「不謹慎ばかりでは前に進めない」 藤田俊哉が見る、東京五輪と欧州リーグの行く末

Opinion
2020.03.19

新型コロナウイルス感染症による影響で、刻一刻と状況が変化する世界のスポーツ界。特に欧米における感染拡大はさまざまな面で暗い影を落としている。拠点をオランダに置き、欧州サッカー界にも精通する藤田俊哉は今の状況をどう捉えているのか? 日本サッカー協会の欧州駐在強化部員として活動する藤田は、欧州と日本それぞれの現状を冷静に見定めつつ、「スポーツがある日常に向けた準備」が何より重要だと語る。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介)

実質1週間でオランダの感染者数が日本を超えている

――これだけ世界中に新型コロナウイルス感染症が広がって、世界のスポーツ界にとって大打撃という状況です。

藤田:経済にも大打撃となりますね。僕が日本に帰ってきたのが2月中旬です。

――それは短い滞在を予定した一時帰国だったわけですか?

藤田:2週間の予定でした。2月19日に日本に来て、3月の頭にはオランダに帰る予定でした。日本に行く直前の2月の中旬ぐらいにオランダでも新型コロナウイルスがニュースになり始めて……。

――オランダでも話題になり始めたわけですね。

藤田:最初オランダ人は冗談で「コロナウィルスは大丈夫なのか〜」って言ってきましたよ。それが今では「もう冗談でも言えない状況だ」と言ってます。僕はオランダに住んでいるから、毎日のようにオランダの日本大使館からメールが来ます。最初3月初めは、オランダの感染者は10人ほどの話だったのが、今朝見たら1000人を超えていました(感染者数などの数字はインタビューを行った3月15日時点)。

――オランダでもそんなにいるのですか。

藤田:死者も20人出てしまっている。日本での感染者数は約800人ほどだから、実質1週間ほどでオランダの感染者数が日本の感染者数を超えているわけです。ということは、この半月でさらに情勢が大きく変わる可能性もあります。ヨーロッパでの感染がどんどん拡大している。オランダだけ見てもわかりますし、最初はイタリアが中心でしたがドイツ、イタリア、スペイン、フランスなども。

――アメリカも多くの国からの入国を禁じたじゃないですか。あれだって異常なことですよね。

藤田:本当にヨーロッパもそのようになっても不思議ではないです。ヨーロッパは、イギリス以外は全部つながっているし、ヨーロッパは同じ国境内だという人もいるくらいだし。

――やっぱりヨーロッパがつながっているというのをまざまざと感じたというか、広がるのがあっという間ですよね。

藤田:実際この半月を見ていたら、とんでもない早さで広がっています。猛威を振るっているのは間違いない状況です。僕らにわからないのは、どれぐらいそれを恐れるべきなのか? これは専門家でないとわからないことですから。

ヨーロッパは今シーズン終了?

――ヨーロッパの各国リーグも佳境じゃないですか。UEFAチャンピオンズリーグも含めてどうなると思いますか?

藤田:再開は難しいのではないかと思います。

――今シーズン終了ってことですか?

藤田:はい。そう思います。ヨーロッパの人たちが、マスクや食料を爆買いするって、これまで僕には想像できなかったほど怖い状況です。彼らは、そういうところって「大丈夫だろう」という意識のほうが強い人たちだと感じていました。しかし、今はそれが各地で起きてしまっています。

