打たれたときは「悔しい!」よりも「ああ、やっぱり…」。千葉ロッテのエース・石川歩のリアルな思考回路

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2022.12.16

スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太、スポーツキャスターの秋山真凜、Webメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長の3人がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回はゲストに、千葉ロッテマリーンズの石川歩投手が登場。プロ野球界有数のピッチャーが口にする“あまりにもネガティブな発言”の一つひとつをひも解いていく。

(構成=磯田智見、写真提供=千葉ロッテマリーンズ)

シーズンを追うごとに感じるコンディションの変化

秋山:本日のゲストは、2022シーズンに通算3度目の開幕投手を務めた、千葉ロッテのエース、石川歩投手です。プロ9年目のシーズンは、石川投手にとってどのような1年間でしたか?

石川:序盤戦はまずまずの出来だったんですが、中盤戦以降はややリズムを崩し、終盤戦を前に肩を痛めてしまいました。1年間を通して見るとあまり仕事ができず、思うようなシーズンだったとは言い難いところがあります。

五十嵐:とはいえ、今シーズンは7勝を挙げました。

石川:そうですね。ただ、そのうちの数試合は打線の援護がありましたから、チームメートに感謝しています。

五十嵐:今シーズンのなかで特に印象的な試合を挙げるとすると?

石川:シーズン序盤はシンカーがよくて、真っすぐも実際のスピード以上に差し込めている感覚を持っていました。印象的な試合となると、僕自身4勝目を挙げた、広島とのセ・パ交流戦第1戦(5月24日、千葉ロッテが7-0で勝利)は自分でもいい出来だったなと思います。

五十嵐:楽天ゴールデンイーグルスとの開幕戦、2度目の登板となった埼玉西武ライオンズ戦では、2試合連続でフォアボールがゼロ。石川投手のコントロールのよさを物語るデータですが、投球の際はストライクゾーンに投げ込もうという意識がわりと強いんですか?

石川:僕はボール球を振らせるようなタイプのピッチャーではないので、基本的にはストライクゾーンを狙い、ストライクとボールのギリギリのコースに投げ込むイメージを持っています。

五十嵐:終盤戦に向けて、少しずつ調子を落としてしまった原因についてはどう考えていますか?

石川:腰や股関節まわりをしっかりとリカバリーできていなかったのかもしれません。そのためコンディションを万全に整えることができず、結果的にはコントロールの正確性を欠いて、甘いボールが増えてしまった印象です。今年34歳を迎えましたから、年齢を重ねてきた今、体の状態を万全に整えることは今後に向けた課題だと認識しています。

岩本:プロのアスリートとして、年齢的な部分でのコンディションの変化は感じるところがありますか?

石川:自分としては“感じていないつもり”です。でも実際は、これまで感じることのなかった痛みや違和感がシーズンを追うごとに発生するようになりました。そういった体調の変化は、やはり年齢を重ねてきた証なのだろうと捉えています。

プロ野球界に飛び込むイメージはゼロだった高校時代

五十嵐:石川投手は千葉ロッテ加入1年目の2014年に新人王、2016年に最優秀防御率のタイトルを獲得。2017年には日本代表の一員としてWBC(ワールドベースボールクラシック)のマウンドにも上がりました。そんな石川投手ですが、高校時代はこのような実績とは“ほど遠い”ところにいたようですね?

石川:はい。“何となく野球をやっていただけ”と言いますか。チームの成績も、県大会で3回戦止まりというようなチームで、将来的にプロ野球の世界に飛び込むというイメージは全然ありませんでした。スカウトもほぼゼロのような状態でしたから。

秋山:高校卒業後は、服飾の専門学校に進学しようと考えていたと聞きました。

石川:もともと服飾関係に興味があったんです。それに、大学に進学して野球を続けたとしても、当時の自分の実力が通用するとはまったく思えませんでした。

岩本:どのような過程を経て、中部大学に進学することになったんですか?

