「モンスト」を世に広めた功労者、千葉ジェッツ・田村征也代表が誓うBリーグトップランナーの矜持

Business
2022.09.23

スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。この春からはJFN33局ネットの全国放送にリニューアル。元プロ野球選手の五十嵐亮太、スポーツキャスターの秋山真凜、Webメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長の3人がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回は、ゲストにBリーグ・千葉ジェッツふなばしの田村征也代表取締役社長が登場。10月に開幕するBリーグの新シーズン展望や千葉ジェッツふなばしの社長として思い描く将来像とともに、自身がマーケティングを手がけたあの人気ゲームアプリのことなど、さまざまな話を伺った。

(構成=磯田智見、写真提供=JFN)※写真は左から岩本義弘、秋山真凜、田村征也、五十嵐亮太

目指すは3大タイトル獲得。クラブ社長として大切にしていること

秋山:田村さんが代表取締役社長を務める千葉ジェッツふなばしは、35勝10敗という成績で2021-22シーズンのBリーグ東地区で優勝を達成されました。新たに10月から2022-23シーズンがスタートします。開幕に向けて準備を進めるチームの現状を田村さんはどのように見ていますか?

田村:千葉ジェッツふなばしは2022-23シーズンからヘッドコーチが代わりまして、新体制でのスタートとなります。9月上旬にプレシーズンゲームを行ったところ、チームのバスケットスタイルである「アグレッシブなディフェンスから走る」という部分が体現できており、とても手応えを感じています。今シーズンは天皇杯優勝、東地区優勝、そしてBリーグ優勝と、3つのタイトル獲得を目指して取り組んでいきたいと思っています。

岩本:社長の役割というのは企業やクラブによってさまざまな形がありますが、千葉ジェッツふなばしで田村さんが担っているのは、具体的にどのような役割になるんですか?

田村:フロントスタッフのトップという立場で、主に経営面での役割を担っています。チームの運営や編成については、取締役を務めるGMが担当しています。

岩本:強化面についてはGM、経営面については社長である田村さんが担当しているということですね。田村さんは2020年7月に千葉ジェッツふなばしの社長に就任されました。とても珍しいタイミングでの就任でしたよね?

田村:新型コロナウイルスの感染拡大が進み、緊急事態宣言が現実味を帯びてきたころに社長就任の話が浮上しました。その後、実際に7月に就任するとなった時には、コロナ禍という状況も含め、かなりプレッシャーのかかるタイミングでしたね。

岩本:田村さんもおっしゃるとおり、あの時点で社長就任のオファーを受けるというのもかなりの勇気が必要だったのではないかと思います。

田村:まさにそのとおりですね。また、千葉ジェッツふなばしは、現在Bリーグのチェアマンを務める島田慎二さんが長く社長を務めてらっしゃいました。島田さんはカリスマ経営者と周囲に一目置かれる方ですので、就任のタイミングとともに、そういった方から社長の座を引き継ぐというプレッシャーも感じていました。

岩本:社長という立場に対するイメージは、就任前後で何か変化はありましたか?

田村:ステークホルダーの多さは、実際に社長になってみて大いに感じた部分でした。ブースターと呼ばれるファンの皆さん、パートナーの皆さん、そして地域や行政の皆さん。それぞれが抱くクラブへの思い、さらにはそれぞれが取り組むクラブとのプロジェクトがありますので、ステークホルダーが多ければ多いほど期待値の調整は難しいものだと就任当初に実感しました。

岩本:その期待値を調整する上で、田村さんが意識しているのはどんなことですか?

田村:まずはコミュニケーションを重ねていくこと。そして、軸を持ってやり続けること。この2つを大切にすることで、徐々に相互の理解が深まっていると手応えを感じています。

五十嵐:本当にたくさんの意見が田村さんのところに集まってくるのではないかと思うんですが、決定に際してはやはりさまざまなバランスを見ながら検討する感覚ですか?

田村:もちろんそうですね。ただ一方で、どうしても譲れない部分があります。これを譲ってしまうと、そもそも今取り組んでいることの意義がなくなってしまう、主従がおかしくなり目的が果たせなくなってしまうと感じた時には、自分のなかにある軸に目を向け、どれほど強く要望をいただいても譲れないということでお断りするケースもあります。

田村社長は「モンスト」を世に広めた功労者!?

岩本:田村さんは新卒で株式会社ミクシィに入社したんですよね?

