なでしこジャパン、メンバー最終選考サバイバルの行方。「一番いい色のメダルを目指す」パリ五輪へ向けた現在地

Opinion
2024.06.06

5月31日と6月3日にニュージーランドとの2連戦を行ったなでしこジャパン。連日30度を超えるスペインのムルシアで試合は行われ、池田太監督はパリ五輪本番の環境をイメージしたシミュレーションとともに、新たなシステムにもトライした。2試合を通じて見えたチームの現在地とともに、18人のパリ五輪メンバー選考の行方を展望する。

(文・撮影=松原渓[REAL SPORTS編集部])

積み上げと最終選考のテスト。指揮官は2試合で全員を起用

なでしこジャパンは、パリ五輪を2カ月後に控えたアウェイの2連戦でニュージーランドと対戦。初戦は2-0、第2戦は4-1で勝利し、2連勝で締めくくった。今回の2試合は、大会に向けたチーム戦術の積み上げとともに、メンバー18人の“最終選考の場”でもあった。

会場はスペイン南部のムルシア。現地の気温は連日30度を超え、夜は10時ごろまで空が明るい。今回のマッチメイクには、7月のパリと同じような環境で中2日の連戦をシミュレーションする意図もあったようだ。ただし、スペインはグループステージ初戦の相手で、情報戦も考慮する必要がある。練習場は中心地からは離れたリゾート地で、試合前の練習は非公開となった。

なでしこジャパンは、4月に行われたアメリカでのシービリーブスカップではブラジル、アメリカ相手に2連敗。特にアメリカ戦は守備に回る時間が多かった。ボランチの長野風花は、「ほぼ相手ペースだったので、もっと自分たちの時間をつくってコンビネーションでゴールに向かうシーンを増やしたいと強く感じました」と危機感を口にした。

グループステージ第2戦で対戦するブラジルも難敵だ。結果は1-1(PKで負け)だったが、マンツーマンで強度の高いプレッシャーをかけてくる上に、1対1も強かった。新監督の下で「ボールを保持しながら流動的に攻撃するスタイル」に舵を切り、日本は昨年から1勝2敗と負け越している。

今回のニュージーランド戦は、その2試合の課題を踏まえて臨んだ。海外組13名を含む22名が招集され、池田太監督は2試合で全員を起用しつつ、守備面で新たなチャレンジも示した。

守備の新チャレンジに苦戦するも2連勝

今回は、2試合ともにスタート時のフォーメーションは3-4−3だったが、守備時は4-4-2のような形を取った。具体的な形について、池田監督はこう明かしている。

「3枚のどちらかが上がった状態でプレッシャーをかけにいく。相手のシステムとの噛み合わせで、ウイングバックがどこにプレッシャーをかけるかを判断していくことにトライしました」

目的は、3バックと4バックの柔軟性を高めつつ、チームコンセプトの原点である「ボールを奪う」精度を高めることだ。

結果的に、2試合ともその守備が機能したとは言い難い展開となった。日本の守備に対してニュージーランドはGKも含めてテンポよくビルドアップし、耐える時間が続いた。その中でも、初戦は少ないチャンスを生かして前半終了間際に田中美南が流れから先制。後半開始早々には19歳の古賀塔子がコーナーキックの流れから代表初ゴールを決め、2-0で勝ち切った。

だが、2戦目の前半は球際でほとんど寄せることができず、守備が機能不全に陥っていることが明らかだった。先発メンバーは現状のベストに近い構成と考えられただけに、その停滞はなおさら深刻に思えた。前半22分に、フリーキックの流れから失点。日本の強みであるはずの右サイドをスムーズに突破されたことも衝撃的だった。

結果的に、ハーフタイムの指揮官の3枚替えが的中し、後半は浜野まいかが2得点、中盤から1トップにポジションを変えた藤野あおばが3点目。終盤には千葉玲海菜が決めて、4-1と逆転で快勝している。

だが、相手が強豪国ならそうはいかない。池田監督は試合後、語気を強めた。

「前半はセカンドボールへの反応も遅かったし、動き出しの量や質、タイミングも含めて(力を出せず)、ノッキングして、テンポも出なかった。ああいう前半の戦い方はなでしこジャパンのサッカーではありませんでした」

「形にとらわれすぎた」2試合目の前半。ピッチで何が起きていたのか?

前半、ピッチ上で何が起きていたのか? ボランチの長谷川唯はこう振り返る。

「球際にいける位置や、セカンドボールがこぼれるポジションにいられなくて、やり方(システム)がはまってないな、という感覚でした。『この形で守ろう』という守備の形にとらわれすぎていた部分もあって、ウイングバックが上がるタイミングがずれた時に、それでもいこうとしてしまい、縦を狙われて後ろはスライドしきれなかった。もう少し柔軟に対応できるように構えておかないと難しいと思いました」

本来なら、わずか2試合で新たなオプションをものにするのは無理な話だ。だが、今年に入ってメンバーをある程度固定した中で積み上げてきたからこそ、修正を見越してリスクを冒せた部分はあるだろう。もちろん、ニュージーランドとの力の差も考慮したはずだ。

