
「小さい頃から見てきた」父・中澤佑二の背中に学んだリーダーシップ。娘・ねがいが描くラクロス女子日本代表の未来図
1月に行われたアジアパシフィック選手権で、強豪国オーストラリアを破ってアジア王者に輝いたラクロス女子日本代表。ロサンゼルス五輪で120年ぶりに正式競技に復帰するこの競技への注目度は高まりつつある。2026年に女子の世界選手権が、翌27年には男子の世界選手権が日本で開催される。2024年時の日本ラクロス協会のデータによると、競技人口(協会登録)は男子競技約5600人、女子約6700人。指導者は男性が約750人、女性が約550人となっている。元プロサッカー選手の中澤佑二氏は現役引退後、長女の中澤こころがラクロスを始めたことをきっかけに、ラクロスの指導者に転身。次女のねがいも姉とともに日本代表入りを果たしており、昨夏のU20世界選手権で主将を務めて国際大会最高位の3位、今年1月のアジアパシフィック選手権では優勝に貢献した。サッカー日本代表として2度のワールドカップを戦った父からリーダーシップを学んだ21歳のねがいが描く代表と自身のキャリアの未来図とは?
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=日本ラクロス協会)
代表に入って変化した意識
――中澤選手は、15歳の時に19歳以下の世界選手権に飛び級で選出され、昨夏のU20世界選手権ではキャプテンを務めるなど世代別代表でも活躍してきましたが、これまでで一番忘れられない試合を挙げるとすれば、どの試合ですか?
中澤:忘れられない試合は2つあって、一つは(2019年)U19世界選手権のオーストラリア戦です。勝てばベスト4入りが決まって、次はアメリカと戦えるという試合だったんですが、結果は1点差(7-8)で負けてしまって。それが自分にとって初めての世界大会だったので、悔しい記憶として強く残っています。もう一つは、去年のU20世界選手権の初戦のアイルランド戦で、11対12で負けてしまった試合が印象に残っています。
――U20世界選手権では強豪イングランドを破って女子競技の国際大会最高順位(3位)の結果も残しています。代表のユニフォームを着るようになってから変化したことはありますか?
中澤:19歳以下の代表に選ばれる前は、ただ部活動としてラクロスを楽しみ、練習していただけだったんですが、代表に選ばれてからは、いつも日本代表選手として「見られること」を意識するようになりました。責任のある立場だと思いますし、U19、U20の後も代表に選ばれるように、先輩やチームメートにも認められるようなプレーや行動を意識するようになりました。
――ラクロスは通常10人制ですが、オリンピックでは6人制が採用されます。中澤選手は2022年に6人制の代表に選出されてワールドゲームズに出場(6位)しましたが、10人制と6人制の違いや、個人的なやりやすさについてはどんなふうに感じていますか?
中澤:やりやすいのは10人制で、6人制はまだまだ経験が必要だなと感じます。普段、アメリカの大学リーグでは12人制ですが、10人制だとフィールドの感じも12人制と似ているのでやりやすいんです。ただ、6人制はフィールドがかなり小さくなりますし、特殊な部分が多いので慣れが必要です。
父の背中から学んだリーダー像
――香港で行われた昨年8月のU20世界選手権ではキャプテンとして、日本で女子競技初の銅メダルに貢献しました。中澤選手は大会ベスト10にも選ばれましたが、中心選手、そしてリーダーとしてどのようなことを心がけていたのですか?
中澤:今まで私が見てきたキャプテンの方々と同じように振る舞うことはできなかったと思いますが、自分なりにキャプテンとして大切にしていたことは、ゲームの中で、全員としっかりコミュニケーションを取ることです。チームで一番年下の選手は16歳と若かったので、その子がプレーしやすいように考えながら、チーム全体のモチベーションを上げられるように意識していました。
――意志的な話し方からもリーダーらしい雰囲気が伝わってきますが、そういう資質はもともとあったのか、それとも周囲の影響が大きかったのですか?
中澤:小さい頃から、父がチーム(横浜F・マリノスや日本代表)でキャプテンをしている姿を見ていた影響はあると思います。私の中で、リーダーやキャプテンは「みんなを支えながらチームを勝ちに導ける人」というイメージがあります。言葉で引っ張っていくことも大切だと思いますが、自分自身のプレーで示して、チームを支えながら引っ張っていけるような存在になれたらと思います。

トップ4の壁を打ち破って目指す「頂」
――2026年夏に日本で行われる女子世界選手権は、1997年以来2回目の日本開催となります。代表に選ばれれば日本で臨む初の国際大会となりますが、どんなことが楽しみですか?
