原口元気が語る「優れた監督の条件」。現役と指導者の二刀流へ、欧州で始まる第二のキャリア

Career
2025.11.21

9月にベルギー2部ベールスホットへ移籍した原口元気は、チームの昇格争いを支えるだけでなく、欧州の地で指導者としての未来にも動き出している。ドイツで培った分析力、名将たちから受けた薫陶を自らに落とし込み、原口が考える「優れた監督の条件」とは何か──。現地で語られた言葉から、原口元気の“第二の挑戦”への思いに迫る。

(文=中野吉之伴、写真=Belga Image/アフロ)

原口が見据える指導者としてのセカンドキャリア

元日本代表MF原口元気が今年9月にベルギー2部のKベールスホットVAへ移籍した。第12節終了時で3位につけるなど、1部昇格のチャンスが十分にあるだけの戦力を誇る。ドイツで約10年間プレー歴がある原口の経験とプレーインテリジェンスは、そんなクラブにとってすでに重要な役割を担っているようだ。

一方で「選手引退後に指導者としての道を考えています。もう少し選手としてプレーを続けますが、その後はヨーロッパに残り、将来的にはヨーロッパで活躍できる監督になることを目指しています」というセカンドキャリアを見据えた目標設定も公言している。

そんな原口に「指導者としてのセカンドキャリアをどう見ているのか」「原口が思う優れた指導者の条件とはなにか」などについて、現地で直接話を聞くことができた。

原口元気と指導者。

この二つが密接につながるイメージを抱ける人はどれくらいいるだろう。若手時代のゴリゴリのドリブルから思い切りのいいシュートを放つ“アタッカー”原口元気を知る人には、ひょっとしたらそんなイメージがないかもしれない。ただ、ドイツ時代の、特にハノーファー、ウニオン・ベルリン、シュツットガルト時代の原口を近くで見てきた筆者には、いろいろと合点がいく将来設計なのだ。当時から原口はさまざまなチーム分析・ゲーム分析についてのコメントを、試合後にしてくれていた。

「週に1回分析ミーティングをしたり、今すごい勉強をしているんです。新しいポジション(ボランチ)なので余計そういうことが大事になってくる。 まだまだ勉強しなきゃいけないことがたくさんあるんですけど、勉強したこととか結構ピッチで出せています」

ドイツで育まれた「分析力」。名将たちから受けた戦術的影響

原口の口から、ゲーム分析の言葉が増えてきたのはドイツ2部で戦っていたハノーファー時代だったと記憶している。

ケナン・コジャク監督から全幅の信頼を寄せられた原口には、リーダーとしてのプレーが求められていた。それまでは自分がどうすればもっとチームに貢献できるかという趣旨のコメントが多かったが、このころからはどうチームへ働きかけるともっと全体のメカニズムがうまくいくのか、どこでどのようにプレーをできたら、周囲の選手をもっと気持ちよくプレーさせることができるかを言及していたのが特徴的だった。

この時の取り組みがあったから、1部で上位争いをしていたウニオンから戦力として獲得され、智将ウルス・フィッシャー監督からの信頼を勝ち取ることになる。フィッシャーのサッカーには派手さはない。ロングボールを多用するサッカーではあるので大味なゲームプランしかないと思われがちだが、「ディシプリン」「ハードワーク」「チームワーク」を代名詞に、とても緻密な戦術でブンデスリーガに驚きをもたらしていたのだ。

「よく言われるんですよ。この状況だったら、ここにロングボールを送って、僕らはセカンドボールを拾うためにどこに動いておくべきかとかね。スピードのある(シェラルド)ベッカーだったら、タッチライン際に出すようなボールで走らせる。それにどのようにフォローに行くのかが求められる。長身FWの(ジョルダン)シエバチュだったら、ハイボールで競らせるので、そのボールをどこで拾うのかというのも細かく設定されています」

そんなフィッシャーからの信頼があり、出場時間も多かったが、「もっと自分が思い描くサッカーがしたい」と当時残留争いに苦しんでいたシュツットガルトへの移籍を決意する。ここで原口は「非常に優れた指導者」と称賛する指揮官と出会うことになる。それがセバスティアン・ヘーネスだ。

原口はヘーネス監督に重用されたわけではない。むしろ出場機会はどんどん少なくなり、メンバー外になる時期も続いたほどだ。それでもヘーネスのもとでプレーをした経験は、とても大きな財産となっているという。

「(試合に)出られなかったから悔しかったけど、監督としては、めちゃくちゃ評価している。すごい監督だっていうのはわかっていた」

原口元気が考える「優れた監督の条件」とは?