池田監督は2試合を終えて「守備の新しいオプションを増やせたこと、勝負事でしっかりと勝ち切ったこと」を収穫に挙げ、長谷川は「本大会で今回の4-4-2の形がはまりやすい(相手)なら状況に応じて変えられるように、形は作れたと思います」と手応えを口にした。

18枠をポジションごとに展望。ユーティリティ性もポイントに

今回の2連戦をふまえて、パリ五輪選考の行方を占ってみたい。

昨夏のワールドカップ以来、チームの主軸を担ってきたGK山下杏也加、センターバックの熊谷紗希と南萌華、右ウイングバックの清水梨紗、ボランチの長谷川と長野、FWの田中、藤野はメンバー入りが確実と思われる。

GKのもうひと枠は、経験と実績も含めて平尾知佳が入る可能性が高い。山下もその才能を評価するの大場朱羽も候補だが、4年後に期待したい。

センターバックでは、高橋はなの選出も堅いだろう。今季はケガで離脱した時期もあったが、「彼女の良さである部分はこれまでの活動でも把握している」(池田監督)と再招集。ワールドカップでもケガ明けでスペイン戦のスタメンに抜擢された経緯があり、指揮官の信頼は厚い。

最終ラインのもうひと枠は、古賀か、石川璃音か。古賀は19歳、石川は20歳といずれも若く、対人の強さは甲乙つけ難い。代表初ゴールを決めた古賀のアピールは強烈だが、浦和の連覇を支えた石川も成長の速度を緩めていない。フル出場した初戦の後にはこう話していた。

「限られた人数しかオリンピックには行けない中で、代表での立ち位置は自分なりに感じていますが、選ばれるかどうかを気にするのではなく、自分の取り組みを見てもらえるようにしたいです。リーグ戦では自分からアクションを起こして攻撃につながるパスの精度を高めてきたので、成長した自信があります」(石川)

左ウイングバックは、北川ひかるが2試合連続で先発。初戦は慣れない組み合わせで左サイドの連係に苦労していたが、セットプレーで古賀のゴールを演出した。貴重なレフティでセットプレーのキッカーも務められるため、選出は濃厚だろう。

右ウイングバックは清水がファーストチョイスだが、バックアップは左右でプレーできる守屋都弥が第一候補。ただし、今回の起用を見ると、右ウイングの清家貴子が一列下がる形も指揮官の構想にはあるようで、ここは悩ましいポイントだ。

清家は国内得点王に輝いた成長を代表にも還元し、ウイングのポジションでじわじわと序列を上げてきた。左ウイングの第一候補には、宮澤ひなたが入ると予想する。ケガ明けでパフォーマンスは戻りきっていないが、ワールドカップ得点王に輝いたポテンシャルの高さは揺るぎない。強豪相手のカウンター攻撃には欠かせない存在だ。

ボランチはハイレベルな戦いだ。林穂之香と谷川萌々子が控える。周囲との連係やプレーの安定感では林がリードしているが、谷川はここぞという場面での“一発”を持っている。今回はケガの影響で出場時間が限られたが、どうなるだろうか。中盤とサイドの人数的なバランスを考えると、林、守屋、谷川から2人が選ばれると予想する。

激戦区のFWでアピールしたのは?

FWは激戦区だ。ワントップで田中とレギュラーを争う植木理子もメンバー入りが濃厚だろう。そうなると、残りはひと枠。ここは浜野と千葉が争うことになる。浜野は今回の2連戦で、代表初ゴールを含む2ゴールと申し分ない結果を残した。チェルシーでフォア・ザ・チームの精神とプレーを身につけ、守備の貢献度も高い。

千葉は前回の活動に呼ばれていないからこそ、今回は短い時間で大きなインパクトを残したかったはずだ。背後への抜け出しは他の選手とは違う野生味と迫力があり、1ゴールと結果を残したが、試合後は喜びもそこそこに、自身のパフォーマンスを冷静に振り返っている。

「背後に飛び出す良さも出せて得点も取れましたが、あと2点は取れたと思います。そこは反省点です。本大会になったらその1点が大事だと思うので、しっかり質を上げていきます」(千葉)

最後になるが、今回の2連戦で選手としての価値をさらに高めたのは藤野だと思う。戦術理解度が高く、状況に応じてゲームメイカー、チャンスメイカー、ゴールゲッターと役割を変えることができる。ステップアップのスピードが早く、なでしこの未来を感じさせてくれる20歳だ。2戦目の後半は、代表ではほとんどやったことのないワントップに抜擢されたが、圧巻のパフォーマンスで代表5ゴール目を記録した。

「FWになったことで、後半は前線3枚の距離感を近くして、(自分が)攻撃のスイッチを入れて、後ろの選手についてきてもらうこと、前線からアクティブにプレスをかけることで相手のリズムを狂わせることを意識しました。(FWは)やりたい気持ちはあります。背後に動き出せばゴールが一番近いし、得点を取る確率も高くなるので。大事な時に空中戦で勝ってキープできなかった場面もあるので、(FW起用も)選択肢に入れながら取り組んでいきたいと思います」(藤野)

なでしこジャパンはこの後、メンバー発表と7月13日のガーナとの強化試合を経て、いよいよ本大会に臨む。「一番いい色のメダルを目指す」と公言している指揮官は、どんな18人でパリに臨むのか。メンバー発表を楽しみに待ちたい。

<了>

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