コロナ感染Jリーガー、覚悟の告白。スポーツ界が担うべき「感染者の差別問題」へのメッセージ
Jリーグの選手としては2人目となる新型コロナウイルス感染から回復したJ2・ザスパクサツ群馬のDF舩津徹也。3月30日に行ったPCR検査陽性を受け、翌日から群馬県内の医療機関に入院し、4月15日に退院。その2日後、地元メディア向けのインターネット会見に臨んだ。すでに自身のSNSで退院後にコメントを発信していたにもかかわらず、なぜ舩津は自ら記者の質問に答える場を設けたのか? 積極的な情報発信の背景には本人の意思と、医療関係者の強い思いがあった。
(文・撮影=伊藤寿学)
「30代サッカー選手」から一転、実名報道の理由
リスク覚悟で会見に応じた、といえる。
「コロナ感染でこのようにメディアに取り上げられるのは正直、喜ばしいことではありませんが、自分の経験や医療関係者が厳しい状況にあることを僕が伝えなければいけないと思いまして会見を設定させていただきました」
新型コロナウイルス感染から回復したJ2・ザスパクサツ群馬DF舩津徹也が4月17日、地元メディア9社とのクラブ主催インターネット会見(Zoom)に出席した。Jリーグで2人目、関東Jクラブでは唯一の感染者である舩津が症状、入院生活などについてネット越しに打ち明けた。
現時点でのJリーグのプロサッカー選手の感染者は3選手だが、会見に臨んだのは初。国内プロアスリートでも初めてのケースとなった。
舩津は同15日に退院した際、クラブを通じて「自分が体験したことをできる範囲でお伝えして少しでも皆さんの知識にしてもらえれば」とコメントし、地元メディアとの会見が設定された。積極的な情報発信の背景には本人の意思と、医療関係者の思いがあった。
PCR検査で陽性反応が出たことが発表されたのは4月1日。その2日前の3月30日、J1・ヴィッセル神戸のDF酒井高徳のJリーグ選手初感染が発表されたが、2番目の感染が大都市クラブではなく地方クラブから発生した。舩津の感染は、群馬県内20例目で、住所がある前橋市では2例目だった。クラブ、メディアを含めて周囲は騒然となった。
クラブは4月1日午前に本人実名で感染をリリース。舩津が即入院となった状況下、クラブは同日午後に行政管轄・前橋市と合同で会見を開いた。クラブからは、社長、強化本部長らが出席した。一般感染者であれば所属会社が会見するケースはほとんどなく、行政側が説明するにとどまるが、プロサッカークラブという特殊な組織であるがゆえに、クラブ側は説明責任を全うした。市側の資料には「30代サッカー選手」という表記だったが、クラブ側が実名を発表した。舩津自身が「詮索されることで、他の選手に迷惑をかけたくない」と実名発表を希望したという。
この会見の前には、ひと悶着があった。報道数社が、クラブ関係者出席に対しての二次感染の危険性を指摘したのだ。ザスパクサツ群馬はチームクラブハウスと会社事務所が別のため感染リスクは少なかったが、指摘が妥当だったのは間違いない。それによってチームに近い立場の広報担当は会見に立ち会わなかった。ある新聞社からは「なぜネット会見にしなかったのか」という声も上がった。

感染経路は不明。「3密といわれる場所には行っていない」
市とクラブから発表された行動歴と経過は以下のとおりだ。
<行動歴と経過>
3月22日 都内でJクラブとテストマッチ
3月23日 オフ=治療などで都内滞在
3月24日 オフ=治療などで都内滞在
(「3密」の場には行っていないという)
3月25日 練習参加
3月26日 練習参加。夜に倦怠感
3月27日 朝37.1度の発熱。練習欠席。夜に38.3度に上昇
3月28日 朝37.6度。練習欠席。医療機関受診
3月29日 練習欠席。37.1度まで下がるが倦怠感
3月30日 県内の病院にて検体採取。喉の痛み、味覚異変。夕方36.8度
3月31日 群馬県衛生環境研究所にてPCR検査陽性
4月1日〜 県内医療機関に入院(入院中は発熱なし)
4月15日 退院
