ダルビッシュ有が「悪い霊が憑いてるんじゃ」とすら思った不調から立ち直れた方法とは?
日本球界の至宝にして、唯一無二のアスリート、ダルビッシュ有。数々の本音を包み隠さず明かしてくれた5月の独占インタビューに続き、再び『REAL SPORTS』の独占インタビューに答えてくれた。
特に後半戦において目覚ましい活躍を見せ、その存在感とさらなる進化を示した2019年。舞台をMLBに移して8季目を終えた今、「気持ちの悪かった」という今シーズンを振り返った――。
(インタビュー・構成=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、撮影=浦正弘)
「1年の中でここまでコントラストがはっきりしたシーズンはなかった」
――まずは2019年シーズンの振り返りからお願いします。全体的に、これまでのシーズンと比べて、どのようなシーズンだったと感じていますか?
ダルビッシュ:「気持ちの悪い」シーズンでしたね。というのも、シーズン序盤は状態がすごく悪くて、野球人生の中でも一番良くないんじゃないかという時期が2カ月近くありました。一方、最後の数カ月間は野球人生の中でも一番良い状態まで持っていくことができた。1年の中でここまでコントラストがはっきりしているシーズンを経験したことはありませんでした。
――シーズン後半、ダルビッシュ選手の状態の良さとシカゴ・カブスの成績がうまくリンクしなかったのがちょっと残念でした。
ダルビッシュ:そうですね。結局、チームもプレーオフに出られませんでしたし。自分としても、良いピッチングをしてもチームが勝てないことが多く、勝ち星がつかない試合が多かったので、そういう意味でも変なシーズンだったなと思いますね。
――打線ともうまくかみ合わなかった印象があります。
ダルビッシュ:とはいえ、やっぱり打つほうもなかなか大変で、(ピッチャーの)レベルもどんどん上がっているし、難しいのはわかっています。自分自身としては、大事なところで点を取られるというか、9イニングの中でたくさん大事な場面があると思うんですけど、試合を振り返った時に、「この場面のこの失点はもったいなかったな」と思うことが非常に多かった。そのあたりは来シーズンに向けての課題になるかなと思います。
――前回のインタビュー時に体調不良の話をされていましたが、もう大丈夫なんですか?
ダルビッシュ:いや、今でもありますよ。朝起きた時、「ああ、今日はちょっとやばいな」というのがたまにあるんです。でも、症状が出ても、以前にお話した「仙骨枕」というもので背骨のコンディショニングをするとすぐに楽になります。今ではそのおかげで症状をコントロールできるようになったと感じてますね。
――「仙骨枕」、多方面でかなり評判がいいみたいですね。
ダルビッシュ:実はもっと賛否両論あるかなと思ったんですよ。正直なところ、エビデンスがあるわけではないですし、やっていることがわかりづらいから、「そんなもので治るわけがない」と言う人が多くなるんじゃないかなと思っていたんです。でも、ネガティブな声は本当に少なくて、「買いました」「最近調子がいいです」という人が本当に多い。なので、本当にすごく良いツールなんじゃないかと今は思っていますね。
――Twitterを見ていても、ポジティブな反響ばかりでした。
ダルビッシュ:はい、ほとんどがそうでしたね。もしかしたら、ネガティブなことを言ってきた人は誰もいないんじゃないかな? 僕が見落としていなければ。
――ダルビッシュ選手のような著名なアスリートが、特定のアイテムを薦めるのってやっぱり勇気がいるじゃないですか? だから、これまでそういう発信をする人ってほとんどいませんでしたが、今回のケースで見ても、トップアスリートが一般の人にも効果がある情報を提供していくのはとても良いことだなと感じました。
ダルビッシュ:一般の人にとってみれば、トレーニングって、方法や負荷の掛け方もいろいろあるし、ちょっと壁を感じると思うんですよね。本格的な運動をしたことがない人もたくさんいるだろうし、ちょっとハードルが高い。でも、あれ(仙骨枕)に関しては、誰にだってできる。お年寄りでも手軽にできますからね。だからこそポジティブな反響が多かったのかなと。
加えて、自分と同じように、「理由はよくわからないけれど体調が悪い」という人も世の中にはたくさんいると思うんです。今回はそういう人たちにも響いたのかなと思いますね。
周りの人から「ダルビッシュらしくない」と言われたこと
――体調改善のために、とにかくいろいろなことを試されたと聞きました。その中で、エビデンス云々というよりも、さまざまなことにトライした上でのダルビッシュ選手のオススメというところに説得力があったんだと思うんですよね。食べ物もトレーニングもいろいろ試して、診察だって何人ものドクターに診てもらっているんですよね?
