なぜフロンターレは覚醒したのか? 快進撃のカギは「ルール変更」を強みに変えた試行錯誤

Opinion
2020.08.21

川崎フロンターレの勢いが止まらない。7月のリーグ再開後、10戦10連勝のJリーグ新記録。「交代枠5人」のルール変更をフル活用し、後半に入って攻撃力が増す驚異の戦いぶりで首位を独走している。「勝ちながら成長し続けていきたい」と常々語る鬼木達監督の変化に柔軟な戦い方と振り返り、川崎の強さの秘密を探る。

(文=いしかわごう、写真=Getty Images)

リーグ10戦10連勝のJリーグ新記録

川崎フロンターレが、見事な勝ちっぷりを見せている。

ミッドウィークに行われた明治安田生命J1リーグ第11節では2位・セレッソ大阪に5-2で大勝。これでリーグ再開後のリーグ10戦を10連勝。1シーズンにおけるJリーグ新記録を樹立した。

前節・C大阪戦は、川崎の規格外の強さをそのまま示した一戦だったといえるだろう。

10試合でわずか6失点。リーグ最少失点の堅守を誇り、先制すれば勝つという勝利の方程式が確立しつつあった相手から大量5得点を奪っての逆転勝ちだ。試合後の敵将・ロティーナ監督も川崎の破壊力には困惑した様子だった。

「彼らが素晴らしい攻撃を持っていたこと。そして後半にまたクオリティが上がる。そういう相手のディフェンスは簡単ではありません」

その言葉にあるように、後半は圧巻だった。
クラブ歴代得点数トップに躍り出た小林悠が追加点を挙げると、驚異の新人として猛威を振るう三笘薫が公式戦5試合連続弾を記録し、さらにはレアンドロ・ダミアンがリーグ戦3試合連続となるゴールでダメ押し。試合後の小林は、最後まで攻め続けたチームの姿勢に胸を張っている。

「結果的に5点を取れたのは、自分たちが最後まで攻撃的な姿勢を貫いたからだと思います。3対2になった時には相手の勢いもあって、試合展開がどうなるかと思いましたが、最後まで4点目、5点目を取りにいった。それが今のチームの強さだと思います」

止まらない連勝の要因は、その圧倒的な得点力にある。総得点34はリーグトップ。2番目に多い柏レイソルの総得点24とは10もの差だ。失点9もサンフレッチェ広島と並び2番目の少なさで、得失点差+25とダントツの数字をたたき出している。

なぜ川崎フロンターレは勝ち続けられるのか?

では川崎フロンターレがいかにして勝ち続けているのか。

チームがここまで積み上げてきた10連勝を少し振り返ってみると、その勝ち方も巧妙に変化していることに気づく。そしてそこにあるのは、指揮官の戦い方と采配も含めた巧みなマネジメントである。

就任4年目となる鬼木達監督は、今季から新システムの4-3-3を導入。ピッチの幅を意識したサイドアタックを組み込むことで、より攻撃的なサッカーに着手した。シーズン序盤は、このスタイルを存分に機能させることで、破壊力抜群の攻撃陣が躍動した。

先発メンバーとなる主力を固定し、前半に複数得点でリードを奪う。そして後半は強度を落とさぬメンバー交代をしながらゲームを終わらせる。リーグ再開後の序盤は、鹿島アントラーズ戦(第2節:2-1)、FC東京戦(第3節:4-0)、柏レイソル戦(第4節:3-1)と、どれも先行逃げ切りの試合運びだった。

だが勝ち続けると、対戦相手が研究と対策を入念に準備してくるようになるのは当然のこと。

4-3-3が抱えているシステムの齟齬(そご)を露骨に狙われるようになり、前半は我慢の時間を強いられる展開も増えてきた。それならばと、今度は後半のベンチワークで一気に巻き返す戦いぶりを鬼木監督は見せ始めている。再開後から採用されている5人交代ルールを効果的に活用。横浜FC戦(第5節:5-1)、ベガルタ仙台戦(第6節:3-2)、湘南ベルマーレ戦(第7節:3-1)がその典型だが、負傷離脱していた小林と三笘の2人がベンチに戻ってきたこともあり、オープンな展開が増える後半を攻撃的な采配で圧倒するようになっていった。

それだけではない。
過密日程による連戦が続く現在の8月は、主力のコンディションを見極めて先発メンバーを編成し、宮代大聖や旗手怜央といった若手を起用することで、夏場の試合でも主力を酷使することなく、試合に向かわせている印象だ。実際、小林はうまく指揮官がコントロールしてくれているのを感じていると明かしている。

「オニさん(鬼木監督)がうまく選手を代えながらやってくれているのが大きいと思います。固定しているチームも多いと思いますが、うちは前線の選手で90分出る選手はほとんどいない。しっかりと回復して、また次に疲れを残さないで迎えていることができている」

