ドイツ・スペインに大番狂わせも、日本代表が満足しない理由。次に志向すべきは「自分たちのサッカー」か、それとも…?

Opinion
2022.12.09

FIFAワールドカップ優勝経験を持つ強豪、ドイツとスペインに勝利する大番狂わせを演じ、日本代表は世界を震撼(しんかん)させた。幾度となくはね返され続けた「ベスト8の壁」を破ることはできなかったが、日本が1つ上のステージに上ったことを感じさせる大会だった。だがそれでも、堂安律や鎌田大地をはじめとする代表メンバーは満足していない。堅守速攻で結果を得た日本代表だが、4年後に向けて志向すべきはどのようなスタイルだろうか――?

(文=藤江直人、写真=Getty Images)

PK戦の末に敗れ去ったワールドカップの舞台。「PK戦の前に決めたかった…」

残像が強烈過ぎるほど、もっと重要なものが覆い隠されてしまう。日本代表がPK戦の末にクロアチア代表に屈し、ノックアウトステージ初戦で姿を消したFIFAワールドカップでいえば、相手の守護神ドミニク・リバコビッチに止められた3本のPKが強烈な残像となる。

PK戦を前にしてベンチ前で組まれた円陣で、森保一監督が1番手からキッカーを募った。さすがに臆したのか。5秒ほどの沈黙を経て「じゃあオレがいく」と手を挙げた南野拓実(モナコ)が、そして2番手に立候補した三笘薫(ブライトン)が立て続けに止められた。

続く浅野拓磨(ボーフム)が決め、対するクロアチアの3人目は左ポストに当ててしまう。奇跡の逆転へ。膨らみかけた期待は、4人目のキャプテン吉田麻也(シャルケ)がみたびリバコビッチに止められた瞬間にしぼみ、クロアチアの4人目にしっかりと決められた。

5人目の遠藤航(シュトゥットガルト)へ回る前に決まった敗戦。吉田が声を絞り出した。

「PKに関しては運もあるけど、僕も含めて3本も外したらさすがにきつい」

ただ、リバコビッチにコースを全て読まれ、止められた3本のPKを強烈な残像としたのには理由がある。試合後の取材エリア。足に痛みを覚えていた影響で、キッカーに立候補しなかった伊東純也(ランス)が残した言葉にこそ敗因が反映されていたからだ。

「やはり延長戦になると自分だけじゃなくて、みんなもきつかった。相手の左サイドバックも足がつりかけるなど、かなり疲れていた。その中で奪ったボールをつないで、ショートカウンターでチャンスを作ってPK戦になる前に決めたかったんですけど。残念です」

「自分たちがボールを持てる相手に対して、攻撃のアイデアを出せなかったのが課題」

悲願のベスト8進出を果たすためには、延長戦を含めた120分間で決着をつけたかった。1対1の展開から勝ち越し点を奪えなかった時点で、準優勝した前回ロシア大会のノックアウトステージでPK戦を2度制しているクロアチアが、経験値の点で優位に立った点は否定できない。

ならば、日本はなぜ1ゴールにとどまったのか。クロアチア戦で[3-4-2-1]システムのシャドーの一角で今大会2度目の先発を果たし、87分までプレーした堂安律(フライブルク)は、敗退翌日に全選手が臨んだ最後のメディア対応でこんな言葉を残している。

「コスタリカ、クロアチアと自分たちにボールを少し持たせてくれる相手に対して、攻撃のアイデアを出せなかったのが課題。クロアチア戦の前半はよかったけど、世界の強豪国と呼ばれる相手にワールドカップの舞台で、90分間を通してボールをしっかり保持して勝ちたいという理想がある。これからの4年間で、積み上げていくべきところはたくさんあると思っている」

コスタリカとのグループステージ第2戦は0対1で敗れ、クロアチアとのノックアウトステージ初戦は公式記録上では引き分けとなり、次のステージを決めるためのPK戦で後塵を拝した。対照的にグループステージ初戦のドイツ、最終戦のスペインからは世界を驚かせる大金星をあげた。

ともに後半の頭からドイツ戦はシステムを、スペイン戦では戦い方を変えて、前半に背負った1点のビハインドを鮮やかにひっくり返した。別のチームかと見間違うほどの変貌を遂げた後半の戦いぶりに世界は驚き、現地や国内で声援を送った日本のファン・サポーターは熱狂した。

堅守速攻で結果を残した2010年南ア大会、スタイルの転換を図った2014年ブラジル大会

ワールドカップ優勝経験を持つ大国に勝てた至福の喜びを、もちろん全ての選手が感じている。しかし、ともに再現性がある戦いだったのか問われれば、自信を持ってイエスと言い切れなかった。チームメートたちが抱く思いを代弁するように、堂安はこんな言葉も紡いでいる。

「大会中に他の選手たちもおそらく口にしていたと思いますけど、ドイツやスペインを相手にした戦い方は、全て僕たち選手がやりたかったことではなかった。勝つ可能性を上げるためだけに採った手段であって、理想としていたサッカーではないのは僕たち自身が分かっています」

