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ハンドボール最高峰の地で進化続ける吉田守一。監督交代劇を乗り越え、パリでメダル目指す彗星JAPANの現在地
今年7月のオリンピックでメダルを目指すハンドボール男子日本代表。その守備の要として期待されるのが、ピボットを務める吉田守一だ。海外挑戦4年目で今季は最高峰のフランスリーグで1シーズンを戦った吉田は、ステップアップのスピードを緩めることなく、来季は強豪・ナントへの移籍も決定し、目標としてきたFHFチャンピオンズリーグ出場に大きく前進した。代表では、大会まで半年を切った今年2月に、2017年から指揮を執ってきたダグル・シグルドソン監督が急きょ辞任し、2017年以来となるカルロス・オルテガ監督の再就任が決定。「すごく緻密な戦術を用いる監督」と、吉田も期待の高さを口にする。自身2度目のオリンピックへの思いとともに、“彗星JAPAN”の現在地についても話を聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©JHA/Yukihito Taguchi)
フランスリーグの強豪ナント移籍が決定。「やっとスタートラインに立てた」
――吉田選手は来季から、フランス2位のナントに移籍が決まりました。移籍が決まった時の思いを聞かせてください。
吉田:EHFチャンピオンズリーグが一番楽しみです。国内のフランスリーグだと負けは許されないチームなので、勝利への使命感や危機感もあるでしょうし、トップチームの一員としての自覚を持ってやれるのがすごく楽しみです。チャンピオンズリーグはリーグで2位のチームまで出場権が獲得できるので、ナントは可能性があるチームですし、やっとスタートラインに立てました。今年7月からの2年契約なので、その間に優勝したいですね。
――ナントからはオファーを受けた形だったのですか?
吉田:そうです。今所属しているダンケルクは2年契約だったのですが、小さな街で、自炊しているので日々の生活面で大変なことも多く、移籍を希望していました。その中で、エージェントを通じてナントの話をいただき、ナントが違約金も払ってくれたんです。オファーが来た時はびっくりしましたけど、うれしかったですね。
――1年で強豪クラブへのステップアップをつかみ取ったんですね。高校から競技を始めて4年で代表入り、5年でオリンピックに出場して、海外4年目でトップクラブに移籍と、すごいキャリアですよね。このスピード感は想定内ですか?
吉田:ポーランドで3年プレーした期間が少し長かったので、もうちょっと早くいけたかもしれないとは思いますが、ここからさらにステップアップしていきたいと思っています。
――チャンピオンズリーグという大会を意識し始めたのはいつ頃だったのですか?
吉田:ハンドボールを始めて、海外を意識するようになった大学1年生の頃から、ヨーロッパのチームでプレーし、主力としてチャンピオンズリーグで優勝することが目標でした。日本人選手では安平光佑がすでに出ているので(※編集部中:2022年にポーランドのプウォツクで同大会に日本人として初めて出場した)、2人目になれるといいなと思っています。
――選手なら誰もが憧れる、最高峰の舞台なのですね。吉田選手は「ハンドボールをもっとメジャーにしたい」とも発言されていますが、そのために必要なことはなんだと思いますか?
吉田:ハンドボールのトップレベルはヨーロッパなので、そこで活躍して日本人の評価を高めたいという思いがあります。日本の環境をヨーロッパと同じぐらいに上げようとすると、それなりに時間がかかると思うので、まずは代表が結果を出すことで流れを作れたらいいなと思っています。
――そのために求める「結果」は、個人と代表ではそれぞれどのような大会ですか?
吉田:個人ではチャンピオンズリーグ優勝で、代表は世界選手権とオリンピックのどちらかでメダルを取ることです。
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突然の監督辞任で激動の数カ月。パリ五輪初戦で「恩返ししたい」
――パリ五輪予選では、安平選手とともに攻守でチームを牽引しました。今年1月のアジア選手権でも20年ぶりの準優勝という結果を残しましたが、2月にはダグル・シグルドソン監督の辞任が発表され、カルロス・オルテガ監督の就任が決まりました。前監督が急きょチームを離れることを知った時はどんな思いだったのでしょうか?
吉田:ダグルがやめることは、報道が出て初めて知りました。それまで何も話はなくて、最後の練習もいつも通りに解散しましたから。ただ、今振り返ると、1月のアジア選手権でも、メンバーがかなり変わっていたんです。どんな意図があったのかはわからないですが、僕の推測では、(就任した)クロアチアの監督になる意思は決まっていた中で、最後にいろいろな選手を試してオリンピックにつなげようというイメージがあったんじゃないかなと思います。結果的に、その選手たちが結果を出したことは良かったです。オリンピックに向けて選手層は厚くなれば厚くなるほどいいことですから。
――オリンピックを数カ月後に控えたこの時期に、監督が変わることへの不安はなかったですか?
