なぜ卓球を始める子供が増えているのか? ソフトテニス、バスケに次ぐ3位も「中学生の壁」の課題

Opinion
2025.10.15

卓球は、いまや子どもたちにとって最も身近なスポーツの一つになった。ラケット一つあれば近くの体育館で気軽に競技に触れられる“始めやすさ”が人気の理由だ。しかしその一方で、高校生以降も続けるスポーツとしては定着できていない。子どもたちが卓球を「始めやすい」時代に、なぜ「続けにくい」現実が生まれているのか。データから浮かび上がる、卓球界のいまを探った。

(文=本島修司、写真=長田洋平/アフロスポーツ)

スポーツの入り口として「始めやすい」卓球

卓球を「何かスポーツを始める入り口」として選ぶ子どもたちは多い。

公共の体育館やスポーツセンターなど卓球台を備えた施設は全国至る所にあり、卓球教室・スクールも身近にある。初心者用のラケットさえあれば始められる手軽さは親目線でも「始めやすい」スポーツである。

少子化が進み、さらには部活動の地域移行というテーマがついて回る時代にあっても、キッズや小学生から始めやすく、さらにルールが覚えやすく、自分に合ったレベルから始められる「親しみやすい」点も卓球の大きな魅力の一つ。しかし、その上で卓球競技特有の今後の大きな課題もある。

イメージ通りに「大きなケガが少ない」スポーツ

スポーツなど活動中の障害調査を行ったスポーツ安全協会のデータによると、ケガの多いスポーツのランキングで卓球は14位となっている。これは、大方のイメージ通りに「卓球は大きなケガが少ないスポーツ」といえる結果だ。

卓球は初心者でもゆっくりラリーを楽しめるスポーツであり、激しい体のぶつけ合いや、炎天下や寒空の下で野外でプレーする機会もない。

活動の中で考えられる主なケガとしては、稀に起こる重い台の出し・しまい時の事故や、他の台の選手との激突、プレー中によく使う箇所である腰を痛めること。それらにさえ気をつければ、大きなケガを負うリスクは少ない。

日本のスポーツ界には常に根性論がはびこってきた歴史もあるが、卓球の場合、必要以上に厳しい指導や上下関係を見聞きする機会は少ない。

もちろん、「どこを目指すか」「何を目標にするか」にもよる。だが、卓球の場合、安心してプレーを続けられる環境が必ずある。

なんといっても、昔から温泉には卓球台があり「温泉卓球」というものが存在するほどだ。温泉と相性が良いスポーツ。こんなスポーツは卓球以外にないのではないだろうか。

さらに近年は、張本智和・張本美和の張本兄妹、パリ五輪の女子シングルス銅メダルの早田ひならを筆頭に日本代表が国際試合で大活躍し、2018年の卓球プロリーグ「Tリーグ」の開幕による華やかさも加わった。人気になる要素は積み重なっている。

中学期にプレーしている競技の第3位

笹川スポーツ財団が2023年6月~7月にかけての統計で発表した「子ども・青少年のスポーツライフデータ(4~21歳のスポーツライフに関する調査)」を見ると、運動部の活動実態が明らかになってくる。

その中で卓球は、中学校期に「所属している運動部活動の種目」において、ソフトテニスとバスケットボールに続く第3位。4位がバレーボール、5位が陸上競技、6位がサッカー、7位が野球という人気スポーツが続く並びを見ると、いかに卓球が「中学生にとってスポーツを始めるのに最適だ」と認識されているのかがわかる。

卓球は運動神経抜群の“どのスポーツをやってもすごい子”だけのものではない。筋力やパワーだけでプレーするものではないぶん、どんな子でもすぐに始めて楽しめる。

「中学生の登録選手の減少」という大きな課題

ただし、いま卓球界で大きな課題も生まれている。それは世界のトップレベルで活躍する選手育成システムの弊害ともいえる現象だ。

運動を始める入り口のスポーツとして人気になる一方で、競技人口の中でも「選手」というカテゴリーに話を移せば、気になるデータと大きな課題が今の卓球界にはあるのだ。

2024年に日本卓球協会が発表した登録者数は29万550人。前年より8735人減少している。実は、いわゆる大会に出る「選手」としての登録は減っている現状がある。

中でも、「中学生」の競技人口は2023年度に14万2029人。2024年度は13万3806人。1年で8223人も減ったことになる。

これまで中学生年代は、卓球界の登録者数の大部分を支える「柱」だった。今、その根幹が揺らいでいるのだ。

前述した笹川スポーツ財団のデータでも「高校生」のデータに目を移せば、卓球は10位となっている。つまり、高校生で卓球を続ける前に「何らかの理由により、どこかでやめてしまっている」層がいることは間違いない。