「交代枠5人」をフル活用した戦い方とマネジメント

こうした戦い方とマネジメントの背景から浮かび上がってくるものがある。それは今季のみ特例として採用されている交代枠5人の変更ルールを鬼木監督がいち早く準備して対応していたという点である。

再開初戦となった鹿島戦後のことだ。
再開後の1試合を終えてみて、5人交代制や飲水タイムなど通常とは違う条件や制限がある試合の感想を問われた指揮官の言葉は印象的だった。

「レギュレーションが大きく変わっているので、自分の常識やセオリーを度外視してやらないと今シーズンは戦っていけない。そう思ったのが、率直なところですね」

つまり、これまでのサッカーの常識やセオリーにこだわることなく、むしろそこを一回リセットするぐらいの感覚で、90分の戦い方を捉えようとしていた印象だ。

きっかけは再開直前に湘南と行った練習試合だったと明かしてくれたことがある。非公開だったので試合展開はわからないが、スコアだけ見れば3-6(45分×4本)と苦戦を強いられており、その要因に相手の5枚の交代策が効果的だったことを指揮官は挙げていたのだ。

「始まる前ではそんなに(5人交代枠で)こうしようというのは大きくはなかったです。ただ再開前のトレーニングマッチをやったときに、自分たちは人数の関係で交代はできなかったのですが、相手チームに交代をうまくされていいゲームをされた。この交代は、チームに力を与えるなと1週間前に感じられた。それは大きな出来事でしたね」

もちろん、「交代枠5人の定跡」が確立されていない状態で再開されただけに、試行錯誤もあったはずだ。ただこの特別ルールを生かすために、入念に準備し始めたことはうかがえる。監督として2度のリーグ優勝とカップタイトルを獲得している経験がありながら、こうした変化に対して実に柔軟な姿勢だと感じたものだ。

“制約”を楽しんで強みに変える姿勢

こうした指揮官の姿勢を見て、思い出したことがある。
それは鬼木監督がチームを率いた初年度である2017年シーズンのこと。

実はこの年からJリーグYBCルヴァンカップでは21歳以下の選手を必ず先発起用するレギュレーションが発表されていた。出場機会の少ないであろう若手の誰かを必ずスタメンに組み込んでゲームプランを考えなくてはいけないわけで、言い換えればスタメン編成に強制的ともいえる「制限」が加わることになっていた。結果が求められる監督にとっては、必ずしも歓迎できる変化ばかりではないはずで、面を食らった監督もいたに違いない。

当時の川崎フロンターレの対象選手は、三好康児、板倉滉、田中碧、タビナス・ジェファーソンの4人。三好康児と板倉滉がプロ3年目、田中碧とタビナス・ジェファーソンは、まだ出場のないルーキだった。そしてこうしたルール制限によるゲームプランの影響を、鬼木監督はどう捉えているのか。ある時の囲み取材で見解を聞いてみると、彼は意外なほど前向きな反応だったのである。

「使い切れない選手を思い切って使えます。普段のリーグ戦だと、どうしようかなと迷う選手をこのレギュレーションで思い切って使える。本人たちのモチベーションも高くなるし、それで実際、試合に出て力をつけてきている選手もいるので。それは悪いことではないと思います」

条件や制約がつくことをネガティブに捉えず、逆にそれを楽しんで(というと語弊があるが)、自分の監督としての引き出しを増やそうとしているのだなと感心したのをよく覚えている。そしてこのスタンスは、就任4年目の現在も変わっていないように思える。

「勝ちながら成長し続けていきたい」

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けた2020年。
長い中断期間を要した各国リーグに過密日程が想定されることへの対応として、選手交代枠が3人から5人に変わった。サッカーが11人でやるスポーツには変わりはないが、1試合を16人で戦い抜く競技に変化した。

スタメン11人のうちGKを除けばフィールドプレーヤーは10人であり、試合終了間際にはピッチにいる選手の半分が入れ替わっていることになった。交代回数はハーフタイムを除いて各チーム3回までという制約があるため、選手交代は2枚替えが基本となり、戦術の幅を広げ、チームとしての運動量が落ちないアグレッシブなプレーが増えている。選手のケガの抑制という点でも効果がありそうだ。FIFA(国際サッカー連盟)は「特例として今シーズンに限る」というルールにしているが、最後まで目が離せない試合展開が増えているのは、見る側にとっても、何より未来に向けても好ましい変化のように思える。

現在、首位を独走している川崎フロンターレはこれまでの全試合で5人交代枠をフル活用中だ「勝ちながら成長し続けていきたい」と鬼木監督は一貫して言い続けている。

ルール変更を生かす交代策にいち早く準備し、それに対応できる選手層の厚みで規格外の強さを示し、かつないほどの強さで連勝街道を突き進んでいるチームが、どういう形でシーズンを締めくくるのか。楽しみは尽きない。

<了>

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