日本人初サッカー6大陸制覇へ。なぜ田島翔は“最後の大陸”にマダガスカルを選んだのか?
「6大陸すべてでプロ契約を結んだ日本人がいる」――。日本人として初めて、アジア・欧州・オセアニア・北中米・南米・アフリカの6大陸すべてでプロ契約を結んだ田島翔は、42歳となった今も“世界を旅するサッカー選手”としてピッチに立ち続けている。彼はどんな思いで海を渡り、なぜ6大陸目の新天地にマダガスカルを選んだのか。サッカーへの情熱を持ち続け、自らキャリアを切り拓いてきた田島が語る唯一無二の挑戦の軌跡と、その先に描くキャリアの未来図について話を聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=F.C.STIMOLANTE)
夢だったブラジルでのプレーを経て“引退”の思いを覆した
――2022年に取材をさせていただいた(『なぜ非サッカーエリートが、欧州でプロ契約を手にできたのか? 異色の経歴が示す“開拓精神”を紐解く』参照)後、2024年からブラジル3部のポルトゲーザ・ロンドリネンセで2年プレーされましたが、どのような経緯でクラブと契約したのですか?
田島:アメリカのラスベガス・シティFC(2017-18)時代の監督がポルトゲーザに関わっていて、小学校の頃からの夢だったブラジルでプレーしたいという思いを伝え、つなげてもらいました。
――環境面では、それまでのアジア・欧州・オセアニア・北中米との違いを感じたことはありますか?
田島:ロンドリーナという地域でしたが、想像していたよりも都会で治安も良くて、日本のように過ごせました。自前のグラウンドもあって、トレーニング環境も恵まれていました。
――さまざまな地域でプレーをしてきた中で、逆に予想より治安が悪かった地域もあったのですか?
田島:マイアミはアメリカでも3本の指に入るぐらい危険と言われていました。夜の練習後に一人でバス停で待っていたら、「危ないからやめたほうがいい」と注意されました。どれだけ注意していても、巻き込まれたら抵抗せずに持っているお金を差し出すように、と。運の要素もあると思います。それに比べると、ロンドリーナは夜に外を歩いても大丈夫でした。
――2シーズンプレーした後、再び環境を変えたのはどんな理由があったのですか?
田島:右足のふくらはぎに古傷があって痛みがなかなか引かず、1週間しっかりトレーニングできないこともあったので、「憧れのブラジルで区切りをつけよう」と引退を考えていたんです。チームの会長も今年の秋に引退試合を提案してくれていました。ただ、いろいろな病院を回って治療を続けているうちに状態が良くなり、通常通りトレーニングできるようになって。そこでやり残したことを考えた時に、以前から興味があったアフリカへの挑戦を考えました。
――6大陸目の挑戦ですね。どのように新チームとコンタクトを取ったのですか?
田島:まずアフリカで治安がいい地域を調べたところ、マダガスカルが「地球最後の楽園」と呼ばれていることを知って、比較的安全だとわかりました。そこからマダガスカルリーグについて調べて、1部リーグの2〜3チームに連絡を取ったところ、FCルージュからすぐに返事があり、スムーズに契約が進みました。
マダガスカルで拓いた挑戦と契約の舞台裏
――交渉から契約に至るまでに評価されたポイントはどんな部分だったのですか?
田島:これまでの選手としてのキャリアに加えて、ブラジルでは国際交流ダイレクターとして日本人選手を現地に紹介する仕事もしていたことが評価されました。今年の2月には中学生5人をブラジルに送り出して、今もU-16でプレーしている選手がいます。一方で、ブラジル人選手を日本に連れていくことも考えていましたが、Jリーグにはすでに強いルートがあるので難しいんですよね。
ただ、アフリカの選手はパトリック・エムボマ選手や最近だとマイケル・オルンガ選手などが活躍しましたが、まだJリーグでの実績が少なく、関わることができれば引退後にも貢献できるのではないかと思いました。そういった役割も含めて、クラブと話し合いのうえで契約してもらいました。
――これまでに築いてきた人脈が生きたのですね。
田島:そうですね。ブラジルもマダガスカルも国際的なつながりを求めていて、マダガスカルはJリーグのルートがまだなかったので、方向性が一致しました。
――“6大陸すべてでプレーした初の日本人選手”という肩書が生まれた瞬間、どんな思いが胸をよぎりましたか?