感染経路は不明。23、24日のオフ日に都内に滞在したが、治療がメインで人混みには行っていないという。群馬県内では練習場の近くの福祉施設で、その後にクラスター(集団感染)が発生しているなど、身の回りにもウイルスは近づいていた。舩津は「3密といわれる場所には行っていないですし、本当に心当たりがないんです。それがコロナの怖さなのだと思います」と首をかしげた。
最大の懸念だったのは、チーム内クラスターの危険性だ。保健所を通じて発表された濃厚接触者は実に41人。クラブは3月から取材規制を実施していたため取材陣の中に濃厚接触者はいなかったが、発症日に練習を共にした選手・監督・コーチ・スタッフ全員が外出自粛要請で自宅待機となった。保健所は、本人の近くにいたとされる3人と、風邪の症状が出た3人の計6人をPCR検査し、最終的に全員が陰性となった。発症から2週間が経過した時点で、追加感染者が出なかったことからクラブのコロナ問題は収束したと見るべきだろう。
ロッカールームやシャワー、ジムなどが共用になっていながら感染が広がらなかったのは、舩津が症状の出た翌日から練習を欠席したことが挙げられる。また、クラブでは手洗い、うがい、消毒を徹底。さらに練習後の着替え、シャワーなどが奏功したと推測できる。41人もの濃厚接触者がいながら追加感染がなかったのは感染予防のヒントになるかもしれない。
「陽性判定を聞いて、自分のことよりもチームにどれほどの迷惑がかかるのかという計り知れない怖さがありました。一番嫌だったのは自分のことではなく誰かに感染してしまうことだと思っていました。感染してしまったらどうしたらいいのだろうと悩んでいましたが、広がらなかったことで本当にホッとしました」
濃厚接触者については、こんなことも話していた。
「僕自身は感染者なので周囲からいろいろ言われても受け止められます。でもチーム内の濃厚接触者の家族や子どもへの中傷があったようです。家族は濃厚接触者ではありませんし、実施に感染はなかったので、そのような誹謗中傷はやめてほしいと思います。正確な情報に基づかない行動は謹んでほしいと感じましたし、子どもにもそういうことを教えてほしいと思います」
舩津の言葉は、感染に関しての社会的問題を提起していた。
「最初に風邪のひき始めのような違和感」
症状は、極めて軽かった。本人に基礎疾患はなく、アスリートとして普段から健康管理と規則正しい食事を徹底していたため軽症で済んだとも推測できるが、詳しくはわからない。3月26日夜に発症し、翌27日夜に体温が38.3度まで上昇したものの、その後は熱が下がっていた。
「最初に風邪のひき始めのような違和感はありましたが、27日の朝は37.1度で普段であればそのまま練習に行っていたと思います。ただ、チームとして37度を超えたら念のためトレーナーに連絡をするというコロナ(対策)のルールがあったので、チームと相談の上で休みました。あのまま練習に行っていたら広がってしまったかもしれません。38.3度に上昇した翌日にはもう熱が下がってしまったので、普段であれば風邪だと考えて普段の生活に戻っていたと思います」
舩津はPCR検査についても言及した。軽い風邪のような症状で検査を受けられたのは、チームドクターの配慮だった。前橋市の保健所は医師からの要請があった場合にPCR検査を実施する流れになっており、チーム全体への影響を考えたチームドクターが保健所へ相談していた。しかし、それでもすぐには実施されなかったようだ。検査を待つ間、味覚に異変が生じていた。熱が下がり、体調も良くなってきたため味の濃い食事を欲して自宅で「麻婆豆腐」を食べた。その時に、味がしなかったという。味覚障害については、コロナ陽性となっていたプロ野球・阪神タイガースの藤浪晋太郎が告白したことで広まっていたが、舩津は味覚の異変によって自身がコロナに感染しているかもしれないという恐怖を感じた。
「僕も専門的な知識がないのでわかりませんが、PCR検査について最初は『ちょっと様子を見てくれ』という感じのようでしたので、(検査までの5日間待機は)長いなと感じました。僕がもし会社員で自宅待機などを言われていなければ、風邪に近い症状で熱も下がってきていたので普通に外出していたと思います」
