 
            J1昇格を懸けたラスト1枠の戦い。千葉が挑む“5度目”の正直「より一層強いジェフを見せつける」
残り1枠となったJ1の座を懸け、J2・4チームがしのぎを削るJ1昇格プレーオフ。15年ぶりのJ1復帰を狙うジェフユナイテッド千葉は、リーグ戦を6位で終えてプレーオフ出場を果たし、26日にリーグ戦3位の東京ヴェルディとの準決勝に挑む。千葉にとっては今季も決して順風満帆なシーズンとはいえなかった。それでもクラブタイ記録の7連勝を含む後半戦の巻き返しで息を吹き返した。リーグ後半戦、今季監督に就任した小林慶行はどのように指導方法や采配を変化させ、選手たちはいかにしてそれに応えたのか?
(文=赤沼圭子、写真=千葉格/アフロ)
2009年のJ2降格以降、J1昇格プレーオフは厳しい結果ばかり
2023年11月26日、ジェフユナイテッド千葉が2017年シーズン以来6年ぶりのJ1昇格プレーオフに挑む。
Jリーグ発足時から在籍する「オリジナル10」の千葉は、1998年からの3シーズン、J2降格の危機に陥りながらも辛くもJ1に残留。2003シーズンにイビチャ・オシム監督(当時)が就任すると、「考えて走るサッカー」で初めてシーズンを通して優勝争いを演じた。2005年にJリーグヤマザキナビスコカップ(現JリーグYBCルヴァンカップ)で初優勝し、クラブとしてJリーグ開幕以降、初のタイトルを獲得。シーズン途中にオシム監督が日本代表監督に就任し、監督交代が行われた翌2006年にはナビスコカップを連覇して、このまま強豪へと成長するかと思われた。
だがその後は成績が振るわず、2008年には勝っても他のクラブの結果次第でJ2降格となる最終節・FC東京戦で、試合時間残り15分を切ってから0-2とビハインドの状況から4-2の劇的な大逆転勝利。さらにJ1残留を争う東京ヴェルディ、ジュビロ磐田が敗れたため、J2自動降格圏内の17位から15位に浮上して土壇場でJ1に残留。最終節でのこの戦いは「フクアリの奇跡」と呼ばれ、今でも鮮明に記憶しているJリーグファンは少なくない。
しかし、2009年にJ2に降格すると、J1昇格への長く厳しい戦いが待っていた。 J1自動昇格圏内でフィニッシュできたシーズンはなく、J1昇格プレーオフでも厳しい結果ばかり。リーグ戦5位で臨んだ初のJ1昇格プレーオフは2012年で、決勝戦の相手が6位の大分トリニータのため引き分けでもJ1昇格だったが、0-1の敗戦。2013年も5位でJ1昇格プレーオフに進出したが、勝たなければいけない準決勝の4位・ヴォルティス徳島戦で1-1の引き分けで敗退。3位となった2014年は決勝戦のみ戦い、引き分けでJ1昇格だったもののまたもや0-1でモンテディオ山形に敗れた。クラブ新記録の7連勝でのフィニッシュで6位に滑り込んだ2017年は、佐藤勇人の双子の弟の佐藤寿人がいる名古屋グランパスとの準決勝となったが2-4の敗戦に終わり、その後の千葉はJ1自動昇格どころか、J1昇格プレーオフ進出を果たせないシーズンが続いた。
重くのしかかる決定力不足。思うようにいかないリーグ前半戦
そんな状況下の今シーズン、監督に就任したのはコーチ、ヘッドコーチを歴任した小林慶行だった。
新体制発表会の場で小林監督が語ったことの一つが「当たり前のことを当たり前にやる」ことだった。自らアクションを起こし、サッカーの基本を怠らず、プレーの質と強度を高めることを追求し続ける。そして、チームのメンバーやスタッフだけでなく、クラブ全体、ファンやサポーター、クラブを支援するスポンサーも含めて、“一体感”を持ってシーズンを戦っていくことを望んだ。