ダルビッシュ:そうです。2018年に肘を痛めて少し休息を取ろうとなった頃、症状が出ると息ができなくなったり、寝る前に息ができずにパニックになることがありました。(ロサンゼルス・)ドジャースに行ってから特にひどくなったんですね。1週間に4回くらい大きな病院に行き、すべてチェックしても何も問題ないと。肺活量も問題ないし、アレルギーテストをしてもそんなに大きな反応が出ない。その後に「仙骨枕」に出会って、少しずつ効果が出てきたんです。
とにかく、本当にいろいろなことを試しました。その中で、周りの人から「ダルビッシュらしくない」と言われたことが一つあって、それは体を清めること。「悪い霊がついているんじゃないか?」という発想が根源なんですが、もうそこまでいくわけですよ。いろいろ試しても全然ダメだから、これはもう非科学的なものなんじゃないかと思って。体を清めるためにお風呂に塩をバーッと入れたり酒を入れたりしました。3日に1回はシャワーの後に酒を浴びていたので、そのたびに妻にそういうお酒をたくさん買ってきてもらったり。そんなことを去年、一昨年かな? オフシーズンの時期に結構やっていたました。まあ、全然効果なかったんですけどね(苦笑)。
――ある意味、それぐらい追い込まれていたということなんですね。確かにダルビッシュ選手らしくないというか、ちょっとビックリしてしまいました。
ダルビッシュ:ただ息苦しいとか、そういうものだけではなくて、常に体が重いし、重いというか常に疲れているんですよ。しんどいし、すぐイライラする。子どもたちと一緒に遊ぶことすらすぐに疲れて続かない。それが自分の中ですごく引っ掛かっていたんですよね。今では子どもたちと一緒に外で遊ぶことも本当に多くなったので、その点は自分の中でもすっきりした状態なんですが。
――それって、野球選手として云々よりも、一人の人間として大きな問題ですよね。
ダルビッシュ:YouTubeでこのことについての映像を出した時、コメント欄に「成績が悪かった言い訳じゃないか」とか、そういうものも多かったんですよね。ただ、自分はこの体調不良が成績にどう関係したかなんて全く言っていないんです。野球をやっていれば大丈夫なんですよ。マウンドに行けば大丈夫。全く体調のことは関係なかったんですね。
――しかし、日常生活も含め、すべてのことがプレーに直結するわけじゃないですか?
ダルビッシュ:でも、切り離しはできるので。あまり直接的な原因ではなかったと今でも思っています。
<第2回へ続く>
[第2回]ダルビッシュ有が「YouTuber」を始めた理由とは?「野球でもYouTubeでも、成功の原理は応用できる」
[第3回]ダルビッシュ有を支える仮説と検証。「1日に5個、6個の仮説を立てて試します」
[第4回]ダルビッシュ有が否定する日本の根性論。「根性論のないアメリカで、なぜ優秀な人材が生まれるのか」
[5月独占インタビュー①]ダルビッシュ有が明かす、メディアへの本音「一番求めたいのは、嘘をつかないこと」
[5月独占インタビュー②]ダルビッシュ有が考える、日本野球界の問題「時代遅れの人たちを一掃してからじゃないと、絶対に変わらない」
[5月独占インタビュー③]ダルビッシュ有は、なぜTwitterで議論するのか「賛否両論あるということは、自分らしく生きられてる証拠」
[5月独占インタビュー④]ダルビッシュ有はなぜゲームにハマったのか?「そこまでやりたくない時でも、今はやるようにしてます」
なぜダルビッシュ有は復活を遂げたのか?「お股ニキ」が分析する“さらなる進化”
[プロ野球12球団格付けランキング]最も成功しているのはどの球団?
