準々決勝の「強豪校対戦」は必然? “特別”なコロナ禍の選手権に際立つ強さの理由

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2021.01.04

12月31日に開幕した全国高校サッカー選手権大会。1月3日に3回戦が行われ、ベスト8が出揃った。新型コロナウイルスの影響を受けてこれまで多くの大会が中止され、思うようにトレーニングもできず、波乱の展開も予想された中、ここまでの戦いを振り返ると、前評判の高かった高校が順当に結果を出している印象を受ける。ではなぜ、毎年多くのジャイアントキリングを目にしてきた選手権において、強豪校が順当に8強へと勝ち上がってきたのだろうか?

(文=松尾祐希)

強豪校の強さが際立つ、例年以上の特別な大会

今年の高校サッカーは新型コロナウイルスの影響でインターハイ(総体)が中止。リーグ戦も規模を縮小して開催された。そのため選手権は、春先から満足いくトレーニングができなかった中で迎えた今年度最初で最後の全国舞台となる。選手たちにとっては例年以上に特別な大会であり、観衆が入っていない環境であったとしても仲間とボールを蹴れる喜びは何事にも代え難い。

さまざまな人の尽力で開催されている今大会の序盤戦を振り返ると、大会前から前評判を得ていたチームが順当に勝ち上がってきており、大きな波乱は3回戦までに起こっていない。

選手主導のボトムアップ思考型を実践して29年ぶりの選手権出場を決めた堀越を除き、全国舞台で結果を残しているチームがベスト8に勝ち上がってきた。

山梨学院(プリンスリーグ関東)vs昌平(プリンスリーグ関東)
矢板中央(プリンスリーグ関東)vs富山第一(プリンスリーグ北信越)
市立船橋(プレミアリーグ関東)vs帝京長岡(プリンスリーグ北信越)
青森山田(スーパープリンスリーグ東北)vs堀越(東京都リーグ1部)
(編集部注:本来、市立船橋と青森山田はプレミアリーグEAST所属だが、コロナ禍の2020年はそれぞれプレミアリーグ関東、スーパープリンスリーグ東北に参戦)

準々決勝に勝ち進んだ8校のうちの7校は、プリンスリーグ以上に所属している。近年、高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグやプリンスリーグ勢は、毎週のように全国レベルの戦いを経験することで力をつけてきた。今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でリーグ戦の試合数が半減。夏のインターハイも中止となり、1点を争うようなシビアなゲームを例年ほど経験できなかったが、ハイレベルなゲームを8月下旬から経験できた点が都道府県リーグに参加するチームとの差に少なからずつながった。

矢板中央に息づく「伝統の堅守」の経験値

この7校の共通点をさらにひもといていくと、直近5年のインターハイもしくは選手権でベスト4以上に勝ち上がっている点も挙げられる。

山梨学院(総体:優勝1回)
昌平(総体:4強2回)
矢板中央(選手権:4強2回)
富山第一(総体:準優勝1回)
市立船橋(総体:優勝1回、準優勝1回、4強1回)
帝京長岡(選手権:4強1回)
青森山田(選手権:優勝2回、準優勝1回、4強1回、総体:4強1回)

夏場に思うように遠征もできず、例年とは異なるスケジュールでの強化はどのチームにとっても初めての経験。ほとんどの指揮官が手探りで進め、できることは限られた。そこで今回の選手権を戦う上で生きたのが、これまでの経験値。特に昨年の選手権でベスト4に入った青森山田、帝京長岡、矢板中央が今年も8強に進み、この3校は一昨年もベスト8以上に名を連ねているチームだ。実際に3回戦で矢板中央は、今までの経験で培った勝ち方を前面に押し出す戦いぶりで勝利を手にした。

今大会屈指の攻撃力を擁する東福岡に対し、矢板中央は伝統の堅守で対抗。序盤からリスクを負わず、常に自陣へ9人が帰陣する守備的な布陣で要所を締める。体を張った守りで決定機を阻止し、強固なブロックは見ている側が感動を覚えるほど。スコアレスで持ちこたえてPK戦で勝利を手にした後、髙橋健二監督はチームに息づく伝統をこう語った。

