双子で初の表彰台へ。葛西優奈&春香が語る飛躍のシーズン「最後までわからない」ノルディックコンバインドの魅力

Career
2025.05.07

スキー競技のノルディックコンバインド(ノルディック複合)で、日本の姉妹アスリートが確かな存在感を示している。2024-25シーズン、世界選手権で初優勝を飾った姉・葛西優奈と、3位に輝いた妹・葛西春香。ワールドカップでも安定した成績を残し、双子での快挙を成し遂げた2人が、激闘のシーズンを振り返る。競技の奥深さや未来への展望、そして目標とする大先輩への想い。好成績を残したシーズンとともに、最後まで結果がわからないノルディックコンバインドの魅力を語ってもらった。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=アフロ)※写真中央が葛西優奈、向かって右隣が葛西春香

姉妹で成し遂げた躍進。「競技について知ってもらえてうれしい」

――2月末のノルディックスキー世界選手権で優奈さんが金メダル、春香さんが銅メダルに輝きました。2人で表彰台に上ったことも大きな話題になりましたが、改めて大会を振り返っていただけますか?

優奈:個人的に優勝できた喜びはありましたが、それ以上に、春香と2人で表彰台に立てたことでうれしさも2倍になりました。新聞などのメディアでたくさん記事にしていただき、日本でノルディックコンバインドという種目について知ってもらうことができたのなら、すごく良かったです。

――世界選手権の個人種目で日本人選手が金メダルを獲得するのは女子では初めてのことでした。女子スキー界に歴史を刻んだことについて、どんな思いでしたか?

優奈:日本人女子はまだ金メダルを取っていないという中で、自分がそれを達成できたことに、少しびっくりしました。でも素直にうれしかったですね。

――春香さんは、2023年に続いての銅メダルです。常にコンスタントに結果を残してきた中で、2人で表彰台に上がったことについては?

春香:まさか世界選手権で一緒に表彰台に上ってメダルを取れるとは思っていなかったので、本当に驚きと喜びでいっぱいでした。2人で表彰台に上れたことで、少しでも多くの人にノルディックコンバインドを知ってもらうきっかけになればうれしいです。

 長野オリンピックの頃に、私たちの先輩でもある早稲田大学のスキー部OBの荻原健司さんと次晴さんが双子で活躍したこともあり、縁を感じたのもうれしかったです。これから私たちが活躍していくことで、「男子だけでなく女子にもメダルの可能性がある競技」だと知ってもらえるようになればと思います。

逆転を生んだ後半のビッグジャンプ

――競技を盛り上げたいという使命感が伝わってきます。お2人とも、後半のジャンプで96メートル台のビッグジャンプで追い上げました。本番でそうした勝負強さを発揮できた理由は何だったのでしょうか?

優奈:今回メダルを獲得できた種目は、前半にジャンプを行う通常の「グンダーセン方式」とは違い、先にクロスカントリーを走ってから後半にジャンプを飛ぶ「マススタート方式」でした。ジャンプが得意な選手に有利な形式で、私もジャンプが得意なので、いつも通りに飛べばうまくいく!という気持ちで挑みました。また、前半のクロスカントリーで予想以上に走れたことが安心感にもつながり、後半は緊張しつつも、自分らしいジャンプができればメダルには絶対に届くと信じて飛びました。

春香:世界選手権までに10試合以上ワールドカップを回っていましたが、シーズン中はジャンプがよく飛べていたものの、ハードな試合を重ねる中で、自分の感覚と実際の動きにズレが出てきてしまって。世界選手権前には自分らしいジャンプがわからなくなってしまっていました。前日のトレーニングも納得するジャンプができず、本番当日を迎えたんです。

 前半のクロスカントリーも、ワールドカップの時ほどは走れませんでしたが、ワールドカップの経験があったからこそ、前日のトレーニングを通じて課題を分析できていたので、過度に緊張せず、「ジャンプを決めればメダルは見える」と思って挑みました。それがうまく結果につながったのが、メダルを取れた大きな要因だと思います。

――大会後、周囲からの反響はありましたか?

春香:たくさんのメッセージをいただきました。自分たちももちろんうれしかったんですが、それよりも周りの方々が本当に喜んでくれたことが一番うれしかったです。

――スキー界の「葛西」といえばワールドカップ個人最多出場のギネス記録を持つレジェンド・葛西紀明選手がいますが、地元が同じ北海道ですね。「娘なんじゃないか」と言われていることについて、「いいですよ、娘で!」と答えたエピソードが報じられていましたが、直接の交流はあるのですか?

優奈:高校が東海大学付属札幌高校で、葛西さんは同じ高校の大先輩でもあるんです。OB会や大会でお話しすることもあります。海外の試合に出場するようになったら他国の方から「お父さんなの?」と聞かれることもあり、実際に葛西さんにお会いすると、そんな話もしています(笑)。

好成績を残したワールドカップを糧に、次なる挑戦へ

――今年3月に終わったワールドカップは、2月のエストニア・オテパーで行われた第10戦で優奈選手が初優勝。春香選手は3度の2位を含む8回の表彰台に立ち、総合順位では春香選手が3位、優奈選手が4位と好成績を収めました。改めて、今シーズンを振り返っていかがでしたか?

