ハーランドが持つ「怪物級の能力」と「謙虚な姿勢」。5歳で世界記録“普通の人”が狙うバロンドールの条件
ノルウェーが生んだ怪物――アーリング・ハーランド。現在彼が世界最高のストライカーの一人であることに異論はないだろう。プレミアリーグ最速100ゴール達成、1シーズン最多得点記録、UEFAチャンピオンズリーグ史上最速・最年少40得点到達など、数々の得点記録を塗り替え続けるハーランドが、世界最高の個人賞「バロンドール」を手にするために必要な条件とは何か。マンチェスター・シティの現状とノルウェー代表での戦いを交えながら、その挑戦を追う。
(文=ジョナサン・ノースクロフト[サンデー・タイムズ]、翻訳・構成=田嶋コウスケ、写真=AP/アフロ)
5歳で世界記録保持者に。目指すバロンドール獲得への道
実はアーリング・ハーランドには、少年時代に打ち立てた世界記録がある。
母親のグリ・マリタ・ブラウトは元陸上選手で、ノルウェーの七種競技のチャンピオンだった。母親の影響もあり、息子のアーリングも幼い頃から陸上競技に親しんでいた。そしてハーランド少年が5歳の時、生まれ故郷であるノルウェーのブリーネで行われた陸上大会にエントリーし、5歳児における「立ち幅跳びの世界記録」を樹立したのだ。2006年1月に記録された跳躍は、1.63メートル。この世界記録は今もなお破られていない。
あれから20年。ハーランドが今、最も欲している世界的な栄誉はバロンドールだろう。これまでにも、その年の世界最優秀選手に贈られるこの賞に近づいたことはあった。2023年、ハーランドはリオネル・メッシに次ぐ2位にランクインしたものの、受賞には届かなかった。ハーランド本人は「個人タイトルに突き動かされているわけではない」と語っているが、このバロンドールだけは、やはり特別な存在である。
北欧サッカーの歴史を振り返ると、バロンドールとあまり縁がない。
過去には、デンマーク代表のアラン・シモンセンがボルシアMG在籍時代の1977年にバロンドールを獲得している。しかし、これが最初で最後。北欧出身選手で唯一の受賞者がシモンセンであり、約50年もの空白が続いている。
ただし、ハーランドがバロンドールを手にするには、今夏に行われるFIFAワールドカップでの特大のパフォーマンスが不可欠になるだろう。過去の傾向を見ても、ワールドカップイヤーは「ワールドカップで輝いた選手」が選ばれるケースが多い。無論、ノルウェーの優勝を予想する声はほとんどないが、今回のノルウェー代表は“ダークホース”と評価されており、ハーランドにもチャンスはある。
怪物級の「個の力」と「謙虚な姿勢」
実際、ハーランドはワールドカップ欧州予選で絶好調だった。ヨーロッパ最多となる16ゴールを記録し、強豪イタリアと同組ながらノルウェーを首位突破へと導いた。
本大会のグループステージではフランス、セネガルと同居する厳しい組に入ったが、ここを突破できれば、2022年ワールドカップのモロッコ(4位)のように、小国ながら大会終盤まで勝ち進む可能性は十分にある。そうなれば、ハーランドにも得点王の可能性は出てくるだろう。
このハーランドに加え、ノルウェー代表にはアーセナルのキャプテン、マルティン・ウーデゴールというもう一人のスターがいる。この2人がチームの中心であることは間違いないが、ノルウェー代表の強みは「個の力」だけではない。最大の武器は、徹底された組織力だ。
ハーランドとウーデゴールはいずれも非常に謙虚な人物で知られ、フォア・ザ・チームの精神を忘れない。チーム内では常に「数ある選手の一人」であろうとし、傲慢な態度を見せることは決してない。
ノルウェーU-21代表監督として、ハーランドとウーデゴールを初めて同時起用したレイフ・スメルドは、こう語っている。
「“普通の人”であることは、ノルウェー人にとって大切な美徳だ。われわれの国では、スターであっても出しゃばることを極端に嫌う文化がある。民話や伝説においても、英雄は常に仲間とともに描かれる。だからこそ、アーリング(ハーランド)やマルティン(ウーデゴール)のような英雄も、自分たちの歩みに関わってきたすべての人を忘れない。成功は、仲間や周囲の支えがあってこそ成し遂げられるものと考えているんだ。
