最強中国ペアから大金星! 混合ダブルスでメダル確定の吉村真晴・大藤沙月ペア。ベテランが示した卓球の魅力と奥深さ
世界卓球選手権ドーハ大会。5日目に行われた混合ダブルス準々決勝で、吉村真晴・大藤沙月ペアが世界ランキング1位の中国、林詩棟・蒯曼ペアを負かし、大金星を挙げた。「まさか30歳を超えてメダルを取れるとは」と語った吉村真晴は、若手の台頭が目立つ卓球競技において、実はその選手寿命の長さにも注目できることを改めて証明した勝利ともいえる。なかでも「ダブルス」「混合ダブルス」という種目には、どの時代にも「スペシャリストのベテラン」が存在してきた。今大会日本勢最初のメダル確定を決めた試合を改めて振り返ることで、“ベテランが強いダブルス”のメカニズムを読み解く。
(文=本島修司、写真=VCG/アフロ)
31歳のベテランと21歳の新星ペア
カタール・ドーハで開催中の世界卓球選手権。5月21日に行われた混合ダブルス準々決勝で日本勢が大金星を挙げた。世界ランキング1位の林詩棟・蒯曼ペアを破ったのは、31歳のベテラン吉村真晴と21歳の新星・大藤沙月ペアだ。
第1ゲーム。吉村のチキータが冴え渡る。2-2で開始し、レシーブでチキータを食い込ませて、ボールを浮かせて大藤がバックミートで決めて3-2。序盤からこのパターンが目立った。
中国ペアは、男子の林詩棟がフォアハンドで角をしっかり狙い打ってくるが吉村がこの強烈なコース取りにも「手が届く」姿も目についた。お返しとばかりに林詩棟もチキータを放ち、このゲームは8-11で中国ペアが勝利。
第2ゲーム。吉村はYGサーブを多く出し始める。3-1からは、吉村がYGサーブ、大藤が正確なフォアドライブを叩き込み、吉村がバックハンドで決めて4-1と突き放す。
このあたり、現在の日本女子卓球界のなかでも勢いがある大藤のミスのなさ、精度の良さが目立っていた。大藤の攻撃にミスがないぶん、吉村も良い形で待つことができる。
5-2に突き放す場面では、前で大藤がかき乱す、後ろから吉村が追撃する。この形もでき上がってきた。 ダブルス全体のリズムの良さを見せた吉村・大藤ペアが、11-5で勝ち切る。
完璧だった、吉村・大藤のコンビネーション
第3ゲーム。このゲームは、大藤のチキータ一発抜きから開始。男子顔負けの鋭さだ。
吉村の、リスクを背負って台の中へ飛び込んでくるようなダブルス特有の打ち方が2連発で決まり、3-0とする。
8-7の勝負どころでは、また吉村が台の中へ飛び込むようなフットワークで、フォドライブを決めた。ダブルスだからこそ、次のボールを信頼するパートナーに任せていいとわかっている飛び込み方だ。
第1ゲームと同じ林詩棟のボールを吉村が受け止める順番になっているのだが、ここでも吉村がとにかく「手が届く」。177センチと高身長の吉村。リーチの長さも生かしているが、ここまで厳しいコースに手が届くのは、何より、長年の経験値による「ダブルスでのコースの読み」が冴えわたっているように感じる。中国のトップ選手のボールに難なく手が届く姿はまさに「世界一のダブルスの名手」と言えるものだ。
デュースにもつれたこのゲームは、激しい打ち合いの末に13-11で吉村・大藤ペアが制する。
第4ゲーム。大藤は巻き込みサーブが効く。吉村のYGサーブから攻めの形ができる。完全に流れをつかみ、3-2から開始。
大藤が前で完璧なミートスマッシュ。しかし、それをとんでもない角度でカウンターしてくるのが最強中国だ。しかしこの日は、そこにまた吉村の手が届く。4-2とするラリーでは、中国ペアも一瞬、呆然とするほどに、吉村が拾える範囲の広さを披露した。
8-3とする場面では、大藤が前で叩いて、吉村が待っていましたとばかりに後方からバックドライブ。最強中国を相手のトップに「むしろラリーになったほうが有利」と言わんばかりの驚きの展開だ。
