「酒井の後継者に」柏・古賀太陽、U23選手権で致命的バックパスも「4番」を背負う覚悟

Career
2020.03.14

今年1月に行われたU-23アジア選手権は、優勝を期待されながら、グループステージ敗退に終わった。その大事な初戦で致命的なミスを犯し、早期敗退の要因の一人とされたのが、古賀太陽だ。以前のままの彼であれば、このパスミスを引きずり、大きくパフォーマンスを落とすと思われたが、彼は踏みとどまり、気持ちを切り替え前進した。柏レイソルの「背番号4」を背負う古賀はいかにしてたくましい成長を遂げたのだろうか?

(文=鈴木潤、写真=Getty Images)

巡ってこなかった挽回の機会

古賀太陽は、2019年の1年間で飛躍的な成長を遂げた。プロ3年目にして左サイドバックのレギュラーに定着し、リーグ戦37試合出場を果たした。また、そのクラブでのパフォーマンスは代表スタッフの目にも留まり、U-22日本代表に返り咲いた。この時、古賀は「2018年1月を最後に(代表に)呼ばれてなかったので、まだ五輪に出場する可能性があるのを感じた」と語っている。所属クラブで主力の座を勝ち得たことによって、閉ざされかけていた東京五輪への道が開けた。さらに柏がJ2で優勝し、1年でのJ1復帰を果たした直後の昨年12月には、EAFF E-1サッカー選手権2019に出場する日本代表の選出も受けたのだ。

2019年は古賀のこれまでサッカー人生において、もっとも大きな充実感を手にした1年間になった。そこで培った経験と自信を携えて、迎えた今年1月のAFC U-23選手権。東京五輪代表メンバー入りへのアピールの舞台となるはずだったこの大会で、“あのプレー”が起きる。

初戦となったサウジアラビア戦のゲーム終盤、岡崎慎へのバックパスがわずかにずれ、コースを逸れたボールをサウジアラビアのFWブライカーンにかっさらわれてしまう。GK大迫敬介と1対1になったブライカーンが倒され、PKになり失点。敗戦に直結するPK献上につながる致命的なミスを犯した古賀は、続くシリア戦、カタール戦のメンバーからは外され、失意のまま帰国の途についた。

「ネルシーニョに見てもらえば太陽は伸びる」

柏アカデミー時代から古賀のポテンシャルの高さは群を抜いており、将来を嘱望される存在だった。しかし謙虚で優しい性格ゆえ、ピッチ上では時にその性格が“メンタルの弱さ”に変わり、裏目に出ることもしばしば見受けられた。アカデミー時代から抱える課題、それは技術面や戦術面ではなく、メンタル面だった。

2017年のプロ1年目は公式戦16試合出場と、ルーキーとしては上出来の数字を残したかに見えるが、シーズン中は自分が出場した試合の勝率の低さを必要以上に悩み、その結果パフォーマンスを落としてしまう。シーズンが進むにつれて出場機会を失い、プロ2年目の2018年はリーグ戦では1試合の出場機会も得られなかった。秘めたるポテンシャルは高く、それは誰もが認めるところだが、周囲の期待とは裏腹に殻を破れない。

伸び悩んだ古賀は、2018年6月に育成型期限付き移籍でアビスパ福岡へ武者修行に出た。

2018年12月、翌シーズンからのネルシーニョ監督の就任が決まった。そのタイミングで、布部陽功GMは古賀を福岡から呼び戻している。そこには「ネルシーニョに見てもらえば太陽は伸びる」という確信があったからだ。

百戦錬磨の名将が古賀の奥底に秘められた高いポテンシャルを見逃すはずがない。2019シーズンのJ2リーグの序盤戦、ネルシーニョ監督は左サイドバックの適任者を模索しながら戦っていたが、ある時クラブスタッフに「左サイドバックを見つけた」と伝えた。名将が目を付けた存在、それこそが古賀だった。開幕から3試合ベンチスタートだった古賀は、第4節の京都サンガF.C.戦で左サイドバックにスタメン起用された。

古賀にとってターニングポイントになった試合がある。J2第6節の東京ヴェルディ戦だ。0-2で敗れた柏の失点は、いずれも古賀の守る左サイドを突破された形だった。

「ヴェルディ戦では2失点に直接絡んでしまいました。リーグに出始めてすぐの試合で、ああやって負けに直接関わってしまったのはメンタル的にもダメージが大きかったですし、自分はまだまだ甘いと感じました」