では、さまざまなクラブでプレーをし、国際舞台での経験豊富な原口が思う“優れた指導者の条件”とはなんだろうか? 「うーん……」としばらく考えてから、次のように話をしてくれた。

「まずウルス・フィッシャーにしろ、セバスティアン・ヘーネスにしろ、優れていたなと思うのは、分析力がとても高いということ。分析力が高くて、解決策を見つけられるというのは、優秀などの監督にも共通している。なおかつ彼らは練習にうまく落とし込むことができる。週末の試合に向けての落とし込みが本当にうまかった。あれもこれもと無駄なことはせずに、ポイントをうまく伝えながら、やるべきことに対しての準備が素晴らしい。それができる監督というのは、やっぱりいい成績が出せるなというのは感じていましたね。だからそこがポイントかなと思います」

現在プレーするベールスホットのモハメド・メソウディ監督に対しても、「若いけどすごく優れた監督」と原口は評価する。頭の中には指導者へのイメージがいろいろと膨らんでいるのだろう。プレーしながら、チームを率いる41歳の若き指揮官の優秀さを実感している毎日だという。

「スタイルがめっちゃいい。監督はまだ若くて、現役時代中盤でプレーしていた選手だったので、バランスのいいサッカーをしますね。つながないわけじゃないし、つなぐ努力はするけど、めちゃくちゃリスクをおかしてまで戦うわけじゃない。ちゃんと勝ちにこだわりながら、相手もしっかり分析して、それぞれに解決策を出してくれる。優秀な監督だと思います」

“監督・原口元気”の未来予想図。現役と指導者の二刀流へ

将来的にヨーロッパで指導者になりたいという思いを具現化するために、原口はどんなアプローチをしようとしているのだろうか? まだ現役選手としてプレーしている最中だから、今はプレーだけに専念してというだけではなく、具体的な動き出しもしていることを明かしてくれた。

「自分もまだ指導者の勉強をし始めたわけじゃなくて、なんとなく自分の中で、こういうサッカーがいいねとか、こういうミーティングの仕方がいいねとか、こういう練習がいいなっていうのは、自分の中に貯蓄している。

 クラブからは、来年の1月からユースチームの指導を見ていいよと言われています。同時進行できるクラブを探していたんです。指導者としての道もスタートしながら、まだまだもう少し現役を楽しみながらという2つのことを同時進行できるのはいいかなと思っています。

 実力で、何でも変えていけるみたいな世界が楽しいって感じている。結局、自分次第。これはたぶん監督になってもそうだし、だからしっかり勉強して、いい指導者になるというのは、やっぱり非常に面白いセカンドキャリアになるなと思っています」

昇格争いに絡むチームでプレーしているだけに、来季ベルギー1部でプレーする可能性も十分ある。ケガをせず、コンディションも良好なままであれば、何歳まででもやりたいという思いもあるのだろうか?

「それはわかんないです。昇格したら続けたいけど、昇格しなかったらやめるかもしれない。他に面白そうなチームが見つかれば、そっちかもしれない。ただ、ここでの生活とか環境は気に入ってる。昇格して1部でやりながら、ユースチームで指導をしながら、ライセンスを取りに行くっていうのが一番理想的かなと思っています。新しい指導者という部分も視野に入れながら、いろんなことにワクワクしながら過ごせていますね」

筆者が取材で訪れたベルギー2部の第11節コルトレイク戦は負傷欠場していた原口。スタンドから観戦しながらどんどん前のめりになって、分析スタッフの映像をのぞき込んだり、ピッチ上の事象に声をかけたりしていた。頭の中ではどのようにチームに働きかけて、修正してということも浮かんでいたかもしれない。まだまだ先の話ではあるものの、指導者・原口元気の戦いもきっと、ワクワクの連続になるに違いない。

【連載前編】なぜ原口元気はベルギー2部へ移籍したのか? 欧州復帰の34歳が語る「自分の実力」と「新しい挑戦」

<了>

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