石川:高校の野球部の部長さんに、「一度セレクションを受けてみろ」と言われたことがきっかけです。心の中では「どうせダメだろう」と思っていましたが、「はい、受けます」と返答しました。

岩本:部長さんから言われたのだから、ここはとりあえずセレクションを受けておこうと?(笑)

石川:まさにそういう感覚です(笑)。

五十嵐:高校時代はそんなに“野球熱”が高くなかったんですか?(笑)

石川:もちろん野球熱はありました(笑)。ただ、将来を見据えたときに「このまま野球を続けても、自分は成功できないだろう」という思いがあったことも事実です。

「打たれるだろう」と思いながらマウンドに上がっている

五十嵐:性格面の話を聞いていると、石川投手がマウンドで見せるピッチングの様子と何となく一致するような気がします。気持ちのアップダウンがなく、常に淡々と投げている印象です。

石川:そう見えるのは、僕が毎回「きっと打たれるだろう」と思いながらマウンドに上がっているからなのかもしれません。勝利に対する熱い思いよりも、「どうせ打たれるんだから」という気持ちのほうが自分のなかでは勝っているような感覚です。

秋山:完全に五十嵐さんの真逆ですね?(笑)

五十嵐:本当に真逆ですよ(笑)。僕は「絶対に抑えてやる!」という気持ちを前面に押し出すタイプでしたから。ちなみに、打たれたときには「悔しい!」という思いより、「ああ、やっぱり……」という感覚になるんですか?

石川:まさにそうです。「ああ、やっぱり打たれたか……」と。

秋山:逆に、ピンチをしのいだり、勝利投手になったときにはどういう気持ちなんですか?

石川:「よかった! 今日は“何とか”抑えることができた」という感じです。

五十嵐:あんなにいいボールを投げるピッチャーが!?(笑)

石川:いえいえ、たいしたボールは投げていませんから。

岩本:プロ野球選手になり、球団のエースになった今なお、毎回「打たれるかもしれない」と考えるピッチャーがいるなんて聞いたことがありません(笑)。

石川:確かに、チームメートと話していても、僕のようなタイプの選手はいませんね。同僚に「俺はもう投げたくないよ」とポロっと言うと、相手からは「いや、自分は投げたい」という言葉が返ってきますから。

秋山:すごいやり取りですね(笑)。

万全の状態のときほど結果的にダメになることが多い

岩本:これまでのキャリアのなかで、監督やコーチからメンタル面に対する指摘や指導はなかったんですか?

石川:ありました。

五十嵐:野球界だけではありませんが、スポーツの世界では気持ちを前面に押し出してプレーすることを求める指導者もいますからね。でも石川投手の場合、逆にそういうやり方では実力が発揮できないんですもんね?

石川:僕の場合、準備が万全の状態でマウンドに上がると、結果的にダメになるケースが多いんです。「何かが足りない……」「大丈夫かな?」と不安を抱えているときのほうが、いい緊張感があって自分なりのパフォーマンスが発揮できます。そう考えると、今のやり方や考え方が自分のスタイルなんだろうと認識しています。

五十嵐:ブルペンで準備しているときから不安要素について考えているほうが、いいパフォーマンスが発揮できるということですか?

石川:はい。基本的にブルペンでは「ああ、今日もダメだろうな……」と考えています。

秋山:悲観的すぎませんか?(笑)

岩本:石川投手はこれまで3度も開幕投手を務めてきましたが、監督から指名された瞬間、「開幕は嫌だな」なんて思うこともあるんですか?

石川:はい、「嫌だな……」って。

五十嵐:監督は「今年のスタートを頼むぞ!」と、チームのなかで最も期待できるピッチャーを開幕投手として送り出します。石川投手はとても珍しい考え方の持ち主ですが、その性格を認識したうえで井口資仁前監督は3度も開幕投手に指名したわけですから、ものすごく大きな信頼が寄せられていたことがわかりますね。

岩本:ちなみに、そういうスタンスで野球に臨む石川投手は、今後の自分のキャリアについてどのような展望を持っているんですか?