中澤:アメリカのルイビル大のチームメートはあまり日本のことを知らない選手も多いので、「2026年は、日本で世界大会が開催されるから絶対にきてね!」と宣伝しています。日本でプレーしている選手や、友人、お世話になった関係者の方々も見にきてくださると思うので、出場したいですし、どんな雰囲気の中でプレーできるのか想像するだけで本当に楽しみです。
――現在日本は世界ランキング5位で、十分にメダルの可能性もあると思いますが、トップ4の国々を超えていくためにはどんなことが必要だと思いますか?
中澤:アメリカ、カナダ、イングランド、オーストラリアの4カ国は、体格が良くて強い選手が多く、フィジカル面では日本の選手はどうしても負けてしまう部分があるので、日本の強みである技術面をさらに成長させていく必要はあると思います。日本人は小さい選手が多いですが、その分、瞬発力や俊敏性で相手を上回ることが多いのでその強みを生かしつつ、チームとしての技術面、コンビネーションにも磨きをかけていけば、トップ4を倒せるようになると思います。

「姉と一緒に」2026年のワールドカップを目指して
――2028年のロサンゼルス五輪で追加競技として正式競技に採用されることになり、日本開催の世界選手権に続いて大舞台が待っていますが、大会に向けたメンバー入りへの争いも含めて、現段階ではどのようなイメージを描いていますか?
中澤:どんな練習や試合、大会でも、常に自分のベストを尽くすことを大切にしています。その結果、代表に選出されなくても、ベストを尽くすことで他の選手たちに刺激を与える存在になれたらいいと思いますし、選出された時には持てる力を出し切って勝利やメダル獲得に貢献したいです。そして、日本代表をもっと強くして、多くの方にラクロスを見ていただきたいですし、応援していただけるようなチームにしていきたいです。
――その意味では中学生の頃からともにプレーしてきたお姉さんのこころ選手も良き仲間でありライバルだと思いますが、ともに成し遂げたいことはありますか?
中澤:姉とは世代別代表では一緒にプレーしたことがあるんですが、10人制のフル代表でプレーをしたことがないので、2026年の世界選手権では一緒に代表に入って、2人の連携を見せたいですし、メダルを獲得することが目標です。
――中澤佑二さんはプロとして20年間、代表でも2度のワールドカップと1回のオリンピックに出場しましたが、中澤選手はラクロス選手としてのキャリアをどんなふうに描いていますか?
中澤:まず、今在籍しているルイビル大学での残り2年間で、ラクロスでも勉強でも成長して結果を残したいと思っています。2026年に日本で行われる世界選手権では4強を倒してメダルを獲得して、そこで得たものを3年後のロサンゼルス五輪につなげられたらと思っています。その大きな目標のために、まずは日々、目の前の練習や課題を一つ一つ、丁寧にこなしていくつもりです。
――生でラクロスの試合を見ると、激しいコンタクトプレーやスピーディな展開に思わず見入ってしまう方も多いと思います。オリンピックに向けて注目される機会も増えると思いますので、最後に意気込みや楽しみ方をお願いします!
中澤:大学のSNSでは、試合のゴールシーンやハイライト、プロリーグやNCAAの試合はYouTubeで見られますので、見ていただけたら競技の面白さを感じていただけるんじゃないかと思います。
今年は8月に中国(成都)でTHE WORLD GAMES SIXES女子日本代表の大会があり、来年2026年は、女子世界選手権が日本で開催されるので、メダル獲得を目標に頑張ります!ぜひ応援よろしくお願いいたします。
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<了>
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[PROFILE]
中澤ねがい(なかざわ・ねがい)
2003年11月12日生まれ、神奈川県出身。ラクロス女子日本代表。ポジションはミッドフィールダー(MF)。165cm/57kg。2歳年上の姉・こころの影響で中学1年生の時にラクロスをはじめ、日本大学高等学校を卒業後、姉と同じアメリカのルイビル大学に進学。NCAA最高峰のD1でプレーし、チームの大黒柱として活躍中。2019年U19世界選手権(10人制/5位)に15歳で出場(当時最年少)。2022年のワールドゲームズ(6人制/5位)や2024年U20世界選手権(10人制/3位)などに出場。今年1月のアジア・パシフィック選手権(10人制)に出場し、5試合で決勝を含む7得点を決め、優勝に貢献した。2026年に日本で開催される世界選手権、28年のロサンゼルス五輪を目指す。
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