髙田明が語る経営哲学と“夢”「Jクラブもジャパネットも全く一緒。一番の理念は…」
「株式会社ジャパネットたかた」と「株式会社V・ファーレン長崎」。一見、異なるビジネスに見えるが、「やることは全く一緒」と話す髙田明氏。ビジネスの世界を渡り歩き、おさんぽ番組で日本各地を訪問し、さまざまな人と交流し続けてきた氏だからこそ見えているJリーグクラブの経営、サッカーの持つ可能性とは何だろうか? 髙田氏が見るサッカーの夢について語ってもらった。
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、撮影=山頭範之)
【前編はこちら】髙田明はJリーグで何を成し遂げたいのか? V・ファーレン長崎が目指す理想のクラブとは
一番の理念は“人”。いかにして、人に喜びを感じてもらえるか
実際にJリーグのクラブ経営をやられてみて、ジャパネットたかた社長時代と比べて、経営者としてどのような違いを感じますか? 企業経営とクラブ経営は全く違うものなんでしょうか?
髙田:いや、全く一緒です。ジャパネットもV・ファーレン長崎も一緒。野球もサッカーもラグビーも、みんな一緒。ビジネスの世界も一緒。医療の世界も政治の世界もみんな一緒なんです。一番の理念は“人”なんですよね。いかにして、喜びを人に感じてもらえるか、一緒に感じていけるか、ということなんです。だから、ジャパネットでは、物の先にある人を見る、見せるように心がけていました。物によってその人たちが楽になったり、笑ったり、楽しんだり、健康になったり。例えば、シューズ一つで歩くことが楽しくなり健康になった、枕を変えたら睡眠が改善した、というような場合、物は人の生活を変えているわけです。だから、健康な生活を維持する、快適な生活を送れるようにする、そういう物を提供するのがジャパネットのビジネスでした。
サッカーも一緒です。手段が違うだけです。物を売るのか、ボールを蹴ってサッカーのプレーを見せるのか、他のいろいろな世界もみんな一緒です。人をどのように巻き込みながら一緒に共存して成長していけるか、楽しく一回限りの人生を送っていけるかということです。だから私はビジネスの世界からサッカーの世界に来た時、全く不安はありませんでした。全く一緒だと思っていましたから。ジャパネットの収入は物を販売して得る収入。V・ファーレン長崎の収入はスポンサー収入やチケット収入。手段が違うだけなんです。そして、常に理念の中心には“人”がある。ここがどんな世界でも一番大事です。もっとも、その理念をブレずに持ち続けるということは簡単ではありません。サッカークラブだと、負け続けることでそれをくじかれることもあるかもしれない。でも、本当は勝っても負けても、変わっちゃいけないんです。そこを超えられるものを、勝っても負けても変わらないものを、自分たちクラブスタッフだけじゃなくて、ファン、サポーター、県民含めてすべての人が持った時に、日本一、世界一のクラブになるんじゃないかと。決して不可能なことじゃないと私は思っているんです。
平和という視点でも、私たちにできることはあると思います。サンフレッチェ広島さんとの平和祈念マッチ(2018年4月28日J1 第11節/トランスコスモススタジアム長崎)に広島から来てくれた方々を含めて多くのファン・サポーターの方々が、「もう一度(平和祈念マッチを)やりたい」「そのためにもまたJ1に昇格してくれ」と言ってくれるんです。広島とともに平和発信を、と。広島と長崎は、原爆が投下された後からずっと平和を訴え続けていますが、残念ながら世界は一向に変わりません。力のある人が何か言えば世界が一気に変わってしまう危険性だってある。でも、スポーツには、そういったことすら本質的に変えていける力があるんじゃないかと思っています。
髙田社長はV・ファーレン長崎での活動を通じて、何を実現したいと考えられていますか?
髙田:僕は、サッカーは日本を元気にできると思っています。かつて世界一とも言われた日本の経済は、残念ながら今、元気がないですよね。この状況を変えていくためには、僕ら日本人が何か変化を起こさなきゃいけない。そして、サッカーも含めたスポーツには、何かを変えていく力があります。スポーツだけじゃないですね、音楽もそうです。2、3年前、ミスチル(Mr.Children)のライブに初めて行ったんですよ。札幌ドームだったんですが、超満員の観客が熱狂していて。他でも、安室(奈美恵)さんのライブやAKB(48)のライブにも行かせてもらいました。長崎出身のさだまさしさんや前川清さんのコンサートにもよく行かせてもらいますね。私は、ライブに行ったら、歌もですけど、とにかくお客さんを見ています。数万人の観客がみんな、すごく感動しているシーンを見て、自分も感動するんです。
確かに、アーティストのライブは、すごいエネルギーですよね。
髙田:お客さんの表情がすごく良くて、皆さん、泣いたり笑ったり、時には抱き合って喜んでいたり。音楽という文化は本当にすごくて、そこでエネルギーをもらって、さらに元気になる。ただ、私はサッカーでもそれができると思ってます。だから、極端な話ですが、V・ファーレン長崎もミスチルを目指せばいいんだと。ミスチルさんがやっていることを、V・ファーレン長崎のスタジアムでやればいいんだと。
勝ち負けは絶対的に大事。ただ、勝ち負けが100%じゃない
V・ファーレン長崎の社長に就任して、心がけていることはありますか?
