
世界で話題沸騰のパルクール世界女王・泉ひかり、五輪種目の不採用に「正直ホッとした」理由とは?
2024年パリ五輪において、フランス発祥のNEWスポーツして新種目採用が期待されたパルクール。しかし昨年12月に国際オリンピック委員会の発表により、ブレイクダンスが新種目として採用された一方、残念ながらパルクールは採用には至らなかった。そんな中、同種目ワールドランキング1位の実績を持つ泉ひかりは「決まらなくて正直ホッとしています」と語る。日本が世界に誇るパルクールアスリートとして確固たる地位を築く泉は現状の“競技としての”パルクールをどのように冷静に見つめ、今後の普及に可能性を感じているのだろうか。
(文=篠幸彦、写真提供=InterFM897)
記事前編は【こちら】
パルクールするためにデンマークに行きたいと親に話したら…
今月からスタートしたスポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太とスポーツキャスターの秋山真凜がパーソナティを務める新番組だ。今週の「リアルボイス」のゲストは初回放送の先週に引き続きパルクールアスリートの泉ひかりが登場し、大会での賞金やオリンピック種目についてなど、パルクール界のリアルな事情が話題となった。
五十嵐:泉さんはご自身でYouTubeをされていますが、映像を撮ったり、編集したり、全て自分でされているんですか?
泉:そうですね。基本的には自分でやっています。アメリカに留学していたんですが、その時にメディアアーツという映像関係の学部にいて、撮影や編集の勉強をちょっとしていました。
五十嵐:留学は何歳から何歳までしていたんですか?
泉:高校を卒業して、二十歳から正規留学で短大に2年半留学していました。
五十嵐:前回のお話でもそうでしたが、いろいろなところにアクティブに行動するのが好きですよね。全部一人でやっているわけですよね?
泉:基本的にやりたいなとか、行きたいなと思った場所を自分で調べて「これくらい費用がかかるんだ。じゃあこれまでに準備するか」という感じで計画を立てて、勝手に行くみたいなことをしていますね。
それに対して親も特に反対をしなくて、留学する前に友達が留学しているデンマークにパルクールするために行きたいと親に話したら「うん、行ってくれば」みたいな。でもその頃は全然英語がしゃべれなくてデンマークに行ったらカードが使えない、お金が使えない、携帯の電波もつながらないと大変でした(笑)。
五十嵐:子どもの頃からそういう「どうにかなるからやっちゃえ!」みたいな感じだったんですか?
泉:自分としては「どうにかなるからやってみよう」という感じではないんですよね。計画を立ててちゃんとやっているつもりなんですけど……。
五十嵐:結果的にね(笑)。
泉:そうです(笑)。結果的にどこかでやらかしたりとか、どこかで重大なミスをしてどうしようってなることはありますね。
五十嵐:さっき「コンビニに買い物に行きましょうか」となった時に一緒だったんですよ。スタジオに出入りするために必要な入館証があるんですけど、スタジオを出る時に「わたし入館証忘れました。取りに行かなきゃ!」と言っていたら首から下げていたということがありました。うっかりしているところがあるんだなと。なんかつながりましたね(笑)。
お金を稼ぐより、好きなことをいろいろな国でできる喜び
五十嵐:パルクールの大会は優勝した時の賞金などはどのくらいなんですか?
泉:大会によってピンキリですね。そもそもパルクールは競技というよりトレーニングカルチャーなので、みんなで集まれるイベントという感じの大会が昔は多かったんです。もちろん、大会なので順位をつけたり、採点をつけて「誰々が優勝!」という盛り上がりはあるんですけど、パルクールが見られて楽しい、みんなで練習ができて楽しいというのがメインなんです。
だから賞金もなく、スポンサードしているパルクールジムのグッズやパルクールの関連商品がもらえる大会だったりします。最近になって(FIGパルクール)ワールドカップなど大きな公式大会が出てきて、そこでは優勝賞金100万円とか、130万円とかもらえます。ただ、賞金が出る大会というのは、まだそこまで多くないですね。
五十嵐:じゃあお金を稼ぐためにやっているというよりは、自分が好きなことをいろいろな国でできるというそっちの喜びが強いスポーツになってきますよね。
泉:そうですね。いろいろなところに自分で赴くのもいいんですけど、大会に行けばさまざまな国からいろいろな人が集まって、交流できたり、各地のパルクールの情報を共有できたり、練習や動きを共有したり。そういうのが楽しくて集まっている人たちも多いと思います。
秋山:それでも泉さんはワールドランキング1位ですからね。
五十嵐:そうですよね。こんなフワッとした雰囲気なのにワールドランキング1位というのはすごいですね。
泉:自分でも実感が湧いていないですね(笑)。
海外では学校教育や老人ホームでもパルクールを取り入れている
秋山:パルクールは世界大会も開催されて競技人口は多いイメージですが、実際はどれくらいいるんですか?
