欧米ビッグクラブ組が牽引する、なでしこジャパン。アジアカップで問われる優勝への三つの条件
3月1日にオーストラリアで開幕したアジアカップで、なでしこジャパンは2大会ぶりの頂点を狙う。2022年大会では23人中6人だった海外組が、今大会は26人中22人まで増え、欧州や米国の第一線で主力として戦う選手が中心になった。だが、大会を勝ち進めば、空前の女子サッカーブームの中で強力なホームアドバンテージを持つオーストラリアや、長期合宿で練度を高めてきた北朝鮮など難敵が立ちはだかる。炎天下の連戦の中で、王座をつかむために求められる要素とは。アジア特有の難しさ、引いた相手を崩すための突破口も含め、勝敗を左右する要素を整理する。
(文=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=ZUMA Press/アフロ)
「海外組」が日常になった意味
数字だけを見ても、今大会のなでしこジャパンは前回とは輪郭が大きく違う。2022年インド大会は23人中6人が海外組。今回は26人中22人まで増えた。肩書だけの“海外組”ではない。マンチェスター・シティやマンチェスター・ユナイテッド、バイエルンをはじめ、第一線で主力として試合を重ね、判断の速さや球際の基準を日常的に引き上げてきた選手が中心にいる。
背景には、WEリーグ創設以降、選手がサッカーに専念できる環境が整い、練習強度やコンディショニングの基準が国内でも上がったことがある。そこで個を磨いた選手が海外へ出て代表の中心になり、後に続く選手が出てくる流れができた。
メンバーの3分の2に当たる16人が、女子サッカー世界最高峰の一つであるイングランドのウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)に所属している点も象徴的だ。短期決戦では、日常の基準がそのまま勝負の基準になる。
もちろん、海外組が多いだけで優勝が保証されるほど甘くないことは、開幕戦でオーストラリアがフィリピンに1-0で辛勝した結果からもわかる。アジアでは引いて守備を固めるチームが多いことに加え、海外クラブでの役割やポジションが、代表のそれと一致しない場合も少なくない。清家貴子は、クラブでは「作りながら崩す」局面が多い一方で、代表では「シュートやクロスなど、ゴールに直結するプレーを増やすことが必要」と話す。
ニルス・ニールセン監督は、短期決戦で求められるものを、こう表現する。
「このような大会で勝つのはミスが少ないチームではなく、試合中に対応できたり、相手のやってくることに順応できるチームだと思う。選手の自主性も尊重しながら、戦術面の詳細もしっかり伝えていきたいと思います」
中盤の要である長谷川唯は、勝ち方の輪郭をこう描く。
「どの相手に対してもボールを持って主導権を握り、チャンスを作って勝ち切りたい。ただ、準決勝、決勝まで行くと必ずしもそういう展開ではないこともあるので、劣勢の時間帯の戦い方も想定しながら、勝ちにこだわっていきたいです」
優勝への三つの条件
日本が頂点に立つために、三つの条件が浮かび上がる。
一つ目は、アジア特有の相手への対応力だ。2年目を迎えた現体制では、スペイン、ブラジルといった強豪との対戦を重ねて「世界基準」に視点を合わせてきた。一方、アジアでは難しさの質が変わる。藤野あおばは、その違いをこう捉えている。
「(欧州の強豪やブラジルは)足も速いし体も強くて背も高く、見た感じは大人と子どもぐらいの差がある相手。アジアは日本と同じ体格の選手たちが、つながりを持ってみんなで戦ってくる印象が強いです」
アジアでは連動してスペースを消される場面が増える。重要なのはそれを上回る個の力や、局面で数的優位を作り、主導権を握り続けることだ。もっとも、例外はオーストラリアだ。WSLでプレーする選手は13人と日本に迫る多さで、藤野はアジアの中でも“ヨーロッパに近い”強さを持つ相手として捉える。
「フィジカルが強く、ヨーロッパっぽい強さや速さ、シュートインパクトがあり、一つの能力を切り取ってもすごい選手がいます。縦に速いだけでなく、ビルドアップでつないで崩していく部分も使い分けられる、タクティカルな部分も持ち合わせた国だと思います」
