鎌田大地の覚醒は必然だった。劇的成長の真の理由は、非エリートならではの“ある力”

Career
2020.06.27

残すところあと1試合となったドイツ・ブンデスリーガ。5月26日に行われた第28節のリーグ戦初ゴール以降、フランクフルトの勝利に直結するプレーが際立つ鎌田大地。一方で鎌田自身はこれまでも常に焦ることなく努力を積み重ねてきた。昨シーズンに欧州組最多となる15得点を叩き出したことに対しても「上に戻るために僕自身点が欲しかっただけ」だと語る。自らの強みを誰よりも理解し、出場機会がない時期にも自分を見失わず、常に向上心を抱き続ける。今後のさらなる飛躍が楽しみな23歳・鎌田大地の決してブレない思考を紐解く。

(文=中野吉之伴、写真=Getty Images)

欧州で高まる鎌田大地の評価

終盤を迎えるドイツ1部リーグのブンデスリーガでフランクフルトに所属している鎌田大地の評価が高まってきている。第28節フライブルク戦でブンデスリーガ初ゴールをマークすると、続くヴォルフスブルク戦では決勝ゴールを決め、チームにリーグ7試合ぶりの勝利をもたらした。第31節ヘルタ戦では滑らかなターンとエレガントなボールタッチで相手選手3人を華麗にかわし去り、アンドレ・シウヴァのゴールをアシスト。これにはドイツメディアで絶賛の記事が並んだほどだ。そして第32節シャルケ戦でも見事なアシストで勝利に貢献している。

鎌田は突然開花したわけではない。

これまでも得点になりそうなシーンに数多く絡んできていた。ただちょっとのところでかみ合わなかったり、最後のところでプレーが少しずれたりすることが続いていた。鎌田自身も「ブンデスではうまく決めきれなかったり、オウンゴールになったり、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で取り消されたり。運がない部分もありますけど、1点でも決まればある程度取れるような感覚はある」と常々語っていたが、だからこそ、その扉をいつ、どのように開くのかが大切だった。

そういえば、チームで同僚の長谷部誠はシーズン中に鎌田のことを次のように語っていたことがある。
「ヨーロッパに来て3年目。いろんな経験をして、間違いなく成長していると思う。こういう年齢では成長が右肩上がりというか、垂直ぐらいに上がっていく年齢でもあるので。今は非常にいい段階にあると思うんですけど、これから大事なのはとにかく続けて成長していくことだと思う」

その言葉通り、鎌田はブンデスリーガ初ゴールこそ時間がかかったが、シーズンを通して成長し続けている。自身はどのような思いでリーグを戦い抜いてきたのだろうか。

「与えられたポジションでできないとダメ」

昨季はベルギーリーグ、そして今季はブンデスリーガでプレーし続けることで鎌田のプレー強度はJリーグ時代と比べて格段に上がったと思われる。昨年の10月24日、UEFAヨーロッパリーグのスタンダール・リエージュ戦後には、次のように語っていた。

「すべてのプレーの強度が上がっていて、ブンデスリーガで最初のブレイクに入るまでは体中のいろんなところに痛みがあった。僕、靴ずれとかしたことなかったんですけど、今年はスプリントだったり、他の動作の強度が上がって(靴ずれしてしまった)。腰が痛くなったりもしてましたけど、うまく切り抜けながらできたと思う。今はそんな強度に慣れてきた」

この厳しい環境こそが鎌田が求めていたものだった。自分に足りないものを改善できる、いや改善できなければプレーできない環境だ。足りないものを強烈に要求されるところで戦う。その先に自分が求める場所がある。

「そうですね。(サガン)鳥栖の時もそうだった。自分の中で、上(のレベル)に行った時にやりたいポジションがあります。そのためにはこういうチームでやっていくことが大事だと思う。ブンデスも日本人が少なくなったし、また日本人が評価されるように頑張っていきたいと思います」

