「出演者であり、制作者」WOWOWアナウンサーが明かす“華やかなだけではない”舞台裏
2020年5月に立ち上がったオンラインサロン『蹴球ゴールデン街』では、「日本のサッカーやスポーツビジネスを盛り上げる」という目的のもと、その活動の一環として雑誌作成プロジェクトがスタートした。雑誌のコンセプトは「サッカー界で働く人たち」。サロンメンバーの多くはライター未経験者だが、自らがインタビュアーとなって、サッカー界、スポーツ界を裏側で支える人々のストーリーを発信している。
今回、多様な側面からスポーツの魅力や価値を発信するメディア『REAL SPORTS』とのコラボレーション企画として、雑誌化に先駆けてインタビュー記事を公開する。
第9弾は、WOWOWアナウンサーとして活躍している福長英未さんに、自身のキャリア、アナウンサーとしての仕事について語ってもらった。
(インタビュー・構成=髙田麻理子、写真提供=福長英未)
地方局のキャスターから全国放送のWOWOWアナウンサーへの道のり
――WOWOWアナウンサーになったきっかけは?
福長:NHK徳島のキャスターだった頃からスポーツの仕事には興味がありました。今後、スポーツに携われたら楽しいだろうなとは思っていたんです。
ただ、具体的にスポーツに携わるアナウンサーを目指していたかというとそういうわけではありません。ステップアップを目指す中で、いろいろなオーディションを受けました。その流れで、現在所属している東京の事務所に受かって、その後にWOWOWとのご縁がありました。
今思うと、サッカーで本当によかったです。大阪出身で父親がガンバ大阪、弟がセレッソ大阪のサポーターなんです。家庭内で常に大阪ダービー状態でしたが、一緒に試合を見に行くなどサッカーは身近な存在で大好きなスポーツでしたから。
――徳島でサッカーといえば、徳島ヴォルティスだと思うのですが、徳島にいた時にはヴォルティスの取材をされていたんですか?
福長:少しだけ携わってました。専門のアナウンサーが別にいたので、私はスタジオにいて、その方と掛け合いをするという感じでした。徳島県のスポーツは、プロ野球独立リーグ・四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスもありますが、私が徳島にいた頃はヴォルティスの方が圧倒的に人気でした。J1昇格プレーオフに進出するなど勢いもあり、夢を見させてくれる存在でした。この頃、メインではないにしても、サッカーに携わっていたということは現在のWOWOWでの仕事ともつながっていたんじゃないかなと思います。
――ラ・リーガなどの番組をレギュラーで担当されていて、今年はUEFA EURO 2020も担当されていますね(UEFA EURO 2020は7月に終了)。サッカー番組を担当し始めた最初の頃と今で変わったことはありますか?
福長:担当したての頃はスタジオでも「間違えてはいけない」「原稿読みもわかりやすく言わなければならない」ということに意識が向いていました。2年やっているので、今ではカタカナの選手名もほぼ戸惑わなくなり、「共演者の雰囲気を見ながら引っ張っていこう」「ゴールシーンやナイスプレー一つ一つの価値を理解して発信していきたい」と思うようになりました。自分のことから、周りのことへ、全体を俯瞰(ふかん)して見るように変化しました。
――仕事で携わるようになってから、サッカーを好きな気持ちは強くなりましたか?
福長:はい。そうそうたる解説者の方々とも共演させてもらっているので、今を大切にしないと後から後悔するな、と常々思っています。
サッカー番組を担当するアナウンサーならではの情報収集術
――サッカーの魅力を伝えていくために、知識はどのように学んでいますか?
福長:サッカーのゲームとしてのルールを理解するために4級審判の資格を取りました。選手の情報やチームの状況については、ニュースを見たり、現地の新聞をチェックしたりすることもあります。
それから、自分が担当する試合は見るようにしています。試合の前に情報を収集して、スタッフの方々との会話の中で「ここが大事」というのを教えてもらうこともあります。周りの方々と協力して収集しているという感じです。
そして選手名鑑が手放せません。情報が多すぎずシンプルな選手名鑑が好みです。
――SNSで発信している、『えいみのサッカーメモ』もいいですね。(Twitter:@FukunagaEimi、Instagram:fukunagaeimi)
福長:ありがとうございます。サッカーメモは自分がメインで担当しているスペインサッカーで自発的にやっています。この試合でこういうシーンが面白かったというのを記憶として、SNSで発信しておくのは大切だと思っています。
アナウンサーとしてサッカーに関わっている方はたくさんいます。その中で自分が他の方と大きな違いを出せるという、大それたことは思っていませんが、自分を通して何を感じたかを出すことが個性の一つになっていくと思っています。
あとは、文章化する時にどうやって伝えようかと考えるのが好きなんです。それがえいみのサッカーメモになっています。
番組中での学びも大きいです。豪華な解説者がいろんなポイントについて解説してくれるので、自然に質問もわいてきます。「そういう視点もあるのか!」という気づきが日々蓄積されているのを実感します。
番組進行は「サッカーで例えるとボランチ」
――番組の中で、自分に期待されている役割はどういったものだと思いますか?