今季の千葉は前から連動してプレスをかけ、ラインブレイクを狙って攻める「攻守両面で前へ出る」というスタイルで戦った。開幕戦は大卒ルーキー・小森飛絢の得点で、V・ファーレン長崎に1-0で勝利。しかし、その後は決定機を作っても決めきれず、プレスをかわされて失点したり、スタミナが低下する後半に攻守でミスが出たりするなどして、第2節から第9節までの戦績は3分5敗。J3降格圏内の21位まで順位を落とした。京都サンガF.C.から期限付き移籍で加入した田中和樹は「ゴールを決めなきゃ、決めなきゃって言っているうちにシーズンが終わってしまう」と、決定力不足についての切実な思いを語った。
衝撃的だったのは、今シーズン初めてJ2に昇格した藤枝MYFCとの第9節(1―3)。藤枝はチームとして磨き上げてきたパスワークで千葉のプレスをかわし、ゴールに迫って3得点を奪取。前からのプレスがうまくかからない時にどうすべきか。小林監督は体力の消耗が激しくなる夏場に向けて、前から厳しくプレスをかける守備だけでは厳しいと判断。状況によっては前から厳しくプレスをかけずに、ブロックを作って相手に間を通させないように堅く守る選択肢も模索し始めた。戦況によって守備のやり方を柔軟に変えながらも、小林監督が重要視して選手に求め続けたのは球際で負けないこと、競り合いで負けないことという“際”の勝負と、相手に隙を与えないことだった。 決定力不足はなかなか解消できないままだったが、守備は安定傾向となり、第15節でヴァンフォーレ甲府に1―Oで競り勝つと、第16節では高い得点力を誇る清水エスパルスを無失点に抑えて1-0。第17節も栃木SCに1-0。第15節からの3連勝で13位にまで順位を上げたが、第20節では水戸ホーリーホックを相手に、攻守でやるべきことをやりきれずに1-4の大敗。J2リーグ戦の前半戦のラストゲームである第21節は大分と1-1で引き分け、前半戦終了時点の順位は16位だった。
小林慶行監督の信念がブレなかった理由
J1昇格を目指すには程遠い順位に、小林監督や選手たちは強い危機感を抱いた。
初めて監督となった小林監督は当初、厳しく叱咤することで選手がやる気を失うことを危惧し、選手への指導のやり方や接し方に気をつけていた。それもあって全体トレーニングの雰囲気は厳しさがなかったわけではないが、和やかなムードが漂っていた。だが、現況のままでは強くならず、何かを変えなければチームは成長していかない。小林監督はまず自分を変えた。以前よりも厳しさを増した指導を心がけて自分の“熱”を伝え、トレーニングの雰囲気を変えていった。次節に向けたミーティングでの前の試合のフィードバックでは、例えば失点シーンではどの選手のプレーに問題があったか、当該選手に「あなたの責任だよね」とはっきりと伝えた。
変化は小林監督だけではなく選手にも生まれた。このままではJ1に上がることなどできない。その強い危機感から、今まで以上に精度や強度の高いプレーを心がけ、それを互いに求め合い、指摘し合ってトレーニングで励んだ。「当たり前のことを当たり前にやる」という中での「当たり前」のベースのレベルを上げていくことを選手たち自ら意識し、トレーニングで徹底。その取り組みによる積み重ねは、次第に試合でのプレー内容、結果に表われ、自信がついた選手は精神的タフさも高めていった。
チームキャプテンで守備陣のリーダーでもある鈴木大輔の統率によるラインコントロールで、全体をコンパクトにすることを重視し、攻守の切り替えのスピードを高めてシームレスに攻守を行う。攻撃も得意な得点パターンのサイド攻撃からのクロスという形に加え、選手の連動性の向上から中央に縦パスが入る回数が増え、ダイレクトパスを多用したゴール前中央の崩しの形も増えた。 チームは求める結果を出すために、開幕時は3-2-3-2だったフォーメーションを第7節から4バックに変更し、2トップを1トップに変えて4-2-3-1をメインにする変化はあった。だが、結果が出なくても、チームの戦い方がブレることはなかった。自ら性格を「頑固」と語る小林監督だが、ただ頑固なのではなく、やり続けて積み重ねていくことでチームがレベルアップし、J1昇格を達成できるはずだという信念があった。とはいえ、リーグ前半戦の戦績などから「自分だけの気持ちでいえば、もしかしたら折れたかな」と感じるほどの苦悩はあった。それでもブレなかったのは、自分を信じてトレーニングの準備をするコーチングスタッフの支えがあり、必死にトレーニングに取り組む選手たちがいたからだという。
