「夢はRIZIN出場」総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKAが描く未来
身長146センチ、体重45キロ。女子総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKA。リーチも、パワーも、決して有利とは言えない。だが、懐に飛び込むスピードや、狭い隙間に入り込む柔術仕込みの技術で、自分だけの戦い方を築いてきた。ハンデを力に変える知恵と工夫、そして地元・新潟の温かな声援を背に、大きな夢に挑み続けている。「趣味も格闘技」と言い切る視線の先に見据える舞台とは? 強さの定義を塗り替えるファイターの挑戦に迫った。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真提供=Things、本文写真提供=ちびさいKYOKA、DEEP)
新潟2人目の女性プロファイターへ。地元の声援を背に
――2020年11月、北日本アマチュア修斗選手権アトム級で優勝し、プロライセンスを取得されました。新潟県で2人目の女性プロファイターとなりましたが、地元の反響はいかがでしたか?
KYOKA:すごく大きかったですね。友人や知人、道場の仲間など、たくさんの方が「おめでとう!」と祝ってくれてうれしかったです。私は新潟が大好きなんです。自然が豊かで人も温かいし、時間がある時は海にもよく行きます。そんな地元から応援してもらえるのは励みになります。だからこそ、地元に恩返しがしたいという思いも強くなりました。
――プロとして試合に出る今、感じている“厳しさ”と“楽しさ”を教えてください。
KYOKA:プロになると、練習をどれだけ頑張っても結果がついてこないこともあります。週に5~6回は練習しているんですけど、それでも試合では一瞬で負けてしまうことがある。実際、開始数秒でパンチ一発でKOされた選手もいます。いつそうなってもおかしくないのがこの世界です。どれだけ自信を持っていても、結果が出なければ試合が減ってしまうこともあります。それでも、勝てば応援してくださる方が増えて、SNSなどで「応援しています」「次も頑張ってください」ってメッセージをもらうことがあり、それも支えになっています。
――格闘技一本でプロとして生活をするのは大変なことだと思いますが、ちびさいKYOKA選手の場合は?
KYOKA:ファイトマネーやスポンサー様からのサポートはありますが、それだけで生活するのは難しいです。今は所属するSAI-GYM(サイジム)でインストラクターをしながら、昼間は別の仕事もしています。練習と仕事を両立させながら、プロとしての道を追い続けています。
――どのような生活リズムでトレーニングをしているのですか?
KYOKA:昼間は仕事をして、夜はジムで練習しています。曜日によっては昼間にパーソナルトレーニングをして、そのあと夜にまた練習という日もあります。
――オフの日はどう過ごしていますか?
KYOKA:一応、日曜日は体を休めるためのオフにしています。でも、趣味も格闘技なんです(笑)。試合を見るのも大好きなので、自分が出ていない時でもサイジムの仲間の応援に行ったり、RIZINの大会を観戦しに行ったりします。試合そのものが本当に楽しいし、刺激になるんです。

ハンデを力に変える、小さなファイターの戦術と知恵
――トレーニングではどんな工夫をしていますか? 特に体格差をどう克服しているのか気になります。
KYOKA:普段は男性とスパーリングすることが多いので、体格やパワーではかなわないことが多いんです。でも、その分、スピードや体力は私の武器だと考えて、小柄だからこそ活かせる動きや間合いの詰め方を意識して、そこを磨くようにしています。
――リーチの長い相手に対して、どんな時にアドバンテージを感じますか?
KYOKA:リーチでは劣っていても、小柄な分、相手の懐にスッと入り込みやすいんです。たとえば、相手の両足で胴体を固められる場面があって、普通なら体を抜くのがきつい体勢なのですが、私の場合は足が短い分、スペースにうまく体を入れられれば、固められても抜けやすくなります。体を丸めて入っていくイメージですね。狭い隙間にも体を収められるのは、小柄な自分ならではの利点だと思っています。
――ブラジリアン柔術歴は10年とのことですが、格闘技にはどう活かされていますか?
KYOKA:柔術では道着を着て戦うので、組む技術がとても鍛えられます。それが総合格闘技でも役に立っていて、特に相手をコントロールする力には自信があります。総合格闘技は打撃技、寝技、組み技などすべて認められていますが、特に組み技は柔術の経験があるからこそ強みになっていると思います。
――接近戦に強くなるということですか?
KYOKA:そうです。軽量級ではパンチで相手を倒すのがなかなか難しいので、組み技が重要です。体が小さくても、うまく組めば相手を抑え込むことができますし、上を取ってコントロールする場面も増えます。
――試合で注目してほしいポイントは?
KYOKA:やっぱり「小さくても闘える」というところです。体格では劣っていても、工夫と努力次第でそれを武器にできるという部分をぜひ見てもらいたいです。
――苦しい時、くじけそうな時は、何を心の支えにしていますか?
KYOKA:過去の自分の試合映像を見返すことが多いです。私は中学・高校と文化部で、運動経験はゼロでした。そんな自分がここまで成長できたんだなと実感できるのが試合の映像です。「自分がこんなに頑張ってきたんだ」と思えるので、つらい時も自信を持ち直せます。

一戦必勝、その先に見据えるリング
――所属するサイジムではインストラクターもされています。女性の選手は増えていますか?
KYOKA:女性の参加者も増えてきています。女の子もいますが、まだ「プロになりたい」というよりは、フィットネス感覚で楽しんでいる子が多いですね。でも、格闘技の楽しさを知ってもらえることがうれしいです。
――ご自身の目標は?
KYOKA:今は負け越してしまっているので、まずは一つずつの試合を大事にして、目の前の勝利をしっかりつかんでいきたいです。そして、いつかは「RIZIN」に出場するという夢を叶えたいと思っています。
――再戦を希望する選手や、特に意識している選手はいますか?
KYOKA:特にこの選手と戦いたい、という希望はないです。とにかく、目の前の試合に集中して、勝ち続けることでいつか夢の舞台にたどり着けたらと思っています。
――最後に、子どもたちや何かに挑戦したいと思う方たちにメッセージをお願いします。
KYOKA:私は身長146cmで、小中学生と同じくらいの体格です。でも、総合格闘技に夢中になって、自分の中に目標や夢を見つけることができました。小さな体でも挑戦できるという姿を通して、子どもたちに夢や勇気を届けられる選手になりたいと思っています。試合は映像でも観られますが、会場でしか感じられない迫力や空気感もあります。ぜひ一度、会場に足を運んで、生で応援してもらえたらうれしいです。
【連載前編】146センチ・45キロの最小プロファイター“ちびさいKYOKA”。運動経験ゼロの少女が切り拓いた総合格闘家の道
<了>
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[PROFILE]
ちびさいKYOKA(ちびさい・きょうか)
本名は皆川杏佳(みながわ・きょうか)。1997年7月1日生まれ、新潟県出身。総合格闘家。身長146cm、体重45kg。女子総合格闘技「DEEP JEWELS」ミクロ級(44kg以下)を主戦場に活躍。中学時代まで運動経験はなかったが、おじの影響で高校入学前に「SAI-GYM」に入門。2020年アマチュア大会で優勝、翌2021年に“SAI-GYMのチビ”を意味する「ちびさいKYOKA」というリングネームでプロデビュー。通算成績は2勝6敗1無効試合。将来の目標は、総合格闘技イベント「RIZIN」への出場。
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