――特にラテンの国なんかは、「どうにかなるだろう」という感覚が強いですよね。

藤田:手洗いや、うがいなどオランダの仲間がしているのを見たことがないです。咳も周りを気にしないでします。

――手洗い・うがいの文化がないというのも、一気に広がってしまった理由なのでしょうか。

藤田:そういったこれまでまったく気にしていなかった部分を、急に今みんなが気にするというような異様な連鎖になっていると思います。

――だから最初は無観客でやろうという流れがあったじゃないですか。イタリアも最初やろうとしていたけど、今やもう無観客でもできない。

藤田:今はもう、それすら口にできない状況でしょう。

――ブンデスリーガが「やる」と言ったけど、結局やめました。選手、監督に感染者も出てしまいましたよね。

藤田:アーセナルは監督が感染してしまうような……。

――ミケル・アルテタ監督が感染してしまった。

藤田:選手だってユヴェントスに1人、フィオレンティーナに4人、サンプドリアには7人感染者が出てしまっているという報道もありました。

このトンネルもいずれ抜けるという予測を立てた準備を

――日本以上に、ヨーロッパのサッカーは経済規模も含めてすごく損害が大きいと思います。ブンデスリーガで900億円を超える損失という報道も出ていました。

藤田:正直、スポーツ界で誰にも予想がつかないことが起こってしまいました。サッカーだけでなくゴルフのマスターズ(トーナメント)なども延期です。日本でいえば甲子園(第92回選抜高校野球大会)が中止。これ(予定されていた大会の中止)は初めてのこと。だから誰にも予測もつかない状況であるということです。

――そうですよね。終わりも含めて、誰も見えないですよね。

藤田:だから、このトンネルもいずれ抜けるという想定からの準備をどこかのタイミングでしなきゃいけない。まずはストップする勇気があってのこの状況。村井(満)Jリーグチェアマンが「リーグは一度中断します」と発言したのをスタート地点に各界が動きました。でも次はどのようにしたらJリーグの再開となり、以前のようにスポーツが当たり前にある日常を取り戻すことができるのだろうか? そのようなことを考えて、今必死に準備しているはずです。しばらくは辛抱が続きますが必ず道は拓けます。

――あらゆる可能性を踏まえながら、必死にやっているところですよね、今。

藤田:はい。ですから僕は十分に気をつけて生活しますが、必要以上に悲観的にならず日常生活を送りたいという考えでいます。

――実際もう今、パニックじゃないですか。世界中が。

藤田:だから今は、それぞれの団体のトップ、もっといえば国家レベルだったら大統領、首相がリーダーシップを発揮し、正しいと信じられる方向へ導いてもらいたいです。例えばJリーグだったら(村井)チェアマンが、どのように方向づけるのか……。そのようなところからさまざまな面が見えてきます。その他では、働き方などを考え直すきっかけにもなります。例えば在宅勤務でテレワークが推奨される中で、今後もそれがどのくらい機能するのかなど試す機会ともなります。厳しい状況ではありますが、その一方ではそれくらいポジティブなことも考えていかないと……などとも考えてしまいます。

――本当ですよね。

藤田:常に両面を考えるという思考法であるべきです。不謹慎とかそういうことばかり言っていたら前に進めません。十分に注意することは継続しながら明日を見て進む。このような考え方でいつもやっていきたいですね。

ヨーロッパは止める時の判断が早い

――スポーツイベントでいうと、今年はまずUEFA EURO(2020)があります。EUROの開催は難しいでしょうか?

藤田:開催は難しいでしょうね。(※編集部注:取材後の3月17日、欧州サッカー連盟が1年延期を発表)

――東京五輪はどう思います?

藤田:それも通常での開催は難しいのではないでしょうか?

――「5月末までに判断する」という話もありますが、5月末までに明らかに大丈夫という状態にはならないですよね。

藤田:僕が怖いなと思っているのは、コロナウイルスが日本から1カ月ぐらいの遅れでアメリカ、ヨーロッパに広がっていることです。それも早い速度で。ということは、日本がもう少しで4月になろうとする現時点の状況が、向こうでは5月となります。時差は1カ月あるということです。あるいは日本が1カ月早い状況にあるということを、東京五輪開催を好転させるポイントにするか。これはすごく難しい決断になりますが、決めたら決めたで前に進むしかないとも考えています。

――藤田さんにはヨーロッパの情報もたくさん入ってきていると思います。

藤田:止める時の判断は早いと感じています。サッカーのリーグも、例えばすごい豪雨で、アウェイに向かうバスに乗る寸前での中止もありました。ピッチコンディションがあまりにも悪すぎるという理由で開催日の朝に中止になったりもしました。その辺は大胆ともいえるジャッジもありました。ですから現状の東京五輪は予定通り実施という方向性であっても、今後さまざまに変化していくものだと考えています。

