑)。本当に追い抜かされないようにがんばろうと思います」
若い選手の台頭で特徴的なのは、スケートボードには「コーチ」という存在がいないことだ。今後、競技を経験した世代がコーチになり、指導体系が確立していく可能性はあるが、いきなり世界を経験するスーパーキッズたちは、YouTubeやInstagram、SNSをお手本に世界最先端のトリックを誕生とほぼ同時に目にすることができる。
「有名なスケーターのInstagramを見てチェックしたりとか、自分の好きなスケーター、推しているスケーターの動画を見ながら『これやってみよう』とか、他の人のトリックを見て新しいトリックを思いついたりもするので、動画サイトやSNSから得られるものは多いと思います。パークとかでも、そのトリックをできる人が身近にいれば、目の前でやってもらったり、コツを教えてもらったりしてトリックを覚えていくっていうのはあります。結構スケーターは教え合ったりするのが多いかもしれません」
そもそもトリックを決める快感が楽しさにつながるスケートボードでは、大会ではライバルになるからトリックを隠したり、教えないという発想はない。
「ただ自分の場合は、1人で滑ったほうが集中できますね。みんなの前では練習できないというか、友だちといるとついついしゃべっちゃったりするんで(笑)」
父親の影響で始めたスノーボードのイメージトレーニングとして3歳! でスケートボードを始めたという池田。20歳の若さにして「自分が始めた頃は全然パークなんかない状態だった」と、急激に「滑る場」「出会う場」が増えている現状に驚くとともに、スケートボードを体で理解している自分たちスケートボーダーが、正しく普及させていくチャンスと捉えている。
<了>
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PROFILE
池田大亮(いけだ・だいすけ)
2000年08月04日生まれ、東京都出身。3歳からスケートボードを始め、国内はもちろん海外でも次々と活躍を見せ世界中から注目を集めている若き天才スケーター。日本ローラースポーツ連盟強化指定選手に選出され、日本男子スケートボード界をリードする存在として今後さらなる活躍が期待されている。日本人初のTAMPA AMでの優勝から、2019シーズンはアメリカにおいて世界最高峰のストリートリーグ(SLS)に参戦し世界に挑んでいる。
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