PCR検査を受けたのは発症から5日が経過した3月30日、そして翌日に陽性判定が告げられた。
「検査結果の時はすでに体調は良くなっていましたが味覚異変があったので半信半疑でした。陰性であってほしいと願っていたので、陽性判定を聞いた時はショックでした。チームのみんなに大きな迷惑をかけてしまうというのが最初に思ったことでした」
4月1日に入院したが、その後に発熱はなく体調も良好。入院中はトイレ、風呂完備の個室に隔離され、2週間休養した。味覚症状以外に異変がなかったため、薬は処方されず、ただ安静にしていたという。味覚異変は1週間ほどで消えたそうだ。そして2度のPCR検査陰性後の4月15日に退院となった。
「僕の場合は幸いにも悪化しませんでしたので、治療というよりも人に感染さないための入院という意味もあったと思います」
「プロ選手として、私たちの代わりに伝えてほしい」
退院から2日後、舩津は自宅からインターネット会見に参加した。退院後に自身のSNSでコメントを配信していたため、それだけでも十分だったが、自らの意思で記者たちの質問をダイレクトに受けた。自身が発信するコメントとは違い、リアルタイムでの会見はリスクも生じる。想定外の質問が飛んでくる可能性も当然ある。しかし、舩津はそれらを理解した上で会見へ臨んだ。
それには理由があった。退院する際に、担当医から「プロ選手として、私たちの代わりに新型コロナウイルスの怖さや病院の状況を伝えてほしい」とのメッセージを受け取っていたのだ。
群馬県内では4月19日現在、122人の感染者が報告されている。内訳は入院中100人、退院14人、死亡6人、県外で入院中1人、入院待機1人。感染症病床は52室で、入院数をはるかに超えている。病院側がやりくりをしている状況が、この数字からもわかる。舩津のように症状の軽い患者は、個室対応で入院していると考えられる。
「入院中は、ドクターも看護師の方も防護服で対応してもらっていました。本当に感謝しています。そして、病院のドクターが『うちの病院も病床がいっぱいになっている』と話してくれました。感染者増によって他の病院も満室になりつつあるようです。微力ではありますが、僕のようなプロ選手が発信することによって、コロナへの意識が高まり、感染拡大防止につながればと思ったので協力したいと思いました」
舩津は自身の経験に基づき、警鐘を鳴らす。
「コロナに関して注意はしていたつもりでしたが、実際に自分が感染したことによってチームだけではなくJリーグ全体に迷惑をかけてしまうという怖さを感じました。本当に申し訳ないと思いました。僕らサッカー選手はチーム行動をしているので一人が感染してしまうとチーム全体に迷惑がかかってしまいます。他の選手の人生に影響を与えてしまうかもしれません。これはサッカーチームだけではなく企業も同じだと思います。現状は、いつ、誰が、どこで感染するかわからない状況になっているので、(決して他人事ではなく)自分自身の問題だと思って行動することが大切だと思います。そして感染を広げない行動が求められていると思います」
コロナ感染症から回復した舩津は自宅での自主トレを再開し、チーム合流、そしてJリーグ再開を待つ。Jリーグでの感染者は現在3人。プロ野球、Bリーグなどにも感染者が出ている状況下、今後増えていく可能性もある。世の中では感染者やその家族に対する嫌がらせ、偏見・差別が起きているという話も出ている。感染した選手の復帰をどう受け入れていくのかは、今後のスポーツ界の課題であると同時に、社会に対するメッセージとしていくことが求められる。
<了>
コロナ禍で露わになった「リーダーシップの欠如」。“決断”できない人材を生む日本型教育の致命的な問題
「競技だけに集中しろ」は間違い? アスリートが今こそ積極的にSNSをやるべき3つの理由
「将来監督になりたい」原口元気が明かす本音。外出禁止を「チャンス」と捉えた“14日間”
コロナ後のサッカー界は劇的に変化する? NY在住の専門家が語る“MLSの実情と未来”
