「格闘技だけじゃダメ」デビューから全勝、新世代の女性格闘家・平田樹がSNSでありのままの姿を曝け出す理由
いよいよ9月3日、総合格闘技「ONE Championship」が、初のオール女子大会「ONE: EMPOWER」をシンガポールで開催する。コロナ禍の影響で延期となっていたこの大会で、“史上最大の女子トーナメント”女子アトム級ワールドグランプリのトーナメントに登場する平田樹はこれまでONE4戦4勝(Road to ONE 含む)。初戦となる準々決勝でアメリカの強敵アリース・アンダーソンと対戦する。“格闘家・平田樹”と“21歳のそこらへんにいるような女の子”の両面を併せ持ち、SNSでありのままの姿をさらけ出して注目を集めるフィニッシュ率100%ファイターが語る理想の女性アスリート像とは。
(インタビュー・構成=篠幸彦、写真提供=ONE Championship)
「期待されていると同時に試されている」
――今大会はONE初の女性アスリート限定の大会ということで、ONEにとっても女子格闘技界にとっても大きな意味を持つ大会だと思います。今大会で平田選手はどんなことに期待していますか?
平田:いろんな国から女子選手だけが集まって大会が開催されること自体がすごいことですよね。この大会で格闘技は男子だけじゃなくて、女子だけでもこれだけの大会ができるんだということを見せたいですね。
――そんな大会のメインカードに日本人選手の中からONEでのキャリア4試合の平田選手が唯一選ばれて出場するというのは、それだけ期待されているということだと思います。
平田:試されているなと思いますね。前回(Road To ONE)のメインカードもそうだし、今回もONEで4試合しかしていないのにトーナメントの出場選手に選ばれるということは確かに期待されているということだと思います。ただ、それと同時に私がどれだけできるのか、そこが試されているんだと思っています。
――当初5月28日に開催予定だった大会が新型コロナウイルス感染症の拡大により延期されて約3カ月がたちましたが、大会へ向けた思いに変化はありました?
平田:ファンの人たちはすごく楽しみにしていると思うし、ファンだけじゃなくて選手も待ちわびていました。延期になったことで選手たちは大変だったと思います。私自身も延期になっていつ試合ができるのかがわからない時期もありました。ただ、この3カ月という期間は長かったですけど、そのぶん、練習に取り組める時間も長く取れました。その間に自分が強くなっていることをより確認することができて、今はすごくワクワクしています。
――先ほど女子でも大きな大会ができるところを見せたいという話がありました。試されているというこの大会で、平田選手が見せたい姿というのはどういったものですか?
平田:日本の団体の女子の大会は、パンチでKOというシーンが見られない試合が多くて、やっぱり女子っぽいと感じるんですよね。でも海外の試合では男子に負けないようなKOや派手なシーンが多いので、自分の試合でもそういうかっこいいところを見せたいと思っています。やっぱり男性のファンが多いので、男性から見ても迫力があってかっこいいと思ってもらえる試合がしたい。女子っぽくない試合というのは自分の中では意識していることです。

