[バレー]大塚達宣・ラリー、大学生Vリーガー躍動で新風。若手強化のため求められる枠組みとは
バレーボール界での成功を目指す学生選手にとって、新たに「大学に在学しながらVリーグでプレーする」という選択肢が加わった。2021-22シーズン、V.LEAGUE DIVISION1(V1)男子のパナソニックパンサーズの主軸を担った2人の大学生。新人賞にも輝いた大塚達宣とエバデダン・ラリーの存在は、今後の若手選手強化においてどのような影響を与えるのだろうか。
(文=米虫紀子、写真提供=パナソニックパンサーズ)
パナソニックが実践した“初めての試み”
大学生の成長速度の凄まじさを、2人は3カ月間でまざまざと見せつけた。2021-22シーズン、V1男子のパナソニックパンサーズでプレーした早稲田大の大塚達宣と、筑波大のエバデダン・ラリーである。
昨年12月、大学3年生だった2人が今シーズン、パナソニックでプレーすることが発表された。今年2月には、高松工芸高3年で、4月から筑波大に進学することが決まっていた牧大晃の入団も発表された。
牧は試合出場の機会はなかったが、大塚とラリーは、主力としてパナソニックのファイナルステージ進出(レギュラーラウンド3位以上)に大きく貢献した。
これまで、卒業後に入団することが決まっている大学4年生や高校3年生が内定選手としてリーグに出場するケースはあったが、大学1〜3年生や、大学に進学予定の高校3年生がV1のチームに加入するのは初めての試みだった。
清水邦広、福澤達哉からの「Vでできたら一番いいよね」という言葉
昨年、大学3年で東京五輪を経験したアウトサイドヒッターの大塚は、その後、自らアクションを起こした。
大塚は2020年に初めて代表合宿に参加して視野が広がり、さらに高みを目指したいという欲が高まった。だが大学では、12月の全日本インカレが終わると4月の春季リーグまで公式戦がない。昨年の冬場は実戦から遠ざかり、冬場をどう過ごすかという課題に直面した。
まず考えたのが、日本代表の主将・石川祐希が中央大在学中にしていたように、冬場に海外リーグで経験を積むことだった。実際この冬、東京五輪メンバーの髙橋藍は大学2年でその道を選び、イタリア・セリエAでプレーした。
しかし大塚にとって海外は難しかった。
「教職課程を取っていることもあって、あまり授業から離れられないですし、チームの中心として、4年生になるこのタイミングでチームから離れすぎるというのも、ちょっと心苦しいところがあって……」
ただ、前例がなかったこともあり、当初は在学中にVリーグでプレーするという選択肢はまったく思い浮かばなかった。Bリーグには学生を登録できる「特別指定選手」という制度があり、バスケットボール部の同級生がその制度を利用してBリーグに参戦している姿をうらやましい思いで見ていた。
だが昨年の代表期間中、パナソニックに所属する清水邦広や福澤達哉(昨年7月に現役を引退)と話をする中で、「Vでできたら一番いいよね」という言葉にハッとさせられた。
「本当にそやな!と思いました。Vリーグにも、例えばパナソニックの(ミハウ・)クビアク選手など、世界でもトップクラスの外国人選手がたくさんいるので、その中でプレーさせてもらえたらすごくいいなと。自分からどんどんアクションを起こすべきだと思ったので、大学に戻った時、松井(泰二)監督に、この冬はそういう形で挑戦したいという意志を伝えました」
大学にとっては、冬場とはいえ中心選手が抜けるのは痛手なはずだが、松井監督は「わかった。あとはこちらに任せて、達宣はプレーに集中してくれたらいいから」とサポートを約束してくれた。新たなチャレンジが動き出した。
大学生選手に加わった新たな選択肢
一方のラリーは、昨年12月の全日本インカレの後、筑波大の秋山央監督に「こういうチャンスがあるんだけど、やってみるか?」と打診された。ラリーはこう振り返る。
「大学では副キャプテンという立場でもあるので、大学に残るか、こっち(パナソニック)にくるか、葛藤はありました。でも秋山さんに言われたとおり、チャンスだと思った。在学中にVリーグの選手たちと一緒に練習できる機会があるなら、トライしてみたいなと思って、お願いしました。秋山さんも『自分もそういうことをしたほうがいいと考えている人間だから。日本もそういうことをしていくべきだと思う』と賛成してくれました」