「日本の素晴らしさや大事に思う気持ちが持てる」ということ

――東京五輪の延期という方向は視野に入れ始めているのではないかとも思いますが。

藤田:アメリカの(ドナルド・)トランプ大統領が「東京五輪は1年延期したほうがいい」と発言したことが大きく影響しているようにも感じます。それだけ発言力がある、影響力があるということですよね。政治というものは、ある意味そのような感じで進んでいくものなのかもしれません。そのようなことを改めて学びました。

――中止じゃなくて延期というのが結構ポイントかなとも思っています。

藤田:興味深い言い回しと言えるのは、「あとは安倍(晋三)首相に任せる」と最後のところは言い切らないというか。あのような言い回しを聞くと、政治の進め方にはいろいろあるんだろうなと。IOC(国際オリンピック委員会)もさまざまなことを想定しているはずだと思います。JFA(日本サッカー協会)ももちろん対応しているはずですが、やはり日本がこれからより国際的な影響力を強めていくためには、FIFA(国際サッカー連盟)の中枢にも日本の誰かが関わってほしいなと思います。そういう時代への準備を今からある程度する必要もあるかとも考えます。例えば、長谷部(誠)や川島(永嗣)とか。ヒデ(中田英寿)にもそのあたりの考えを聞きたいです。今後は若い世代が積極的に参加することも非常に重要なポイントになります。

――中田さんは立教大学経営学部の客員教授に就任しましたね。2020年度の秋学期から「日本文化の世界戦略」をテーマに講義するそうです。

藤田:やっぱりヒデは海外で生活していた期間が長いし実績も申し分ないです。そして日本がいかに素晴らしい国なのかもよくわかっています。僕は海外に行くことでの一番重要な気づきは、日本の素晴らしさや、母国を大切に思う気持ちじゃないかなと感じています。失礼な言い方になるかもしれませんが、海外に夢を持ちすぎるあまり「海外がいい、海外がいい」となりすぎているようにも僕は感じています。

――中田さんも引退したあと世界中を回り、そのあと、日本中を回った。

藤田:僕もオランダのコーチ仲間などから「お前の生まれたところは、どのくらいの数の人が暮らし、どんな産業があって、どんな広さで、特徴はなんなの?」などとよく聞かれます。案外みんな自分の生まれた国について詳しく知らないようにも感じます。少なくとも僕はそうでした。自分の生まれた国の面積、人口、民族のルーツとか。あと例えば「日本の中で山ってどれくらいあるの?」みたいな。俺も初めて向こうの人に言われて、「日本、山いっぱいあるよ」くらいにしか答えられなかったけど。調べてみると「日本って約7割が山なんだ」とか、「俺たちって3割ぐらいしか住めないの?」とかがわかる。そういう勉強も大切だとも思います。世界的に起こってしまった非常事態の終息を願うことをきっかけに、さまざまなことに考えを巡らせるきっかけになればと考えています。

<了>

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PROFILE
藤田俊哉(ふじた・としや)
1971年10月4日生まれ、静岡県出身。清水商業高校、筑波大学を経てジュビロ磐田に入団。オランダのユトレヒト移籍後、磐田に復帰。以降、名古屋グランパス、ロアッソ熊本、ジェフユナイテッド千葉と渡り歩く。ミッドフィルダーとして初めてJ1通算100ゴールを記録。2012年6月、現役引退を表明。2014年からオランダのVVVフェンロのコーチに就任し、2016-17シーズンのオランダ2部リーグ優勝と1部復帰に貢献。2017年からはイングランド2部のリーズ・ユナイテッドの強化部にヘッド・オブ・デベロップメント アジアとして加入。2018年9月に日本サッカー協会の欧州駐在強化部員に就任し、日本代表チームの強化にあたる。

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