なぜWEリーグは年間カレンダーを大幅修正したのか? 平日開催ゼロ、中断期間短縮…“日程改革”の裏側

Business
2025.01.23

現在、ウインターブレイクに突入しているWEリーグ。昨年9月に3代目野々村芳和チェア新体制が発足し、さまざまな点で変化が起きている。後半戦は3月に再開するが、それに先立つ昨年12月には、早くも2025-26シーズンのリーグ戦概要が発表された。過去3シーズンに比べて開幕が早まった他、「平日開催ゼロ」、「ウインターブレイクの短縮」など変更点は多い。その日程作成を主導したのが、新事務総長の黒田卓志氏だ。競技運営やマーケティング、日程作成など、Jリーグを長年、裏で支え続けてきた運営のスペシャリストは、WEリーグのカレンダーをどのように「変えた」のか? 各チームの主力の海外挑戦が続いている現状や、昇降格も含めたなでしこリーグとの連携の可能性についても展望を語ってもらった。

(インタビュー・構成・本文写真撮影=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真提供=WEリーグ)

来季から年間カレンダーを大幅修正。平日開催はゼロに

――WEリーグは2025-26シーズンの概要を発表しました。9月から8月に前倒しして開幕すること、平日開催をゼロにすること、ウインターブレイクをこれまでの2.5カ月から1.5カ月に短縮することなど、これまでと試合数はほぼ変えずにカレンダーを大幅に変更しています。どのような経緯で日程を決められたのでしょうか?

黒田:ちょうど着任と同時に2025-26シーズンの日程を考える必要があったので、競技運営部が検討を開始していた日程を先入観を持たずに見せてもらいました。それを見て最初に感じたのが「12チームなので平日を使う必要はないだろう」ということでした。いろいろとシミュレーションしてみると、やはり使わなくても良いことがわかったので、あとは試合日の置き方の問題です。たとえば、代表の活動期間にリーグカップ戦を入れると、代表選手は抜けてしまいますが、これまでのように平日開催をやらなくてもよくなります。

――平日開催がなくなることや、開幕を早めてウインターブレイクを短くすることのメリットについて、改めてご説明いただけますか?

黒田:平日開催のメリットとしては、試合と試合の間隔が短いため、いろいろな選手に出場のチャンスがあるのでチーム力の底上げにつながることです。一方で、チームとしては中2日、中3日での試合になり、アウェーになると移動で1日取られるので、試合間の練習はコンディショニングが中心になり、新しい戦術の積み上げができません。しかも、チームが成熟してある程度形ができてきた頃に平日が少し入るぐらいだったらわかりますが、2024-25シーズンは開幕してすぐの9月や10月の平日にリーグカップ戦が入っていたので、各チームにとって負担が大きく、その点を修正しました。

 開幕を早めることとウインターブレイクを短くすることによって、これまで年間7カ月だった活動期間が8〜9カ月ぐらいに伸びます。それによって各チームは戦術面の積み上げと継続した選手強化が可能になります。興行面では、ファン・サポーターとの接点を増やすことでマーケティングの効果が期待できると思います。

最優先すべきは「フットボールの価値を高める」こと

――後半戦の再開が2月中旬の寒い時期になりますが、2025-26シーズンから秋春制に移行するJリーグと足並みを揃えるイメージでしょうか?

黒田:そうですね。ウインターブレイクの日程など、Jリーグとほとんど同じイメージです。Jリーグは現行のシーズンでも、開幕が年々早まっていて、以前は3月の1週目ぐらいに開幕していたのが、2025年シーズンは2月14日になっていますから。

――過去3シーズンを振り返ると、試合数は多くないのに過密日程になったり空白期間が続いたりと、日程のちぐはぐさが否めなかったのですが、合理的なカレンダーになったのは、Jリーグのノウハウを入れたことが大きいのですか?

黒田:私が大したノウハウを持っているとは思っていないですが、以前の日程は、シーズンの前半戦(9~12月)と後半戦(3~5月)で大きく途切れてしまっていたので、気になっていました。我々はフットボールビジネスをやっているので、最も優先すべきことは「フットボールの価値を高めるカレンダーを考える」ということです。その次にビジネスの視点で、マーケティング面も含めてカレンダーを考えました。

――2025-26シーズンはワールドカップやオリンピックなどの大きなイベントがないという点で、日程は組みやすかったのでしょうか?

黒田:それはあると思います。基本的にサッカー界のカレンダーは、ワールドカップからワールドカップの4年間の中で考えるので、その意味では2025-26シーズンのカレンダーは比較的空いていて調整しやすかったです。それでも、代表活動が多い2月から3月あたりのスケジュールが大きく途切れてしまうのは、リーグとしては厳しいところです。

選手の海外流出が促す“育成力向上”

――WEリーグは各チームが15人以上とのプロ契約を結ぶことを要件としていて、アマチュア選手も混在しています。プロリーグとして4シーズン目を迎えて、その現状をどのように考えていますか?

