J1参入プレーオフはJ2勢の「やりがい搾取」? より具体的な昇格の夢を!

Opinion
2019.12.18

12月14日に行われたJ1参入プレーオフ決勝。今シーズンさまざまな困難に見舞われた湘南ベルマーレが徳島ヴォルティスに1-1で引き分けてJ1残留を決め、J1チームの意地を見せる形で幕を閉じた。

一方、敗れた徳島のリカルド・ロドリゲス監督による「不公平だ。考え直すべき」との発言が注目を集めている。現行の「J1参入プレーオフ」は果たして不公平なのか?

(文・写真=宇都宮徹壱)

艱難辛苦を乗り越えてのJ1残留

「今シーズン、非常に大変なことが起こりました。(チーム内に)混乱もあり、グラウンドも使えず、いろいろなことを選手はよく乗り越えてくれたと思います。今日のゲームに関しては、戦術的なものよりも、選手が大事な局面局面で体を張ってプレーしてくれたので、そこの成果だったと思います」

12月14日にShonan BMW スタジアム平塚で行われた、湘南ベルマーレと徳島ヴォルティスによるJ1参入プレーオフ決勝。見事にJ1残留を果たした湘南の浮嶋敏監督は、安堵感いっぱいの表情を浮かべながら会見でこう語った。「非常に大変なこと」とは、この夏に発覚したチョウ・キジェ前監督によるパワハラ問題。そして「グラウンドも使えず」とは、10月12日から13日にかけて通過した台風19号の影響により、練習場の馬入ふれあい公園サッカー場が冠水したことを指す。8月から10月にかけての湘南は、まさに立て続けのアクシデントに見舞われていた。

8月13日にチョウ前監督が「指導自粛(のちに退任)」を発表し、迎えた17日の第23節以降、湘南は10試合にわたって勝利から見放され、その間に順位も11位から16位にまで後退。ようやく勝利したのは、浮嶋監督が就任して5試合目となる11月30日の第33節、対サンフレッチェ広島戦である。それまで育成畑を歩んできた指導者が、やむにやまれぬ事情でトップチームの監督となって以降、プレーオフを含めた7試合の戦績は1勝3分け3敗。まさに艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越え、薄氷を踏む思いでのJ1残留であった。

この試合の前半、主導権を握ったのは徳島だった。リカルド・ロドリゲス監督が3年にわたって鍛え上げたチームは、縦横無尽かつ連動性あふれるサッカーで湘南を圧倒。そして20分、左コーナーキックから鈴木徳真のゴールで先制する。これに対して浮嶋監督は、後半の頭からクリスランを投入して前線に起点を作ると、流れは次第に湘南に傾く。そして64分、鈴木冬一の左からのドリブルから山崎凌吾がクロスを入れ、クリスランがスルーしたところを松田天馬が左足でネットを揺らす。この同点弾が、湘南のJ1残留を決定づけた。

ロドリゲス監督が投げかけた問題提起

ところで、残留を決めたプレーオフの1週間前、湘南はアウェイで松本山雅FCと今季リーグ戦の最終節を戦っている。やはり残留を懸けたテンションの高い試合で、16位の湘南は松本に勝利することは絶対条件であった。湘南は85分に野田隆之介のゴールで先制するも、その5分後に同点に追いつかれて試合終了。16位のまま今シーズンを終えた湘南は、残留の望みをプレーオフに懸けることとなる。結局、2試合続けての1-1のドロー。同じスコアと試合結果でありながら、湘南にとっては地獄と天国くらいの振れ幅に感じられたはずだ。

J1参入プレーオフでは、上位チームのホームで一発勝負の試合が行われ、ドローの場合は上位チームが次のステージに進出する。今季のJ2を4位で終えた徳島よりも、J1で16位の湘南が上位という理屈は、ある程度は理解できる。が、当事者にしてみれば、やはり不公平感は否めない。事実、徳島のロドリゲス監督は「このシステムはJ2には不公平だ。われわれは(プレーオフを含む45試合で)22勝した。湘南は(35試合で)10勝しかしていない。もう一度(レギュレーションを)考え直したほうがいい」と会見で述べている。

実は前回のプレーオフでも、違和感を覚えることがあった。昨年、J1のジュビロ磐田がホームに迎えたのは東京ヴェルディ。1回戦と2回戦を、いずれも1-0の僅差で競り勝った東京Vであったが、最後は磐田に0-2で力負け。両者の戦力差は明らかだったが、それ以上に気になったのが「カタルシスの欠如」である。東京Vがアディショナルタイムの決勝点でファイナル進出を決めた、横浜FCとの2回戦のほうが、第三者的にははるかに劇的で見応えがあった。

J1クラブが参入する以前のJ1昇格プレーオフでは、決勝のあとには必ず昇格チームが誕生し、チェアマンから贈られた木製のシャーレを高々と掲げて皆で歓喜したものだ。そして昇格を勝ち取った側と、あと一歩で届かなかった側とのコントラストは、よりドラマティックなものに感じられた。ところがJ1の16位との入れ替え戦が加わり、2年連続で「昇格の歓喜」ではなく「残留の安堵」を見せられると、いささか気が削がれた気分になってしまう。本当にプレーオフは、今のシステムのままでよいのだろうか?

