憧れの存在は、三浦知良と多井隆晴。“サッカーと麻雀”の二刀流・田島翔が川淵三郎と描く未来
三浦知良選手に憧れてサッカー選手になり、多井隆晴プロに憧れて麻雀プロの肩書も持つことになった田島翔。“サッカーと麻雀の二刀流”の活動を始めた田島は、真っ先に川淵三郎氏のもとへあいさつに出向いたという。川淵氏は、言わずと知れたJリーグ初代チェアマンであり、日本サッカー協会最高顧問を退任した2018年から、競技麻雀プロリーグ「Mリーグ」の最高顧問に就任。「サッカーと麻雀」という共通項を持つ二人はどのようにして出会い、どのような未来を語り合ったのか?
(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真提供=田島翔)
Jリーグが成功した一つの要因は「子どもたちへの普及と育成」
――サッカー選手でありながら、今年7月よりプロ麻雀団体「RMU」に所属する麻雀プロという二刀流の活動を続けられるなかで、最近、「サッカーと麻雀」という共通項を持つ川淵三郎さんとお会いされたそうですね?
田島:サッカー界と麻雀界を股にかけて活躍された大先輩である川淵さんには、一度ちゃんとごあいさつをしないといけないと考えて、日本サッカー協会に連絡したんです。「カズ(三浦知良)さんに憧れてサッカー選手になって、多井隆晴さんに憧れて麻雀のプロになりました。ぜひ一度川淵さんにごあいさつさせてください」とお願いしたところ、実際にお会いできることになりました。
――会いたいと思っても誰もが会える方では絶対にないと思うので、川淵さんとしても田島さんに興味を持たれたということですよね。
田島:そうですね。お会いしてすぐに「本当に面白い経歴だね」と言ってくださって、「これだけ人と違う経験をしてきているのだから、これを絶対にいろいろな人に伝えていきなさい」とアドバイスをいただきました。
――川淵さんとお話しされたなかで、特に印象的だったエピソードをお聞かせいただけますか?
田島:Jリーグが成功した一つの要因として「子どもたちへの普及と育成」があったと教えていただき、麻雀界もこの部分を広げていくべきだと。麻雀はコミュニケーション能力や判断力、計算力が求められるので、子どもたちの麻雀教室には可能性が詰まっているし、今後増やしていかないといけないとお話しされていました。また、僕の場合は麻雀教室とサッカー教室ができるわけだから、そういったことをどんどんやっていきなさいと。そのようなアドバイスをいただいたことで、さっそく年明けから子ども向けの麻雀教室をやることになりました。
あと、すごくうれしかったのは、僕のプロフィールを事前に見てくれていて、「RMUに入ったんだね。すごくいい団体に入ったね」という言葉もかけていただきました。僕が5つあるプロ団体のなかでRMUを選んだ理由である多井プロについても「Mリーガーのなかで一番。あの人は本当にすごい」と評価されていて、自分が選んだ団体のことをそういうふうに言っていただけて光栄でしたし、川淵さんはMリーグも欠かさず見られていて、麻雀への愛を強く感じました。
「麻雀教室とサッカー教室を組み合わせた活動」の可能性
――川淵さんは昔から麻雀をされていたのですか?
田島:Jリーグを創設される前はよくやられていたみたいですが、Jリーグ創設を機に一切やらなくなったそうです。その後、第一線を退かれたあとに再開されて、現在は、毎週水曜日に健康麻雀をやっているとのことでした。あと、Mリーグ設立者で初代チェアマンの藤田晋さんと一緒に、世界各国でルールの違う麻雀の統一ルールをつくって世界大会を開催し、ゆくゆくはオリンピック競技につなげることを目指されているそうです。
――サッカーと麻雀という共通項を持たれている川淵さんとの出会いは、今後どういった取り組みや活動に生かされそうですか?
田島:二つあります。まずはサッカー界と麻雀界の真剣勝負の交流を実現させたいです。JリーグのOB会とRMUで放送対局をやりたいですね。この構想は川淵さんからも「そのときは喜んで協力するから」という心強い言葉をもらっています。あとは、普及活動として、麻雀教室とサッカー教室を組み合わせた活動もやっていきたいと思っています。
――麻雀&サッカー教室、すごく面白い組み合わせですね!
田島:藤田さんの働きかけで、麻雀を知育ツールとして取り入れている学校なんかもあるらしいのですが、クリーンな“頭脳のスポーツ”麻雀を、体も頭も使う健全なスポーツであるサッカーと絡めながら、子どもたちにどんどん普及していきたいです。
最高峰「Mリーグ」随一の存在、多井隆晴プロとの出会い
――川淵さんのお話にも出てきた多井隆晴プロのすごさについても改めて教えていただけますか?
田島:守備力の高さと読みの深さがずば抜けているんです。麻雀はミスが当たり前の競技ですが、そのミスが少なくて、本当に強い。僕にとって、サッカー界におけるカズさんのような、麻雀界での憧れであり、その背中を追い続けたい存在です。
――同じ団体のプロ同士として、多井プロとは実際にお会いされたことがあるのですか?
田島:Mリーグの対局前のタイミングで一度ごあいさつをさせていただきました。とても多忙な方なのでその前の案件が押していて、20分ほど待つ時間があったのですが、その間も2、3度こちらの様子を気にかけて声をかけてくださったり、とても腰が低く、優しい方でした。
――多井プロとはどのようなお話をされたのですか?
