「Jリーグ秋開幕」と育成年代。大学・高校サッカーはシーズン移行とどう向き合うべきか?
Jリーグは2026年から「秋開幕」に移行する。これまで2月初旬スタートの春秋制で戦ってきた日本サッカーは、大きな転換点を迎えることになる。一方で、現状では育成年代のシーズン移行は予定されていない。状況を見守りながら段階的に移行していく可能性はあるが、さまざまな議論が必要となる。大学、高体連、中体連、クラブユース連盟、4種年代はもちろん、他競技や学校期間との調整も進めなければならない。今回は2015年から2024年まで明治大学で監督を務め、今季から東京ヴェルディの代表取締役副社長に就任した栗田大輔氏に話を聞いた。
(インタビュー・文・写真=松尾祐希)
サッカー軸と学校教育制度「最後は個人の判断」
2013年から母校である明治大学でコーチとなった栗田大輔氏は、翌年に助監督、2015年からは監督としてチームを指揮し、昨シーズンまで大学サッカー界に深く関わってきた。プロの世界に送り込んだ選手の数は60人を超える。サッカーの指導だけではなく、人間教育にも力を入れてきた。一方で社会人経験も豊富で、清水東高校から明治大学を経て卒業後は清水建設で社業に従事した経歴を持ち、今季から東京ヴェルディの代表取締役副社長としてクラブ経営に関わっている。多角的な視点で物事を捉えたときに、育成年代のシーズン移行はどのように見ているのか。栗田氏は「開幕時期をJリーグに合わせるべきか否か」という問いについて、まずはこのように答えた。
「サッカー軸で言えば、サッカーの発展やサッカー選手個人のためを考えれば、シーズン移行は素晴らしいと思います。世界の潮流や市場の流れ、リーグの流れに合う形で日本のリーグを動かすことで、本当に良い人材がハーフシーズン遅れずに海を渡れるようになります。日本の教育などを一旦置いて、サッカーだけの理由だけで言えばプラスです。意識や感覚に対して違和感があったなかで、意識が変わり、世界基準に追いついてくる。すべての感覚が世界と縮まってくる。日本のサッカーレベルも上がってくるのではないでしょうか」
ただ、あくまでもサッカーだけの事象を捉えた場合に限った話であり、トータルで考えると、話はまた変わってくるという。
「(4月入学、3月卒業の)学校教育制度で言うと、すり合わせはできないと思うんです。日本の世の中はサッカーだけに物事を合わせてくれません。サッカーはあくまでもサッカー。勝手にサッカーの軸が動いているだけであって、日本の学校や社会の流れとして、4月の入学・入社は変わらないです。そういう意味では社会の仕組みをどう捉えるか、協調していくのか、制度を作って賄っていくのか。究極に言えば、個人の職業選択における自由があります。個人の人生観なので、選手が『僕はそっちの道を選びます』と言えば、誰も拒むことはできません。なので、(シーズン移行をしない前提で進路選択のタイミングについて)最後は個人の判断になると思います」
大学は「社会人のプレ経験ができる場」でもある
日本の学校制度や社会のルールとして、4月を起点に物事が動く。一方でヨーロッパは夏に新たな学期などが始まるため、そもそもサッカー界のスケジュールとリンクしている。日本の環境を考えたときに育成年代のシーズン開幕を夏に持っていくことは難しいと栗田氏は感じており、特に大学サッカーの場合は春開幕という軸に合わせ、クラブや個人ごとに考えていくのが望ましいという。
「そもそも大学はプロの養成所ではない。学びの場なんです。授業もそうだし、一般の学生と触れ合うことも含め、4年間で人間的に成長できるのが大学の意義であり、価値でもある。プロという職業やサッカー人の話はまた別の論点。なので、(サッカー界だけではなく)大学と個人の考え方を統一するのも難しい。みんなバラバラであって然るべきで、例えば大学のブランドがサッカー部より圧倒的にに強い場合、別にスポーツがなくても成り立つ。早稲田さんや慶應さんは日本の私大でもトップですし。
逆にスポーツを経営に生かしていくのであれば、そういう大学は制度を作ってうまく利用していくかもしれません。プロサッカー選手として社会人経験をすることで単位が取れますとか、在学しながらでもプロに挑戦しやすい環境や制度が生まれても良いかもしれませんよね。なので、大学の立ち位置によって考え方はバラバラになるので、統一するのは簡単ではないと思います」
大学生活で学べるものは図り知れない。高校生とは異なり、自主性が重んじられる。その中で自己判断しながら、社会経験を積める場は貴重だ。栗田氏は言う。
「理由は明確にわからないけれど、日本は18歳前後の選手の精神年齢がまだまだ幼い。独立心とか自分で人生を歩んでいこうとする人間形成がまだちょっとできていない。だからこそ、4年間で自立をして、責任を持って行動することを学ぶ。法律的にも成人するので、そういうことを踏まえて、親から離れて自立と責任と判断を大学で培う。教育上、大学と高校の学びは違います。大学は自主的に動いたり、自己で研究をしてみたり、学べる幅が広い。社会人のプレ経験ができる良さがあるのではないでしょうか」
高卒・大学生の獲得に影響。シーズン移行で何が変わる?