「栃木県予選の決勝もこの3回戦もそうですが、2年生が7人先発出場しました。今年は若いチームで経験値が少なく、劣勢に立つと弱さが出ていたけど、3年生のキャプテン・坂本龍汰、新倉礼偉といった選手が(去年の経験を生かして)戦い、一生懸命最後まで諦めない粘り強さを出してくれた」

矢板中央は昨年の準決勝・静岡学園戦でも東福岡戦同様に守り倒し、守備で埼玉スタジアム2002に詰め掛けた観衆を魅了した。しかし、最後の最後にPKから失点。初の決勝進出はかなわなかった。その経験について、坂本は言う。

「今日の東福岡戦は去年の静岡学園戦と似ていた。苦しい試合だったけど、自分や新倉、多田(圭佑)が去年の経験を生かして声をかけ続けていた。やっぱり、自分たちは守備ばっかりで相手に攻撃され続けたけど、静岡学園戦の反省を生かして1年間やってきたことが生きた」

静岡学園戦を経験していなければ、2年連続のベスト8は果たせなかったかもしれない。

青森山田のA・B対決が生んだ競争力

そして、今まで積み上げてきた経験値に加え、もう一つ8強入りした高校の共通項を挙げるとすれば、チーム内の競争の激しさだ。8校中6校が100名以上の部員を擁し、複数のカテゴリーに分かれて常に厳しいレギュラー争いが展開されている。例えば214名の部員がいる青森山田は5つのカテゴリーで活動。今年は新型コロナウイルスの影響で全国リーグのプレミアリーグを開催できず、Aチームは1年限定で地域リーグに参戦する形でスーパープリンスリーグ東北を戦った。Jクラブのアカデミーなどと戦えなかった点はマイナス材料となったが、それを補ったのがBチームの存在だ。Bチームもプリンスリーグ東北を制した経験があり、今年もスーパープリンスリーグ東北でトップチームに次ぐ2位の成績を収めた。10月4日に行われた優勝決定戦では直接対決が実現。同一校のチーム同士とは思えない激しいバトルを繰り広げた(結果は2対0でAチームが勝利)。今年はAチームとBチームが同じ日に戦う日程が多く、選手登録の関係で起用法が難しかったが、そうした厳しい状況で選手間競争ができたのも大きな意味を持った。

AチームとBチームが同じ日にスーパープリンスリーグ東北の開幕戦を戦った後に、黒田剛監督も競争力についてこう話していた。

「レギュレーション的に難しく、(AチームとBチームが連続で試合を行う場合は登録の関係で)15人しかベンチに入れない。Bチームでスタメンに名を連ねている選手は本来であればAチームのベンチにいる選手。(連続で試合に出る選手も出るかもしれないので)多少難しい状況だけど、世界で渡り合うためにはタフでならないといけないし、個が強くならないといけない。苦しいゲームで何ができるか。その中で天井を超えて、スキルアップが図られていく」

実際に青森県予選決勝ではBチームでキャプテンを務めていた内間隼介がゴールを挙げた。ハイレベルな競争でチーム力を底上げできる点もまた青森山田の強さだろう。

100名以上の部員を抱える他校もセカンドチームが県リーグ1部を戦っている。部員が100名未満の2校も競争力では負けていない。市立船橋はAチームと県リーグ2部に所属するBチームの間で選手を頻繁に入れ替え、選手間でメンバー選考を行っている堀越も積極的に新たな選手をトップチームに引き上げることを欠かさない。選手間競争が行われることで、シビアなゲームが少なかったデメリットを補った。その結果が今回の8強入りにつながったといえるだろう。

勝負は時の運もあり、全てがこの事例だけとは言い切れない。しかし、長い年月を掛けて取り組んできたことが、大舞台での結果につながっているのは間違いない。1月5日に行われる準々決勝以降はそうした強豪校同士の対戦となる。今までに蓄積してきた経験値や競争力を生かしながら、彼らがどのような戦いを見せるか注目が集まる。

<了>

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