高まる“ポスト長友”探しの風潮に、長友佑都が心から願うことは?

Career
2021.06.24

歴代2位の125キャップを刻み、10年以上にわたって日本代表の左サイドバックに君臨し続ける。いまだ現れる気配の無いその後釜は、日本代表の課題の一つとして叫ばれることが増えた。来年開催のFIFAワールドカップを36歳で迎える長友佑都は、「ポスト長友」の出現を待ち望むような今の風潮をどのように捉えているのだろうか?

(文=藤江直人、撮影=高須力)

「ポスト長友」はいまだ見当たらない。6人の代表監督から信頼され続けた無二の存在

たどってきた軌跡が偉大で、代えの利かない存在感を放ってきた選手ほど、いつかは必ず訪れる日本代表との別れとセットで「ポスト――」なる言葉の対象となってきた。

例えば2010年からキャプテンを託されてきたボランチの長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)が、34歳で代表引退を表明した2018年のFIFAワールドカップ・ロシア大会の直後には、日本サッカー界で「ポスト長谷部」の話題が飛び交った。

あれから約3年。後継者問題はポジション面でも、ピッチの内外で放つリーダーシップ面でも、ドイツで急成長を遂げる28歳の遠藤航(シュトゥットガルト)が解決した。

対照的に脅かすライバルが不在のまま、10年以上もの歳月が過ぎようとしているポジションがある。国際Aマッチ出場数を日本歴代2位の「125」に伸ばした34歳の鉄人、長友佑都(マルセイユ)が君臨する左サイドバックだ。

東京五輪世代のU-24日本代表との一戦を含めて5試合が組まれた直近の代表活動では、長友をはじめとする3人が左サイドバックとしてプレーした。

先発は3回の長友に、佐々木翔(サンフレッチェ広島)と小川諒也(FC東京)が1回ずつで続く。出場数は小川が4回で長友の3回を上回り、キルギス代表戦で3バックの左で途中出場した佐々木は、左サイドバックとしては1回だけにとどまった。

さらにプレー時間を比べれば長友の217分間に対して、小川が171分間、佐々木は62分間だった。同時期に活動したU-24代表の左サイドバックでも、今夏の東京五輪経由でA代表に割り込んできそうな存在は残念ながら見当たらない。

明治大学体育会サッカー部を退部し、大学在学中にFC東京とプロ契約を結んだ直後の2008年5月にA代表でデビュー。岡田武史氏を皮切りに6人もの代表監督のファーストチョイスになってきた軌跡に、長友自身は何を思っているのか。

フランスの名門マルセイユでの闘いで得られた自信

「日本代表というチームは、若手を育てる場所ではないので。その時点で一番状態のいい選手が、一番力のある選手が集まる場所が日本代表だと思っています」

トータルで23日間に及んだ今回の代表活動中に、長友は日本代表のステータスをあらためて定義。指摘される「ポスト長友」の不在にも、努めて冷静に持論を展開した。

「僕自身も勝負できる自信があるのでここに来ていますし、そのために厳しい勝負を求めてマルセイユへ行ったので。やはり僕を超えていくためには、所属クラブで圧倒的な結果を、本当に厳しい環境の中で結果を残さなきゃいけないと思うんですよ」

決して上から目線で現状を捉えているわけではない。フランス・リーグアンで2位タイとなる、9度の優勝を誇る名門マルセイユでの日々が長友に新たな血肉を与えた。

「9カ月ほど実戦から離れていたので、コンディションを取り戻す上で、特にシーズンの前半戦は苦労しました。スピード感を含めたフィジカルレベルは、やはりフランスは明らかに違っていて、相手がどう来るのかというイメージは湧いても体が反応しないとか、イメージを上回るプレーをしてくる状況でなかなか適応できなかったというか」

それでも、なかなか試合に絡めなかった前半戦から右肩上がりに転じ、最終的にはリーグアンで25試合に出場した軌跡を、長友は「まだまだ自分はやれる」と自信に変えた。

「フランスは厳しい国で、僕たち外国籍選手は普通のプレーをしてもなかなか称賛されない。なので、日本には僕のコンディションのよさがあまり伝わらなかったと思うんですけど、自分自身の状態を一番よくわかっているのが僕なので。今のコンディションならば、日本代表でもしっかりと勝負ができると信じてここに来ました」