吉田:監督がやめることでいちいち落ち込んでいても仕方ないですし、新しくトップレベルを知る監督が来てくれたことをポジティブに捉えています。不安を感じさせないように、アシスタントコーチのウーゴ(・ロペス)も戦術を緻密に練って、的確な指示をくれているので、不安はないです。チームはどんどん良くなっている気がします。
――それは楽しみですね。パリ五輪では、7月27日の予選ラウンド初戦でクロアチアを率いるダグル監督と再会しますが、どんな思いがありますか?
吉田:負けたくないですよね。勝って恩返しじゃないですけど、「日本をやめなかったらよかったなぁ」と思わせられたらいいなと思います。
オルテガ新監督の下で再スタートを切った彗星JAPANの現在地とは?
――オルテガ新監督とはもう話をしましたか?
吉田:まだこれからなのですが(※編集部注:取材は5月10日)、期待してくれているようなので頑張ります。以前(2016年から17年にかけて)日本代表を指揮していた時の選手たちに話を聞いたら、「とにかく厳しいけれど、緻密な戦術でやりやすかった」と言っていたので、僕らはその指示通りにやるだけかなと。
――戦術面ではどんなところが楽しみですか?
吉田:新監督は特にディフェンスが特徴的で、ヨーロッパでもあまり見ない特殊なディフェンスなので、チームにはまればすごく良くなると思います。
――前監督の残してくれたものと、新監督のやり方をどのように融合させていきたいですか?
吉田:ダグルは基本的なことをしっかりやっていたので、その部分は生かしつつ、新監督の緻密な戦術通りにやるのが一番強くなると思います。
――去年からかなり合宿を重ねてきていますが、選手同士での話し合いも、かなり増えているのでしょうか。
吉田:そうですね。オリンピック予選の時は特に選手ミーティングを重ねましたし、継続してアジア選手権の時も話して、良くなりました。新監督の下でかなり共通認識が深まると思うので、選手間のコミュニケーションでしっかりと振り返りたいと思います。
――予選ラウンドの組み合わせは、スペイン、クロアチア、ドイツ、スロベニア、スウェーデンとともにグループAに入りました。どんな印象ですか?
吉田:フランスとデンマークとは別れたので良かったと思いますし、勝てるチャンスはあると思います。ヨーロッパの強豪はレベルが違うのでメダルはハードルの高い目標ですが、まずはベスト8に進出して、その先を目指したいです。
――ベスト8の壁を破るために必要なことはどんなことだと思いますか?
吉田:課題は一つではなくて、すべてですね。体格やプレーの質など、ヨーロッパのトップの国とはまだかけ離れていると思っています。ただ、新監督は元々トップリーグで指揮を執ってきた監督で、チャンピオンズリーグ2連覇したこともあるので、その監督の指示に対して選手がどれだけ忠実にプレーできるかがカギになると思います。
第二の“ホーム”で迎える2度目の五輪。目指すはメダル獲得
――吉田選手にとって初出場だった東京五輪は11位という結果でしたが、どんなことが記憶に残っていますか?
吉田:まずは無観客というのがショックでした。もうちょっと観客がいたら、そのサポートの後押しがあってもうちょっといけたかなという思いはあったんですけどね。
――今回はパリが開催国で、観客も多そうですね。吉田選手にとっては普段プレーしているという意味でホームでもあります。
吉田:僕からしたら住み慣れたフランスですけど、他の選手は違うので。フランスは代表がめちゃくちゃ強いんですけど、そのホームになってくるので、どれだけやれるか楽しみです。
――パリ五輪ではどんなところを見てほしいですか?
吉田:ハンドボールは展開の早いスポーツで、日本は速攻が速くて俊敏な選手が多いので、そのダイナミックさと展開の速さに注目してほしいです。新監督の戦術で、ディフェンスはすごくアグレッシブになると思います。左から2番目の選手と、右から2番目の選手が高さを出しながら動いて、中央の2人が指示を出してアグレッシブに奪いにいくので、楽しみにしてほしいです。オフェンスに関しては司令塔の安平が全部やってくれるので心配いりません(笑)。僕はピボットなので、オフェンスでは、体格の大きな相手選手をなぎ倒しながらシュートを決める迫力を見てほしいのと、アグレッシブなディフェンスを見てほしいですね。
【前編はこちら】競技歴4年で代表入り、海外4年目で最高峰リーグへ。ハンドボール・吉田守一の原動力とは
<了>
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[PROFILE]
吉田守一(よしだ・しゅいち)
2001年3月26日生まれ、和歌山県出身。プロハンドボール選手。193センチ、106キロ。ポジションはピボット(PV)で、恵まれた体格を生かして彗星JAPANの守備の要を担う。那賀高校入学後にハンドボールを始めると、4年目の筑波大学1年時にアジア選手権で日本代表に選出。20年2月よりポーランドリーグのタルヌフに加入し、3シーズンプレーしたのち、今季からフランスリーグのダンケルクに所属。来季は強豪ナントと2年契約での移籍が決まっている。7月に開催されるパリ五輪を控え、21年の東京五輪(11位)に続く2度目のオリンピック挑戦でメダルを目指す。
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