相手の特徴を踏まえて迷わず試合に入り、状況によっては“形”にこだわりすぎず、最適解を選び直す割り切りも必要になる。
連戦を乗り切るマネジメント
二つ目は、酷暑の条件下で長丁場をどう乗り切るか。チャイニーズ・タイペイ、インド、そしてベトナムと戦うグループステージ(GS)は中2日で3試合。会場のパースは乾燥し、13時キックオフの初戦は36度の予想も出ている。宮澤ひなたは、所属するマンチェスター・ユナイテッドで2月に「2週間で5試合」、時差と移動も伴う超過密日程を経験したことが今大会で生きると話す。
「試合慣れできて、連戦での回復の仕方や体の動かし方はわかっています。コンディションをピークに持っていくのは難しくても、最大限に上げていけるかどうか。条件が同じなら、最後は気持ちの戦いになると思います」
鍵になるのはローテーションだ。キャプテンの長谷川唯は、「スタメンだけでなく、後から入る選手の力が重要だと思うので、26人全員がいい準備をして戦うことが大切」と話す。連戦下のアクシデントも踏まえて、誰が出ても同じ絵を描けるか。固定されたメンバーではなく、全員で勝ち切る発想がノックアウトステージの余力につながる。
三つ目は、GSで取りこぼさないことだ。ワールドカップ出場枠は12チーム中6。その条件だけ見れば余裕がありそうだが、GSで一つでも躓けば、その先の組み合わせが一気に厳しくなる。順調なら準決勝でオーストラリア、決勝で北朝鮮との対戦が濃厚だが、GS2位ならノックアウトステージ初戦から北朝鮮と出場権をかけた山場になる可能性が高い。アジアカップ過去4大会を戦った熊谷紗希は、チームに求められる覚悟をこう語っている。
「目標はワールドカップ(のタイトル)を取ること。アジアカップは取らなければならない大会だと思うし、その覚悟や責任はチームに伝えていかなければいけないと思う。アジアを日本が引っ張るんだという自覚を、みんなに伝えていきたいです」
優勝までの全6試合から逆算すれば、GSで勝ち点を落とす余裕はない。清家は「圧倒できれば理想ですが、1-0の積み重ねでも勝っていくことが大事」とつけ加えた。
藤野あおばが握る突破口
GSでは、相手が大量失点を避けるために最初から引いて守ってくる展開が予想できる。そこで必要になるのが、相手の守備が揃う前に一気にフィニッシュまで持ち込める存在だ。今大会、その役割を最前線で担えるのは藤野あおばだろう。
マンチェスター・シティで2年目を迎えた22歳は、サイドでの1対1でドリブルの刃を磨きつつ、内側に入って味方の動きに合わせてゴールに迫る選択肢を増やした。今大会では「相手を1枚はがすことや、状況を打開するところでチームにアドバンテージをもたらしたい」と、ゴール前の役割を意識している。
長谷川とのホットラインは大きな武器だ。同じクラブで日々プレーしながら、疑問に感じたことは練習や試合後に迷わず聞きにいく。その「日課」を通じて、感覚を共有しながら積み上げた呼吸は今大会でも発揮されるだろう。
「唯さんとはコミュニケーションがなくてもうまくできる部分が多く、それによって0コンマ何秒のプレーがスムーズになるのはアドバンテージになると思います」
クラブでは右が主戦場だが、代表では左での起用が多く、「カットインから振り抜くシュートをゴールに結びつける」ことが目下の課題だ。粘り強く守る相手に藤野が早い段階でその“一撃”を出せれば、チームは波に乗れるはずだ。
過去の歴史から見れば、アジアカップは日本にとって「勝って当たり前」の大会ではない。過去20回で頂点に立ったのは2014年と2018年の2度だけで、最多優勝は中国の9回。だからこそニールセン監督は「大会に集中してタイトルを掲げ、新しい歴史をつくりたい」と力を込める。
毎回の合宿で、メンタルトレーニングの取り組みの時間を必ず作り、選手が恐れず決断できる空気づくりに力を注いできた成果も測られる大会となる。
花の周りに蜂が集まり、より良いはちみつが生まれる――指揮官が口にした比喩に重ねれば、個の力と総力がかみ合った時に結果はついてくる。3月4日の初戦、チャイニーズ・タイペイ戦は、その積み重ねが結果として形になるかを測る最初の90分になる。
<了>
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