海外の選手は10代の頃からプロリーグでもまれ、はい上がっていく。その点、日本は大学年代の強化で遅れをとってきた。
石川が大学生でセリエAに挑戦したり、西田有志が高校卒業後、大学に進学せずVリーグのジェイテクトSTINGSに加入してプロになり、今季はセリエAにステップアップを遂げるなど、道を切り開いてきたが、そこに「大学に在学しながらVリーグでプレーする」という新たな選択肢が加わった。
大塚達宣の加入でチームの勝率は大幅に上がった
大塚、ラリーの2人は1月にパナソニックに合流。大塚はすぐにVリーグデビューを果たし、先発で起用されるようになった。
大塚は、パナソニックのホームである大阪府枚方市出身で、パナソニックのジュニアチーム“パンサーズジュニア”で育った生粋の地元っ子だけに、憧れのユニフォームを着られることに特別の感慨を抱いていた。
「小さい頃から一番近くで見てきたチームがパナソニックで、中学の時はVリーグの試合でボールリトリバーや床拭きをやるなど関わらせてもらって、『将来こういう選手になりたいな』とずっと憧れていたチームだったので、そのユニフォームに袖を通してプレーできるのは本当にうれしいこと。僕が今こうしてやっている姿を、今のジュニアの子どもたちが見て、『自分もこうなりたい』と思ってくれたらうれしいですね」
東京五輪では出場機会に恵まれなかったが、Vリーグの舞台でその力を存分に見せつけた。
身長194cmは日本のアウトサイドの中では大型だ。しかも攻撃やブロックだけでなく、サーブレシーブ、ディグという守備面のスキルも非常に高い。Vリーグは年々サーブのレベルが上がっており、トップレベルの外国人選手もそろっているが、その中に入ってもサーブレシーブが大崩れすることはほとんどなかった。デビュー当初から攻守ともに安定した数字を残し、1月以降チームの勝率は大幅に上がった。
しかも試合を重ねるごとに、目に見えてプレーの精度と安定感が高まっていった。若さや勢いというより、ベテランのような落ち着きを漂わせ、勝負どころで託されるトスも増えていった。
中垣内祐一前日本代表監督は、大塚について「器用な選手。非常に弱点の少ないオールラウンダー」と語っていた。この3カ月間、Vリーグで試合に出続け、特にファイナルステージ進出のかかる熾烈な終盤戦を経験する中で“オールラウンダー”の要素一つ一つがさらに磨かれ、大きくスケールアップした。
「ラリーはビッグ、ビッグサプライズだった」
ラリーは、最初はワンポイントでの起用だったが、徐々に出場機会を増やしていった。初めて試合に出始めた頃は緊張でガチガチだったという。
「足、腰がプルプル震えて……本当に初めて経験する緊張でした。最初のほうは緊張しすぎて記憶がないぐらい(苦笑)。1点の大切さ、1点をムダにしない、そこが大学と全然違います。もちろん大学でも大事にしているんですけど……。アンダーパス一本、オーバーパス一本へのこだわり、『これミスっちゃいけない』というヒリヒリとした空気感。そういうものがすごく伝わってきます。観客の多さとか、そういうものに緊張するというより、チームの雰囲気に圧倒された感じでした」
東京五輪でフランスを初の金メダルに導き、昨季からパナソニックの指揮を執るロラン・ティリ監督は、「ラリーはビッグ、ビッグサプライズだった」と声を弾ませた。
「いくつか大会や映像では見たことがありましたが、実際にプレーを見て、予想以上のポテンシャルの高さに驚きましたし、そのポテンシャルをもっと生かせる、もっと成長できる選手だと感じました」
そのティリ監督からは、スパイクの助走の入り方などを教わった。「こういう入り方をすれば相手がだまされやすいし、セッターは上げやすいし、味方も動きやすい、というようなことを教わって、攻撃の幅が広がりました」とラリーは胸を張る。
途中出場からチャンスをつかみ、3月6日の東レアローズ戦以降は先発起用されるようになった。打数もブロック本数も多くはないが、相手に強いインパクトを植えつけるスピードあふれるクイックや、チームメートも驚く起死回生のブロックを決めるなど、勝負強さを発揮した。
