なぜバイエルンはU-10以下のチームを持たないのか? 子供の健全な心身を蝕む3つの問題

Opinion
2020.06.03

ドイツ・ブンデスリーガのバイエルンが今後「U-10以下のチームを持たない」との発表を行った。こうした「小学校低学年のチームを持たない」という決断は他にも多くのブンデスリーガのクラブでみられる傾向だ。幼少期からの育成の強化と改革に成功し、多くの優秀な選手を輩出してきたドイツのブンデスリーガクラブで、なぜU-10以下のチームを持たなくなったのか? そこには子どもたちの健全な心身をむしばむ3つの問題があった。

(文=中野吉之伴、写真=Getty Images)

バイエルンが下した小3まではチームを持たないという選択

4月30日、バイエルンが2022-23シーズンからU-10以下のチームを持たないと公式ホームページで発表した。

現在U-9に所属している選手は来季U-10チームとして活動するため、2021-22シーズンからはU-9の新チームを作らず、そして2022-23シーズンからU-10チームを廃止する。

ここで少しドイツにおける年代分けについて最初に説明しておこう。ドイツの学校でも同学年の子どもたちが同年齢になるようになっている。秋にスタートして夏に終わるカレンダーなので、日本でいう小学校6年生は2007年9~12月生まれと2008年1~8月生まれの子どもたちが同学年になるわけだ。

一方で各種スポーツにおいては生まれ年で年代を分けることになる。例えば筆者が指導しているU-13チームだと、2007年1〜12月生まれの選手が対象。ということは、1月生まれの子だとシーズン中に13歳になるが、10月生まれの子は12歳になる年ということになる。学校とチームにおける分け方が違うため、つまり小6の学校のクラスで同級生だけど、スポーツの所属チームにおいては、かたやU-13、かたやU-14に所属ということが起こる。最初この事実を知った時には相当びっくりしたものだ。

日本だとU-13は中1チームとイコールになるが、ドイツだと小6と中1の混合というニュアンスになる。ドイツサッカー協会による年代別基準とこちらでの感覚からすると、ドイツのU-13は小6年代にあたる。つまり日本におけるU-12と捉えてもらえたらと思う。

つまり、バイエルンでは2022-23シーズンよりU-11チーム、つまり日本でいうところの小4チームからを育成アカデミーでチームとして持つようになる。

慣れ親しんだ地元クラブで成長できる可能性

バイエルン育成部長のホルガー・ザイツは「FCバイエルンは社会的な責任において、特にミュンヘンとその周辺地域のまだ小さな子どもたちに対して、常に彼らを意識して活動に取り組んでいる。今回の決断が、子どもたちから『うまくならなきゃ!』というプレッシャーを取り除き、慣れ親しんだ地元クラブの通常の練習の中で成長できる可能性を高めることになると考えている」と強調し、U-15までの統括部長ペーター・ヴェニンガーは「子どもたちがもっと自由な時間を楽しめるようになり、他のスポーツをする機会もできるようになってほしいと思っている。スポーツ学の側面からも異なるスポーツをすることは、サッカーのクオリティを高めるうえでもポジティブな効果がある」と理由を明かしていた。

こうした決断はドイツ初という話ではない。SCフライブルクはもう20年以上U-11以下のチームを持っていないし、現在ではシュトゥットガルトやハンブルガーSV、ブレーメンなど多くのブンデスリーガクラブが、低学年のチームを持たないという傾向が増えてきている。

ヴェニンガー統括部長の言葉にあるように、「小さい頃はサッカーに限らず、さまざまなスポーツができる機会を持つことで健全な心身の成長を」というのが一つの理由だが、それだけではない。大きく分けて「親の問題」「競争の問題」「将来性の問題」の3つがある。

プロという世界は子どもたちに夢を与える。大きな夢だ。夢を見ることは力になる。誰だってかなえたいと願っている。そのために覚悟だってするだろう。本気で挑戦すると誓うだろう。でもその過程において、受け止め切れないほど大きすぎる刺激、プレッシャーやストレスが、いろんなところで弊害にもなってしまう怖さがある。子どもの純粋な思いを、大人がねじ曲げてしまうことだってある。