ベテランに目をつけられても…「自分はもう日本だけの選手じゃない」
――平田選手にとって理想の女性アスリート像や大事にしていることはあります?
平田:試合よりもオフのほうが長いので、その期間をすごく大事にしているんですね。試合のときは二重人格というか、“格闘家・平田樹”というもう一人の自分を見せたいなと思っています。でもオフのときは、21歳のそこらへんにいるような女の子なんです。そういったオンとオフの意識はしっかりしないといけないなと思っています。
――オンとオフで一番自分の中での違いを感じるのはどんなときですか?
平田:例えば減量なんかもそうですよね。命をかける戦いのための減量というのは、ダイエットとは全く違う次元なんです。これは格闘技をしている人にしか味わえないものだと思います。減量のときは「戦いのためにこれだけ自分は頑張っているんだ」って感じられるんですよね。オンのときはそういった普通ではない時間を過ごすからこそ、オフのときは何も考えずに普通の女の子の生活をしています。そこの切り替えは大事にしています。
――理想像というところで、平田選手が憧れる選手はいるんですか?
平田:よく聞かれるんですけど、とくにいないんですよね。逆に今までいなかった選手になりたいとずっと思っているんです。なりたいと思っていなくても自然とそうなっていければいいというか。すでにそういう存在になれているんじゃないかなと思っています。ベテランの選手に目をつけられるようにもなったりするのは、自分がこの世界で目立つようになったからだなとポジティブに考えています。
――日本という枠にとらわれず、もっと広い意味でこれまでにいない選手を目指しているというところでしょうか?
平田:そうですね。インスタのフォロワーも日本よりも海外のファンのほうが多いので、日本だけではなく世界中から見られているのはモチベーションになっています。そういったところでも自分はもう日本だけの選手じゃないなって思うことが増えましたね。

格闘技を見る側だったからこそわかる“ファンの気持ち”
――インスタグラムの話も出ましたが、平田選手のインスタは練習風景だけではなくて、プライベートな投稿も多いですよね。ツイッターなども含めて、SNSの運用はどんな意識でされているんですか?
平田:試合前になると練習風景の投稿が増えるんですけど、格闘技をやっていれば練習をするのなんて当たり前ですよね。毎日トレーニングの動画や写真をアップしてもそんなのわかりきっていることというか。それよりもそれ以外のところで、普段はこんなことしていますとか、プラベートはこんな格好していますとか、そっちのほうが興味を持ってもらえると思うんですよね。
――そういったファン目線で投稿内容を考えることは、最初から意識していることなんですか?
平田:そうですね。もともと自分が格闘技を見る側だったので、この選手は普段どんなことしているんだろうとか気になっていました。インスタライブを見て質問して反応があったり、DMを送って返ってきたり、ツイッターで “いいね”をもらえるだけでもすごくうれしかったんですよね。逆の立場を味わってきたからこそわかることがたくさんあります。
――そういったファンサービスという点で意識していることとは別で、フォロワー数が増えたことで注意していることはありますか?
平田:隠すことはとくにないかなと思っています。良いニュースでも悪いニュースでも、常にそのときの心境を率直に発信するようにしています。
――インスタやツイッターの投稿では、パートナーとの写真もアップしていますよね。こうした投稿は海外のアスリートでは珍しくないですが、日本ではあまり見ない投稿だと思います。
平田:別に隠すことでもないかなと思うんですよね。最初は隠したほうがいいのかなって迷うこともありました。でも私は芸能人でもないし、アイドルでもないし、ただ格闘技をしてみんなが応援してくれるっていうそれだけ。海外の選手がSNSとかでプライベートも全部さらけ出しているのを見ると、隠す必要はないかなって。隠していて、誰かに見つかってSNSで投稿されるより、自分から発信してファンの人に隠しごとなしで。そっちのほうがいいなって思うんですよね。