フランクフルトではブンデスリーガクラブの中でもインテンシティの高いサッカーが要求される。攻守における強烈な運動量が最低条件。その中で攻撃陣はアクセントを加えることが求められる。鎌田も将来的にやりたいポジションがあると語る一方、現在はフランクフルトで任された役割を完遂することに集中する。

「与えられたポジションでできないとダメ。試合に出れているというのは当たり前のことではないので、しっかりその時その時でやっていかないとダメだなと思います」

難しいポジションだからやりにくい、自分の得意なプレーがしづらいと逃げ道を作ったりはしない。そうではなく、それぞれのポジションで期待される役割を理解し、実践し、その中で自分の得意なプレーをどのように披露するのかと向き合っていく。

2年間経験を積み重ね、ついに巡ってきたチャンス

欧州初挑戦となった2017-18シーズンは開幕戦でスタメンに抜擢されるが、すぐに実力を発揮することはできかった。必死に体を張り、ボールを守り、自分のプレーをしようとするが、容赦なく弾き飛ばされていく。日本とは別次元のさまざまな圧の違い。そんなことはもう知っていると多くのサッカーファンは言うだろうが、やはりフィジカルの違い、それもリーグ戦本番の当たりの強さは、肌身で感じなければわからないところがある。

あれから2年の時を積み重ね、鎌田は手応えを感じていた。昨年の8月15日に行われたヨーロッパリーグ予選3回戦ファドゥーツ戦後、数日後に迫ったブンデス開幕に向けて尋ねた時のコメントからもそれがうかがえる。

「(最初に欧州に)来た時よりもはるかに余裕も出てきているし、周りからの信頼もある程度つかめてきていると思う。個人的にはできると思っている。それを口だけじゃなくて、プレーで証明しなきゃいけない。今年はすごく大事な年になるかなと思います」

フランクフルトにとって今年は変遷の年だったことも鎌田にはポジティブに作用したのかもしれない。昨シーズンはヨーロッパリーグで決勝進出、リーグでも一時期はUEFAチャンピオンズリーグ出場を狙える位置につける大躍進を果たしていた。

ただチームの生命線だった3トップのルカ・ヨヴィッチがレアル・マドリードへ、セバスティアン・ハラーがウェストハムへ、さらに移籍市場が締まるぎりぎりにはアンテ・レビッチもACミランへ移籍。リーグでも屈指の破壊力だった攻撃陣を失い、同等とまではいわないまでも、新しい組み合わせの中でゴールへの道を作れるようにならなければならない。ファンからの期待もある。鎌田はチャンスと捉え、そのための覚悟も言葉にしていた。

「新しい選手である僕たちが同じくらい活躍しないとダメだと思っている。しっかり攻撃で結果を出していけば、彼らに追いつけると思う。フランクフルトで試合に出るというのは簡単ではない。厳しい世界なので、ここでポジションを取っていけば、結果を残しているということになると思う」

「最後の部分には自信を持っている」

昨年の9月22日、リーグ第5節のドルトムント戦では途中出場から値千金の同点ゴールに絡んだ。クロスをダイレクトで決めたかと思われたが、公式記録は相手MFトーマス・デラネイのオウンゴールに。待望の初ゴールはお預けとなった。この試合では他にも惜しいシーンがありながらゴールを記録できないでいたが、本人は平常心を崩さない。

「(焦りとか)そういうのはまったくないです。僕自身の意図通りにやれて、たまたま入らなかっただけなので。最後の部分には自信を持っているので」

ゴールが決まらないと自分のプレーに何か悪いところがあるんじゃないかと考えすぎてしまうことがある。でもあれもこれもと修正しようとすることが、本来持っていたフォームを崩してしまうようになったら、調子を取り戻すのがより困難になる。周りからのプレッシャーがある中、ブレずにやり続けるというのは簡単な作業ではない。それでも、プレー自体は間違っていないとやり続けていく強さが鎌田にはある。

ヨーロッパリーグのリエージュ戦ではセットプレーから2得点をアシスト。数字がつく活躍をしたと地元紙も称賛したが、鎌田はあくまでも冷静だ。自分がすべきプレー、自分が求めるプレーを追い求めている。