独裁的な態度をとる親になってはいけない

適切な距離感で、子どもの良さを認め、間違いを毅然と正し、クラブの哲学を信頼し、指導法には口を出さない。そんな親もたくさんいる。ただ、わが子をプロ選手にと、親が目の色を変えるケースが増えてきていると元ヘルタ・ベルリン育成部長のフランク・フォーゲルは警鐘を鳴らしていた。

「プロクラブの育成に入ろうとする子どもたちは、両親から非常に大きな期待を背負っていることが多いんだ。そしてみんな口をそろえて『わが子の夢をかなえるために!』と熱心に携わろうとする。その気持ちも間違いなく持っているだろう。でも、実はそれが自分たちのエゴやプライドというものに縛られていることも多いんだ」

親の子に対する愛は尊い。でもそれが行き過ぎるとどうだろう。自分の子どもこそがナンバーワンだと信じるがゆえに、現実を見ないようになってしまうことがある。そうなると、悪いのはわが子の才能を認めない指導者やクラブだという発想に陥ってしまうことがある。

「常に他クラブや代理人とコンタクトを取り、『もっと自分の子どもを育てるのにいいところはないか』と動きまわる親が増えてきている。彼らは我慢強くいることができない。そしてそうした周囲の大人の動きが子どもにもたらす影響は、極めてネガティブだ。

子どもたちは毎日の学校生活とサッカーとですでにストレスを抱えているのに、そこに家族からのプレッシャーまで加わると身動きがとれなくなる。これが、ポテンシャルがありながらその才能を伸ばしきれない大きな理由の一つなんだ。子どもたちの頭のなかは『やらなければならない』ことでいっぱいで、解放されることがないんだ。そこに、自分たちの利益で動く代理人が関わると、大きなカオスになってしまうのも当然だ」

頭ごなしに独裁的な態度をとる親はいないだろうか? 指導者を差し置いて子どもに指示を出す親と、親の顔色をうかがいながら不安そうにプレーする子という図式は悲しい。自立も自律もできないままでは成熟することはできない。子どもたちのためにと思ってしていることが、やればやるほど子どもたちの成長を阻んでしまう。そして、そこまで“手塩をかけた”としても、その子がプロ選手になれる保証はどこにもない。

多くの優れた選手をもたらしたから成功とはいえない

元ケルン育成部長のクラウス・パプストは、小さい子どもたちの心がそうした競争の中で傷ついていくことを嘆いていた。ケルンのあるルール地方は他にも、レバークーゼン、ドルトムント、シャルケ、ボルシアMG、デュッセルドルフなどブンデスリーガクラブが多い。そのため競争や選手の取り合いも激しくなりがちだ。

「最近は改善されてきたが、U-7からU-8、U-8からU-9という年代でも子どもたちが選抜されたりする。残った子はうれしいし、誇りに思うだろう。でも、その年齢の子どもにとって上の年代のチームに上がれず落第という傷の痛みは、あまりに大きすぎる。どれだけのショックが心に残ることか。それは仕方ないことなのか? 違う。自分のやるべきことを自分なりに理解し、自分なりに覚悟を持ち、自分なりに気持ちをコントロールできるようになる成熟さを身につけるまでは、そうした競争による強すぎる刺激は避けるべきだと思う」

試合が、競争があると勝ちたくなるのは自然の感情だ。でもそれが目的になると「強豪の○○に勝った!」「△△の大会で優勝した!」といった結果による評価基準ばかりになりがちだ。本来育成年代ではサッカーに対する理解、それぞれの局面に対するプレー判断、状況を改善するためのバリエーション、それぞれのプレー精度の向上に取り組むことが非常に重要だ。だからこそドイツは小学生、中学生年代における全国大会をとうの昔に廃止し、20年近く育成改革を推し進めているわけだが、それでもまだまだ「勝利・結果」を何より求める傾向は根強くある。