泉:パルクールの競技人口って計りづらいところがあるんです。けっこう派手な動きをしているものだと思われがちなんですけど、細かい動きでもあって自分で自分の能力を見極めながら「ここまでジャンプしよう」とか、「ここを乗り越えられるようにしよう」とか考えながら動いている時点でもうパルクールなんですね。
五十嵐:僕が思っていたパルクールという競技はもっとアクロバティックで難しくて、素人では手に届きそうもない動きをするんだろうなというのがあったんですけど。今回お話を聞いて、その辺をこうやったら楽しそうだなとジャンプするだけでもパルクールとなるんだったらすごく幅広いですよね。子どもでもできるし、お年寄りのリハビリにもできるんじゃないですか?
泉:海外だと学校の教育とかでパルクールを取り入れていたりとか、老人ホームのリハビリで使われていたりとか。やっぱりメディアで取り上げられるパルクールは、どうしてもエンターテイメントやパフォーマンスとしてのパルクールのほうが多いので。
五十嵐:そっちのイメージが強いですよね。
泉:実際はアクロバットを一切しないパルクールをする方もいます。私が好きなのは移動系のパルクールで、いかに滑らかにAからBに行けるかという感じですね。純粋にトレーニングとしてジャンプ力がどこまで伸びるか、それをきれいに着地できるかを極めている人もいます。
もちろん、アクロバット系の魅せるパルクールが好きでやっている人もいますね。今挙げた以外のパルクールもたくさんあるので、やりたいと思った時に「自分はできないかも……」と思うんじゃなくて、できることからやっていけば「あれもできるかもしれない」と目標がどんどんできて誰でも楽しめると思っています。
パルクールのオリンピック種目はまだ難しい
五十嵐:今後パルクールはオリンピック種目に入ってくるんですか?
泉:2024年がパルクール発祥のフランスでのオリンピックじゃないですか。だから採用されるんじゃないかと期待されていたんですけど、採用にはなりませんでした。
五十嵐:見送られたんですね。もしオリンピック種目になったらメダルもイメージできてきますよね。
泉:自分の中でパルクールが競技として成立しているかといわれるとまだちょっと怪しいと思っています。スピードランに関してはすごくわかりやすいと思うんです。でもフリースタイルの採点基準がまだまだ難しいものがあります。(オリンピック種目に向けて)整っていくものだろうなと思っていたんですけど現状まだ整い切っていない状態なので、オリンピックに決まったらどうなるのかなと思っていました。決まらなくて正直ホッとしています。
五十嵐:卓球や硬式テニスで「勝つためにこれをしなさい」と言われることに違和感を覚えていたというのは前回のお話でありましたよね。これがオリンピック種目になると、勝負に近い雰囲気になってくると思うんですけど、そこはどうですか?
泉:競技面が整っていくことによって、勝つことを求められるようになってきますよね。私はこれから先も自分の中でベストを尽くせればそれでいいと思うんです。1位だろうが、最下位だろうが、自分が納得する動きができているかが全てだと思うので。でもそうじゃなくなってきた時にどう思うのかは不安なところがあります。
五十嵐:そうですよね。オリンピックになってくると「泉選手の金メダルに期待です」とか、そういうプレッシャーにもなってきます。でもそうなればまた心境も変わってくるかもしれないですね。
日本の街中にもパルクールパークを
秋山:最後にパルクールの環境を良くするために伝えたいことはありますか?
泉:パルクールが誰でも楽しめるものだと知ってもらえればうれしいですね。それで「私もやってみよう」と気軽に始めてもらえたらそれでいいと思っています。
五十嵐:場所作りもできたらいいですよね。日本では街中ではなかなか難しいということですが、森の中でもできるわけですよね。そういうことも普及していけば魅力は広がっていきますよね。
泉:海外では街を歩いていると「パルクールパーク」というものがあって、スケボーパークみたいなイメージですね。それが普通の公園のようにあるんです。日本では公園の遊具が撤去されたり、外遊びに対する風当たりは強くなっているとは思うんですね。
でも外で遊ばなければ自分がどれだけ跳べるのか、どれだけ動けるのかわからなくてケガをする子どもって増えちゃうと思うんです。それは体を動かしながらでしか学べないところだと思うので、公園で使える遊具が増えてくれたらいいなとか、パルクールパークみたいな外でも動ける場所ができたらいいなとか考えますね。
五十嵐:いいですね。泉さんが設計したパルクールパークでパルクールやりたいですよね。
秋山:やってみたいです。お話を伺っていたらできる気がするというか、そんな難しいバク宙とかできなくていいんだなって。
五十嵐:本当にそうですね。体のためにもいいし、脳の刺激にもいいと思うんですよね。子どもからお年寄りまで楽しめるスポーツとして広げていきたいですね。
<了>
【前編】1000万回再生「忍者女子高生」が世界一へ。泉ひかりがパルクールに取り憑かれた“リアル”とは
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InterFM897「REAL SPORTS」(毎週土曜 AM9:00~10:00)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜
2019年にスタートしたWebメディア「REAL SPORTS」がInterFMとタッグを組み、4月3日よりラジオ番組をスタート。
Webメディアと同様にスポーツ界やアスリートのリアルを発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。
放送から1週間は、radikoにアーカイブされるため、タイムフリー機能を使ってスマホやPCからも聴取可能だ。
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