石川:野球を続けられる限りは続けていきたいという思いが本心です。

岩本:物事をネガティブに捉えやすいタイプなので、もう引退後のことも明確にイメージしているのかと思いました。

石川:その点では、地元の富山でいろいろとやらせてもらっています。まちづくりや地域の魅力を高めていくことを目的とした会社に携わったり、野球の普及活動などに取り組んでいるので、現役引退後にもそのような活動を続けていけたらと考えています。

各遠征先にお気に入りの施設を持つ“サウナ愛好家”

秋山:石川投手はプロ野球界きってのサウナ愛好家なんですよね?

五十嵐:サウナの話なら僕も負けませんよ!(笑) 現役時代、ホームゲーム当日には、練習を終えてから試合開始までの時間を使ってサウナに入っていましたから。現役を引退してからも週に3、4回は通って、交代浴で血流をよくしています。今では汗の量で何分間入っているかがわかります。

石川:僕も心拍数でだいたい何分くらい経過したかがわかりますね。

五十嵐:心拍数? どういう意味ですか?

石川:サウナに入っていると鼓動が聞こえてくるじゃないですか?

五十嵐:……?

石川:あれ? 聞こえてきませんか? トントントン……という音を感じながら、「ああ、今は6分くらい経ったかな」という感じです。

五十嵐:聞こえないですね。石川投手の見えている緻密(ちみつ)な世界が見えていない人もいっぱいいると思いますよ(笑)。

秋山:石川投手はいつ頃からサウナにハマっているんですか?

石川:大学1年生の頃からです。大学生時代は、学校と練習のとき以外は時間に余裕がありました。もともと風呂好きということもあり、近くの銭湯に通う機会が増え、その流れでサウナに入るようになったんです。

五十嵐:コロナ禍では難しいところがあるでしょうが、プロ入り後もサウナを楽しんでいるんですか?

石川:特に遠征のときにチャンスがあれば行きますね。

五十嵐:各遠征先にお気に入りの施設があったり?

石川:はい、もちろんそれぞれの地域にあります。

岩本:さすが“プロ野球界きってのサウナ愛好家”ですね。

秋山:新型コロナウイルス感染症が拡大してからは、テントサウナを購入したそうですね?

石川:キャンプ場に持っていき、テントのなかにサウナストーブを入れて薪で温めます。じっくり汗を流したあとには、そのまま川に飛び込むイメージです。

岩本:それほどハマっていると、サウナ発祥の地とされるフィンランドにも行ってみたいんじゃないですか?

石川:フィンランド、ぜひ行ってみたいんですよ。

「まだいけるか?」「どうする?」と聞かれたら…

五十嵐:2022シーズンが閉幕してしばらく経ちました。今は春季キャンプに向けて準備を進めているところだと思いますが、オフ期間の自主トレ、春季キャンプ、オープン戦を経て、いよいよペナントレース開幕が近づいてきたというタイミングでは、どのような心理状態なんですか? だんだんと憂鬱になっていく自分がいたりするんですか?

石川:憂鬱になる自分がいますね。だから、自主トレに取り組めている今が一番楽しいです(笑)。自分なりにメニューを考えてトレーニングができますし、もともと課題を一つひとつつぶしていく作業が好きなタイプなんです。

秋山:例年、12月から1月は楽しい時期なんですね(笑)。

石川:その期間は楽しいですね。前のシーズンに出た課題の改善に取り組む時間がすごく好きなんです。

岩本:課題を一つひとつ潰していくことで、自分の成長が感じられてモチベーションにつながっていく感覚ですか?

石川:そうですね。ただ、ときには「全然よくならない……」と落ち込むこともありますが。

五十嵐:こういう発想の持ち主なのに、プロ野球界を代表するピッチャーにまで上り詰めたんですから、アスリートの競技への向き合い方というのは本当に面白い(笑)。

秋山:アスリートの皆さんを見ていると、熱い気持ちを表現しながら全力で勝負に挑むようなタイプが多い印象です。でも石川投手の話を聞いていると、それとは真逆のスタンスでも自分なりのやり方で一流選手になれるということを教えてくれますよね。

五十嵐:石川投手の性格を考慮すると、ガッツポーズはしないタイプですか? たまにすることはある?