フランスでの活躍は偶然ではない。思い起こされるあの情景

マルセイユで納得できるシーズンを送れた必然的な理由がある。ワールドカップ・ロシア大会後に追求してきた世界のスタンダードを、具現化させられる環境がマルセイユとフランスにあった。

後半アディショナルタイムに喫したゴールで、2点差を逆転されて涙を飲んだベルギー代表との決勝トーナメント1回戦。自身も先発フル出場した映像を何度も見直してきた長友は、いつしか「善戦でも何でもない」という結論に達した。

「ベスト8へ行けたのに、惜しかったのにといわれますけど、試合の内容的にはまだまだ遠かった。じゃあ何が違うのかを日々勉強しながら見てきた中で、ボールが目的地になっていた日本に対して、トップクラスの選手たちは未来につながっている。この大きな差を目の当たりにしたときに、僕には『ここだな』と思えたんですね」

象徴的なシーンが決勝点だ。本田圭佑の左CKを守護神ティボー・クルトワがキャッチした瞬間、すでに複数のベルギー選手がカウンターを発動させていた。

「トップレベルの選手たちは1秒、2秒先、もっといえば5秒、10秒先の未来とつながって、それを意識したプレーができているのに対して、日本の選手は現在というか、常にボールに意識が向けられている。サポートを含めて目の前のボールにつながる仕事も大事ですけど、ゴールを奪うためには、やはり未来につながらなきゃいけない」

「未来につながる思考回路」を鍛えるため、個人トレーニングも大幅に変えた

未来につながる思考回路を自然に稼働させるために、日々の個人トレーニング内容も大幅に変えた。ガラタサライの選手登録を外れ、公式戦に出場できない状況をあえて受け入れた2020年の前半を含めて、長友は徹底的に自らの身体を鍛え上げてきた。

東福岡高時代から信じて疑わなかったトレーニング方法は、もちろんいま現在に至る長友の土台を築き上げた。ただ、さらに上のレベルを見据えたときに限界を覚えた。

「結局はフィジカルをサッカーに生かせなければ意味がない。要は個人的な戦術であるとか、脳の部分もかなりレベルアップさせないとフィジカルが生かせない状況になる。今までの自分はまずボールにつながってしまい、その先に世界がなかったんですね」

サイドバックに求められる仕事が大きく変わって久しい。タッチライン際で繰り返す上下動に、中に入り込んでのゲームメークが加わり、世界のスタンダードでは味方を生かすための、未来につなげるポジショニングも必須になったと長友は受け止めている。

「相手の認識を自分だけに向けさせるのは当たり前で、さらに2人、3人を自分に向けさせるポジションをサイドバックが取れれば前の選手はもっと楽になるし、逆に自分がいいポジションを取ればボールを受けて仕掛ければいい。前の選手を生かすも殺すもサイドバック次第で決まるというか、そういう絶妙なポジショニングを取れるようにならないと、サイドバックとして世界で活躍することは厳しいと最近は感じています」

マルセイユでは午前中にチーム練習を行った後、午後の練習でフィジカルやボールを使ったテクニック、トップ・トップの選手たちを中心にさまざまな映像を研究しながら個人戦術を向上させるためのトレーニングなどを曜日ごとに振り分けた。

夕方にチーム練習が行われる代表では、午前中の空いている時間に個人トレーニングを行っていた。リラックスルームの撤廃など、新型コロナウイルスの防疫対策としてさまざまな制約が設けられた日々で、長友は「活用できる時間は全てトレーニングに費やしました」と笑う。

「サッカーの試合は流れの中で動いていくので、その流れにうまく乗れると、結局は守備でも攻撃でも自分が思い描いたタイミングで到達できるんですよね」

「ポスト長友」探しの風潮に「オッサンを代表から外したいように聞こえる」

流れに乗るためにも、数秒先の未来へつなげられる能力を高める。ヨーロッパの最前線で戦っていくための近道を含めた重厚な経験を、今回の活動中に長友は積極的に代表歴の浅い選手たちに伝授。いつしか「長友塾」と呼ばれる光景が練習後に生まれた。

