![](https://real-sports.jp/wp/wp-content/uploads/2023/09/d7a0c5a0fc4a11ec899717fbc4d17b5f.webp)
失明危機・松本光平、壮絶なリハビリからクラブW杯目指す再出発「朝から晩まで歩いて、倒れては吐いて…」
2019年にニューカレドニアのヤンゲン・スポートの一員として、FIFAクラブワールドカップにも出場している「オセアニアのサムライ」こと松本光平。その後、トレーニング中の不慮の事故で失明の危機に陥りながらも、必死のリハビリとトレーニングを経て、再びクラブワールドカップの舞台を目指している。そんな彼が、オークションサイト『HATTRICK』を通じたチャリティーに出品したのが、リハビリ中に着用していたブルーのトレーニングウェア。『ドリブリーゾ』というブランドの商品である。果たして、このシャツにはどんな思い出が刻まれているのだろうか?
(インタビュー・構成・撮影=宇都宮徹壱)
苦しいリハビリ期間をともに歩んだブルーのシャツ
──松本選手はいつから、ドリブリーゾからトレーニングウェアを提供されるようになったのでしょうか?
松本:2019年のクラブワールドカップからですね。ヤンゲン・スポート(ニューカレドニア)に行く前にいただいたんですけど、その時はブルーではなくて蛍光イエローでした。クラブワールドカップが終わって、一時帰国した時にいただいたのが、このブルーのシャツです。今持っているもので、最もきれいな1枚を出品させていただくことにしました。
──松本さんご自身、蛍光イエローとブルー、どちらがお気に入りだったんでしょうか?
松本:僕、特に色にこだわりがないんですよ。スパイクも毎回(色が)違うし、色の好き嫌いもないんです。「はい、これ着て」と言われたら着るみたいな(笑)。ちなみに目の手術のために帰国して以降、リハビリをしている時の映像は、基本的にこのブルーのシャツを着ていました。
同じ警官に「また君か!」。何度も職務質問される日々
──目の手術後、しばらくうつ伏せで寝ている状態を続けてから、ようやく身体を動かせるようになったと聞きました。とはいえ、いきなりボールを触れるわけではなかったそうですね。どんなリハビリから始めたのでしょうか?
松本:それこそ、まっすぐ歩くところからですね。去年の7月の終わりから1カ月、朝から晩までずっと歩いていました。マスクして、サングラスして、しょっちゅう倒れては吐いて……。完全な不審者ですよね(苦笑)。実際、何度も職務質問されましたよ。同じ警官に「また君か!」みたいなことを言われて、こっちも「真面目にリハビリしているので、わかってください」としか言えなかったですね。
──吐くというのは、乗り物酔いに近い感覚なんでしょうか?
松本:まさに、そんな感じです。長い距離を歩くと目が回って、だんだん気分が悪くなってくるんですよ。あと、右目は見えないんですけど、光は感じることができるんです。ただし瞳孔が開きっぱなしなので、眩しいというよりも痛いんですよ。そんな感じで、眩しい晴れの日も、足元が悪い雨の日も、何度も転びながら歩行練習をしていました。これはきれいなやつですけど、リハビリで着ていたシャツはドロドロに汚れてしまいました。
──壮絶の一言ですね。そこまでしてリハビリに励んできたのも、再びクラブワールドカップの舞台に立つという、明確な目標があったからですよね?
松本:そうです。普通にサッカーできるのは3〜4年かかると言われたんですけど、クラブワールドカップに出場するためには、半年でプレーできるように間に合わせないといけない。そのうち、歩くのも吐くのもうまくなって(笑)、今では白い杖があれば普通に歩けるようになりました。あらためて、人間の適応能力はすごいなと。地道に歩行訓練を続けたおかげで、その後のリハビリはわりと順調でした。
何事においても「全力」。自分には、それしかない
──残念ながら2月のクラブワールドカップは、所属するオークランド・シティFCが出場辞退となりました。それでも12月には、今度は日本でクラブワールドカップが開催される予定です。再び夢の舞台に立てたとしたら、このシャツの価値も高まりそうですね。
松本:僕、何でもそうなんですけど、モノに対する執着やこだわりがないんですよ。ですから、これまで所属したクラブのユニフォームなんかも手元に1枚もなくて……。このドリブリーゾさんのシャツだけが、ずっと着続けているし、唯一残っているものでした。このシャツを落札いただいた人がいたら、まったく同じシャツを持っているのは世界で2人だけかもしれないですし、ぜひ一緒に並んで写真を撮りましょう(笑)!