田島:多井プロからは「芸能人が麻雀プロになるケースも増えてきていて、これからの麻雀プロには、麻雀以外のことも頑張り、積極的に自ら売り込んでいくことが求められてくる」というお話をお聞きしました。その言葉から受けた気づきもあり、僕だからこそ可能なサッカーと麻雀の交流、普及につなげていきたいと考えています。
「ミスをする」というサッカーと麻雀の最大の共通点
――将棋や囲碁をやるとサッカーの戦術や大局を見る目が鍛えられるという話を聞いたことがあるのですが、麻雀をやることでサッカーにおいても相乗効果を生んでいる部分はありますか?
田島:欧州でプレーしていたとき、チェスをやっているサッカー選手がすごく多かったんです。戦術や先を読む力を養う勉強になるという話も選手たちから聞いたことがあります。麻雀にしても読みがすごく大事になってきますし、自分の手牌(てはい/麻雀においてプレーヤーの所有する牌のこと)だけではなく、他の3人の表情や状況を常に観察しなければいけません。その点は、サッカーにおいて、ボールだけでなく周囲の選手の位置や状況を常に見なければいけないのと同じですし、麻雀の経験がサッカーにも生きています。
――サッカーと麻雀の一番の共通点は?
田島:「ミスをする」ということですね。サッカーは足でボールを扱うスポーツなので、手で扱う競技に比べたら間違いなくミスは多くなります。麻雀も運の要素に左右されながら先の展開を読まなければいけない絶対にミスの起こる頭脳スポーツです。
ただ、まったく違うのは、サッカーはミスをしても仲間がいるんですけど、麻雀はミスをすると自分に全部跳ね返ってくる、助けてくれる人がいないという、そういう違いもあります。その意味では、麻雀をやってサッカーをやると、サッカーでは自分がミスをしても助けてくれる仲間がいるんだから、ミスを恐れずもっと強気にいってもいいんじゃないかと、思考やメンタル面でサッカーに生かせる相乗効果もあったりします。
――プロサッカー選手でありながら、麻雀でもプロを目指した理由には、やっぱりそれぞれ違った魅力があるからという面もあるのですか?
田島:それもありますね。麻雀は1対3の状況で究極の緊張感の中でやるということが、僕にはすごくたまらなくて(笑)。そこが麻雀でもプロとしてチャレンジしてみたいと思ったところですね。
スポーツとしての麻雀とサッカーの新しい融合
――サッカーと麻雀、その両面での今後の目標についてお聞かせください。
田島:サッカーに関しては、すでにアジア、欧州、オセアニア、北中米でのプレー経験があるので、いつか南米とアフリカでプレーして6大陸を制覇したいという思いがあります。実際にいまもスポット契約で加入できるチームがないか各所とコンタクトを取っているところです。麻雀に関しては、とにかくタイトルを取りたいですね。あとは普及・育成を軸にしながら、麻雀界とサッカー界をつなげる役割も実現させたいです。
――麻雀に対して賭け事というイメージが強い人も多いと思いますが、「頭脳のスポーツ」という新しい価値観をつくっていくうえで、クリーンなイメージの強いサッカー選手との二刀流である田島さんが担うべき役割は小さくないと感じます。
田島:そうですね。僕も賭け事って基本的にやらないですし、サッカーで培ってきた経験や価値観を麻雀でもうまく生かしていきたいと思います。とにかくスポーツとしての麻雀を、サッカーとも結びつけてどんどん伝えていきたいですね。
———-
最後に、田島の所属団体RMUから本稿に向けたコメントをいただいたのでそちらを紹介し、サッカー選手・田島翔の麻雀界での今後の躍進に思いを馳せながら本稿を締めくくりたい。
「当会では女優の山本ひかる他、役者や声優など芸能関係の方が多く存在しておりますが、元Jリーガーのチャレンジは初めてのことで、田島さんの新しいキャリアへのチャレンジを応援したいと思います。決して楽な道のりではありませんが、麻雀の勉強を続け、サッカーで磨いた勝負感を卓上でも発揮できれば、活躍の場はそう遠くないと思います」
<了>
【連載前編】サッカー×麻雀が生み出す可能性。“異例の二刀流”田島翔が挑むMリーグの高い壁、担うべき架け橋の役割
【過去連載・前編】なぜ非サッカーエリートが、欧州でプロ契約を手にできたのか? 異色の経歴が示す“開拓精神”を紐解く
【過去連載・後編】海外挑戦を後押しし得る存在。4大陸制覇した“異色のフットボーラー”田島翔が語る「行けばなんとかなる」思考
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[PROFILE]
田島翔(たじま・しょう)
1983年4月7日生まれ、北海道出身。高校卒業後にシンガポールにサッカー留学。帰国後、2004年からFC琉球、2008年からクロアチアのNKヴァルテクス、2010年からスペインのTSKロセス、2012年にロアッソ熊本に所属。2013年にフットサルに転向してシュライカー大阪のサテライトで半年間プレーしたのち、2014年にニュージーランドのオークランドシティFCで再びサッカー界に復帰。2015年に十勝フェアスカイFC、2016年にアメリカのマイアミ・ユナイテッドFC、2017年にラスベガス・シティFC、2018年に韓国のソウル・ユナイテッドFC、2020年にサンマリノのSSペンナロッサでのプレーを経て、2022年より江の島FCに所属。同年7月、プロ競技麻雀団体RMUのプロ試験を受け合格した。
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