田村:はい。大学卒業後、2009年に株式会社ミクシィに入社しました。入社当初はインターネット広告を販売していました。

岩本:スポーツとは縁遠い業務にあたられていたんですね。その後、田村さんは人気ゲームアプリの「モンスターストライク」(モンスト)のマーケティング部長になられました。まさに「モンスト」を世の中に広めた功労者ですね。

田村:「モンスト」をリリースする前からマーケティング担当として関わっていまして、リリース後にグッとユーザーが増えました。今では国内で約5000万人の登録者がいます。

五十嵐:僕も登録していますよ(笑)。

秋山:日本の人口が1億2000~3000万人なので、5000万人ということは、もうすぐ人口全体の半分になってしまいます(笑)。

田村:そうですね(笑)。私はまさにそういった集客の部分を担当し、いかにユーザーを増やすかという方法を考えました。CMづくりやYouTubeでの動画配信など、さまざまな観点からお客さんに楽しさを提供する活動に取り組んでいました。

岩本:エンターテインメントのマーケティングは、スポーツの分野にも通じる部分がたくさんありそうですね。

田村:そのとおりですね。今、千葉ジェッツふなばしではYouTubeでの動画配信にかなり力を入れてやっています。そこにはゲームのマーケティングを担当していたころのノウハウを転用することができています。

エンターテインメントをプラスオンする意義

岩本:その後、スポーツ事業部でスポーツビジネスにも関わられていたそうですね。

田村:はい。スポーツ事業部ではFC東京、東京ヤクルトスワローズ、そして千葉ジェッツふなばしのスポンサードを手がけていました。株式会社ミクシィにおけるエンターテインメントブランドの総称、「XFLAG」というブランドをいかに広めていくかという点を念頭に、スポーツのクラブや球団などにエンタメ色をつけていくことで、「XFLAG」の認知拡大を実現しようと試みました。

五十嵐:スポーツ界にエンタメ色をつけていくというのは、具体的にどのようなことですか?

田村:千葉ジェッツふなばしでは試合前やハーフタイムショーの演出にかなり力を入れています。屋内競技ではありますが、火を炊いたり、爆竹で音を出したり、エンタメ性の高いショー演出を心がけているんです。そのような施策を続けた結果、バスケットボールに興味のなかった方にも試合を見に来ていただけるようになりました。

五十嵐:スポーツにおいてはそこが大事ですよね。競技について詳しくない人でも楽しいと思えるような空間をつくり出すことは、非常に大切なことだと思います。田村さんはそういった演出や見せ方のテクニックをどのように磨かれたんですか?

田村:私はもともとゲームの畑の人間であり、近年ではゲーム業界においても積極的なイベントの開催が求められています。イベントを行うにあたっては、お客さんに楽しんでいただくために“ゲーム以外のコンテンツ”を持ち込むことを心がけました。2日間で合計約4万人の方にお越しいただく「XFLAG PARK」というイベントを毎年夏に開催しています。そこではシルク・ドゥ・ソレイユさんにご協力いただき、ゲームのイベントでありながらもお客さんにサーカスをお見せして、その一日の価値をものすごく高いものにしてもらおうと取り組んだこともあります。

そのような施策を通して手応えをつかむことができましたので、スポーツ業界においてもスポーツ以外のコンテンツ、エンタメ色の強いコンテンツをプラスオンすることで、お客さんの裾野やエンゲージメントを高められるのではないかと考えました。もともと千葉ジェッツふなばしはエンタメに力を入れていたクラブですが、今はよりその部分に注力することで、バスケットボールファンの数をさらに増やしていけるのではないかと思っています。

勇気を持って一歩踏み出してみることの大切さ

秋山:新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで社長に就任された田村さんですが、就任当時のBリーグの試合は無観客での開催だったのでしょうか?

田村:私が社長に就任してから始まったシーズンは、上限50%収容制限試合として行われていました。

秋山:当時を振り返ると、観戦対策、選手やスタッフの体調管理など、いろいろなことに気を配る必要があって大変だったのではないですか?

田村:当時は、「今後どのくらい感染が広まっていくのか?」「本当にマスクをするだけで感染を防げるのか?」「どのレベルまで対策を講じるべきなのか?」と、あらゆることがはっきりとはわかっていない時期でした。

岩本:サッカースタジアムや野球の球場と比べると、バスケットボールのアリーナは人が密集しやすいですから、Bリーグを開催する際の感染対策はとても難しいものがあったのではないかと思います。

田村:やはり人が屋内にこもってしまいますからね。そのなかで対策をするのはもちろんなのですが、「もし会場で感染が広まってしまった場合はどう対応するのか?」という点も考えてなければなりませんでした。その意味では工数がものすごくかかりましたし、最悪のケースを想定しながら仕事を進めるというのはメンタル的にかなり疲弊してしまいますので、先が見えないなかでクラブを引っ張っていくというのは今思い返しても大変なことでしたね。

五十嵐:田村さんは、株式会社ミクシィで働いていらっしゃった時代にも、いい時期とよくない時期を経験し、そこからまた浮上していったことがあったと聞きました。

田村:私が入社した2009年ごろ、株式会社ミクシィは会社として右肩上がりに成長していました。ところがしばらくすると、SNSにおけるさまざまなサービスの台頭とともに状況が変わっていき、一気に赤字に転落した時期もありました。

五十嵐:赤字まで落ち込んだんですね。

田村:そうなんです。当時は苦しい思いも味わいましたが、その後「モンスト」というタイトルがヒットしまして、会社の業績もV字回復していく姿を目の当たりにしました。

五十嵐:どん底から復活した経験は、コロナ禍での取り組みにも生かせる部分があったのではないですか?