ノルウェー代表のユース時代、アーリングは欧州選手権の本大会に導いた。現在の代表には、その頃からともにプレーしてきた選手が数多くいる。アーリングもマルティンも、自分たちを“特別な存在”だとは考えていない。彼らは、自分がノルウェー人の一人であることを忘れないのだ」
怪物級の「個の力」と、フォア・ザ・チームの精神を忘れない「謙虚な姿勢」。この2つを武器に、ハーランドはワールドカップで特大のインパクトを残せるだろうか。もし得点王に輝けば、バロンドール獲得に向けた関門の一つを突破したことになる。
タイトルは現実的か? マンチェスター・シティの現在
もう一つの条件は、マンチェスター・シティでの活躍だ。
ハーランドは今季もシティのエースとして君臨し、リーグ戦22試合で得点王争いトップの20ゴールを挙げている。
「22試合で20ゴール」という驚異的なペースの背景には、ペップ・グアルディオラ監督がダイレクトプレーをより重視する戦術へと舵を切ったことがある。その結果、ハーランドはスルーパスを受ける機会が増え、得点量産につながっている。つまり、チームとしてハーランドの強みを最大限に生かそうとしているのだ。
実際、UEFAチャンピオンズリーグでもここまで6ゴールの大暴れだ。コンスタントに得点を重ねるプレミアリーグでは、第3節からは6試合連続ゴールの偉業も成し遂げた。
ただし今季は、好不調の波がやや大きいのも事実だ。0−2で敗れたマンチェスター・ユナイテッド戦(1月17日)のように、チームの不振に呼応するかのように存在感を失う試合もある。年明け以降、チームが勝利から遠ざかったリーグ4試合では、わずか1ゴールにとどまった。
バロンドールを手にするには、チャンピオンズリーグかプレミアのどちらかを制する必要があるだろう。ハーランドとしては浮き沈みを抑え、自らのゴールでチームを勝利へ導けるかが問われそうだ。
“ロボット”と呼ばれる青年の人間味
ピッチを離れたハーランドは、実に愉快な青年だ。
驚異的な身体能力で常識外れのゴールを決める一方、今でも一部のファンからはその人間離れしたプレーから「ロボットのよう」と評されることがある。だが自身のYouTubeチャンネルのシリーズでは人間味あふれる一面が垣間見える。いつもおどけた姿を見せているのだ。
例えばハロウィンでは、「バットマン」シリーズに登場する「ジョーカー」の仮装をして街に繰り出した。化粧をして見た目は変わっても、195センチの身長に、94キロの大きな体格、そしてトレードマークのあの長髪である。すぐに正体がバレてしまった。
もしもエバートンが……若き日の逸話と運命の分岐
話をピッチに戻そう。
青年時代のハーランドに目をつけていたクラブが、エバートンだった。北欧担当のクラブスカウト、ブライアン・キングは、当時15歳だったハーランドを高く評価し、トライアル参加を勧めた。ハーランドは渡英し、エバートンの練習場で行われたトライアルに参加した。
しかしエバートンは獲得を見送った。この時、契約していれば、エバートンはわずか6万ポンド(約1270万円)の契約金で獲得できた。今、彼の市場価値は2億ユーロ(約360億円)である。スカウトのキングは、当時をこう振り返る
「大柄な選手だったが、『周囲が成長すれば、それほど効果的ではなくなる』という評価が下された。私はまったく同意しなかったが、それがクラブの最終判断だった」
その後のサクセス・ストーリーは、周知の通りだ。ノルウェーで実績を重ね、レッドブル・ザルツブルク(オーストリア)、ドルトムント(ドイツ)と渡り歩いて大ブレイクした。
翻って、ハーランドは今年バロンドールを獲得できるだろうか。2026年に入ってからなかなか勝ち星が積み上がらない現状のシティにタイトルをもたらし、ワールドカップでも特大のインパクトを残す必要がある。その難易度は極めて高い。
ただ、エバートンの件が示すように、ハーランドは常に評価を覆してきた。そう、ハーランドを過小評価することほど危険なことはない。ワールドカップの終わる夏まで、ハーランドの爆発に期待したい。
【連載前編】ペップ・グアルディオラは、いつマンチェスターを去るのか。終焉を意識し始めた名将の現在地
<了>
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