米子北は砂浜ダッシュだけじゃない! 科学的トレで挑む「フィジカル日本一」への道

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2019.12.27

青森県代表・青森山田高校が連覇を狙う第98回全国高校サッカー選手権大会。年が明けた1月2日、ともに初戦となる2回戦で前大会王者を迎え撃つのが鳥取県代表・米子北高校だ。

10年連続15回目の出場となる鳥取県内の絶対王者でありながら、新たにフィジカルトレーニングと食事改善に本格的に取り組み、パフォーマンス向上の手応えを得た。

「フィジカルでも日本一」と評する青森山田はその成果をぶつける相手として不足はない。米子北が下克上に挑む。

(文・写真=石倉利英)

県内絶対王者が突きつけられた18試合57失点の現実

年末年始の日本サッカー界の風物詩、第98回全国高校サッカー選手権大会が12月30日に開幕する。48の代表校で連続出場回数が最も長いのは、前回大会優勝で連覇を目指す青森山田高校(青森)。今大会が実に23年連続25回目の出場で、現在プレーしている高校生が生まれる前から県内で無敵を誇っている。

これに次ぐのは、10年連続15回目の出場となる米子北高校(鳥取)だ。フランスのトゥールーズでプレーする日本代表DF昌子源が3年生だった2010年度から連続出場を続けている。2009年11月の新人戦以降、インターハイ予選も含めて県内3タイトルでは一度も負けていない。青森山田同様の無敵状態だが、さらなる進化を遂げるべく、さまざまな取り組みを行っている。なかでも特に力を入れているのが、フィジカルトレーニング。意識するようになったのは、1年前の出来事がきっかけだった。

米子北は2017年、高校年代最高峰のリーグ戦である高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグWESTに初昇格。Jクラブのアカデミー(育成組織)など強豪チームが居並ぶリーグで苦戦が続いたものの、4勝5分9敗、10チーム中7位で残留を果たしている(8位以上が残留)。残留決定後に臨んだ同年度の高校選手権では、同校史上最高のベスト8まで勝ち上がっており、難敵との連戦がチーム力アップにつながった。

だが2018年は1勝17敗で最下位に沈み、降格となってしまう。シーズン終盤の11月、この年にプレミアリーグWESTで優勝し、高校年代日本一に輝くことになるサンフレッチェ広島F.Cユースと対戦したとき、城市徳之総監督と中村真吾監督は試合前に相手の選手を見て、あらためて驚いたという。

「広島の選手たちは身長が高くない選手でも下半身が太く、がっしりしていました。フィジカルの質を上げるためには、選手たちが意識を高く持ち、すべてに全力で取り組む必要があります。数年前から感じていたことでしたが、プレミアリーグで戦った2年間で、それを痛感させられました」(城市総監督)

その試合は0-3で完敗。この年は他のJクラブのアカデミーにも軒並み大量失点で敗れ、18試合で57失点を喫した。米子北は以前から学校近くの砂浜でダッシュを繰り返すトレーニングを定期的に行っており、中村監督もプレミアリーグの戦いで「走力は、ある程度のレベルにあると感じた」という。だが、それ以上に「パワーやキックの距離などが、強豪チームとウチではまったく違う。技術・戦術だけでなく、体を一から作り直さなければ、プレミアリーグで戦い続けることはできない」と気づかされた。

多くの支えを得て取り組むフィジカル強化

そこからの動きは早かった。すぐにフィジカルトレーニングの量を増やすと、年が明けて新チームが指導してからは、複数の専門家の指導を仰いで強化を進めている。

フィジカルトレーニングの指導を行っているのは、東輝明氏。高校サッカーの強豪・東福岡高校(福岡)や、JFLのHonda FC、Jリーグのザスパクサツ群馬、鹿児島ユナイテッドFCなどでフィジカルコーチやチーフトレーナーを務めた経歴を持ち、中村監督が東福岡時代から旧知の仲だったつながりで依頼することになった。現在は鹿児島県在住で、週末を利用して鳥取県を訪れたり、合宿に帯同して直接指導。メディシンボールを使った筋力トレーニングや、ロープを引っ張ってのランニング、68mを10秒以内で走ることを繰り返すインターバル走など、体全体の筋力と走力を高めるメニューを行っている。

その他に指導を受けているのが、阿久津洋介氏と青木豊氏。2人はヴィッセル神戸DF酒井高徳などトップアスリートのコンディション管理を行う東京都内のパーソナルジム「LP BASE虎ノ門」所属で、阿久津氏はパフォーマンスコーチ、青木氏はパフォーマンスセラピスト。ダッシュやターンなど、サッカー特有の動きの向上につながる走り方や、疲労を軽減するストレッチ、睡眠・休養などの生活習慣に至るまで、鳥取県まで招いて指導を受けている。

フィジカル強化と連動するコンディショニングも見直した。理学療法士、フットケアトレーナーマスターライセンスなどの資格を持つ地元在住の前谷涼子氏が週1回程度、同校を訪れ、ケガの予防と体のケアに関する指導を実施。バスケットボールのBリーグ、島根スサノオマジックのチームトレーナーを務めた経験を持つ同氏は、オーダーメイドのインソールも製作しており、スパイクに関する指導・アドバイスも受けている。

フィジカル強化とコンディショニングの両面に欠かせない要素として、練習時の「補食」も始めた。同校OBでホテルの料理長を務めた経験を持ち、現在は寮の舎監を務める井田正晃氏が、大人のこぶしほどの大きなおにぎりを全部員に2個ずつ作り(部員数100人なので、1日200個!)、選手は練習前と練習後に1個ずつ食べている。長い練習のときでもエネルギー不足で動きが落ちる選手が減ったほか、「ゴールデンタイム」と言われる運動後30分以内の栄養補給で、体作りや疲労回復の効果アップを目指している。

体重8kg増。パフォーマンスの向上も実感

こうした取り組みの成果は徐々に表れており、中村監督は「一人ひとりがパワーアップしたと感じています。体幹が強くなっていて、小柄な選手でも相手の大型選手に当たり負けしなくなっている」と語る。具体的な数字でも、1年時から全国大会に出場している3年生のDF岡田大和は、昨年からの筋力トレーニングと合わせて1年間で体重が大幅に増えた。選手権の登録データは昨年度が178cm・66kgだったが、今年度は179cm・74kgの8kg増で、パワーアップによるパフォーマンスの向上も実感しているという。

間もなく開幕する高校選手権は、この1年間の取り組みの成果を図る物差しとなる。初戦となる2回戦の相手は青森山田高校。2019年はプレミアリーグEASTで優勝し、WEST王者・名古屋グランパスU-18とのファイナルも制して、高校年代日本一に輝いた。埼玉スタジアム2002で行われたファイナルを現地で視察した中村監督は、「青森山田は一人ひとりがうまいだけでなく、体も強い。フィジカルでも日本一でしょう」と警戒するが、もちろん恐れてはいない。

「そういうチームだからこそ、選手権という大舞台で実際に戦うことで、この1年間の体作りの成果と、今後に目指すべき道のりが見える。もってこいの相手です」

2020年1月2日12時5分から、NACK5スタジアム大宮で行われる2回戦。連覇を狙う高校年代最強チームを王座から引きずり下ろすべく、パワーアップした米子北が戦いに挑む。

<了>

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