以前、プロコーチ指導者養成インストラクターチーフのフランク・ボルムートに問いかけたことがある。ドイツのタレント育成プログラムについてどう思いますか、と。

「ドイツのタレント育成プログラムが多くの優れた選手をもたらしたというのは確かだ。だが一方で、その試みの中で多くのタレントを壊してきてしまったのも確かなんだ。僕らは選手が育つための環境を作れているのだろうか。勝たなきゃいけないプレッシャーのほうが強いんじゃないだろうか。それではダメなんだ。ブンデスリーガのユースアカデミーで働く指導者へのプレッシャーが少なくなり、そこでプレーする選手たちがより少ないプレッシャー下で育成されることを望んでいる。それこそ、ある程度の年齢までは勝ち点なしのリーグ戦を導入することで、外からのプレッシャーをなくして、もっと純粋にサッカーと向き合ってもらえるようになれば、もっともっと多くのタレントが育ってくれると確信しているんだ」

若い世代の成長スピードには大きく個人差がある

子どもたちがじっくりと成長するための環境作りの大切さを感じる。ただがむしゃらに頑張ればいいわけではない。これに関しては、SCフライブルク育成部長アンドレアス・シュタイエルトの言葉を紹介したい。すでに20年近くU-10以下のチームを持たないようにしている同クラブは丁寧な育成に定評がある。ドイツ代表DFマティアス・ギンターなど多くの選手がトップチームデビューからトップレベルのクラブへ移籍を果たしているだけに、説得力がある。

「小さい頃に際立った印象を与える子どもは確かに存在する。他の子とは違うセンスを持っているように見える子どもは注目される。でもね、その子がどのように成長していくのか、将来どうなるのかは、誰にもわからないんだ。いつまでも地に足のついた姿勢で人生と向き合い続けることができるのか。周りのアドバイスに耳を傾けることができるのか。指導者との相性、チームメートとの関係性。家族のこと、ケガのこと。いろんな要素が関係してくる。

いまうまい子が5年後、10年後も同世代でトップレベルにいられるかはわからない。逆に今は目立った活躍ができない子が5年後、10年後にスーパーになっていることだってあるんだ。成長スピードには個人差があるし、特に若い世代になればなるほど、こうした傾向は大きくなる。

だから、U-9やU-10からチームを作って育成をしてというのは早すぎるとわれわれは考えている。逆にそれがいらぬ競争意識を生み、親のエゴに振り回され、子どもたちらしいサッカーが許されず、ミスばかりを指摘され、その結果、自然な成長をする機会をむしばんでしまうデメリットのほうが大きい。U-11までは家から通える地元クラブで友だちとサッカーを心の底から楽しむことのほうが、その後の健全な成長につながるんだ」

SCフライブルクでは地域の町・村クラブのお父さんコーチ対象に指導者講習会を開いたり、地元との結びつきを大事にすることで、できるだけ多くの子どもたちがサッカーを楽しめる環境となるために尽力している。

子どもたちは適切な距離感で”普通”に話しかければ普通に会話を交わすことができる。“普通”に伝えれば、ちゃんとそれを受け止めて考えようとする。彼らの一生懸命を真摯に受け止めて、一緒に戦って、でも、その思いがふり切れてしまわないように、燃え尽きてしまわないように、親も指導者も焦らないで、焦らせないで、辛抱強くいたい。

小さな子どもたちが外からの圧力を受けることなく、子どもたちらしくサッカーと向き合い、安心して大好きなサッカーを思いっきり一生懸命できるように。上を目指す子がどんどんチャレンジできる一方で、そこまでではなくてもサッカー好きな子が定期的にマイチームで試合に出場できるように。

ブンデスリーガクラブがU-10以下のクラブを持たなくなった理由から、僕らはたくさんのことを学ぶことができるはずだ。

<了>

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