鎌田大地が見せるプレミア2年目の覚醒。慣れと相互理解が生んだクリスタル・パレスの変化
日本人MF 鎌田大地が、英国・プレミアリーグで迎えた2年目のシーズンに、文字通り“覚醒”の時を迎えている。昨季から戦術や役割の変化を経て、鎌田自身もその変化に順応し、所属クラブクリスタル・パレスでの存在感が飛躍的に高まった。「慣れ」「戦術的成熟」「味方との理解」という3つのキーワードから、日本代表MF鎌田大地がプレミア2年目に見せる進化の理由を探る。
(文=田嶋コウスケ、写真=REX/アフロ)
「慣れた部分は大きい」鎌田大地、好調の理由
鎌田大地が好調だ。
プレミアリーグでは、ケガ明けの第3節から7試合連続で先発出場。公式戦5試合で4勝1分と絶好調だった9月には、チームのクラブ月間最優秀選手賞を受賞した。さらにプレミアリーグ全体でも、6人からなる9月の最優秀選手の候補に選ばれ(マンチェスター・シティのFWアーリング・ハーランドが受賞)、プレミア挑戦2年目にしてキャリアでも充実期を迎えている。
ピッチ上で、鎌田の支配力と存在感は日増しに高まっている。主戦場は3−4−2−1のセントラルMF。堅守速攻を得意とするチームの中で、守備では堅実に要所要所を抑えつつ、チャンスと見れば鋭いスルーパスやサイドチェンジ、縦パスを繰り出して攻撃のリズムを生み出す。いまや鎌田がクリスタル・パレスを動かしている──。そんな印象を受ける。
では好調の要因はどこにあるのか。鎌田は次のように語った。
「慣れの部分がやっぱり一番大きいと思う。自分の中で余裕の部分が少しできたりだとか、少しの差ですが、そういうところが大きいのかなと思います」
鎌田が指摘したのは「慣れ」だった。昨シーズンの終盤にも、鎌田は「慣れた部分は大きい」と同様のことを口にしていた。
戦術的成熟が鎌田の活躍を後押ししている
パレスは少し特殊なチームだ。監督は、フランクフルト時代の恩師オリバー・グラスナーだが、もともとは堅守速攻をベースにしている。スカッドもカウンターを得意とする選手で構成されており、ポゼッション型のチームでキャリアを積んできた鎌田にとっては、当初は戸惑いが多かった。
しかし、守備に行くタイミングやセカンドボールを拾う位置取りなど、試合を重ねるごとに改善。シーズン終盤にはレギュラーに定着し、クラブ史上初のFAカップ戴冠にも大きく貢献した。今季の好調は、まさにその延長線上にあると言える。
意識面については昨季と大きな変化はないというが、チーム全体の戦い方の変化が鎌田のプレーに影響しているようだ。
「(昨シーズンに比べて)特にやることは変わってない。チームに来た時よりも、守備の部分の行き方や予測の部分は多少変わったところだと思う。昨シーズンは攻撃的MFを多くやっていましたが、このチームで前でやるのは簡単ではないので。今もう一個後ろのセントラルMFとしてやれているのも大きいと思います。
それと、僕とアダム・ウォートンでセントラルMFを組むときは、『ポゼッションをより(チャレンジ)しよう』という意識がある。そういう部分も昨シーズンよりチームとして変わったんじゃないかなと思います」
実際、トレーニングでも攻撃練習の割合が昨季より増えているという。「そういう部分がうまく出せてるところもある」と鎌田。在任2年目を迎えたグラスナー監督が、カウンター型のパレスに自らの戦術を徐々に浸透させている段階にあり、その歩みは遅いながらも戦術的成熟が鎌田の活躍を後押ししているのだ。
相互理解が深まるチームメートたち
チームメートも日本代表の特性を理解し、信頼が高まっているように見える。
振り返ると、攻撃的MFとして出場する機会の多かった昨シーズンの序盤戦は、鎌田がフリーでDFラインの背後に抜けても肝心のパスが出てこない場面が多かった。視野の広いウォートンでさえ、鎌田のランを見逃すことがあった。