福長:自分の役割は聞き役がメインです。解説者・MCの方が話しやすい雰囲気づくりが重要だと思っています。最近はディレクターにも「どんどんつっこんでいい」「積極性を出していい」と言われることも多くなってきました。
あまり出すぎてもうっとうしいと思われてしまうので、そのあたりのさじ加減は難しいです。メインの役割を忘れず、雰囲気をよくする延長線上で徐々に自分の意見を言えるようになったらいいな、と思っています。
あとは、聞いている人が気持ちいいタイミングで会話のパスを出すことを心がけています。
――サッカーで例えるとボランチみたいですね。
福長:そうかもしれません。大したことはできていませんが、役割的にはそういった感じです。レギュラー番組「リーガダイジェスト!」でコンビを組んでいるHey! Say! JUMPの薮宏太さんとは、コンビを組んで1年ちょっと経っているのでコミュニケーションがとれるようになってきました。
最初は私も緊張していたし、薮さんも初めてのレギュラー番組でのメインMCだったので、お互い探り探りやっている状況でした。最近は、お互いに自分たちの役割を全うできている感じがしています。
――そうした役割の中で、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
福長:番組中、カメラが回っていない時でもそうですが、私が出したパスから話が広がったり、いい雰囲気が生まれて解説者やMCの会話が弾んだ時です。「今日のスタジオの雰囲気よかったね」とか「高揚感が伝わってきたよ」とかスタッフの方から言われるとうれしくなります。
知られざる衣装選びのポイント
――EUROの開幕戦で着ていらっしゃったワンピースが素敵で印象的でしたが、衣装は自分で選ばれるんですか?
福長:4種類くらい用意されている中から、最終的には自分で選びます。サッカーは色が重要なので、スタイリストさん含め気をつけています。どちらのチームにも偏らないように、紺色のワンピースに黄色と白のラインのものを選びました。ただ、薮さんには「今日のワンピースいいね、でもどちらかというとちょっとイタリアかな?」と突っ込まれましたけど(笑)。
衣装を選ぶ時の観点としては、全身が見えるか見えないかというのも重要です。今回のEUROのような全身が見える場合は上が地味な感じでも、全体的にスタジオ映えしていれば大丈夫です。一方で「リーガダイジェスト!」の時のように上半身しか見えない時は、上を華やかな感じにするように気をつけています。
あとは、共演者の衣装とのバランスも考えます。男性陣がスーツだからこそ、明るめの色を取り入れるようにすることもあります。
アナウンサーの世界で求められる「○○を読む力」
――サッカー番組を担当するアナウンサーとして、他のジャンルの番組出演時と比べてどんなことを意識していますか?
福長:現在はサッカーをメインでやっていますが、他のジャンルの番組を担当することもあります。バラエティー番組では声だけの出演もあります。
当然ですが、バラエティーはサッカーとは全然違いますね。どちらも、これという正解はありません。番組の色があるのでそこに合わせます。サッカーを担当するときはアナウンサーであり、サッカーファンの代表でもあるというカジュアルな感じも出しています。
――求められているところに自分を合わせていくという感じですか?
福長:そうかもしれません。アナウンサーって華やかなお仕事のイメージがありますけど、自分を思いっきり出すのは、オーディションの時くらいです。実際は、いろんな現場で求められている形に対して、フィットするように自分を表現していくという柔軟性が求められるところがあります。全体のバランスを見つつ、各現場で求められている役割をいかに果たすか、そこが重要です。人のニーズがどこにあるのか、常に見極めるからこそ、取材の時の質問力や空気を読む力も磨かれていくのだと思っています。
――そういえば、今日お会いした時に、放送で聞いたよりも声が高い印象がありました。放送ではあえて低くしていることもあるのでしょうか?
福長:対面での最初の挨拶は高くなるかもしれません。声の高低差はあえてつけることも多いです。
例えば、告知を読む時は高めに読んで、大切なところは高めプラスゆっくりめに読むなど。例えば6月(UEFA EURO 2020は7月に終了)のEURO開幕戦。オープニングでは「いよいよ始まるぞ」という高揚感を視聴者にお伝えしたいシチュエーションでした。なので、声を高めにし、表情は楽しい感じを出しています。
――アナウンサーとして先輩から学んだことはありますか?
福長:たくさんあります。ありすぎて1つだけ挙げるのが難しいですが、あえて挙げるならばこの言葉です。
「私たちのできることは制作スタッフの方々の思いを聞き伝えること。私たちはスタッフを代表して視聴者に表現できる立場である」
私たちは、出演者であり、制作者でもあります。それを忘れてはいけません。なのでスタッフの意見は積極的に聞くようにしています。番組後にアドバイスもらえたらうれしいし、番組をよくしていくためには不可欠ですから。
「サッカーを文化に」サッカーに携わるアナウンサーが描く夢への挑戦
――今、挑戦したいことはありますか?
福長:NHK徳島の時にはインタビューも行っていたので、選手へのインタビューをしてみたいです。新型コロナウイルスの影響で直接の取材はしにくくなりましたが、オンラインでの取材のチャンスは増えています。レギュラー番組の「リーガダイジェスト!」でコーナーをやってみたいですね。
――今後の目標や夢はありますか?
福長:いろんな方向性があると思いますが、アナウンサーとしての王道スタイルプラスサッカーが語れる演者という二兎を追えたらいいな、と今は思っています。
ヨーロッパみたいに日本でも、サッカーをみんなの文化として根付かせることに興味があります。ライト層へスタジアムに行くきっかけを作ったり、サッカーを好きでい続けるモチベーションを考えたりすることに携わっていけたらうれしいです。
<了>
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PROFILE
福長英未(ふくなが・えいみ)
1994年生まれ、大阪府出身。関西大学を卒業後、2017年4月よりNHK徳島放送局にてキャスターとして勤務。2019年4月より上京し、WOWOWアナウンサーに。「リーガダイジェスト!」などサッカー番組を中心に担当している。その他、スポーツ番組やバラエティー、ナレーション業など幅広く活動している。
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