
ファンが選手を直接支援して“育てる”時代へ。スポーツの民主化を支える新たなツール『GOATUS』とは?
長らく続いた野球とサッカーの2大リーグ時代が終わり、日本のスポーツクラブを取り巻く環境は劇的に変化している。Bリーグ(バスケットボール)の台頭、男女ともに人気競技であるバレーボールでは、トップリーグをSVリーグに改称し組織改編、プロ化に舵を切った。リーグワンを発足させたラグビーや卓球のTリーグなど日本のスポーツクラブは増加の一途をたどっている。一方で、どのリーグでも課題に挙げられているのが収益化の問題だ。スポーツの成長産業化は行政も取り組む課題だが、多層化しているスポーツクラブにおいては、“支え方”もまた、多様化しつつある。
NTTデータ関西が昨年12月にローンチした『GOATUS(ゴータス)』は、ファンの思いや「応援の力」をダイレクトにアスリートやクラブに届けるコミュニティプラットフォームだ。誰もが参加でき、支えることができ、そして恩恵を受けられる、新しいスポーツのあり方をつくるアスリートとファンの関係性とは?
(文=大塚一樹、写真提供=ヴィアティン三重)
メジャー競技、ビッグクラブだけじゃない。多様化時代のクラブのあり方
昨年創設90周年を迎えたプロ野球、5月に33年目を迎えるJリーグが2大プロスポーツリーグとして君臨してきた日本のスポーツ界は現在、多様化の時代を迎えている。“第三勢力”としてバスケットボールが各地のアリーナに人を呼び込み、根強い人気を誇るラグビー、男女ともに人気スポーツであるバレーボール、卓球など、かつては実業団チームとして企業が支えていたスポーツでも、トップリーグの改革が進んでいる。
メジャー競技、全国区の知名度を持つビッグクラブから、特定の企業を母体としない地域密着型のクラブまで、日本のスポーツクラブは多彩な層で構成されるようになった。
大企業がクラブを所有するプロ野球、地域密着を掲げ複数企業支援方式を財政基盤とするJリーグのほかにも、所属選手が副業としてプレーするセミプロ型クラブや、地元企業と市民の支援を基盤とする地域密着型クラブなど、経営形態はさまざまだ。
スポーツの民主化を支える『GOATUS』とは?
NTTデータ関西が開発した「GOATUS(ゴータス)」 はスポーツクラブの規模にかかわらず、アスリートやクラブとファンや企業をダイレクトにつなげるスポーツコミュニティプラットフォームだ。
クラブ運営の多様化が進む中で、クラブの課題は所属するリーグの状況、クラブの財政状況や運営方法によってそれぞれ異なるが、熱心なファンの熱量をなるべくダイレクトに、そして有効に活用したいというのは共通の思いだろう。
GOATUSは、ファンが選手を“直接応援”できるコミュニティプラットフォームだ。GOATUSを介して、チーム・個人を問わず、アスリートはタイムライン投稿で日々の挑戦を共有し、ファンは「エール(都度課金)」や「パーソナルスポンサー(定額ギフティング)」という形で支援できる。さらに、ファンが撮影した写真や記事を選手ページに投稿できる“プロデュース機能”も備え、従来のSNSによる交流よりも一歩進んだ双方向コミュニケーションを提供している。いいねやフォローといった従来の“共感”から一歩進んで、感動体験のシェアだけでなく、同時に経済循環をデジタルで実装したサービスだ。
アスリートがダイレクトにファンとつながれる仕組みは、スポーツをする、見る、支えるの区別なく、双方向で競技レベルや年齢、性別、経済力、地域などにかかわらず、誰もが参加し、支え、恩恵を受けられるものにする、つまりスポーツを民主化する最初のステップともいえる。
「応援が選手の力になる」ヴィアティン三重の場合
そんなGOATUSをいち早く導入し、ファンとダイレクトにつながることの効果を実感しているのが、ヴィアティン三重女子バレーボールチームだ。
JFLに所属するサッカークラブをはじめ、男女バレーボールやバスケットボール、ハンドボールなど十種を超える競技チームを有するヴィアティン三重は、“プロスポーツクラブ不毛の地”三重県にあって、競技の垣根や世代を超えてスポーツで地域をつなげる総合スポーツクラブとして特徴的な取り組みを数多く行っている。
ボランティア組織「ORANGE+」と協働してイベントを運営したり、地域のイベントやお祭りに選手が積極的に参加するなど地元に根ざした活動を打ち出しているヴィアティン三重は、スタジアムグルメや地元商店街で使用できる独自通貨「ヴィアコイン」を発行するなどユニークな施策でも知られる。
従来から選手のSNS活用に積極的だったヴィアティン三重の女子バレーボールチームが、GOATUS参加を決めたのは、サービス開始前の告知段階でのことだった。
GOATUSのサービス内容を知った西田誠監督が、「選手たちの支援につながるのではないか」と興味を持ったのがきっかけだった。
「選手には従来からSNS発信を促してきました。XやInstagramでの発信がクラブの知名度向上につながり、選手自身にとってもファンからの認知度向上、応援を直接感じてもらえるツールとして活用すべきだと話していたんです」
一般的には監督の仕事といえば、チームの勝利や成績を請け負うのが主となるが、予算や人員も最低限というヴィアティン三重では、監督の担う役割はコートの中に留まらない。
日中、さまざまな職場で働き、夕方から練習、週末などの試合日は選手としてプレーする、半ばアマチュア待遇の選手たちと一緒に上を目指すためには、バレーボールの技術だけでなく、クラブ運営の盛り上げ、モチベーション維持などさまざまなことをケアしなければいけないのが実情だ。