ところが今は違う。
セントラルMFでプレーする鎌田に、とにかくボールがよく集る。優れたサッカーIQを生かして絶妙な場所に鎌田がポジションを取れば、味方もスッとパスを出す。そして、日本代表MFがボールを持てば、ダニエル・ムニョスやタイリック・ミチェルのウイングバックが勢いよくスペースに走り込む──。こうした流れで鎌田のスルーパスから好機が生まれるシーンは少なくない。鎌田と味方の相互理解が深まったことも、好調の大きな要因だ。
エースのエベレチ・エゼ退団で迎えた危機
しかしながらシーズン開幕当初、パレスには暗雲が漂っていた。
原因はエース、エベレチ・エゼの退団だ。昨季公式戦14ゴールを記録した背番号10がアーセナルに移籍し、「今シーズンのパレスは苦戦するのでは?」との否定的な見方もあった。ところが蓋を開ければ、6節まで3勝3分無敗で堂々の3位につけるなど好スタートを切った。
こちらから「エゼ選手いなくなり、『チームがどうなるか?』という状況でしたが、今の状態としてはどのような感じですか」と聞いてみると、鎌田は次のように答えた。
「良いのではないかなと思っています。もちろんエゼがいなくなって得点力は少し落ちたかもしれないですけど、みんなで守備をする部分やコンビネーションの部分は増えたと思う。その分、僕自身もボールを触る回数が増えていると思います。
もちろん彼はチームのために決定的な仕事をたくさんしてくれていたので、その部分がなくなったのは痛いですが、今の自分たちはうまくやれていると思います」
欧州の舞台で見えた課題
その一方、ローテーションで鎌田がベンチスタートとなったUEFAカンファレンスリーグ、ホーム初戦のAEKラルナカ戦で、チームは大苦戦した。
相手は格下のキプロス勢。ボールを保持して押し込んだものの、堅守速攻型のパレスは自分たちが主導権を握る展開を得意としない。鎌田とウォートンに代わってセントラルMFで先発したジェフェルソン・レルマ、ウィル・ヒューズでは攻撃が機能せず、結果は0−1の敗戦に終わった。
クラブ史上初めて欧州カップ戦への出場となり、試合前におけるスタジアムの雰囲気も非常に良かった。だが、試合が始まると徐々に盛り上がりは冷めていった。鎌田もそうした空気感を感じ取っていたという。チームの反省点を含め、AEKラルナカ戦を次のように振り返った。
「スタジアムの雰囲気は普通というか。試合内容自体が『自分たちがボール持つ』展開だった。プレミアのチームは良いプレーをしたときにファンが反応してくれますが、こういう展開だとなかなか難しい。静かなところは少しあったと思う。自分たちはもっとうまくできたと思うし、そうなればスタジアムの雰囲気ももっと良くなったはず。もっとできた試合だったと思います」
日本代表として、そして世界最高峰の舞台で
10月には日本代表の一員としてパラグアイとブラジルと対戦した。特に日本がブラジルを撃破したニュースは、遠く離れたイングランドでも報じられた。
「ブラジル戦の勝利について、チームメートから何か反応はありましたか?」と尋ねると、サムライ戦士はこう答えた。
「もちろんみんな、その結果は知っています。世界的に見ても、日本への評価はチームからもチームメートからも以前より上がっているなと感じます」
パレスでも日本代表でも、好調の中心にいるのが鎌田大地だ。とりわけプレミアリーグではクラブとイングランドサッカーへの適応が完了し、これまで以上に存在感が増している。
視野の広さに裏打ちされたスルーパスと粘り強い守備、さらに突出したサッカーIQの高さを駆使して、これからも駆け抜けていく。
<了>
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