──それ、いいですね(笑)。最後に、サインと一緒に書いていただいた座右の銘「全力」の意味するところを教えてください。
松本:自分は「サッカーはうまくない」って思っています。ちょっとでも手を抜いたら、他の人と対等にプレーできないですよね。全力だったから、何とか生き残ることができました。そして今、こういう目の状態ですから、これまで以上に全力でサッカーに取り組む必要があります。ですから、何事においても「全力」。自分には、それしかないんですよね。
<了>
![](https://real-sports.jp/wp/wp-content/uploads/2023/09/001028b09b7511eba4f4498870b38c5d-1-768x1024.webp)
“アスリートとスポーツの可能性を最大化する”というビジョンを掲げるデュアルキャリア株式会社が運営する「HTTRICK(ハットトリック)」と、アスリートの“リアル”を伝えることを使命としたメディア「REAL SPORTS(リアルスポーツ)」との連動企画として、【REAL SPORTS × HATTRICK チャリティーオークション】を開催。
REAL SPORTS × HATTRICK チャリティーオークション公式ページは【こちら】
PROFILE
松本光平(まつもと・こうへい)
1989年5月3日生まれ、大阪府大阪市出身。オークランド・シティFC(ニュージーランド)所属。ポジションはサイドバック・サイドハーフ。セレッソ大阪U-15、ガンバ大阪ユースを経て、高校卒業と同時にイングランドのユースチーム・チェルシーFCコミュニティに所属し海外経験を積むと、2012-13シーズンにオーストラリアのブリスベン・ロアーFCで海外でのプロキャリアをスタートさせる。その後、ニュージーランドの強豪オークランド・シティ、ホークスベイ・ユナイテッド、ワイタケレ・ユナイテッド、ハミルトン・ワンダラーズと渡り歩く。その間、OFCチャンピオンズリーグに出場するため2017年2月にはフィジーのレワFC、2019年1月にはバヌアツのマランパ・リバイバースと短期契約。2019年11月にはニューカレドニアのヤンゲン・スポートに期限付き移籍し、オセアニア代表としてFIFAクラブワールドカップに出場。2020年5月18日、トレーニング中の不慮の事故で失明の危機に際し、日本に緊急帰国。6月8日に手術を行い、以後懸命にリハビリを続け、2020年12月にオークランド・シティ加入が決定。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
指導者の言いなりサッカーに未来はあるのか?「ミスしたから交代」なんて言語道断。育成年代において重要な子供との向き合い方
2024.07.26Training -
松本光平が移籍先にソロモン諸島を選んだ理由「獲物は魚にタコ。野生の鶏とか豚を捕まえて食べていました」
2024.07.22Career -
サッカーを楽しむための公立中という選択肢。部活動はJ下部、街クラブに入れなかった子が行く場所なのか?
2024.07.16Education -
新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
2024.07.12Career -
リヴァプール元主将が語る30年ぶりのリーグ制覇。「僕がトロフィーを空高く掲げ、チームが勝利の雄叫びを上げた」
2024.07.12Career -
ドイツ国内における伊藤洋輝の評価とは? 盟主バイエルンでの活躍を疑問視する声が少ない理由
2024.07.11Career -
クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
2024.07.10Career -
なぜ森保ジャパンの「攻撃的3バック」は「モダン」なのか? W杯アジア最終予選で問われる6年目の進化と結果
2024.07.10Opinion -
「サッカー続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?」中体連に参加するクラブチーム・ソルシエロFCの価値ある挑戦
2024.07.09Opinion -
高校年代のラグビー競技人口が20年で半減。「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度は起爆剤となれるのか?
2024.07.08Opinion -
ジョーダン・ヘンダーソンが振り返る、リヴァプールがマドリードに敗れた経験の差。「勝つときも負けるときも全員一緒だ」
2024.07.08Opinion -
岩渕真奈と町田瑠唯。女子サッカーと女子バスケのメダリストが語る、競技発展とパリ五輪への思い
2024.07.05Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
ザスパクサツ群馬がJ2初の「共創DAO」に挑戦。「アイデアを共有し、サポーターの思いを実現するプラットフォームに」
2023.09.11PR -
なぜアビスパ福岡は“日本初のスポーツDAO”に挑戦するのか? 「チームに恥ずかしくないアクションを」
2023.03.31PR -
創業者・鬼塚喜八郎の貫かれた思い。なぜアシックスは大学生の海外挑戦を支援するのか?
2023.01.13PR -
ONE明暗両者の飽く無き挑戦。「これも一つの試合」世界王者・秋元皓貴が挑む初防衛。質を突き詰めた青木真也は「最もタフな相手」と対戦
2022.11.14PR -
『テラハ』出演アスリートが、外の世界に飛び出し気付けた大切なこと。宿願を実現する秘訣は…【特別対談:佐藤つば冴×田渡凌】
2022.07.06PR -
【特別対談:池田信太郎×潮田玲子】「自分自身も心が豊かになる」 アスリートが社会貢献を通じて得られるモノ
2022.06.27PR -
【特別対談:木村敬一×中西哲生】「社会活動家みたいにはなりたくない」。東京パラ金メダリストが語るスポーツの価値
2022.05.17PR -
【特別対談:佐藤寿人×近賀ゆかり】広島のレジェンドが明かす「カープの存在感」。目指すべき地域密着の在り方
2022.05.11PR -
格闘技界に「新しい時代」到来! 日本待望の“真”の世界王者へ、若松佑弥・秋元皓貴の意外な本音
2022.03.24PR -
「ONEに出てくる選手は甘くない」日本人初王座目前で臨むハイリスクな一戦、若松佑弥・秋元皓貴が明かす胸中
2021.12.01PR -
アスリートは眠って強くなる。「西川」が挑む睡眠の質を上げる“パフォーマンス革命”
2021.11.17PR -
「格闘技だけじゃダメ」デビューから全勝、新世代の女性格闘家・平田樹がSNSでありのままの姿を曝け出す理由
2021.09.01PR