オールスター初開催SVリーグが挑んだ、クリエイティブの進化。「日本らしさの先に、“世界最高峰のリーグ”を」

Business
2025.02.21

バレーボールの新しい国内リーグ「SVリーグ」。1994年に誕生したVリーグから、トップリーグにあたるSVリーグと下部のVリーグに再編した格好だ。このPR&Promotionを担当するのが、鳥山 聡子氏。そしてクリエイティブを株式会社セイカダイが担当している。そこで本稿では、「MUFG SV.LEAGUE ALL STAR GAMES 2024-25 ISHIKAWA」の準備に触れながら、SVリーグにとってのクリエイティブの意義に迫る。

(インタビュー・構成=五勝出拳一・河合萌花、写真提供=©SV.LEAGUE)

オールスターゲームの要は“ご当地らしさのあるプレミアム感”

2024年秋に晴れて開幕を迎えたSVリーグは、2025年1月下旬にビッグイベントを迎えた。それは「MUFG SV.LEAGUE ALL STAR GAMES 2024-25 ISHIKAWA」だ。ファン投票とリーグ推薦により出場選手が決まる当ゲームは、2024年1月の能登半島地震および9月の能登豪雨で甚大な被害を受けた石川県にある「とり野菜みそ BLUECATS ARENA」(かほく市)を舞台に行われる。

目下準備を進めていた鳥山氏は「選手が『選ばれたい』と思える場をつくりたいし、そのためのプレミアム感を演出したい」と意気込む。そして「ロゴをつくる上でもそういった点を意識しつつ、“ご当地感”を盛り込めるようにしました」と話した。

デザインを任されたセイカダイのアートディレクター高橋団氏は、SVリーグ自体のカラーリングを踏襲しつつ、パッと見で祭典としてのオールスターゲームらしさが伝わることや、どんな背景に置いてもロゴが生きる汎用性を意識した。「“石川らしさ”を感じさせる様々なモチーフを制作し、最終的には伝統工芸の加賀友禅、水引、徽軫灯籠(ことじとうろう)が採用されました」。そう話す手元には、採用に至らなかった幾つものロゴ案が広がっていた。

モチーフの選定に加えて苦労した点が「SVリーグを起点に、オールスターゲームというイベント、そして石川という開催地と、ロゴに込めるべき要素は多いなかで、できるだけスタイリッシュに、シンプルにまとめたい」というSVリーグ側の意向だった。同氏は「あまりに抽象化すると伝わらなくなってしまうし、具体に寄せるとスタイリッシュからは遠くなってしまう。そんな具体と抽象の間を何度も行き来しました」と吐露。その甲斐あって、最終的に出来上がったロゴには「日本らしさの先に、“世界最高峰のリーグ”を見据える私たちのスタンスがうまく表現できたのではないかと思います」と、満足感を滲ませた。

SVリーグがクリエイティブに力を込める背景

こうして「MUFG SV.LEAGUE ALL STAR GAMES 2024-25 ISHIKAWA」というビックイベントを形作りながら、SVリーグは最初のシーズンをひた走っている。鳥山氏は「新しいリーグというところで、色々な方が興味を持ってくださっています。全国のチーム、そして選手もSVリーグ、バレーボールを盛り上げようと様々なアクションを起こしてくれている点には非常に感謝していて。これからも総力で『また来たい』と思える場をつくらなければと気を引き締めています」と、手応えと覚悟を口にした。ただ、とすかさず加えたのは「あくまで独りよがりにならないように」ということだ。

「自分たちが今後どういった世界を目指すのか、率先して表現するのは大事なことですが、“それがファンにとってワクワクできるものになっているか”を忘れてはいけないと思っています。その中で、ビジュアルは会話手段の一つ。見せ方を模索して、ファンとの会話を引き出し、また次へつなげていく。このステップを大事に作っていきたいです」

ディレクターを務めたセイカダイの石井百樹氏はこんな発言もしていた。「日本のスポーツクリエイティブは販売促進に寄ったものが多い」と。彼らSVリーグが目指すのは、必ずしもそれに集約されるものではないということなのだろう。

「挑戦的なクリエイティブができていくと、スポーツに注目が集まる、スポーツが盛り上がる。どこかの真似じゃないクリエイティブをこれからも心掛けていきたいですし、その上でファンに喜んでもらえて、もっと言えばそれがクリエイティブ業界からも注目が集まるきっかけになればうれしいです」

ファンとのコミュニケーションを育むためのビジュアル、バレーボールに限らず広く影響を与えるクリエイティブの在り方を、セイカダイもまた模索している最中なのだ。

既存の枠にとらわれない、スポーツデザインを求めて

結びにあたって、高橋氏はこんな思いを口にしている。

「スポーツデザインと言うと、どうしてもアメリカ、あるいはサッカーなどではヨーロッパと、先行するものがあるゆえに“どこかの真似”に陥りがちです。ただ、その潮流が個人的にはしっくりこないというか、せっかく日本からスポーツをデザインするなら、日本に軸足を置きたいなと。だからといって“武士”のような決まりきったモチーフや“和テイスト縛り”に捕らわれる必要ももちろんないですけれど、どこかモダンでありながら日本の香りがする、そんなデザインを意識したいです」

この度公開されたオールスターゲームのキービジュアルにも高橋氏が言う日本らしさとモダン、バレーボールの躍動感が調和したクリエイティブがまさに表現されている。

こうして話を聞いていると、彼らがデザインしたいのは決してSVリーグ単体ではなく、その先に透けるバレーボール界、あるいは日本のスポーツ全体であったりするのかもしれない。一緒に取り組む鳥山氏は「色々な新しいことに挑戦するからこそ、賛否はあります。軸を持ちながら耳を傾け、意思を持ちながらも変化を恐れず、日を追うごとにブラッシュアップしていけるような組織でありたいです」と意気込んだ。

「世界最高峰」という北極星を見つめながら歩を進めるSVリーグ。その一団は、ここに名前が出てきた人々に限らず、チーム、選手やスタッフ、その他多くの関係者により成り立っている。ただ、その道筋を整え、より明るく照らすのは言語化された方針であり、具現化されたビジュアルに違いない。鳥山氏らはこれからも、世界を目指すSVリーグのストーリーを紡いでいく。

【連載前編】「SVリーグは、今度こそ変わる」ハイキューコラボが実現した新リーグ開幕前夜、クリエイティブ制作の裏側

<了>

バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦

バレーボール界の変革担う“よそ者”大河正明の挑戦。「『アタックNo.1』と『スラムダンク』の時代の差がそのまま出ている」

エド・クラインHCがヴォレアス北海道に植え付けた最短昇格への道。SVリーグは「世界でもトップ3のリーグになる」

バレー石川祐希、王者への加入決めた覚悟の背景。日本のSVリーグ、欧州王者への思い「身長が低くても世界一になれると証明したい」

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事