卓球を始める子は増えている。用具も売れている。その一方で、選手にまではいけない、もしくは選手として長くプレーを続けることなく競技をやめている子が多いということになる。

これは、部活動の縮小や、文科省が掲げる「部活動の地域展開」などが要因だとも言われている。だが、そことはまったく違う、卓球特有の構造による問題もある。

強すぎる小学生。やる気が失せるほどの「実力差」

卓球は「中学生から始めるのでは遅い」とも言われている競技だ。小学生の高学年からでも遅いとも言われている。

ここで言う「遅い」と口にする人たちの言葉には、「全国大会に出て活躍するためには」という意味が含まれている。

結果、卓球は幼少期から始め、小学生のうちから大人とも対等に試合ができるように育成しなければならない。このような育成方針が名門クラブを中心に行われてきた。この現象が今も続いており、むしろ加速している。

その結果、中学1年生から部活に入って卓球を始めた子どもたちの活躍の場がなくなってしまうのだ。

極端に強い“スーパー小学生”の数は限られているかもしれない。しかし、全国各地に“プチ・スーパー小学生”のような子どもがそれこそ無数に現れている。

例えば、公式戦である「カデット」には「14歳の部」と「13歳以下の部」がある。14歳の部は中学2年生同士の試合だ。しかし13歳以下の部のほうは小学生も参加可能。こちらの部で、中1から卓球を始めた普通の中学生が、大人よりも強いキャリア5~6年目の小学生に負けるのは当然のこと。

これは、日本の卓球界が作り上げた「世界で戦える選手の育成システム」の代償ともいえる。

誰もがプロになるわけではない。普通の中学生が楽しめない状況は絶対に避けなければならない。解決策は一つしかない。それは「みんなに活躍の場があること」。「学年別の大会」「レベル別の大会」がもっと多くあるべきだ。

目標・到達点は、みんな違うことを知るべき

近年、日本のトップ選手たちの躍進が目覚ましい。これは幼少期からの育成の仕組みが機能している証だ。ただ、そのことは、トップクラスの選手のためにはよくても、7~8割の大多数には「つまらない競技」になってしまっている可能性がある。この現象が全国的に起きている。

中学時代。地域の大会でメダルの一つでも取れれば、賞状の一枚でも取れれば、それが頑張る原動力になる。卓球を続けるモチベーションになり、学校生活を頑張る原動力になり、青春時代の思い出を作ることができる。

中学生の部活の地域展開が進む今だからこそ、このことを、指導者や、地域の小さな市民大会を作る者たちが強く意識しなければいけない。

学年別の大会、レベル別の大会をもう少し整備できれば、それを実現できる。

最近よく見聞きする、市民大会まで「小学生・中学生・高校生を同じ部」で試合をさせたりすることは避けたいところだ。真面目に卓球と向き合ってきた中学生・高校生がスーパー小学生に太刀打ちできずに負けてしまう。それはパワーや筋力だけでは試合が決まらない卓球では普通に起こり得ることであり、トップ選手育成だけではなく、卓球の裾野を広げる視点で考えれば、試合に敗れた中学生・高校生の側に立った環境整備が求められる。

世界最大規模の世論調査を行うイソプス株式会社が実施した「2024年に開催される国際的なスポーツイベントに対する意識調査」で卓球は日本人が関心を持っている競技においてバレーボールに次いで「Z世代で2位」という結果も発表されている。卓球が新しい世代にとって興味のある、やってみたい人気スポーツであることは間違いのないところ。あとは長く楽しめる仕組み作りだ。

せっかくの「始めやすい」「親しみやすい」卓球。その「入り口」の手軽さを武器に、もっともっと、多くの人が長く競技生活を楽しめる、「始めやすく、続けやすい」競技に成熟していくことを、強く願いたい。

<了>

「卓球はあくまで人生の土台」中学卓球レジェンド招聘で躍進。駒大苫小牧高校がもたらす育成の本質

張本智和、「心技体」充実の時。圧巻の優勝劇で見せた精神的余裕、サプライズ戦法…日本卓球の新境地

なぜ札幌大学は“卓球エリートが目指す場所”になったのか? 名門復活に導いた文武両道の「大学卓球の理想形」

ダブルス復活の早田ひな・伊藤美誠ペア。卓球“2人の女王”が見せた手応えと現在地

なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事