高校ラグビー界に深刻な「部員・部活数の減少」。日本協会の強い危機感、原因と対策は?

Education
2022.07.29

ラグビーワールドカップ2015年大会では「史上最大の番狂わせ」を演じ、2019年大会では史上初の8強進出。列島中を沸かせた日本代表だが、その未来にとって決して明るくないデータがある。この10年間で高体連に加盟・登録している部員数・部活数が激減し、その数字は深刻な「子どもの野球離れ」が叫ばれている以上のものとなっている。2度のブームの追い風を受けながら、なぜこれほどまでにラグビー離れが進んでいるのか? その原因と対策を考えたい。

(文=向風見也、写真=Getty Images)

10年間で部活数は17%、部員数は25%の大幅減少。2度のブームもなぜ?

ラグビー日本代表の地盤が、揺らいでいる。

男子ラグビーの部員数、加盟校数が減り続けているのだ。

全国高校体育連盟(高体連)が発表した数字を基に計算すると、2011年度から2021年度にかけての加盟・登録校数と部員数の減少率は、それぞれ約17%、25%に上る。全国各地のラグビー部の部員数が、この10年で4分の3程度となっているのだ。新2、3年生がプレーする新人戦の地区大会では「合同チーム(複数校の選手が1つのチームを編成)」が多発しがちだ。

少子化の影響もあってか、他の団体競技の多くも厳しい状況に置かれている。ただラグビーがより深刻に映るのは、ワールドカップで「史上最大の番狂わせ」を起こした2015年、日本大会が開催された2019年と、2度のブームも追い風にできなかったからだ。

今起きている競技人口の大幅な減少は、競技の普及、代表強化とさまざまな観点からも喫緊の課題となる。

学生時代に競技経験のある社会人の減少は、日常会話でラグビーにまつわる話題が生まれにくくなることを意味する。ブーム発生前に国内におけるラグビーのプレゼンスが低かったのは、こうした傾向と無縁ではあるまい。

強化の側面では、将来的に日本代表にも大きな影響を及ぼすことが考えられる。2022年、他国出身者が代表資格を得られるまでの連続居住年数は「3年」から「5年」に伸びている。海外出身選手に頼りづらくなり、国内での逸材発掘、選手間の競争にかかる期待は大きくなる。理想論をいえば、大谷翔平や八村塁のような素質の青年がこぞってラグビーを選びたくなるような環境にするのが関係者の務めとなりそうだ。

「持てる者」と「持たざる者」の分断、二極化の深刻な現状

日本ラグビーフットボール協会(日本協会)の岩渕健輔専務理事は、危機意識を示す。今年6月上旬、定例理事会後の会見で述べた。

「どのスポーツにとっても過去2年間、(コロナ禍に伴い)難しい状況が続きましたが、ラグビー(界)としては(今後)大きくチャレンジしなければいけない。それを前提にしています。小学校から中学・高校に進むにあたり、あるいは成人の(競技)人口が減少しているのは事実としてございます。競技人口だけではなく、(ラグビーに)関わっていただける参画率をどう増やしていけるかの議論は、きょうの理事会内でも行いました。2022年には女子の、2023年には男子のワールドカップがあります。ここでの勢いを使いながら国内参画率を上げる取り組みを進めたいと思っています。今後、理事会でも再度、議論して、皆さまにご報告をしたいと思っています」

問題の解決には、原因を知ってその解決方法を探るしかない。

競技人口と部活数の減少の理由について、日本協会の別の関係者は二極化の現状を憂いていた。

一部の強豪校の指導体制やトレーニング設備が整う一方、過半数のチームのそれがやや不十分に映り、部員数を含めたあらゆる要素で「持てる者」と「持たざる者」の分断が進行。その流れで、加盟部活数が少なくなっているとの見立てだった。

非強豪校は高校から競技を始める学生の受け皿となっており、競技の普及への貢献度は小さくない。ところが今は二極化の傾向に加え、学生の気質の変化も受けて受難の時期を迎えている。