髙田:私が意識してやったことは1つだけで、アウェイに行って、ファン・サポーターの皆さんと会話することです。とにかく、アウェイに行って長崎の方はもちろん、相手チームのファン・サポーターの方とも、たくさんの人と会話をします。時にはサポーターの応援席にまで入れてもらったり。相手チームの応援席に入っていいのかなと思ったんですが、みんなが歓迎してくれて、敵味方ないんですよ。こんな素晴らしいことはないなと思いました。
髙田社長のTwitterを拝見していても、とても幸せ度の高いTwitterアカウントだなと感じます。アウェイのサポーターも含めてみんなが「ようこそ」とか「ありがとうございます」とか、すごいですよね。他の国のリーグでは、こんな話、聞いたことないです。
髙田:「サッカーには夢がある」――私がいつもTwitterで書いている言葉です。では、「その夢って何なの」ということについてはあまり語っていないんですが、私が言う夢というのは、試合に勝ったり、J1で優勝したりということだけじゃないんです。もちろん、勝つことも大事ですけれど、例えば、一緒に試合を見ていて何を感じるか、選手が一生懸命走って、転んでもまた立ち上がって戦う闘志とかに触れた時にやっぱりエネルギーをもらうじゃないですか。試合には負けても、そういったエネルギーをもらえたら、もう何も言うことはないですよね。そういったサッカーの持つ価値を、サッカーの中にある夢のようなものを、皆さんにもぜひ感じてもらえるようなツイートができればいいなと思ってやっています。だから、ツイートではあまり「勝ち負け」は使わないようにしています。
とてもよくわかります。勝ち負けをクラブ経営の軸に置いてしまうと、経営としても成り立たないですよね。勝ち負けはコントロールできないですから。もちろん、フロントだって勝つ可能性を上げるために貢献できる部分はありますが、たとえどんな強豪クラブでも、それこそ、FCバルセロナだって負ける時は負けるわけで。
髙田:他のチームのことを言うと怒られちゃうかもしれませんが、ヴィッセル神戸さんだって、あれだけの選手が揃っていながら、連敗だってすることもあります。負けた時、あの(アンドレス・)イニエスタ選手が、頭を抱えたりしている。やっぱり悔しさがあるんでしょうね。そういう想いや人間らしさを感じられた時、スポーツってすごくいいなと思うんです。
ただ、とはいえ、Jリーグには昇降格の仕組みがありますから、勝ち負けと無関係ではいられない難しさはありますよね。V・ファーレン長崎も、現在はJ2ですが、J1に昇格する可能性もあれば、J3に降格する可能性もある。もっと言ってしまえば、連続で降格すれば、Jリーグじゃなくなること(JFL降格)だってあり得る。こういうシステムの中でクラブ経営をしていく上で、チームの結果が出なければ、プロモーションやスタジアム計画含めてマイナスの影響が出る可能性があって、それこそ、すべてがストップしてしまうリスクがある。一方で、プロ野球は12球団で固定されていて降格がないから、思いきった改革ができます。横浜DeNAベイスターズも、DeNAが入ってから5年間で、24億円の赤字から、5億円超の黒字まで一気に改革しました。もちろん、年間の試合数含めて、さまざまな条件が違うので、単純比較はできませんが、プロ野球と比べると、サッカークラブの経営は、より難しさがありますよね。
髙田:まさに、そうなんです。プロ野球は、年間140試合以上もあるから、今日負けても「明日もあるさ」と言える。一方、J2はホームでのリーグ戦は21試合しかないから、「明日もあるさ」となかなか言えないんです。そして、おっしゃるとおり、昇降格があるから、勝ち負けは絶対的に大事です。ただ、それでも、勝ち負けが100%じゃないよ、と。勝ち負けが100になってしまったら絶対に続かない。スポーツだから、勝つ時もあれば負ける時もある。勝つために努力をする、フェアプレーでお互いをリスペクトする、というのは大前提。当然、勝負にはとことんこだわってやる。でも試合が終わったら、もうリセットして交流するという世界を作っていかなきゃいけない。私はそう思います。
<了>
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PROFILE
髙田明(たかた・あきら)
1948年11月3日生まれ、長崎県出身。大阪経済大学卒業後、機械メーカーへ就職し、通訳として海外駐在を経験。その後実家のカメラ店に入社。支店経営を経て、1986年に独立し、株式会社たかたを設立。1999年、株式会社ジャパネットたかたに社名変更。ラジオショッピングを機にテレビ、紙媒体、インターネットなど通販事業を展開。2015年、社長職を息子・旭人氏に委ねて退任。2017年、V・ファーレン長崎の代表取締役社長に就任。
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