黒田:サッカーを突き詰めるのであれば、専門職としてやってもらうほうがレベルは上がっていくと思います。プロが最低15人いる中で、アマチュア選手が仕事とサッカーを両立することは練習時間の調整も含めてかなり難しいと思います。4シーズン目を迎えて、その点は各クラブや選手会からも意見が出始めています。

 そのためにも、クラブが全員をプロ選手として契約できるぐらいの収益を上げることからです。WEリーグという大きな車輪の上に各チームの車輪があるとすれば、今はWEリーグの車輪の1回転目の4分の1も回せていない状況だと思っています。これが1回転すれば弾み車で動き始めると思いますが、大変なのはこの1回転目です。

――新潟Lの川澄奈穂美選手のように、海外で活躍した選手がWEリーグに復帰する流れはファンにとってうれしいニュースですが、その一方で近年は代表選手をはじめ、各チームの主力級の選手の海外挑戦による移籍が続いているのは懸念材料かと思います。この状況が続くとWEリーグの価値低下を招きかねないとも思いますが、どのような対策が必要だと思いますか?

黒田:実力のある選手たちがアメリカやヨーロッパに集中していく今の流れは、おそらく止められないと思います。欧米のリーグがビジネスの中心になりつつあり、資本主義の中では男子と同じことが起きると思うからです。ただ、ポジティブなこともあります。選手が海外に出ていく分、クラブは次の選手たちをしっかり育成していますし、海外でさらに高いレベルで活躍できるように、クラブの育成力が高まっていき、良い選手たちを育て、輩出することの「再現性」が高くなってくると思うんですよ。

――たしかに、日テレ・東京ヴェルディベレーザはここ数年で主力の海外挑戦が続いていますが、下部組織から昇格した若い選手たちが即戦力となって上位をキープしています。

黒田:あのように選手が海外に出てトップレベルで活躍すると、アカデミーの選手たちは自然とそういう選手たちを目指すようになり、育てるクラブ側としては、「ベレーザの右サイドバックといえばこういう選手」といったプロファイリングや言語化ができるようになっていきます。そういう選手を育てていくために、何歳ぐらいでクラブの入り口(アカデミー)に立たせて、その選手を6〜7年かけてどう育てていくのか。さらに細分化して1年ごと、半年ごと、1カ月ごと、1週間ごとというように、個の育成のためのピリオダイゼーションがJクラブやWEクラブでも整理されつつあります。ですから、ますます海外に出ていく選手は増えると思いますが、私自身はそれは悪い流れではないと思っているので、ネガティブには捉えていません。

――育成力によってWEリーグのレベルが底上げされていけば理想ですし、イングランドの女子スーパーリーグやアメリカのNWSLなどで活躍している選手たちによって、結果的にWEリーグの価値が高まっている部分もありますね。

黒田:本当は、移籍によって女子の世界も各クラブがもっと稼げるようにならなければいけないと思います。良い選手が若くして他のクラブに移籍した際は、そこで発生したお金が次の育成に再投資できるような原資としてクラブに入ってくるような循環を生んでいくべきだと思いますし、それも課題の一つです。

目指すのはアメリカ式か、ヨーロッパ式か?

――WEリーグはヨーロッパと同じ秋春制を採用していますが、リーグの形式としては昇降格がなくアメリカと同じクローズドリーグです。下のカテゴリーに当たるアマチュアのなでしこリーグとはシーズンも形式も異なりますが、連携の可能性についてはどのように考えていますか?

黒田:いろいろな議論があると思いますが、今はこういう形をとらざるを得なくてとっている状況だと思います。WEリーグが立ち上がる時に秋春制に挑戦しようと決めた中で、下のカテゴリー(春秋制)との接続は将来的に検討すべき課題としてスタートしています。

 連携できないもう一つの理由は、WEリーグがまだ自立経営できていないことです。例えば、公式戦を行うためには審判が必要ですし、チーム数を増やせば試合数が増えるので、大会運営にかかる経費も増えます。現行の12チームでも、プロリーグを成立させる上で最低限必要になる15億円を自力で稼げていないのに、これ以上チームを増やすことはできません。

――自力経営ができるようになり、その基礎体力がついた時には、WEリーグとなでしこリーグが昇降格を介して連携できるイメージはお持ちですか?

黒田:はい。アメリカ式にするのかヨーロッパ式にするのか、という問いはJリーグも常に向き合ってきた声ですが、Jリーグは昇降格があって、スポーツとしてのヒリヒリしたフェアな戦いを求めているので、今の(ヨーロッパ式の)やり方を選択しています。サッカーの世界は下(ローカル)から上(グローバル)までピラミッドでつながっているので、個人的にはヨーロッパ式の方が望ましいのかな、と思います。

――その中で、いずれはチーム数や試合数を増やすことも視野に入れつつ、経営面の体力をつけながらバランスを取っていく感じでしょうか。

黒田:そうですね。クラブがWEリーグに入ってきてもビジネスができないと意味がないですし、負担ばかりでは続かないと思うので、まずはリーグというプラットフォームを稼げる場所にしていかなければいけないと思っています。

※次回連載後編は1月27日(月)に公開予定

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<了>

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[PROFILE]
黒田卓志(くろだ・たかし)
1978年香川県出身。公益社団法人 日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)事務総長。高松高校を経て筑波大学でプレーし、2001年からJリーグ・大宮アルディージャで約10年間、フロント業務や育成年代の指導に従事。2010年からはJリーグに移り、競技運営部、経営企画部、フットボール本部などで重要なポストを担ってきた。2024年9月より現職。WEリーグ・野々村芳和新チェアの下でリーグ発展のキーマンとして、競技運営やマーケティング、広報から経営企画まで幅広く携わる。

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