全国大会に出場経験のある公立高は、ラグビーに興味を持ってくれた初心者が最終的に入部を見合わせる悲運と何度も直面している。理由の多くは、「親に反対された」。けがのリスクや勉学との両立を不安視されたのだろうか。

指導者層の拡大は急務。2019年の指導者資格制度改定による効果の期待

指導者のいる部活が一定の部員を担保する一方、そうでないクラブが縮小している。

それが高校年代の競技人口減少をもたらしているとしたら、解決の道筋は2つ挙げられる。

一つ目は指導者層の拡大だ。

日本協会は2019年、もともとあった指導者資格制度を再整備している。

国際統括団体であるワールドラグビーの学習コンテンツを教材とし、技術や戦術面の指導はもちろん選手の安全確保についても知見を共有。すでに指導現場にいる人の資質を高めるのはもちろん、一定の知識を有する指導者の分母を増やす効果が期待される。

仕組みの活用度合いが加盟数の下げ止まりにつながるか、絶えずチェックされたい。

学校部活以外にラグビーをやれる場づくりを

二つ目は、部活以外の場づくりだ。

学び方が多様になった今、部活動を軸に競技人口を保つ考え方自体に限界が来つつあるといわれる。

日本協会の関係者は、国内リーグワンのクラブが持つアカデミーにも一工夫、加えてもよいのではと話す。現状では小・中学生のみとなっている対象を高校生にまで広げ、サッカー・Jリーグの下部組織に近い形状をイメージする。

もちろんアカデミーの拡大化に踏み切るには、事前に検証すべき点がかなり多い。

リーグ側や各クラブのヒューマンリソースの有無はもちろん、既存のチームを統括する高体連との協調関係も考慮しなくてはならない。

その時々の有望株が海外に触れられる高校日本代表の活動は、高体連が携わる全国高校ラグビー大会の収益にも支えられている。アカデミーと部活動とのすみ分けを明確化するなど、既存の組織にハレーションを起こさないマネジメントも求められよう。

ただし、クラブチームを含めた部活動以外の場がメジャー化すれば、教員免許を持たない有望なコーチたちの職域も広がるだろう。人口減少に加え、指導者不足にも歯止めがかかり得る。

岩渕専務理事は、件(くだん)の会見でこうも述べた。

「(競技の発展を)高校の部活だけに頼らない、さまざまな形を検討していく必要があります。もちろん、今まで日本のラグビー——他のスポーツもそうだと思いますが——を支えてもらってきた大きな力は、部活動にあるのは間違いありません。この部分は大切にしながら、大会参加、(選手)登録の仕方などを(あらためて)検討しなければいけないと考えています」

徳島・城東高校に見られる、ラグビーの持つ可能性

さかのぼって今春、全国選抜大会に徳島県立城東高校が出場。冬の全国大会の常連校となりつつある城東だが、現状では推薦枠に限りがあるため慢性的な部員不足は避けられない。2学年のみで乗り込む選抜大会には、他部の生徒を帯同させることがあった。

今度の大会でも、1回戦の先発15人中2人が助っ人部員だった。

興味深かったのは、その2人の心の動きだ。

対戦相手は、冬の全国で準優勝した國學院栃木高校。素人の選手にとってはあまりにハードルが高かったはずなのに、その一人で11番の岩本青空は臆せず身体をぶつけにいくあまり故障する(やはり助っ人で16番の松田京一郎と交代)。

さらに県予選でトライも決めていたもう一人の選手は、7-57で敗戦すると涙を流していた。

6番の宇都宮大和。やがて、もともと在籍していたソフトボール部へ戻る青年は、涙を拭いて言った。

「悔しさと、このチームとやるのが最後なのかなという思いと……。まったくできなかったことを(周りの部員が)優しく教えてくれたことを思い出して、いいチームだったな、と感じました」

ラグビーには、関わった人をすぐに夢中にさせるポテンシャルがある。潜在的に仲間になりそうな人に漏れなく仲間になってもらう施策が、次々と作られたい。

<了>

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