とはいえ、Jリーグのシーズン移行は決定事項で、育成年代はそれに即した動きをしなければならない。開幕時期がプロの世界とは異なるのであれば、新シーズンがスタートする夏に加入を認める大学が出てもおかしくなく、逆に大学リーグが終わった後の冬に加入するケースも出てくるかもしれない。だからこそ、栗田氏も制度のブラッシュアップは必要だと感じている。
「特別指定選手の在り方や育成貢献金の考え方を見直し、シーズン移行に合わせて可変させていくのも必要ではないでしょうか」
では、高卒選手や大学生の獲得について、Jクラブ側の目線でJリーグのシーズン移行がもたらす影響はどうなるのだろうか。
「契約年数が0.5年伸びる形になるのではないでしょうか。特に大学生はそのケースが増えるのではないでしょうか。現実的に加入内定した選手が夏場から既に試合を経験しているケースはたくさんあります。うちでも平尾勇人(日本大学)が特別指定選手としてゲームに絡んでいます。なので、開幕時期に関係なく、(試合に出る体裁は別として)獲得に関しては成り立つと思います」
ただ、冬に合流する選手に関しては難しさがあるとも話す。
「(Jクラブのユース出身選手は別として)高卒の選手はチームが半年間戦った上で冬に入ってくるケースが多くなりそうなので、不利になるかもしれません。本当にスーパーな選手は起用されると思いますが、ある程度チームがマネジメントされているシチュエーションで、人間関係も構築されている。信頼を勝ち取るには多少なりとも時間がかかるのではないでしょうか」
U-21 Jリーグ始動。求められる「人生を見据えた選択」
となると、来季から発足するU-21 Jリーグが重要な意味を持つ。クラブとしては選手を抱える人数やユースから登用する人材の増加が想定されており、プロの世界にチャレンジできる環境がより整う。だが、栗田氏は選手の人生を考えれば、冷静な判断が求められると話す。
「冷静に見なければいけない。みんながみんなプロに行きたい、海外に行きたいとなるのであれば、それは違います。本当に実力がある選手は新シーズンの移行に伴う新制度に沿った形で飛び込めば良いと思う。本当に良い選手はそこで活躍できるでしょうし。でも、そうではない選手は勘違いが生まれる可能性があります。踊らされてしまってもおかしくない。日本の教育制度の良さをきちんと指導者側が理解して、送り出す側も『実力を考えたときにどうなのか』というのを見極めて諭してあげる必要がある。
場合によっては、『大学に行って4年間鍛えたほうが、人生において価値が高まるよ』という話をしてあげるべきではないでしょうか。地域で評価をされていても、(全国レベルの目線では)全国的にはそうでないこともある。競争はすごいので、冷静な目が必要になるのではないでしょうか。そうしなければ、本当に良い人材が良い人材ではなくなってしまう。サッカーではなくて、人生という観点で」
シーズン移行により、ポジティブな側面が生まれる一方でさまざまな問題と向き合う必要がある。実際に動き始めれば、想定外のシチュエーションも出てくるだろう。その中で問われるのは、サッカー選手としての人生ではなく、一人の社会人としてどう生きるかという部分だ。
「獲得する側の責任があるので非常に難しい。本人が選択をしているし、こちらも良い選手だから声をかけている。でも、成功するか失敗するかわからない。そういう意味で(加入する時点で)成功できるような考え方や人間性を持っている選手はそう多くはない」
育成年代のシーズン移行を検討する前に、選手との向き合い方やクラブの在り方はもちろん、充実した人生を送るための制度設計の構築は必要不可欠。「議論は尽きないですよ」と総括した栗田氏の言葉通り、簡単に答えは出せない。だが、日本の社会構造や人間教育の重要性を踏まえ、最適解を見つけることが求められているだろう。
【第1回連載】Jリーグ秋春制移行で「育成年代」はどう変わる? 影山雅永が語る現場のリアル、思い描く“日本サッカーの最適解”
<了>
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