優奈:世界選手権の金メダルと、ワールドカップ第10戦での初優勝が、今シーズンの大きな成果でした。ジャンプの技術も夏から少しずつ良くなり、パフォーマンスの安定感が増したことが、自分にとって今シーズンの一番の成長だったと思います。どちらの優勝もマススタートのものでしたが、私としてはジャンプを飛んだ後にクロスカントリーで勝負が決まる、という流れがノルディックコンバインドの醍醐味だと思っていて。優勝できたことはもちろんうれしかったですが、同時に「もっと強くならなければ」と実感するシーズンでもありました。

春香:昨シーズンは総合4位で、表彰台に立てたのも一度だけでした。今シーズンは8回表彰台に立てて、平均して良い結果が残せたと思います。ただ、まだ優勝はなく、世界選手権も銅メダル止まりです。次は世界選手権で金メダルを取ることと、ワールドカップでも優勝や総合優勝することが目標です。オリンピックでは現在、女子は正式種目として採用されていませんが(*)、将来的に採用されたら、もちろんメダルを目指したいです。総合3位という結果は素直に喜びつつも、満足せず、切り替えて次のシーズンに向けてしっかり準備していきたいと思います。

(*)現在、オリンピックでは男子のみが正式種目。2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ大会での女子種目の正式採用は見送られ、次の検討は2030年フランス大会に持ち越されている。

――海外を転戦するシーズンだったと思いますが、帰国後は少し休めましたか?

優奈:はい、だいぶ落ち着きました。私たちは最後の試合が3月中旬で、帰国してから大学の寮に戻って、約1カ月ほどゆっくり過ごしています。今回は実家の北海道には帰らずにリフレッシュしています。

ノルディックコンバインドの醍醐味とは?

――改めて、ノルディックコンバインドの魅力は何だと思いますか?

優奈:グンダーセン方式でもマススタートでも、最後まで結果がわからないという緊張感だと思います。見ている方も、競技をしている私たち自身も、ゴールするその瞬間まで展開が読めないところが一番面白いところだと思います。

春香:私も同じく、最後の最後まで誰が勝つかわからないところが魅力だと思います。これまで表彰台の常連はノルウェー、ドイツ、オーストリアといった欧州の3強でしたが、それがオリンピックの正式競技にならなかった原因とも言われます。今回、アメリカや私たちアジアの選手も含めて、トップ10に複数の国が入りました。他国のレベルが上がっているので、競技としての面白さも広がっていると感じています。

――お二人とも、目標とする選手として、オリンピック3大会連続でメダルを獲得した渡部暁斗選手を挙げていますね。大学の先輩であり、日本代表としても一緒に戦う存在ですが、どんなところを目標にしているのでしょうか?

春香:今ワールドカップでは同じチームとして行動することが多く、特に冬は一緒に過ごすことも多いです。選手としての実績はもちろんですが、人としても本当に尊敬できる方です。今大会が暁斗さんにとって最後の世界選手権でしたが、メダルのチャンスがあった混合団体戦で4位という悔しい結果に終わってしまって……。それでも、「すごく楽しい試合だった」と話されていて、それがとても心に残っています。

優奈:私も春香と同じで、競技力はもちろんですが、人柄も含めて尊敬しています。今回の混合団体戦では、悔しさを乗り越えて、スポーツマンとしてあるべき姿を見せていただきました。海外の選手からの反響も大きく、同じチームの大先輩としても誇らしかったですし、「私もこんな人になりたい」と強く思いましたね。

【連載後編】「家族であり、世界一のライバル」ノルディックコンバインド双子の新星・葛西ツインズの原点

<了>

スキージャンプ・葛西紀明が鮮やかに飛び続けられる理由。「体脂肪率5パーセント」を維持するレジェンドの習慣

カーリング・藤澤五月の肉体美はどのように生まれたのか? 2カ月半の“変身”支えたトレーナーに聞くボディメイクの舞台裏

アジア王者・ラクロス女子日本代表のダイナモ、中澤ねがいが語る「地上最速の格闘球技」の可能性

“くノ一”才藤歩夢が辿った異色のキャリア「近代五種をもっと多くの人に知ってもらいたい」

7時から16時までは介護職…プロスポーツ多様化時代に生きる森谷友香“等身大アスリート”の物語

[PROFILE]
葛西優奈(かさい・ゆうな)
2004年2月4日生まれ、北海道出身。ノルディック複合・スキージャンプ選手。双子の妹・春香とともに9歳の時に札幌ジャンプスポーツ少年団に入り、2017年よりコンバインドを本格的に始める。中学時代には姉妹で全国大会ワンツーフィニッシュを達成。2020年、東海大学付属札幌高校在校時に冬季ユースオリンピックのスキージャンプ個人で6位入賞。ジュニア世界選手権にも姉妹で出場。2022年ワールドカップでは個人・団体混合で4位。2025年2月、世界選手権の女子マススタートで、日本人初の金メダルを獲得。ワールドカップでは第10戦オテパー大会で初優勝し、総合4位。現在は早稲田大学スキー部所属。

[PROFILE]
葛西春香(かさい・はるか)
2004年2月4日生まれ、北海道出身。ノルディック複合・スキージャンプ選手。9歳の時に姉・優奈とともに札幌ジャンプスポーツ少年団で競技を始め、2020年に冬季ユースオリンピック日本代表に選出。22年のジュニア選手権で女子個人銀メダル、23年の世界選手権では日本人女子初となる銅メダルを獲得。2025年の世界選手権女子マススタートでも銅メダルに輝き、姉とともに表彰台に立った。ワールドカップでは8度表彰台に立ち、総合3位。現在は早稲田大学スキー部所属。

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事