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バレー・髙橋藍が挑む世界最高峰での偉業。日本代表指揮官も最大級評価する、トップレベルでの経験と急成長
髙橋藍がイタリアのバレーボールリーグ・セリエAで躍動している。所属するモンツァが強豪ペルージャとのプレーオフファイナルを戦っており、現在1勝1敗。25日(日本時間26日)に第3戦を迎える。2021年のシーズン途中にイタリアに渡り、今季で3年目。髙橋は欧州の地でどのような成長曲線を描き、「素晴らしい偉業」に到達したのか――。
(文=米虫紀子、写真=Newspix.pl/アフロ)
髙橋自身も想像していなかったファイナル進出
まさにトップ・オブ・トップを争う戦い。
バレーボールの世界最高峰リーグの一つ、イタリア・セリエAの優勝を決めるプレーオフファイナルで日本人選手が躍動している。日本代表のアウトサイドヒッターで、モンツァに所属する22歳の髙橋藍である。
日本体育大学2年だった2021-22シーズンからセリエAでプレーし、2年間はパドヴァに所属。今季はさらにステップアップできるチームとしてモンツァを選んだ。
昨年10月のパリ五輪予選で五輪切符を獲得し、イタリアに向けて旅立つ際、髙橋は今季のイタリアでの目標に、まだ経験したことのなかった「ファイナル8(レギュラーシーズン上位8チームによるプレーオフ)進出」を掲げていた。
「いきなりセリエAで優勝というよりも、まずはファイナル8に残って、そこでどれだけ戦っていけるのか、自分自身がどれだけ力を出せるのか、成長していけるのかというところを経験したい。それが強さにつながっていくと思う」
今季のファイナル進出までは髙橋自身も想像していなかったようだが、モンツァはレギュラーシーズン5位でプレーオフ進出を果たすと、プレーオフ準々決勝でレギュラーシーズン4位のルーベを3勝2敗で破り、ベスト4進出。日本代表で主将を務める石川祐希が所属するミラノも昨季に続いて準決勝進出を果たしたため、セリエAのベスト4に日本人選手が2人揃った。
2人がファイナルで対戦するという夢も膨らんだが、ミラノは準決勝でペルージャに敗れ3位決定戦へ。一方モンツァはレギュラーシーズン1位のトレンティーノと対戦し、2連敗からの3連勝でファイナルに進出。日本人選手がセリエAのファイナルに進むのは、トレビソに所属した加藤陽一氏以来19年ぶりのこと。 現在行われているファイナルでは、レギュラーシーズン2位で、今季すでに世界クラブ選手権やコッパ・イタリアを制している強豪ペルージャを相手に1勝1敗。その中で髙橋はモンツァの中心選手として重要な役割を果たしている。イタリアでのこの3年間の驚異的な成長が、チームを支えている。
イタリアで示した高い技術と勝負強さ
髙橋の最大の武器であるサーブレシーブと守備は、18歳で初めて日本代表に招集された時から高く評価されており、19歳でレギュラーとして出場した東京五輪では、その持ち味をいかんなく発揮して日本をベスト8に押し上げた。一方で攻撃面については髙橋自身、世界を相手に経験を積む必要性を痛感し、そのシーズンからのイタリア挑戦を決めた。
ただ1年目はシーズン途中からの参戦だったこともあり、出場機会は限られた。それでも守備力は高く評価され、終盤戦はリベロとして起用された。2年目はレギュラーをつかむため、大学の試合には出場せず、セリエA開幕前にパドヴァに合流し、レギュラーとしてシーズンを通して活躍。日々高いブロックと対峙し続ける中でスパイクの技や状況判断力を磨き、得点を奪う選択肢が格段に増えた。サーブも、ショートサーブなどのバリエーションや精度、威力が増し、ブレイクにつなげる場面が多くなった。
イタリア3年目の今季、モンツァでチームメイトになったブラジル代表セッターのフェルナンド・クレリング(カショパ)はこう語っていた。
「代表でも対戦したことがあるけど、彼はこの2シーズンですごく進歩している。彼はナイスガイで、アメージングプレーヤー。テクニックが素晴らしい。彼のような選手とプレーするのは自分にとって楽しいし、簡単。なぜかというと、僕のトスが悪くなってしまった時も彼はカバーする方法をたくさん持っているから」
高い技術とともに、勝負強さも備わっている。今季のプレーオフでも、セット終盤や競り合いで強さを発揮している。
2勝2敗で迎えたトレンティーノとの準決勝最終戦はフルセットまでもつれたが、第5セットの15-15の場面で、髙橋がレフトから2連続でスパイクを決めきりファイナル進出を決めた。
ペルージャとのファイナル第2戦も、セットカウント1-2と追い込まれていたが、第4セット中盤、相手を前後に揺さぶり2連続でサービスエースを奪ってチームに流れを引き寄せると、そのセットの24、25点目を決めてフルセットに持ち込む。第5セットのマッチポイントでも最後の1点を決めきり、勝利をもたらした。
チームメイトの信頼を勝ち得て成した「素晴らしい偉業」
セッターや周囲から信頼を得られているのは、プレーだけでなく、コミュニケーション力にも長けているからだ。
1年目は言葉に苦労したが、そこで自分の殻に閉じこもるのではなく、チームメイトとの会話の場に身を置き続けた。以前、髙橋はこう語っていた。
「イタリアの人たちは話すのが大好きなので、夜のディナーにかける時間がすごく長かったり、ランチに行っても、日本だと夕方からも練習があるからってパッとすぐに食べ終えるんですけど、イタリアでは食べ終わってからもコーヒーを飲みながら1時間ぐらい話していたりする。最初の頃はそれが結構苦痛で、『帰りてーのになー』とか思っていました(苦笑)。でもそういう場で周りが話しかけてくれたので、結構英語力やコミュニケーション能力が伸びたんじゃないかなと思うんです」
臆せず自分から話しかける努力もした。今では、モンツァのチームメイトが「彼はいつもジョークを言って僕らを笑わせてくれる」、「ランチに行った時には、バレー以外にも人生やキャリアのこと、家族や友達についても話すよ」と語るほど、チームの輪の中心にいる。
バレーも生活も、海外での経験をすべて自分の力に変えて、誰もが驚くスピードで成長し、頂点をつかむチャンスを手にした。
今夏のパリ五輪を前に、そんな髙橋の姿を日本代表のフィリップ・ブラン監督も頼もしそうに見つめ、「素晴らしい偉業だ」と讃えた。
今年度の代表合宿はすでに始まっており、パリ五輪でのメダル獲得に向けて、代表監督としては海外でプレーする選手にも早く合流してほしいという思いがあるため「ちょっと複雑だけど」と苦笑しながらも、こう話す。
「チャンピオンになるためにプレーする時間は重要。彼はモンツァのキープレーヤーになっている。サーブレシーブ力でカバーし(対角を組むスティーブン・)マーを活かしているし、サーブやブロック面でも進歩している。トップレベルの試合でプレーすることは非常にいい経験になっていて、それはオリンピックにも活きる。だから私はハッピーだし、ポジティブに捉えている」
クラブ初のセリエA優勝を勝ち取るための、1点1点のヒリヒリするような攻防が、すべて髙橋の血肉となっていく。
<了>
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