田島:実際にマダガスカルでプレーしてみないと「6大陸制覇」とは言えないと思っています。国が経済的に厳しく、日本の支援も一部にはありますが、その恩恵を受けられる人は限られているそうです。だからこそ、自分が選手として勝利に貢献して賞金をもたらし、ビジネス面でも海外とのパイプとなれればチームの助けになりますし、その意味でも結果を出したいという気持ちが強いです。
――住む場所や練習施設はどのような感じですか?
田島:住む場所はホテルで、食事も提供してもらえます。グラウンドも人工芝で思っていた以上に整っているので、プレーに集中できる環境です。
また、日本にいる時に指導している埼玉県川越市のF.C.STIMOLANTEという中学生のクラブチームが、僕がマダガスカルにいる間も支援してくれます。マダガスカルは世界でも最貧国の一つなので、お金にはこだわっていません。6大陸制覇を目指してプレーしますが、多くの人の協力があって実現できています。将来的には、F.C.STIMOLANTEとブラジルやマダガスカルとの交流もできたらと思っています。

FCルージュで描く未来図「経験を生かす」
――FCルージュは、首都アンタナナリボを拠点に2024年に1部昇格し、カップ戦ではベスト4やベスト8にも進出しているそうですね。リーグ戦はどのようなレギュレーションで行われるのですか?
田島:リーグ戦は11月末に開幕し、全12チームがホーム&アウェー方式で戦います。シーズンは翌年7月まで続き、優勝クラブにはCAF(アフリカサッカー連盟)チャンピオンズリーグの出場権が与えられます。3月から7月にかけて行われるマダガスカルカップの優勝クラブには、CAFコンフェデレーションカップの出場権が与えられます。アフリカのサッカースタイルはこれまで経験がないので、どんなプレーが見られるのか、育成も含めてとても楽しみです。
――チームをどのように導いていきたいと考えていますか?
田島:リーグ戦やマダガスカルカップでの優勝を目指して、CAFチャンピオンズリーグやコンフェデレーションカップなどの国際舞台に出場することが目標です。マダガスカル初の日本人選手としてタイトル獲得に貢献したいですし、将来的にはアフリカの才能ある選手をJリーグに紹介するなど、橋渡しの役割もしていきたいですね。
FCルージュは予算の関係で、使えるボールの数が限られています。寄付などで支援することは難しくないのですが、単なる援助ではなく、持続的にチームが自立できるように関わっていけたらと思っています。その点でも、考えながらプレーするやりがいがありますね。
――これまでの経験をピッチでどう生かしていきたいですか?
田島:FCルージュは若い選手が多く、オーナーからも「昨季は経験不足が課題だった」と聞いています。自分のキャリアを評価してもらえたのもそうした背景があってのことなので、中盤でのプレーはもちろん、日々のトレーニングから姿勢を示して、チームを引っ張っていきたいと思っています。
6つの大陸で見た“サッカーと文化”の多様性
――これまで5つの大陸でプレーされてきましたが、大陸ごとにサッカー文化やスタイルに違いは感じましたか?
田島:ブラジルには憧れていましたが、行ってみるとイメージと違いました。以前のブラジルはテクニック重視で小柄な選手も多い印象だったのですが、今はまず体格が重視されます。クラブの会長も「ヨーロッパに高く売れない選手は難しい」と言っていました。その結果、ブラジルらしさが薄れ、少し寂しさも感じました。ユース世代でも屈強な選手が多く、ヨーロッパ化しすぎてしまったのは近年ブラジルが結果を残せていない理由の一つだと思います。アフリカには身体能力の高い選手が多いと聞いているので、どんなプレーをする選手がいるのか楽しみです。
――田島さんが一番プレーしやすかったのはどの国ですか。
田島:アメリカですね。マイアミもラスベガスもメキシコ系の選手が多く、日本人と体格も近いので、蹴るだけのサッカーではなく、プレーしやすかったです。
――ピッチ外の文化や語学への適応はどのようなことを大切にしていますか?