試行錯誤が続いたプレーオフの歴史

ここであらためて、Jリーグにおける昇降格とプレーオフの歴史について振り返っておきたい。Jリーグが1部・2部制となったのは1999年。その前年に、「J1参入決定戦」なるものが開催されている。これは、1997年と1998年の成績をポイント化した下位4チームと、旧JFL所属の準会員1チームの計5チームがトーナメントを戦い、その結果でJ1とJ2に振り分けるというもの。

その後、1999年から2003年にかけては、J1 の下位2チームとJ2の上位2チームが自動入れ替え(この5シーズン、J1は16チームで行われていた)。そして2004年には、J1・J2入れ替え戦がスタートする。第1回はJ1・16位の柏レイソルと、J2・3位の福岡が対戦(合計スコア4-0で柏がJ1残留)。J1が18チームとなるのに伴い、J2・1位の川崎フロンターレと2位大宮アルディージャはJ1に自動昇格している。ちなみに、この年のJ2は12チームで行われており、J1昇格は今よりもずっと「広き門」という感があった。

このJ1・J2入れ替え戦は、2004年から2008年まで5回にわたって開催されている。J1勢とJ2勢との対戦成績は、J1勢の2勝3敗。ヴァンフォーレ甲府が第2戦のバレーの6得点などトータルスコア8-3で柏に競り勝ち、初のJ1昇格を達成したのは2005年のことだ。その後、2009年から2011年までの3シーズンは、入れ替え戦なしで3チームが自動的に昇降格をしていたが、とうとう2012年にJ2は「定員」の22チームに達する。翌年からは初めてJ2から降格チームが出る一方で、上位〜中位チームには何かしらのインセンティブを用意する必要が生じた。

そこで新たに考案されたのが、2012年からスタートしたJ1昇格プレーオフ。自動昇格を逃した3位から6位までの4チームが、3位対6位と4位対5位で準決勝を行い、その勝者が中立地で一発勝負の決勝を戦う(のちに上位チームのホームに変更)。引き分けの場合、上位チームが勝ち上がるというレギュレーションも、この時に作られたものだ。第1回大会の決勝は、終了間際のゴールでJ2・6位の大分トリニータがジェフユナイテッド千葉に勝利し、4年ぶりのJ1復帰を果たしている。

現行のレギュレーションは最適解なのか?

結果としてJ1昇格プレーオフは、Jリーグが当初予想していた以上の成功を収めることとなった。国立競技場で行われた第1回大会の決勝は、雨天にもかかわらず2万7433人もの観客を集め、当該クラブ以外のファンやサポーターの関心も高かった。「日本一残酷な、歓喜の一戦。」(2012年)や「夢と絶望の90分。」(2014年)といったキャッチコピーにも、Jリーグが大会のコンテンツ価値に意識的だったことがうかがえる。こうしてJ1昇格プレーオフは、Jリーグの最後を締めくくる風物詩として2017年まで続いた。

ところが、J1昇格プレーオフのあり方について、次第に疑問を呈する意見が目立つようになってゆく。その一番の理由は、プレーオフを経て昇格したチームの、J1での定着率の悪さであった。2012年の大分、2013年の徳島、2014年のモンテディオ山形、そして2015年の福岡。いずれも、わずか1シーズンでJ2に出戻りとなってしまった。2016年のセレッソ大阪と2017年の名古屋グランパスは残留を果たしたものの、「プレーオフの制度を見直すべきではないか」という議論がJリーグ内部で高まっていく。

かくしてJ1昇格プレーオフは、J1参入プレーオフと名を改め、現行のレギュレーションが導入されることとなる。だが、これが最適解だったかと問われれば、少なからぬ疑問は残る。これだけJ1勢が優遇されていながら、J2勢には「6位にもチャンスがある」とうたうのは、ある種のやりがい搾取のようにも感じられるからだ。昇格のハードルが上がったことで、2018年以降のJ1は最下位の勝ち点が初めて30を超えるなど、レベルの底上げにはつながった。しかしその分、J2が「夢のないリーグ」となりつつあるようにも感じられる。

念のため申し添えておくが、湘南のJ1残留について、私は異議を唱えるつもりはない。むしろあれだけの困難に直面しながら、クラブ史上初となる残留を果たしたことには、心からの祝意と敬意を表したい。その湘南に対して、徳島が互角以上の魅力的な戦いを見せたからこそ、あらためてプレーオフのあり方が問われているのである。J2のクラブに、より具体的な昇格の夢を与える意味でも、やはり極端なJ1有利のレギュレーションは改められるべきだと思う。

具体案としては、J1とJ2による決勝は新国立競技場のような中立地で開催。そして同点の場合は、延長戦+PK戦を実施する。このマイナーチェンジだけで、J2側の不公平感はかなり是正できるはずだ。また、J1昇格プレーオフやJ1・J2入れ替え戦の復活も、視野に入れてよいように思う。プレーオフ+入れ替え戦の現行システムは、やはり欲張りすぎの感が否めない。おりしもJリーグの村井満チェアマンが「プレーオフの見直しを議論する」ことを明らかにしている。ぜひとも柔軟な対応を期待したいところだ。

<了>

8部から4年でJFLへ! いわきFCが揺るがない「昇格することを目的化しない」姿勢 

収益倍増、観客数3倍、J2昇格! FC琉球を快進撃に導いた社長はなぜ2年で交代したのか? 

柏、J1昇格即優勝の再現なるか? 衝撃の「13-1」は新たな戦いの序章にすぎない 

松本山雅、8年過ごした「ソリさんとの別れ」 最終戦で沸き起こった大歓声と拍手 

チョウキジェ監督「パワハラ」疑惑 “結果”と“愛”が生み出すスポーツ界の歪み

この記事をシェア

KEYWORD

#COLUMN

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事