SNSの活用は選手にとって必要不可欠な時代
――ネガティブな反応があっても包み隠さずさらけ出して応援してほしいということだと思いますが、アスリートにとってSNSでの発信の必要性はどう感じていますか?
平田:SNSでスポンサーを募集することもそうですけど、インスタのフォロワー数が多いと大きなスポンサーが付いたりします。SNSでの発信があるかないかで全く違うし、大会の煽りPVとかでタグ付けしてもらってそこから自分のアカウントに飛んでもらって知ってもらうことも多いです。今はSNSの活用は本当にうまくやらないと海外も含めて試合を見てもらえる数が変わってくると思います。
――平田選手がSNSを使いこなす一方で、選手によってはあまり活用していない人もいますよね。そういう選手に対して思うことはありますか?
平田:ありますね。キャリアのある有名選手でもSNSをあまり活用していなくて「こんなに有名なのにフォロワーが数千人しかいないんだ」って思うことがあります。そういうレベルの選手であっても今の時代は、自分の試合を見てもらいたいならSNSでどれだけ世界中にアピールできるかが重要だと思いますね。もったいないなって思います。
――試合を見てもらったり、スポンサーを獲得したり、今のアスリートにとってSNSの活用は欠かせないということですね。
平田:K-1とかもそうですけど、選手情報のところには必ず全部のSNSアカウントが載っていますよね。ONEの中継でも載せてもらっています。今は「この選手すごい!」と思ったら必ずSNSを調べて、その選手がどんな人かを知る時代なんですよね。そこでうまく活用できている人と、できていない人では大きな差が生まれると思います。
――試合のときのSNSの反応は、普段とは全然違います?
平田:すごいですよ。試合前後とか、煽りPVが出たときのフォロワーの増え方やメッセージの数は普段の何十倍もあります。全部に返し切れないくらいですね。
――うまく活用できていない選手を見て、具体的にもっとこうしたほうがいいなと思うことはありますか?
平田:(投稿内容が)格闘技だけじゃダメですよね。それだけだと本当に格闘技オタクっていうか、コアなファンの方たちにしか見てもらえない。もっと視野を広げて、私の場合はそれがファッションやメイクで、そういう投稿から若い女の子にも見てもらえるんですよ。格闘技とは関係ないところから興味を持ってもらえて、試合を応援してもらえるところにつながるので、そこはすごく大事にしています。
――平田選手自身も格闘技以外のところへ意識を向けてアピールしているんですね。
平田:そうですね。SNSはやるだけ損はないというか、もう得しかないんですよ。

「自分でも世界を取れるんだ」 同世代の活躍に受けた刺激
――東京五輪が無観客での開催となりました。無観客での試合は平田選手にとっても身近なテーマだと思います。
平田:やっぱり寂しいなって思いましたね。オリンピックなのに観客がいないって違和感がありました。けど、選手はそんなの関係なく優勝する、メダルを取るということに全力で、そこは自分とも共通するところだなと思いました。観客がいなくても勝利を目指すことには変わりないし、テレビで見てくれている人はたくさんいるので、そこで喜んでもらえればいいなと思います。
――柔道の阿部詩選手をはじめ、同世代や自分よりも年下の選手が躍進した大会でもありました。そうした若い世代の活躍には刺激を受けました?
平田:同世代とか、若い世代が活躍するのを見て、世代交代だなと思いましたね。今回のトーナメントでも自分が一番年下ですけど、若い世代が多いので、期待されているんだなと思います。スケートボードでも13歳の西矢椛選手が金メダルを取っていて、10代でメダルを取るだけでもすごいのに周りから期待された中で結果を出したのを見て、「自分でも世界を取れるんだ」って刺激を受けましたね。
――今大会のトーナメントで一番年下というところで、共感する部分も多かったんですね。
平田:そうですね。もう若い世代が活躍する時代で、若いからこそできることがたくさんあるし、私もその若さを利用しようと思います。
――チャレンジャーとして向かっていけるっていうことですね。
平田:私は負けても失うものはないので。思いっきり試合をして、思いっきり勝つだけだなって。
<了>
日本時間9月3日(金)午後8時30分から開催される「ONE: EMPOWER」は、ABEMAでライブ配信される。
ABEMA ライブ配信ページは【こちら】
ONE: EMPOWER 公式ページは【こちら】

PROFILE
平田樹(ひらた・いつき)
1999年8月24日生まれ、東京都出身。総合格闘家。小学1年時から柔道を始め、膝のケガに悩まされながらも中学・高校時代まで柔道を続けた。高校卒業後、総合格闘技のトレーニングを開始。ABEMAの『格闘代理戦争3rdシーズン』で優勝を果たし、ONE Championshipでプロデビュー。以降、一本勝ち、TKO勝ちを含む無敗の4戦全勝中
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