田島:それぞれの国の言語の辞書を常に持ち歩いて、わからない言葉があるとその場で調べていました。そうすると、「逆に日本語を教えて」と言われることもあって、どの国でも自然とコミュニケーションが取れるようになりました。
――「この国に住みたい」と思った場所はありましたか?
田島:いろんな国に行ったからこそ、日本の便利さや安心感をすごく実感しています。だから、あくまで日本を拠点にしながら、さまざまな国に挑戦していきたいという思いがあります。
情熱が導いたサッカー人生。異国の地で見つけた新たな価値
――ケガもあった中で、プロキャリアをここまで続けられた原動力はなんだったのですか?
田島:やっぱりサッカーに対する情熱ですね。30歳を過ぎてから本格的に海外を回るようになって、サッカーを通じてさまざまな文化や価値観に触れる楽しさもモチベーションになりました。例えばサンマリノは、日本と似ていて国民性が穏やかで、外で忘れ物をしても誰かがどこかに届けておいてくれるような国です。一方で、隣のイタリアではスリも多い。そういう地域ごとの違いを知ることも楽しかったです。
――海外では食事や水が合わずに体調を崩すこともありますが、その点はどうでしたか?
田島:現地の食事は基本的に何でもおいしく食べられるタイプなので、特に問題はなかったです。日本からサプリを持っていく程度で、コンディションも維持できています。ただ、例えばブラジルに留学した中学生たちは、日本食を大量に持ち込んでいて、現地の環境にもなかなか馴染めずかなり苦労していました。その国の文化をリスペクトしてなるべく早く順応することも、サッカー選手として大切な適応力だと思います。
――日本では“Jリーガー”が唯一の目標になる選手もいますが、世界を巡った今、海外挑戦の魅力をどう伝えたいですか?
田島:世界には数えきれないほどチームがあって、それだけ可能性もあるということです。本気でプロになりたいという気持ちと情熱があれば、自分を評価してくれるクラブは必ず見つかります。自分の可能性は、自分にすらわからないものです。もしJリーグのクラブに入ることが難しくても、諦めずにいろんな国でチャレンジを続けてほしいです。やる気と情熱があれば、道は開けると思います。
<了>
【過去連載1】なぜ非サッカーエリートが、欧州でプロ契約を手にできたのか? 異色の経歴が示す“開拓精神”を紐解く
【過去連載2】海外挑戦を後押しし得る存在。4大陸制覇した“異色のフットボーラー”田島翔が語る「行けばなんとかなる」思考
【過去連載3】サッカー×麻雀が生み出す可能性。“異例の二刀流”田島翔が挑むMリーグの高い壁、担うべき架け橋の役割
【過去連載4】憧れの存在は、三浦知良と多井隆晴。“サッカーと麻雀”の二刀流・田島翔が川淵三郎と描く未来
日本人監督が欧州トップリーグで指揮する日はくるのか? 長谷部誠が第二のコンパニとなるため必要な条件
[PROFILE]
田島翔(たじま・しょう)
1983年4月7日生まれ、北海道出身。マダガスカルリーグのFCルージュに所属するプロサッカー選手。ポルトゲーザ・ロンドリネンセの国際交流ダイレクター。ロアッソ熊本やFC琉球などを経て、スペイン、クロアチア、サンマリノ共和国、韓国、シンガポール、ニュージーランド、アメリカ、ブラジルのクラブを渡り歩き、マダガスカルで6大陸目のプロ契約を実現。アジア・欧州・オセアニア・北中米・南米・アフリカの6大陸でプロ契約した初の日本人となった。2022年7月にプロ競技麻雀団体RMUのプロ試験を受け合格し、「頭脳のスポーツ」である麻雀の魅力も伝えている。
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