指揮官の采配に変化。コンバートやスタメン抜擢も奏功
攻守のハードワークのレベルを上げていくことに加え、小林監督の采配も変化していった。
以前は、勝つには「あと1点」という場面でパワープレーを仕掛けなかったり、2トップにしなかったりするなど、「何がなんでも勝つんだ」という勝利に対する貪欲さが感じられない采配もあった。だが、状況的に必要と考えれば、そういう強気の采配を見せるようになり、選手起用でも勝利を呼び込むようになった。
ディフェンスラインとの連係を考慮し、負傷以外でGKのスタメンを変えることは稀ではあるが、トレーニングを含めたパフォーマンスの出来を見て、第25節からGKのスタメンを新井章太から鈴木椋大に変更。鈴木椋はファインセーブで失点を阻止する姿を何度も見せた。
また、本来はボランチや攻撃的MFでプレーする髙橋壱晟は、昨シーズン多くの負傷が出たセンターバックでプレーしており、その守備能力と持ち前の攻撃センスを生かすため、第19節から髙橋にとっては初体験の右サイドバックで起用した。
逆に、右サイドバックが本職の米倉恒貴は負傷の影響で欠場が続いていたが、小林監督は米倉を右サイドハーフとしての交代出場という形で多く起用。過去に千葉でJ2降格を経験し、J1昇格プレーオフ敗退の悔しさも知る米倉は、「気持ちでボールを押し込むだけ」と貴重な決勝ゴールや同点ゴールを奪った。
また、得点力アップのためにシーズン途中でFC今治から獲得したドゥドゥがチームにもたらした効果も大きかった。Jリーグの多くのクラブでのプレー経験があり、早くに戦術を習得してチームにフィット。得点とアシストで勝利に貢献した。
ヴェルディは難敵だが「より一層強いジェフを見せつける」
チームは土壇場で決勝ゴールを奪う勝負強さも発揮し、第31節からクラブタイ記録となる7連勝を記録。
リーグ終盤戦、小林監督はファン、サポーターの後押しのパワーアップを願い、SNSなどで積極的に集客を呼びかけた。その思いに応えるべく、観戦から遠ざかったサポーターもいるため1万人超えがなかなか実現しなかったホームスタジアムのフクダ電子アリーナには、第36節から1万3000人を超える観客が集まるようになった。
アウェイのスタジアムにも多くの千葉サポーターが来場するなど、まさに“一体感”のある試合が続き、アウェイゲームの第41節・群馬戦(2-1)での逆転勝利で千葉はJ1昇格プレーオフ進出を確定。観客が1万5201人を記録した最終節・長崎戦は1-2の逆転負けで最終順位は6位となり、J1昇格プレーオフの初戦となる準決勝では第39節で2-0から2-3という痛恨の逆転負けを喫した3位・ヴェルディと11月26日に対戦する。
奇しくも第39節の試合後、PK失敗でハットトリックを逃したドゥドゥは「J1昇格プレーオフでヴェルディと対戦する可能性があるので、その時にはきっとより一層強いジェフを見せつけることができるのかなと思う」と語った。
小林監督は常に「自分たちはチャレンジャー」と話し、J1昇格プレーオフに向けて監督も選手たちも「自分たちには失うものがない。(決勝戦も含め)あと2試合勝つだけ」と異口同音に語った。
ヴェルディは難敵だが、勝つために攻守でやるべきことをピッチでしっかりと体現するだけ。もちろん、その先に見据えるのは、12月2日、J1昇格を懸けた決勝戦だ。
<了>
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