日本代表に最も選手を送り出したJクラブはどこだ? 1位はダントツで…

この記事をシェア
KEYWORD
#COLUMNRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
日本サッカーに「U-21リーグ」は必要なのか? 欧州の構造から考える19〜22歳の育成
2026.02.20Opinion -
フィジカルコーチからJリーガーへ。異色の経歴持つ23歳・岡﨑大志郎が証明する「夢の追い方」
2026.02.20Career -
「コーチも宗教も信じないお前は勝てない」指導者選びに失敗した陸上・横田真人が掲げる“非効率”な育成理念
2026.02.20Career -
ブッフォンが語る「ユーヴェ退団の真相」。CLラストマッチ後に下した“パルマ復帰”の決断
2026.02.20Career -
名守護神が悲憤に震えたCL一戦と代表戦。ブッフォンが胸中明かす、崩れ落ちた夜と譲れぬ矜持
2026.02.13Career -
WEリーグ5年目、チェア交代で何が変わった? 理事・山本英明が語る“大変革”の舞台裏
2026.02.13Business -
新潟レディースが広げた“女子サッカーの裾野”。年100回の地域活動、川澄奈穂美が呼び込んだ「応援の機運」
2026.02.12Business -
「自分がいると次が育たない」ラグビー日本代表戦士たちの引退の哲学。次世代のために退くという決断
2026.02.12Career -
女子サッカー日本人選手20人がプレーするWSL。林穂之香が語る進化と求められる役割
2026.02.10Career -
なぜ新潟は「女子部門の分社化」でWEリーグ参入に踏み切ったのか? レディースとプロリーグに感じた可能性
2026.02.10Business -
技術は教えるものではない。エコロジカル・アプローチが示す「試合で使えるスキル」の育て方
2026.02.09Training -
ユナイテッド、チェルシー、アーセナルを“刺した”一撃。林穂之香が宿す「劣勢で決め切る」メンタリティ
2026.02.09Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
日本サッカーに「U-21リーグ」は必要なのか? 欧州の構造から考える19〜22歳の育成
2026.02.20Opinion -
「W杯のことは考えていない」欧州で戦う日本代表選手が語る“本音”が示す成熟
2026.02.06Opinion -
森保ジャパンが描くワールドカップ優勝への設計図。4×100mリレーと女子チームパシュートに重ねる組織の戦略
2026.02.02Opinion -
「正直であること」を選んだ名門の一年。明治大ラグビー部、7年ぶりの日本一と29年ぶりの完遂
2026.01.13Opinion -
高校サッカー選手権4強校に共通する“選手層”の背景。Jクラブ内定選手がベンチに控える理由
2026.01.09Opinion -
“Jなし県”に打たれた終止符。レイラック滋賀を変えた「3年計画」、天国へ届けたJ参入の舞台裏
2026.01.09Opinion -
高校サッカー選手権、仙台育英の出場辞退は本当に妥当だったのか? 「構造的いじめ」を巡る判断と実相
2026.01.07Opinion -
アーセナル無敗優勝から21年。アルテタが学ぶべき、最高傑作「インヴィンシブルズ」の精神
2025.12.26Opinion -
「日本は細かい野球」プレミア12王者・台湾の知日派GMが語る、日本野球と台湾球界の現在地
2025.12.23Opinion -
「強くて、憎たらしい鹿島へ」名良橋晃が語る新監督とレジェンド、背番号の系譜――9年ぶり戴冠の真実
2025.12.23Opinion -
なぜ“育成の水戸”は「結果」も手にできたのか? J1初昇格が証明した進化の道筋
2025.12.17Opinion -
中国に1-8完敗の日本卓球、決勝で何が起きたのか? 混合団体W杯決勝の“分岐点”
2025.12.10Opinion