また、高校生の頃から「自分に関わっている人やファンの方々を、一人でも多く笑顔にしたいなという理由でバレーボールを続けている」というラリーにとって、大勢の観客の前でプレーしたり、地元のイベントに参加してホームタウンの人々と触れ合う経験も、非常にやりがいを感じるものだった。
敗戦後、涙を流す大塚とラリーの肩を抱いた、清水の思い
パナソニックはレギュラーラウンド最終戦に勝利して3位に滑り込み、ファイナルステージ進出を果たした。コート内外の経験を通じて目に見えて成長した大学生2人は大きな戦力となっていた。
決勝進出を争うファイナル3では、レギュラーラウンド2位のサントリーサンバーズに5セットマッチで勝利したが、ゴールデンセットの末敗れ、決勝進出はならなかった。
試合後、涙を流す大塚とラリーの肩を抱き、清水が語りかけると、2人は肩を震わせて泣いた。清水は言う。
「ラリー選手、大塚選手の若い力があったからこそ、パンサーズがはい上がってこられた。若い選手たちに勝たせてあげたかったんですけど、年長の僕の力不足をすごく感じました。試合後、2人が泣いていたので、それだけ背負わせてしまっていたんだなと。来年、同じメンバーで戦えるかどうかはわからないですけど、また機会があるなら、伸び伸びやってほしいなと思った。もっともっと一緒に長い時間、ラリー選手の成長を見ていきたいし、大塚選手のこれからのエースの姿というのを見ていきたいと思いました」
試合後、大塚は悔しさをにじませながらも、自信や充実感も漂わせた。
「Vリーグにくると、スピード感や高さ、力強さというものがやっぱり大学と全然違う。それに対して通用する技術、サーブレシーブもディグも、スパイクの打ち方もすべて、このカテゴリーや、今後始まる代表にもつながるような対応を教えてもらった。『あ、こういうふうにしたらうまくいくんだ』ということの繰り返しだったので、毎日やっているのが楽しかったし、本当にこの期間は充実していました。だからこういう舞台(ファイナル3)でも精神的に自信を持ってコートに立つことができました」
この試合がパナソニックのリーグ最終戦となり、大塚とラリーは大学に戻った。
新人賞に輝いた大塚は「ここで学んだことを大学に持ち帰って、自分自身がやっている姿で、周りを引っ張っていきたい。こうしてカテゴリーを超えてやらせてもらったからこそ、ここで感じたこと、学んだことを仲間に伝えることは、使命というか……。自分のプラスにするだけじゃなく、チームにとってもプラスになるように、これからやっていきたいと思います」と使命感を口にしていた。
若手選手のさらなる強化のため求められる枠組みづくり
技術的にも精神的にも大きな成長を遂げた3カ月間。こうした機会を得られる学生が増えれば、その選手の成長だけでなく、その経験や技術を還元された大学のレベルアップにもつながる。もちろんその選手が加入したVリーグのチームは戦力アップができ、リーグの見どころも増える。
ただ一方で、バレー関係者からは「選手の早い時期からの囲い込みにつながる」「資金力のあるチームが有利になる」と危惧する声や、「チームの戦力バランスの均衡につながるシステムならもっと有意義なものになる」「海外に出られるチャンスがあるレベルの、日本を背負っていくようなプレーヤーは海外に出たほうがいい」といった意見もある。
現状、学生の登録に関しては、Vリーグ機構登録規定に「学生の登録は内定選手を除く3名以内」という記載があるだけだ。これまでV1男子では、どのチームもそこには踏み込まなかったが、今季パナソニックがチャレンジしたことで、来季以降、活用するケースは増えるだろう。公平性を高め、選手、リーグ、大学側にとってより良い仕組みとするために、細かいルールづくりが必要だ。
Vリーグ機構の國分裕之会長は、「各チームや大学側と話し合いながら、例えば強化指定選手のようなものを設けるなど、来シーズンに向けて枠組みをつくっていきたい」と語る。
若手強化にとっても、リーグの活性化にとっても意味のある取り組みなだけに、有意義なかたちで続けられるルールづくりを期待したい。
<了>
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