田村:「モンスト」の立ち上げに伴い、私はマーケティングを担当することになり、責任者も務めました。当時の私にとっては未経験の役回りだったのですが、会社はそんな私に仕事を任せてくれ、試行錯誤しながらやってみたところ、何とかうまく進められたという実体験がありました。

岩本:田村さんがマーケティングを手がけられた「モンスト」のヒットにより、当時の株式会社ミクシィの売上は2000億円を記録したこともあったと聞きました。

田村:そうですね。赤字から2000億円までいきました。もちろん、多くの方々の支えがあったからこその結果なのですが、仮に未経験であっても“やってみたらうまくいく”こともありますし、“実際にやってみなければどういう結果になるかわからない”こともたくさんあります。今回、千葉ジェッツふなばしの社長に就任するにあたっても、クラブ経営はやったことがありませんでしたが、そういうお話をいただけたのだからチャレンジしてみようと。株式会社ミクシィでのさまざまな経験があったからこそ、自分のなかで一歩踏み出せたという部分はありますね。

スポーツ界に求められる「変化を起こせる人材」

岩本:千葉ジェッツふなばしの新アリーナ建設についても聞かせてください。完成予定はいつごろなんですか?

田村:2024年の春を予定しています。

岩本:1万人以上のお客さんが入るそうですね?

田村:バスケットボールを観戦する際は、着席状態で1万人を収容することができる大型のアリーナになっています。バスケットボールをはじめとしたスポーツ、他にもコンサートやライブなどのエンターテインメントの会場として活用してく予定です。

岩本:IT業界、ゲーム業界からスポーツ業界に活躍の場を移され、この2年間の経験からどのような人材が今のスポーツ業界には必要だとお考えですか?

田村:「変化を起こせる人材」が必要なのではないかと思っています。タームでいうと、毎年シーズンが開幕し、1年を駆け抜けてシーズンが終わり、また次のシーズンに向けて準備を進めていくという一定のサイクルがあります。そのなかで、クラブとしては優勝という変わることのない明確な目標があります。その部分に目を向けると、スポーツ界というのは取り組みがマンネリ化しやすく、正解がパターン化されやすい業界なのではないかと思うんです。だからこそ、変化を起こしてお客さんやパートナーの皆さんを飽きさせない、常に楽しませる意識と取り組みが重要になってきます。

五十嵐:強ければ強いチームほど、変化を起こすのが難しいところがあるような気がします。仮に変化を起こそうとしても、結果的に思いどおりの形に持ち込めず、チームが弱体化してしまっては大きな批判を浴びることにつながりますからね。

田村:まさにそこが一番難しいところなのではないかと思います。とはいえ、私は「変化なき者に成長なし」と考えるタイプです。千葉ジェッツふなばしはBリーグの1クラブとしてまだまだ現状維持を目指せるほどの事業規模ではないですし、Bリーグ自体をもっともっと大きくしていくのであれば、トップランナーが先陣を切って変化していかなければ成長していくことはできないだろうと考えています。だからこそ、私は変化を起こせる人材を求めていますし、クラブだけでなくスポーツ業界全体にそういった人材がもっと増えてきた時に、さらなる成長が見込めるのではないかと思っています。

岩本:最後に、田村さんの仕事に対するモチベーションの源や、スポーツクラブを経営することの魅力を教えてください。

田村:やはり、関わっていただける方の多さと、一人ひとりの期待値を直接感じられるところですね。私自身、幅広い年齢層の方々に楽しんでいただけるコンテンツに関わるのは今回が初めてであり、おじいちゃんやおばあちゃんからお孫さんまでが一緒に楽しめるスポーツというコンテンツに携わらせてもらっていることにとてもやりがいを感じています。老若男女さまざまな方々にアプローチできて、地域の皆さんが我々の取り組みや成績に対して大きな喜びを表現してくれる。そういう姿を目の前で見られる瞬間にこそ、この仕事の魅力があると考えています。

<了>

マツダスタジアムが進化を続ける理由。スタジアム・アリーナの専門家、上林功が語るスポーツの未来

観客数“最下位”から「B1のさらに上」への挑戦。京都ハンナリーズ・森田社長が挑むプレミア参入

なぜ楽天×ステフィン・カリーの取組みが全米で称賛されるのか? アスリートの価値最大化のために大切なこと

Bリーグのアカデミー出身者が高校バスケで活躍? これから求められる育成環境の更なる整備

[アスリート収入ランキング2021]首位はコロナ禍でたった1戦でも200億円超え! 日本人1位は?

[PROFILE]
田村征也(たむら・まさや)
株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役社長。2009年、株式会社ミクシィに新卒として入社。SNS「mixi」の広告営業、「mixiゲーム」のアライアンス担当として従事。2015年、モンストスタジオ(のちのXFLAGスタジオ)マーケティング部部長に就任。人気ゲーム「モンスターストライク」に関するイベント企画、メディア展開などを手がける。その後、同社にてスポーツ事業本部部長としてFC東京のスポンサー活動にも尽力。2020年7月、千葉ジェッツふなばしの代表取締役社長に就任し、1年目の2020-21シーズンにBリーグ初優勝を達成。

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事