[甲子園 勝利数ランキング]1位は圧倒的に大阪桐蔭! 2位はどこ…?
PROFILE
ダルビッシュ有(ダルビッシュ・ゆう)
1986年生まれ、大阪府出身。MLBシカゴ・カブス所属。東北高校で甲子園に4度出場し、卒業後の2005年に北海道日本ハムファイターズに加入。2006年日本シリーズ優勝、07、09年リーグ優勝に貢献。MVP(07、09年)、沢村賞(07年)、最優秀投手(09年)、ゴールデン・グラブ賞(07、08年)などの個人タイトル受賞。2012年よりMLBに挑戦、13年にシーズン最多奪三振を記録。テキサス・レンジャーズ、ロサンゼルス・ドジャースを経て、現在シカゴ・カブスに所属している。
この記事をシェア
KEYWORD
#INTERVIEWRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
大谷翔平のリーグMVP受賞は確実? 「史上初」「○年ぶり」金字塔多数の異次元のシーズンを振り返る
2024.11.21Opinion -
いじめを克服した三刀流サーファー・井上鷹「嫌だったけど、伝えて誰かの未来が開くなら」
2024.11.20Career -
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
2024.11.12Career -
J2最年長、GK本間幸司が水戸と歩んだ唯一無二のプロ人生。縁がなかったJ1への思い。伝え続けた歴史とクラブ愛
2024.11.08Career -
なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更
2024.11.08Opinion -
海外での成功はそんなに甘くない。岡崎慎司がプロ目指す若者達に伝える処世術「トップレベルとの距離がわかってない」
2024.11.06Career -
なぜイングランド女子サッカーは観客が増えているのか? スタジアム、ファン、グルメ…フットボール熱の舞台裏
2024.11.05Business -
「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
2024.11.05Career -
WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
2024.11.01Career -
女子サッカー過去最高額を牽引するWSL。長谷川、宮澤、山下、清家…市場価値高める日本人選手の現在地
2024.11.01Opinion -
日本女子テニス界のエース候補、石井さやかと齋藤咲良が繰り広げた激闘。「目指すのは富士山ではなくエベレスト」
2024.10.28Career -
新生ラグビー日本代表、見せつけられた世界標準との差。「もう一度レベルアップするしかない」
2024.10.28Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
大谷翔平のリーグMVP受賞は確実? 「史上初」「○年ぶり」金字塔多数の異次元のシーズンを振り返る
2024.11.21Opinion -
なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更
2024.11.08Opinion -
女子サッカー過去最高額を牽引するWSL。長谷川、宮澤、山下、清家…市場価値高める日本人選手の現在地
2024.11.01Opinion -
新生ラグビー日本代表、見せつけられた世界標準との差。「もう一度レベルアップするしかない」
2024.10.28Opinion -
大型移籍連発のラグビー・リーグワン。懸かる期待と抱える課題、現場が求める改革案とは?
2024.10.22Opinion -
日本卓球女子に見えてきた世界一の座。50年ぶりの中国撃破、張本美和が見せた「落ち着き」と「勝負強さ」
2024.10.15Opinion -
高知ユナイテッドSCは「Jなし県」を悲願の舞台に導けるか? 「サッカー不毛の地」高知県に起きた大きな変化
2024.10.04Opinion -
なぜ日本人は凱旋門賞を愛するのか? 日本調教馬シンエンペラーの挑戦、その可能性とドラマ性
2024.10.04Opinion -
デ・ゼルビが起こした革新と新規軸。ペップが「唯一のもの」と絶賛し、三笘薫を飛躍させた新時代のサッカースタイルを紐解く
2024.10.02Opinion -
男子バレー、パリ五輪・イタリア戦の真相。日本代表コーチ伊藤健士が語る激闘「もしも最後、石川が後衛にいれば」
2024.09.27Opinion -
なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
2024.09.27Opinion -
欧州サッカー「違いを生み出す選手」の定義とは? 最前線の分析に学ぶ“個の力”と、ボックス守備を破る選手の生み出し方
2024.09.27Opinion