石川:あまりしないほうですね。自分自身の調子がよくて、「今なら抑えられそうだ」と思いながら実際に打ち取ったときにはしますけど、そういう機会はなかなかありません。

五十嵐:「今日は打たれる気がしない」というときもあるんですか?

石川:たまにあります。

五十嵐:そういうときはポジティブに投げられると?

石川:いえ、「この調子のよさは初回だけだろう」と思ってしまって。

秋山:常に自分を疑っているんですね(笑)。

五十嵐:ベンチに戻ったときや、ピッチングコーチがマウンドまで来たときに、「まだいけるか?」と聞かれたらなんて答えるんですか?

石川:「どうする?」と聞かれたときには、基本的に「代わります」と答えます。ただ、「まだいけるか?」という質問に対しては、「はい、いけます」と返します。

岩本:アプローチする側の技量が問われそうですね。石川投手には「どうする?」という聞き方はあまりしないほうがよさそうです(笑)。

2023シーズンに向けたリアルな目標設定

五十嵐:来シーズンからは吉井理人新監督が千葉ロッテを率います。僕も吉井さんとは福岡ソフトバンクホークス時代にコーチと選手という立場で一緒に仕事をさせてもらいました。常に選手の立場に立ってくれるので、とてもやりやすかった印象があります。

石川:僕も同感です。選手ファーストで物事を考えてくれるので、一選手としてとてもやりやすい環境だと感じています。

岩本:石川投手には来シーズンも開幕投手を務めてほしいですね。今日聞いた話を頭のなかで振り返りながら、マウンドに立つ石川投手を見てみたいです(笑)。

五十嵐:もちろん開幕投手に指名されても、「僕に任せてください!」と自信満々には言わないタイプですよね?

石川:言わないですね。そんなことを言える自信がないので。

秋山:五十嵐さんとは本当に真逆のタイプですね(笑)。

石川:現役時代の五十嵐さんのピッチングを見るたびに、「いつも自信満々に投げていてすごいな」「自分には無理だな」と思っていました。

五十嵐:僕にしてみれば、石川投手のスタイルのほうがカッコいいと思いますよ。どんな状況でもリズムを崩すことなく、淡々と自分のペースで投げているんですからね。僕の場合は、マウンドからバッター一人ひとりに対して“圧”をかけていましたから。

石川:逆に僕は、マウンドでバッターからの“圧”を感じています(笑)。

五十嵐:本当に?(笑)

石川:本当です(笑)。

秋山:石川投手、最後に来シーズンに向けた意気込みをお願いします。

石川:まずは調子の波をできるだけ少なくすること。そして、登板に向けていい状態を整えて、「マウンドに上がりたい」という日を何度かつくれたらいいなと思っています。

五十嵐:来シーズンはマウンドのうえで、めちゃくちゃ派手なガッツポーズをしている石川投手の姿が見られることを楽しみにしています!

<了>

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[PROFILE]
石川歩(いしかわ・あゆむ)
1988年4月11日生まれ、富山県出身。千葉ロッテマリーンズ所属。富山県立滑川高校、中部大学、東京ガスでキャリアを積み、2014年にドラフト1位で千葉ロッテに入団。プロ初年度には10勝8敗、防御率3.43をマークして新人王、3年目の2016年には最優秀防御率(2.16)のタイトルを獲得した。2017年はWBCに日本代表の一員として出場。2022年は2019、2020年に続き、自身通算3度目となる開幕投手を務めた。例年、オフシーズンには富山で子どもたちへの野球指導を行い、2018年5月からは富山まちづくり会社TOYAMATOが結成したプロジェクトチーム、「TOYAMA WHITE SHRIMPS」を立ち上げて、地元・富山への貢献を目指した活動を続けている。

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パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜、岩本義弘

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