「GOATUSのように、“ファンに向けたメッセージ”を届けられる仕組みは選手にとって自分を知ってもらうツールとしてすごくいいと思ったんです。さらにファンの人の思いがギフティングという形で収入にもなる」
ファンエンゲージメントは“いい選手”の新基準
西田からの報告を受けて、GOATUSへの参加を決めたのが、椎葉誠常務取締役だ。
椎葉はGOATUSの特徴について、アスリート個人への支援につながりやすい点を挙げた。
「ヴィアティン三重では、選手のがんばりが報われるべきだと考えています。アスリート支援コミュニティは他にもありますが、GOATUSは、ファンとのつながりを可視化し、アスリート個人に対して直接的な支援を行う仕組みだと感じました」
クラブの収益ではなく、選手個人の収益へ。従来のスポーツでは、選手の評価は成績や結果、試合での貢献度によって測られるのが常だった。しかし、熱量の高いファンを多く抱え、観客動員に影響力を与えたり、グッズの売り上げに貢献する選手もまた、クラブに必要とされる存在として評価されるべきという考え方もある。
ファンと双方向で関係性を深めることは、クラブにとっても有益。「声援」だけでなく「支援」を生み出す選手はファンエンゲージメントを深める機能を自ら買って出てくれていることになる。
「クラブへの貢献もそうですが、そこは自分たちフロントの仕事。選手たちには個々で培ったものを今後も生かしてほしいと思っています。例えば選手個人のファンが移籍しても追いかけて応援する。これは素晴らしいことだと思っていますし、そのときに途切れないプラットフォームなら持続性があると思ったんです」
2024年12月のサービス開始時、シーズン中という導入の難しい時期にもかかわらず、募集をかけると男女あわせて5人の選手が真っ先に名乗りを上げた。ポジティブな手応えは瞬く間にチームに広がり、登録選手は増加していった。
“顔が見える応援”が選手を動かす
大学を卒業し、昨季からチームに加わった森谷友香選手は、GOATUS運営も注目するほどコミュニティを活用している好例だという。
「SNSでの発信は、もともとやっていたのですが、GOATUSでは、名前と顔が見えることで、応援の重みが数字以上にリアルになるんです。バレーボールのこと以外のことも投稿したりしていますが、自分を知ってもらう機会になっていると思います」
バレーボールに限らず多くの競技では、一般知名度が高い一部のスター選手以外は、そもそも「知ってもらう機会」が圧倒的に少ない。地元のクラブだし応援するかと思っても選手の情報は限られていて、勝敗やプレー以外に感情移入できるきっかけもないのが現状だ。
GOATUSでは、投稿を通じて選手の経歴や人となり、プレーの背景にあるものを感じ取ることができる。森谷選手であれば介護職との両立に奮闘する姿、職場で支えられている姿やそれに対する感謝など、自身の言葉で語られる言葉や日常が垣間見える写真によって、バレーボール選手という肩書の奥にあるストーリーが補強されていく。
一人ひとりの思いが選手を支え、地域を変える時代へ
GOATUSが目指しているのは「深さのあるエンゲージメント」だ。大量のフォロワーや拡散力よりも、個々のファンとの信頼関係を重視し、そのつながりがやがて大きなものになっていく。
「パーソナルスポンサー」機能では、月額で選手を支援したファンが、限定コンテンツや交流機会を得ることができる仕組みが用意されている。配信界隈ではお馴染みの“投げ銭”に似た仕組みだが、ファンとのつながりが新たな収益を生み、アスリートの遠征費・用具購入などにも直結する可能性を秘めている。
NTTデータ関西がGOATUSを開発した背景にはメンバーの、「社会に根差し、幸福度を高めるスポーツの力を最大化する」という想いがある。GOATUSは、単にファンが集うコミュニティではなく、使い方次第ではクラブ、アスリートとファン、地域の企業や地域社会全体をつなぐ“共創プラットフォーム”としても機能し得る。
防災から教育、スマートシティまで幅広い公共DXを手掛けてきたNTTデータ関西は、「誰もが幸せに暮らせる持続的な社会」の実現手段として人々の感情を揺さぶり、共感を呼ぶスポーツの力に目を向けた。
一方、多様化する日本のスポーツクラブは、地域を変える大きな可能性を秘めながらも、資金不足など数多くの課題に直面している。
ヴィアティン三重のようなクラブが地域を盛り上げ、地元では全日本の選手を圧倒する知名度を誇る選手が当たり前にいる。そして、その選手たちはファンの熱意を直接支援として受け取り、つながりを強めていく。
スポーツクラブの価値、アスリートの価値を決めるのは、もはやメディア露出やスポンサー規模だけではない。一人ひとりのファンが選手を“育てる”時代が、GOATUSの登場で現実になりつつある。
<了>
GOATUS(ゴータス)
NTTデータ関西が開発、運営するスポーツコミュニティプラットフォーム。アスリートがアカウント上で夢や目標、日常などを発信する投稿機能の他、ファンが行う「エール」や「パーソナルスポンサー」機能でギフティングが行える。さらに、ファンが撮影した写真や記事を選手ページに投稿できる「プロデュース」機能も備え、従来のSNSによる交流よりも一歩進んだ双方向コミュニケーションを提供している。「GOATUS」は、「Greatest Of All Time with US(最高の瞬間をともに)」という言葉に由来する。
公式サイトは【こちら】
https://www.goatus.jp/yell/index.html
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