「いろんな人がいろんな見方をすると思いますけど、去シーズンは点が取れましたけど、点を取ってる以外何もしていない。上に戻るために僕自身点が欲しかっただけなので、点だけにこだわりましたけど。点を取ればいろんなイメージがつくと思いますけど、それはメディアの皆さんがどう書くかで変わってくる。僕自身が思い描いているところはずっと変わらないし、僕自身は上に行くために、いい成長の歩み方をしていると思っているので。今のプレー内容プラス、アシストと得点さえもうちょっと増やしていければ、僕の目指しているところにある程度近づけるのかなと思います」

さらに昨年11月28日に行われたヨーロッパリーグでは強豪クラブのアーセナル戦で2得点。間違いなく大きなインパクトを残した。鎌田にとっても一つのきっかけになったことだろう。

「アーセナル戦で2点入れてやっぱりこう……僕自身何かを変えたつもりはないですけど、ゴールにすごい近づけて、だんだん成長できているなっていう感覚はあるので、そういう部分ではよかったと思います」

もちろん毎試合自分のベストなプレーができるように準備をする。でもうまくいかない試合もある。彼には起こったことをそのまま受け止めて、次へと進もうとするしなやかさがある。

「ダメなシーンもあるし、運がないこともある。でも別に去年15点取ったからって、自分がストライカーみたいに点を取れる選手だとは思ってはいないので。中盤のわりに得点に絡めるだとか、そういうふうになっていくと思う。焦らずやっていけば」

何シーズンもプレーするというのが一流の選手

今年に入るとアドルフ・ヒュッター監督は不振を脱却すべくシステム変更に着手。鎌田自身ケガの影響もあり、しばらくの間出場機会がなかった時期があった。自分は試合に出ていない。そんな中チームは勝ちを重ねている。焦りや憤り。そんな感情に飲み込まれず、そうした時期でも自分を見失わずに、次に訪れるチャンスを生かすために準備を続けていた。

「あれだけ使われなかったことはすごく、僕自身『なぜ?』って疑問がすごくあった。ただサッカー選手なので、文句だとか愚痴だけじゃなくて、出た時にピッチで表現できないとダメだと思ったので、そのチャンスが来た時にっていうことだけを考えていた。入り込みすぎるのはよくないですけど、集中して今日に懸けていた。一つこう……難しい山を越えられた。やっぱり海外に来て思うのは、どれだけ良くても数試合でコロッと(評価が)変わってしまう。僕自身も1年目来たときはものにできなかったですけど、今は自分が出たら自信もあるし、気持ちの面でかなり成長できたかなと思います」

2月20日、久しぶりにスタメンで起用されたザルツブルクとのヨーロッパリーグのファーストレグで3得点をマーク。スタメンから外されても、ゴールがなかなか入らなくても、思うようなプレーができなくても、腐ることなく地に足をつけて、気持ちを切り替えて次の試合に向けて準備をしていたからこそではないだろか。

そういえば長谷部はこんなことも語っていた。
「1シーズン通じてプレーする、そして何シーズンもプレーするというのが一流の選手だと思う。それが(今後の)彼の楽しみなところだと思います」

今シーズンはコンスタントに出場機会をつかみ、プレー内容で信頼を勝ち取り、自分が目標にしていた数字も残すことができた。それを来季以降も続けてやっていけるかどうか。さらなる成長、ステップアップへつなげることができるのか。まだまだ壁にぶつかることもあるかもしれない。試合に出れない時期もくるかもしれない。それでも、その向上心が途絶えることはないだろう。鎌田は自分の強さを知っている。

「もともと小さい時からうまくいってるサッカー人生じゃないので。中学時代から鍛えられていると思う。(欧州でプレーした)1年目もうまくいかなかったけど、エリートできていないぶん、我慢できた。我慢できる力っていうのは他の人よりは強いのかな」

<了>

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