ライバルの小川だけではない。センターバックの中谷進之介(名古屋グランパス)や快足が武器のMF古橋亨梧(ヴィッセル神戸)、追加招集されたFWオナイウ阿道(横浜F・マリノス)らが聞きに来る姿に、長友は「かわいい後輩たちですよ」と目を細める。

「長友はオッサンで年が離れているとか、話が合わないからと気を使うのではなく、どんどんどんどん吸収しよう、どんどん成長しようという貪欲な意思が伝わってくるんですね。なので、そういう選手たちには自分の経験を惜しみなく伝えていきたい」

後輩選手たちに対する長友のスタンスは、時間の経過とともに変わってきている。例えば30歳になった2016年の秋には、たきつけるような言葉を残している。

「僕らが代表に入った時のように、若い選手たちにはもっとガツガツやってほしい。遠慮なんてしなくていいから、自分が中心になるぐらいの思いで、日本代表を引っ張ってやるんだというギラギラしたメンタルを持ってほしい」

当時は、若手とベテランが挑む者と挑まれる者として火花を散らし合う過程で、代表やクラブに関係なくチームという組織が成長するという経験論に駆られていた。しかし、今は例えるならば「共生」という概念が長友を突き動かしている。

「皆さん、ポスト長友という言葉が好きですよね。何度もポスト長友と言われると、何だかオッサンを代表から外したいように聞こえるんですよね」

コロナ禍で代表活動が大きく制限されていた昨秋。ヨーロッパ組だけで実施されたオーストリア遠征中に長友は苦笑しながら、メディアを諭すようにこう語っている。

「ポスト長友で探すから、難しい部分があると思うんです。良い面でも悪い面でも、皆さんが『長友だったら』と比べるのは、僕のポジションに入る若い選手たちはやりづらいと思います。なので、ポスト長友よりも日本代表の左サイドバックとして、純粋な目で探した方が新しい風を吹かせて、新しい競争をつくり出していくんじゃないかと」

4大会連続のワールドカップへ。長友が心から願うことは?

そして、マルセイユでの1シーズンを終えた今、前述した未来へつなげる作業はピッチ上だけでなく、自らのサッカー人生もその対象になっている。

「僕自身は2022年を見据えてこれまでもやってきましたけど、そこへフォーカスする力がよりいっそう強くなっていると今では感じています。僕はもともとフォーカス力がかなり強い人間で、自分が定めた目標を達成してきた回数も多いですし、かなえた確率も高いので、そこは自分を信じて2022年に向かって突き進んでいきます」

照準を定めるのは36歳で臨む来秋のFIFAワールドカップ・カタール大会。自分を脅かすライバルがどれだけ現れようと、4大会連続でひのき舞台に立つ自分自身の姿から逆算しながらいま現在を駆け抜け、同時進行で共に戦う仲間たちも鼓舞する。

「4大会目になると自分のエゴだけではなくなってくる。経験のせいなのか、年のせいなのかは分からないけど、次のワールドカップでベスト16の壁を越える、という結果を残す日本に自分が貢献するのは当然だと腹をくくっているので。そのためには日本代表への誇りと責任、プレッシャーをしっかりと受け止めた上で、それらをピッチで表現できる選手が一人でも多く増えてほしい。僕が心から願っていることです」

高い目標を設定しているからこそ、長友自身もトップレベルで戦い続ける。昨夏に単年契約で加入したマルセイユとの今後は未定。複数のフランスメディアが契約延長を報じる中で、長友自身も「残れればいいですよね」とこう続けた。

「厳しい環境で勝負したい、という思いは常にあります。ただ、どこに行っても最後は意識で変わってくる。なので、意識だけはしっかりと高く保ちながら戦っていきたい」

心身をマックスまで燃焼させた長友は、怒涛(どとう)のA代表5連戦を終えた直後に自身のTwitterへ「少し休みます」と投稿。ヨーロッパの新しいシーズンと、9月から始まる予定のアジア最終予選へ向けて、つかの間のオフで鋭気を充電させていく。

<了>

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