そのショックが原因でパフォーマンスが低下してしまえば、以前とは何も変わらない。しかしこの時ばかりは違っていた。

「ヴェルディ戦のパフォーマンスで自分は次から外されてもおかしくなかったのに、ネルシーニョ監督は次の試合でも使い続けてくれました。あそこで監督が使い続けてくれたことで強くなれたと思います。外されて逃げることは簡単ですけど、自分と向き合えたのは監督が使ってくれたからだと思います」

続くV・ファーレン長崎戦、再びチャンスを与えてくれたネルシーニョ監督の起用を意気に感じ、古賀は奮起した。前半9分、積極的なオーバーラップから敵陣に侵入し、こぼれ球に素早く反応して豪快なシュートを突き刺した。古賀のプロ入りリーグ戦初ゴールで勢いに乗った柏は3-0の快勝を収めた。この勝利は、それまで課題を抱えていた古賀のメンタリティーに働きかけるきっかけを与えた。以来、左サイドバックのポジションを守り抜いた古賀はリーグ戦で37試合に出場。中村航輔(41試合)、瀬川祐輔(40試合)、クリスティアーノ(39試合)、江坂任(38試合)に次ぐ、染谷悠太と並ぶチーム5番目タイの数字である。

「酒井の後を追え」というクラブからのメッセージ

おそらく2018年以前の古賀であれば、今年1月のAFC U-23選手権でのパスミスを引きずり、切り替えができずにその後の大きくパフォーマンスを落としてしまったことだろう。

だがレギュラーとして活躍した昨年の経験と自信は、明らかに彼のメンタル面の成長を促していた。U-23日本代表の遠征から柏の指宿キャンプに合流した古賀は次のように大会を総括した。

「結果的に自分のパフォーマンスと全体的な結果も含めて、自分たちが思い描いていたものにはならなかったです。五輪予選(を兼ねた大会)だったので普通にいけば本大会に出られなかったわけだから、そこは僕自身がしっかり重く受け止めないといけないと思います。ただ、自分のミスも含めてですけど、選ばれていないと経験できないことですし、マイナスのことばかり考えてもいけないので、しっかり受け止めて心に刻みながら前に進んでいくしかない。今はもう切り替えられています」

そう言うと彼は「ネガティブな感情をチームに持ち込むことはないですね」と付け加えた。

キャンプ中の古賀のプレーは、確かに人が変わったかのように激しさを増していた。その変貌ぶりを布部GMはこう話す。

「私は正直、あのミスをしてプレーに影響するのかなと思っていましたが、練習を見ていると以前よりも球際に対して思い切りいけるようになっていたんです。プレーの一つひとつを見ていても、横パスやバックパスを選ぶのではなく、前に選ぶ。その意識が高くなっていました。もう一回代表に入って、自分がミスを取り返して活躍する、そういう気持ちがあるんだと思います」

新シーズンが始まってからも、ちばぎんカップのジェフユナイテッド千葉戦、ルヴァンカップのガンバ大阪戦、Jリーグ開幕戦の北海道コンサドーレ札幌戦と、古賀は3試合連続でスタメンフル出場を果たし、安定したパフォーマンスを見せてチームの3連勝に貢献している。

「太陽はまだまだ伸びますよ」

布部GMは古賀のさらなる成長に大きな期待を寄せる。

福岡への期限付き移籍から柏に復帰した際に、古賀はかつて酒井宏樹が付けていた背番号4をクラブから与えられている。

酒井と古賀は共通点が多い。柏アカデミー出身で、右と左の違いこそあるものの、ポジションはサイドバック。しかもサイドバックとしては180センチ超という恵まれた体格を持つ。そして酒井もまた、謙虚で優しい性格の持ち主ゆえ、ポテンシャルの高さを期待されながら伸び悩む時期があったが、ネルシーニョ監督の下で一気にブレイクを果たした。

古賀に託された背番号4には「酒井の後を追え」というクラブからのメッセージが込められているようにも思える。ロンドン五輪に出場した酒井は、世界へ羽ばたいていった。

そして今年、古賀には東京五輪という大舞台が待ち受けている。

<了>

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