
[高校ラグビー]公立校の「勝利の方程式」2つのカギ。8強の進学校・長崎北陽台OBが明かす“学び”
第101回全国高校ラグビー大会は、東海大大阪仰星の4大会ぶり6度目の優勝で幕を閉じた。例年私学の強豪が上位を占める中、今大会は2つの公立校が8強入りを果たした。特に長崎北陽台は県内有数の進学校で、スポーツをやる環境に恵まれているとはいえない。それでも資源が潤沢とはいえない公立校が強豪校と渡り合うためには、いったい何が必要となるのだろうか――? 2つのキーワードから考察する。
(文=向風見也)
推薦は年5人、部員数は上位校の半数……県有数の進学校がベスト8入り
敷居の高そうなサロンに、新規のゲストと久々の来客が相次いだ。
東大阪市花園ラグビー場での全国高校ラグビー大会の第101回にあって、國學院栃木が初めて進んだ準決勝を制して決勝戦に進んだ。
最後は東海大大阪仰星が6度目の日本一に輝いたが、近畿や福岡の強豪が上位を占めがちな大会にあっては快挙といえた。
新風を感じさせたもう一つの要素は、その話題のチームの対戦相手である。
準々決勝で國學院栃木とぶつかったのは長崎北陽台。3年ぶりにベスト8入りを果たしたこの学校は、8強のうち2つある公立校の一つだ。
もう一つの佐賀工は、県外の有力選手や県内の素質のある青年を鍛える老舗。長崎北陽台が3回戦で下した御所実も奈良の県立高校だが、2008年度から合計4度の準優勝を誇るいわばサロンの「会員」だ。
片や長崎北陽台は、両校にいる越境入学者を擁していない。県下有数の進学校でありながら、他校で見られる課外活動関連の推薦枠は推定で年に5人まで。選手は39人と他の上位校の半数程度である。
比較的、競技熱の高い長崎の代表とはいえ、一般入試組の多いチームが全国トップを争う姿はメッセージ性十分だ。
さらに品川英貴監督は、準決勝で負けた際に「悔しいの一言。子どもたちも満足していなかったでしょうし」。過去に準優勝、4強を1回ずつと確かな実績を誇り、今季は20歳以下日本代表候補でもある川久保瑛斗ら実力者ぞろいだ。他校との前提条件の違いと無関係に、具体的に頂点を見据える。その点が、さらにチームの訴求力を高める。
公立校が強豪私学に対抗するために必要な2つのキーワードは?
競技を問わず、スポーツの全国大会では潤沢な強化環境と選手層を擁する私学が覇権を争う。市場原理に即したこのバトルにあって、公立校がのろしを上げるには――。長崎北陽台をはじめとした公立の雄からその問いをひも解けば、2つのキーワードが浮かび上がる。
「指導者」と「文化」だ。
前者の重要性を痛感させるのは城東。徳島の進学校だ。こちらもアスリートの入学しやすい推薦枠は限られ、未経験者の勧誘にも「親に反対される」といった受難を乗り越えなくてはならない。今年の選手はわずか21人。平時は、十分な人数での練習もかなわぬことがある。
それでも伊達圭太監督の就任以来、4大会連続(通算5大会連続)で全国に出場。常に初戦を突破する。強化の秘訣(ひけつ)には「(少人数同士になっても)相手をつけて練習をします」。チームの伝統である防御を軸に据え、実戦に必要な資質を効率的に養う。その指導力は高く評価され、日本ラグビー協会が各地の原石を集める通称「ビッグマン&ファストマンキャンプ」のコーチにも抜てきされている。
そういえば、今年は長崎北陽台に敗れた御所実も、竹田寛行という名物教師(現在は定年退職して監督業を継続)が部員2人から徐々に強化してきた歴史を持つ。資源に頼らず強いチームをつくるには、資源不足に屈しない強烈な指導者の存在が不可欠なのだろうか。
長崎北陽台にも、2人の看板がいる。品川監督と、初代監督の浦敏明コーチである。品川は、期待の星である川久保について「才能は持っている。厳しいことにも自分でチャレンジできる。ただ、足りない部分もある。私は、うまい子には厳しく指導するので」。きら星を甘やかさない意思を、口笛を吹く調子で示す人だ。
長崎北陽台OBの明治大4年生が明かす「文化」の重要性
2人の影響力を解説してくれるのは、田森海音。今年度まで明治大でプレーしていた長崎北陽台OBは、「浦先生」の情熱と「品川先生」の知恵についてこう語る。
「浦先生は――精神論ではありますが――根本にあるべき部分について愛を持って、厳しく指導してくれる。人って、どうでもいい人には怒らないじゃないですか? 怒られたときは『?』となったとしても、時間がたてばその考えをくみ取れる。品川先生は、単純に選手としても上手で、スキルが高い!」
田森がこの先に続ける言葉には、指導者たちがチームに植え付ける「文化」の大切さもにじむ。
「少ない練習時間、あまり恵まれていない環境の中でも集中してこだわってやる文化がある。それと(選手の)人数が少ない分、当事者意識が高くなるところもあります。大人数だと、下級生には『俺、出られないし』という人が出てもおかしくはない。ただ(長崎北陽台では)皆に試合に出るチャンスがある。3学年を通して仲がいいので、皆で同じ目標に向かいやすいです」
一瞬を全力で生きる。そんなマインドセットが長崎北陽台の常識となっているのは、このチームが他校と比べて勉学面でタフさを強いられている点とも無関係ではなさそうだ。田森は続ける。
「スポーツクラスがなく、皆が国立(大学)に行くような子と同じように課題をせざるを得ない。でも、テストの点数が悪すぎると九州大会に行けなかったり、練習に出られなかったりします。僕も勉強は得意ではありませんでしたが、できないなりにやらなくてはいけなかった。スポーツにフォーカスしている選手もしんどいとは思います。ただ、僕は勉強がしんどい中でラグビーをやれたからこそラグビーをやれることに感謝できてもいる」
ラグビーだけでなく高校スポーツ界全体に有用な学び
自分たちが何者であるかを、少年たちが当事者意識を持って理解している。自分たちの組織の特徴を、その一員が根拠を持って「強み」だと表明できる。
そのような「文化」を創れる「指導者」が「公立校の勝ち方」を紡ぎ、部活動の業界を盛り上げているのだ。
<了>
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