
黒羽麻璃央「野球も演劇も根性は共通。根底に愛がある」。“東京ドームで野球”の夢を叶える瞬間
7月20日、舞台俳優37人が東京ドームで「野球×エンターテインメント」を繰り広げる。真剣勝負の野球の試合と多彩なパフォーマンスを織り交ぜたエンターテインメント・ショーだ。このイベントを仕掛けたのが、人気若手俳優の黒羽麻璃央。中学2年生時に肘を痛めて野球をやめ、回り回って、東京ドームのマウンドに立つこととなった黒羽には、今も色あせることのない野球愛があふれていた。
(インタビュー・構成・撮影=守本和宏)
人気若手俳優が今、本気で野球をする意味とは?
そのツイートは、公開後わずか5分で、1500リツイートを突破した。
注目の若手俳優、黒羽麻璃央の企画した野球×エンターテインメント『ACTORS☆LEAGUE 2021』が、7月20日に東京ドームで行われる。城田優、山崎育三郎、尾上松也などの野球を愛する舞台俳優37人が賛同し集結するイベントだ。演劇サイト『エンタステージ』が放ったその情報は、瞬間的にSNSで爆発的な広がりを見せた。
これまでも度々行われてきた、芸能人のスポーツ大会。この『ACTORS☆LEAGUE』は歌やダンスなどに長けた俳優たちがガチの野球試合とさまざまなパフォーマンスを織り交ぜたエンターテインメント・ショーだ。
参加俳優が2チームに分かれて戦うが、黒羽はチーム分けに際し「参加していただくにあたって、野球経歴と自慢できることやアピールポイント、実際に守りたいポジションを一覧で出してもらいました」。その中で守備位置など、野球経歴からある程度予想し、チームをつくったという。
その情熱がどこからくるのか、今、本気で野球をする意味とは。中2の時、ピッチャーを務めながら「試合中に肘を痛め、キャッチャーまでボールが届かなくなった」と、一度は諦めた野球への思い。その長年の夢は、このたび、東京ドームのマウンドで実現する。その夢への道筋、そして東北楽天ゴールデンイーグルスへの思いを聞いた。
試合途中で投げられなくなり、諦めた野球の道
――以前の始球式では、100キロを超える素晴らしいピッチングを披露されていました。野球歴を教えてください。
黒羽:小4から中3までですが、試合中に肘を壊しまして。当時からピッチャーをやらせてもらっていたのですが、試合中にキャッチャーまでボールが届かなくなってしまったんです。痛くて。
――それは、精神的にかなりつらいですね。
黒羽:ショックでしたね、当時は。肘が痛いなんて、経験なかったですから。今でこそ緩和されているかもしれませんが、僕らが学生の頃はギリギリ、ダブルヘッダーとか2試合連続も、普通ぐらいの感じだった。僕は野球が大好きで、練習もすごくやってたので、壊れちゃったんでしょうね。結局それがきっかけで、野球をやめたんです。
――今でもプレーは続けていらっしゃる。
黒羽:そうですね、草野球程度ですけど。それこそ、今度行う『ACTORS☆LEAGUE』に出るメンバーと一緒に野球やってますね。
――そのメンバーで今度野球をするわけですね。
黒羽:もともと僕は舞台中心に仕事をさせていただいていますが、いろいろな舞台俳優さんと共演していく中で、野球好きの方がすごく多かった。元野球部だったり、純粋に野球好きな人がたくさんいて。「じゃあやろうよ」ってなっても、プライベートだと皆さん忙しくて野球ができる人数まで集まることはなかなか難しい。「それなら、仕事にすればいい」と思ったんです。
最初は、地方球場とかをお借りして……ぐらいのつもりでしたが、東京ドームでやらせてもらえることになりました。周りに声をかけると、皆さん「参加したい」と言ってくださった形ですね。
――ガチで試合をしたいという希望が前提としてあったのですか?
黒羽:とにかく野球がしたかった。皆さんと一緒に、野球好きで集まって楽しくやりたいっていうのが、一番の軸ですね。本気の野球の試合とわれわれの仕事であるエンタメを融合させて、こういう時代だからこそ役者やお客さまが抱えているモヤモヤを解放したい、「今がすべて」といえる時間をつくりたかったんです。
現場に出て思う、実況のすごさ
――東北楽天ゴールデンイーグルスのファンとして、その思いを聞かせていただけますか。球団が設立された2005年は、思春期だったと思います。
黒羽:そうですね。当時はライブドアか楽天かで話題になり、1リーグ制にするとか、ストライキが起きたりしていましたが、個人的には、僕たちが住んでいる地元にプロ野球の球団ができることがめちゃくちゃうれしかったです。それまではテレビ中継か、当時スコアボードとか手書きだった宮城球場に年1~2回プロ野球が来る、みたいなものでしかなかった。それが「毎回見られるじゃん!」みたいな感じで、大興奮ですよね。
――それは希望に満ちたものでしたか?