デュースになっても、振り切った吉村のバックハンドが決まり、12-10で吉村・大藤ペアが勝ち切り、ゲームカウント3-1で準決勝進出を決めた。
ダブルスだからこそ生きる「経験と技術」
女子ダブルスの世界ランク1位の大藤。世界卓球の混合ダブルスで2017年に石川佳純とのペアで世界一をすでに取ったことがある吉村。その2人が完璧な試合を見せた。
相手は、国際大会で6大会連続優勝中の林詩棟・蒯曼ペアなのだから、今大会の混合ダブルスの大きなポイントは、間違いなく、この準々決勝だった。
吉村真晴は、2012年、野田学園での高校3年時に全日本選手権を制するなど、早くから頭角を現してきた選手。世界の頂点に手が届いたのは、それから4年後、世界卓球での石川佳純との混合ダブルだった。まさに「経験値を生かしながら上り詰めていく卓球人生」と言える。そして世界の頂を手にしたのが「混合ダブルス」という種目だったこと。これも特徴的だ。
今大会最注目の準々決勝でも、明らかに吉村の経験値が生かされていた。台の中に、身を投げ出すようにして飛び込んで打つフォアドライブはその後のパートナーを信頼しきっているからこその動き。シングルスではリスクがありすぎてできない動きだろう。
「下がってしまうと不利」とされる高速卓球が主流の現代において、あれだけ、中陣・後陣に構えて“追撃するような”バックドライブを放っていく「適度な余裕」は、前陣に大藤がいるから大丈夫という仲間への信頼と、そう信じることができる長年のダブルス競技の経験から生まれる自信を感じさせた。
自身の長所も完全に把握している。リーチの長さだ。シングルスでももちろん有利に働くファクターだが、ダブルスであればやはり中陣・後陣でこそ、このリーチの長さを最大限に生かすことができる。
林詩棟が放つドライブは、いつも通りに強烈だ。しかし、ライン上に来たボールを取り切り、サイドを割ってくるドライブまで拾い切り、本当に「それに手が届くのか」という驚愕のシーンの連続だった。
その吉村の返球を、蒯曼も返球できていたが、大藤が待っていましたとばかりにそのボールすらも打ち返すパターンも機能していた。
完璧なゲーム運び。その言葉しか出てこない混合ダブルスならではの魅力の詰まった一戦だった。
年齢を超越する「スペシャリスト」がいる種目
どの時代にも、卓球競技のダブルスには「スペシャリスト」が存在してきた。そしてそのスペシャリストは、アスリートとしてのピークが長く、世界のトップに君臨できていた。
近年では、中国の許昕などがそれに当てはまる存在だろう。当然、シングルスでも強烈な存在感を放っていた世界のトップ選手だが、ダブルスでのうまさは特筆もので、種目がダブルスとなれば、許昕がコートにいるだけで勝てないと思わされるほどの雰囲気をまとっていた。
この許昕もまた「手足が長い」「技巧派」「中・後陣でもドライブで引っかけて再度対等なラリーに持ち込む」、そんなダブルスのプロ中のプロという技術を誇っていた。許昕はサウスポーという特徴もダブルスで生かしていた。吉村は右利きだが、共にリーチが長く、中陣でうまさが際立つという点など共通点が多い。
卓球の世界は世代交代が一気に進む傾向があり、急激に強くなった若手に目が行きがちになる。しかし「いつもの見慣れた選手で、目新しい新星ではない」からといって侮れば、一気に世界の頂点にまで手をかけてくるベテランがいるのも卓球の魅力の一つ。
準々決勝の試合の後、吉村真晴が見せた大粒の涙には、経験と技術の結晶が詰め込まれている。
「まさか30歳を超えてメダルを取れるとは」と同時に発せられた「ミックスは自分にとって大切な種目」という言葉からは、このダブルスに懸けていた思いが、ひしひしと伝わってきた。
自らが名付けた「大吉ペア」に、卓球の神様はしっかりとほほ笑んでくれた。
<了>
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