ドイツ戦はハーフタイムにシステムを[4-2-3-1]から[3-4-2-1]へスイッチ。3枚で回すケースが多かったドイツの最終ラインに対して前線の数を合わせ、前からプレスをかけにいく状況を整えながら、攻撃的な選手を次々と投入してペースをつかんでいった。

前半から[3-4-2-1]システムで臨んだスペイン戦では同じくハーフタイムに、ブロックを敷く戦い方を前線から激しくプレスをかける戦い方に変更。開始10分までの限定でリスクを冒し続ける、故事成語の「虎穴に入らずんば虎子を得ず」を体現する戦い方がスペインをパニックに陥れた。

そうした状況で、堂安はドイツ戦で途中出場から4分後の75分に、スペイン戦では同じく3分後の48分に同点ゴールを一閃(いっせん)。流れをさらに日本へ引き寄せたヒーローとなっただけに、最後の取材対応で残した「理想としていたサッカーではない」は重い響きを伴ってくる。

大まかに表現すれば「堅守速攻型」から「ボールポゼッション型」への転換を目指す、となる日本代表チームの流れは、2010年の南アフリカ大会以降の4年間を思い起こさせる。

「自分たちのサッカー」を追い求め続けながら、一敗地にまみれた歴史

南アフリカ大会を振り返れば、岡田武史監督が開幕直前で戦術を180度転換。中村俊輔をトップ下に据えてボールポゼッションを志向する[4-2-3-1]から、本田圭佑を1トップに抜てきし、その上で俊輔を外した[4-1-4-1]システムで堅守速攻型にスイッチした。

土壇場での英断は鮮やかに奏功する。本田のゴールでカメルーンとのグループステージ初戦を制した日本は、強豪オランダとの第2戦こそ0対1で屈したものの、デンマークとの第3戦で再び本田が先制点をゲット。遠藤保仁、岡崎慎司も続いて3対1で快勝した。

2大会ぶり2度目のノックアウトステージ進出を果たし、ファン・サポーターを熱狂させた日本はラウンド16でパラグアイと対戦。しかし、相手の堅守をこじ開けられないまま、延長戦を含めた120分間は0対0で終了。突入したPK戦を3-5で落としてしまった。

当時もPK戦より、PK戦にもつれ込んでしまった試合展開が悔やまれた。故にイタリア人のアルベルト・ザッケローニ新監督の下で「自分たちのサッカー」が共有され、本田が28歳で迎える2014年のブラジル大会に照準を据えて、ボールを保持する理想を追い求め続けた。

しかし、迎えたワールドカップ本番で一敗地にまみれた。コートジボワール、ギリシャ、コロンビアに一つも勝てず、グループCの最下位で敗退するまでの軌跡は、クロアチアに負けて戻ったドーハ市内の宿舎ホテルの部屋で、当時を戦ったベテラン選手たちから堂安らに伝えられた。

「それでも、理想を追い求めて勝ちたい」。堂安の新たな決意

当事者たちの経験を介して、全員で掲げたはずの「自分たちのサッカー」がいつしか独り歩きしてしまった日本代表のほろ苦い歴史の一部を、あらためて伝授された堂安はさらに決意を新たにした。最後の取材対応では「それでも、理想を追い求めて勝ちたい」と語っている。

「それをできるだけのポテンシャルを持った選手が、僕たちにはそろっている。理想とはちょっと程遠いですけど、この大会を通して粘り強い守備は表現できた。それをチームのベースとして持ちながら、理想を追いかけていきたい。ベースの部分を変えてしまうとダメなので」

堂安だけが思いに任せて、今後の日本代表が進むべき道を描いていたわけではなかった。

例えば鎌田大地(フランクフルト)は、クロアチアに屈した直後のアル・ジャヌーブ・スタジアム内の取材エリアで、堂安の指摘に通じる主張をすでに展開していた。

「ドイツとスペインに勝利できましたけど、じゃあ彼らと対等だったのかと言われると、間違いなく程遠かった。自分たちが目指す場所がワールドカップのノックアウトステージに上がるとか、それぐらいならば今のやり方のままでいい。実際に今大会はこのやり方で自分たちが目指していたところまでうまくたどり着けそうでしたけど、その先にまで行こうと考えたときには、自分たちはもっとポゼッションもできないとダメだと思っている」

鎌田が言及した「このやり方」とは、ドイツとスペインに対して後半から戦い方を大きく変えた、いわばリアクション型となる。森保ジャパンが掲げてきた「いい守備からいい攻撃へ」を、ワールドカップ仕様に急きょバージョンアップさせた形といってもいい。

しかし、相手にボールを持たされたコスタリカ戦や、クロアチア戦の後半以降は攻撃面でノッキングが生じてしまった。自分たちが主導権を握るアクション型にも磨きをかけて、カタール大会で手にしたベースと融合させていく青写真を鎌田も思い描いていた。