黒羽:そうですね。めちゃくちゃ。もう応援しない手はないですよね。
――思い出に残っている選手はいますか?
黒羽:思い出といえば田中(将大)投手なんですけど、僕の今のイチ押しは早川(隆久)投手。誕生日が一緒なんですよ。誕生日が一緒で、同じサウスポーで。勝手に運命感じているというか。応援したくなっていますね。新人王取るでしょう、今年。
――今年は4本柱を軸に投手陣も充実しています。
黒羽:今年はすごいですね。先発陣が特に安定している。リリーフも、松井(裕樹)投手が抑えに戻ったので一番後ろは大丈夫だと思うんですけど、そこにいくまでにも宋家豪(ソン・チャーホウ)、酒居(知史)投手もいる。投手陣に関しては、むしろ球団ができてから今が一番充実してるんじゃないかなと思います。あとは夏になると、ちょっと弱くなるんですよね。やっぱ東北、暑いの苦手みたいです。
――今、野球関係ではBSで解説を担当するなどのお仕事をされています。現場で感銘を受けたことなどありますか?
黒羽:実況ってすごいなって思いますね。田中(大貴)アナウンサーが、つなぎもすごいし、選手に関する知識だってとてつもない。申し訳ないですけど、テレビを実際に見ている時って、実況メインで聞いてないじゃないですか。でも、いざ一緒の現場に入って間近でお話しすると、『すごいなこの方たち』って感動してみています。
演出家にバカほどダメ出しされた時、スポーツの根性が役立つ
――練習して試合に挑み技術を高めていくスポーツ。稽古して本番に挑みより良いものをつくっていく舞台。過程は同じですが、スポーツが演劇において生きた部分はありますか?
黒羽:根性でしょうか。
――やっぱり舞台にも根性いりますか?
黒羽:根性がある方は、残っていきますよね。演劇もやっぱり、体育会系なところが非常に強い。どこかで“何くそ魂”が発揮される瞬間は多々あります。学生時代に部活とかスポーツで怒られて育っていると精神的にすごく鍛えられるし、スポーツをやっていたことで役の幅が広がったり、立ち回りやダンスなど根本的な運動能力が役立つ部分はある。
――根性は演劇においてどんな時に必要ですか?
黒羽:演出家にかなりダメ出しされた時(苦笑)。演出家も、嫌いでダメ出ししているわけじゃないし、うまくなってほしいからという愛が根底にある。それは演出家も部活の監督も同じ。作品の責任が問われるのは、演出家や主演。監督も同じで、1回戦負けが続く弱いチームだったら、監督の責任。プロ野球も、チームが低迷したら選手というよりは監督の責任になる。そこがやっぱり似ているなって思いますね。
――舞台のプロである黒羽さんから見て、今の野球界の興行に関して、何か言いたいことはありますか?
黒羽:難しいですけど、野球選手も満員のお客さまの前でやりたいだろうなと思いますね。今、演劇もいろいろと規制がされていたり、早く客席で演劇したいなと思うこともある。そこは似ていますよね、プロスポーツと。お客さまに見られながら、自分の仕事をする。僕らも無観客で生配信の作品にも適応していますが、終わった時の拍手やカーテンコールで皆さまからもらうパワーみたいなものがある。そういうのが早く、お互い緩和されるといいですよね。
――「夢のかなえ方は一つじゃない」と、ケガをしても回り回って、東京ドームのマウンドに立つ黒羽さんを見ていて思います。今は子どもたちが夢を持ちにくい時代。スポーツが生む社会的な価値に関してどう思いますか?
黒羽:夢とか目標って、漠然としてていいんじゃないかなと僕は思う。
僕、小学校の時の卒業文集に、プロ野球選手でも甲子園に行くとかでもなくて、「野球関係の仕事がしたい」って書いていたんです。小学校の卒業文集って生きてきて初めて自我が芽生えた状態で書いたもので、結果的に、実際は全然違う役者の道に行ったけど、思わぬところから夢がかなう瞬間があったりする。
人生って何が起こるか分からないから面白い。僕の夢も都度、変わっていますし、無理して持つものではないなって、僕は思うかな。『これをやりたい』っていうのは技術が発達して年々広がってきているし、やりたいことが見つからないのも、それはそれでいい。やりたいことが分かるまで適当に生きてるのも、素晴らしい人生だなって思う。僕もけっこう適当なんで、大丈夫。全然生きていけるから。
<了>
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PROFILE
黒羽麻璃央(くろば・まりお)
1993年7月6日生まれ、宮城県出身。俳優。第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト準グランプリを受賞。2012年にミュージカル「テニスの王子様2nd」の菊丸英二役で俳優デビュー。2014年まで同作品に出演。その後は舞台を中心に映画やドラマなどで活躍中。
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