「ビッグクラブでプレーする選手が数人は必要」。モドリッチと対峙した鎌田の感触

アメリカとカナダ、メキシコで共同開催される次回のワールドカップへ。すでに4年を切っている時間の中で、カタールでの戦いで突きつけられた課題を克服するにはどうすればいいのか。

「日本がもっと強豪国になっていくためには、やはりビッグクラブでプレーする選手が数人は必要だと思う。なので、自分はそういう選手になれるよう頑張っていきたい」

鎌田は何度も唱えてきた持論をあらためて展開した。攻撃の中心を託されながら個人的には不完全燃焼に終わった今大会を、鎌田も「監督の期待に応えられなかった点で、本当に申し訳ないと思っている」と振り返る。シャドーで先発したクロアチア戦も、75分でベンチへ下がっていた。

だからこそ、29歳で迎える次回大会へ捲土(けんど)重来を期す。クロアチア戦では憧れる選手の一人、MFルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)と対峙(たいじ)した。ビッグクラブでプレーする37歳のベテランから感じた特別な雰囲気が、日本が強くなるために必要だと痛感させられた。

「ビッグクラブでプレーしている選手は余裕が違うというか、ピッチの上に立っているだけで空気感が違う。絶対的な自信を漂わせているというか、言葉ではなかなか言い表せないようなものも感じさせる。自分は未完成の選手であり、伸びしろはまだまだあると思っている。これからの4年間でしっかり自分と向き合いながら、そういう選手になっていきたい」

「日常を出せた」。冨安がスペイン戦後に発した言葉に答えがある

現段階でビッグクラブに所属する日本代表選手は、アーセナルの冨安健洋だけだ。故障禍で個人的には不本意な結果に終わった冨安は、クロアチア戦後の取材エリアで「自分へのいら立ちしかない。感情の整理をするのが難しい」と神妙な表情を浮かべながら自らを責めた。

ただ、アーセナルで高い評価を受けている証しは随所で見せつけた。例えばスペイン戦の68分。1点を追う相手が左サイドバックに名手ジョルディ・アルバ(バルセロナ)を投入した直後に、森保監督も4枚目の交代カードとして鎌田に代えて冨安を投入した。

しかもポジションは3バックで組まれていた最終ラインではなく、ぶっつけ本番となる右ウイングバック。指揮官に託されたアルバ封じを完遂した試合後には、こんな言葉を残している。

「プレミアリーグでプレーしているので、その日常を出せたのかなと思っています」

後に鎌田が指摘する、ビッグクラブでの日常を源泉とする空気感や自信がアルバに仕事をさせなかった。さらに冨安は「この大会で今すぐに、というわけではない」と断りを入れながら、日本代表が進んでいくべき道が変わってきているとスペイン戦後に語っている。

「コスタリカ戦は勝点1でいいのか、3を取りにいくのかで微妙なところがあって、日本の力を100パーセント出し切れなかった。今後の戦いでこちらからアクションを起こし、しっかりと勝ちにいくためにも、ある程度は自分たちのことを過小評価し過ぎずに戦うステップに進むのも必要なのかなと。それに必要なクオリティーは、スペイン戦の後半で示せたと思っています」

歓喜に沸いたカタール大会。だがすでに選手たちは4年後を見据え、前は歩き始めている

森保監督の続投が有力視されている、カタールワールドカップ後の代表指揮官の考え方にも今後のスタイルは大きく影響される。それでも、次に顔を合わせるまでに可能な限り個の力を高め、アクション型にも十分に対応できると次期監督にアピールしなければいけない。

「この大会であらためて思ったのは、自分の役割はゲームをつくるミッドフィルダーではなく、ゴールを決めるフィニッシャーだということ。そう考えれば、自分の新しいポジションも開拓できる」

2002年大会の稲本潤一、2010年大会の本田、2018年大会の乾貴士に次いで、1大会における複数得点者になった堂安は、自身のストロングポイントにさらに磨きをかけると誓った。その過程でカタール大会をけん引した両ベテラン、長友佑都(FC東京)、キャプテンの吉田からバトンを受け継ぐ決意も新たにしている。

「二人とも(その前の)先輩方の背中を見て、今のような存在になったと思う。なので、次は二人を見た僕たち東京オリンピック世代が、背負っていかなければいけない。僕自身、エースになりたいとずっと言ってきましたけど、リーダーにもならなければいけないと今は思っています」

クロアチア戦から一夜明けた6日に森保ジャパンは解散した。29年前の1993年にワールドカップ出場を逃す悲劇を味わわされたドーハで、2度も全身を貫いた歓喜はもう忘れた。後ろを振り向かずに歩みを止めず、心の底から愛する日本代表にさらなる進化をもたらすために、カタールの地から情熱と感動を世界中へ発信した男たちは新たな戦いをすでにスタートさせている。

<了>

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