青森山田・黒田剛監督が明かす、その強さの背景 「思考を共有する」組織マネジメントとは

Opinion
2020.12.29

日本代表で活躍するMF柴崎岳(レガネス)、DF室屋成(ハノーファー)らの母校であり、JFA U-18サッカープレミアリーグ王者の青森山田高校。変則開催となった今年のスーパープリンスリーグ東北が同校のトップチームとセカンドチームでの決勝戦となったことも話題となった。その優れた組織力、総合力には、信頼するスタッフ陣の役割分担と、中・高6年間での青森山田流の育成モデルが機能している背景があるという。全国高校サッカー選手権の開幕を目前に控え、「目標は、もちろん、王座奪還です」と力強く語る黒田剛監督に、近年のマネジメントの確立について詳しく話を聞いた。

(文・本文写真=平野貴也、トップ写真=Getty Images)

高いレベルでサッカーを議論できる指導スタッフ陣の存在

青森山田高校のグラウンドを12月中旬に訪れると、選手たちが除雪作業にいそしんでいた。その姿を見て「よそは、こんなことしなくてもすぐに練習できるんだろうな」と苦笑いを浮かべたのは、黒田剛監督だ。4分の1から半面ほどの人工芝が見えるようになると、ほかのエリアを除雪しながら練習を開始。使うエリアを変えながら、練習と除雪を並行して進めていった。

過酷な環境にも関わらず、全国の優秀な小中学生が集まってくるのは、青森山田が近年、安定して全国のトップを走り続け、毎年のようにプロ選手を輩出しているからだ。

2005年にインターハイを初優勝した頃から、全国レベルの強豪ではあったが、直近5年で、高円宮杯U-18プレミアリーグチャンピオンシップ(高校の部活動とJリーグのユースチームなどが参加)を2度、全国高校サッカー選手権を2度制覇(16、18年度に優勝、19年度は準優勝)。いまや高校サッカー界の代表的存在となっている。近年の安定感の理由は、間違いなく組織力の向上にあり、その背景には、黒田監督のマネジメント力がある。

黒田監督が、組織としてのプライドを示したのは、前回の高校選手権だった。例年、2回戦と3回戦は連戦で行われる。そのことを聞かれると「いろいろなコーチ陣が役割を分担して、よく機能しているから、大丈夫。高いレベルでサッカーを議論できる感覚を持つ指導者が育ってきた。(スタッフの中に)全国中学校サッカー大会の優勝監督や、プリンスリーグ東北の優勝監督がいて、トップオブトップで戦える指導者が4人くらい揃っている」と中・高の指導スタッフを総動員してサポートしていることを明かした。

13名のスタッフうち7名は、教え子

今回は、黒田監督にマネジメントをテーマに話を聞いたのだが、最初に、選手権の全国大会でスタッフがどのように役割分担をしているのかについてのコメントを紹介する。

「毎年、分析ルームを用意して、パソコンを3台くらい持ち込んで作業しています。相手チームの分析資料を作るコーチが1人、編集映像を作るコーチが1人、リスタート対策のコーチが1人。ほかに、身体のケアをするトレーナーが1人、生活管理を束ねるコーチが1人と分担しています。私自身は、そのすべてに並行して少しずつ関わり助言をします。また、次の試合に向けて注意すべきことやモチベーション管理など、チーム全体においてのマネジメントを担当します。試合後の改善ポイントの周知や、試合中に起こりえるさまざまな局面へのアプローチなど、そうした細かなことを、この5年くらいの全国大会では徹底して行っています」

インタビューの中で見えてきた青森山田の組織力の強さは、この行動に詰まっている。黒田監督という組織のトップに立つ人材の思考が全スタッフに共有される場であり、各スタッフがそれぞれに明確な役割と責任を持つ。そして、すべてを俯瞰してバランスを取るトップの人材が、目配り、気配りをする余裕を持ち、より機敏な対処を行う。全国大会を終えれば、組織の代表格である高校のトップチームで経験し感じたものを「実践値」として、各コーチングスタッフが担当するチーム(セカンドチームや中学校のチーム)に還元していくのだ。

こうした効率的な取り組みも、過去の積み重ねてきた多くの経験があるからこそ生まれている。

――主にチーム、組織のマネジメントについてお話を伺いたいのですが、現状はどれくらいのスタッフがいて、どのような役割を果たしていますか?

黒田:まず、私立の学校なので、ある程度、生徒の人数を確保しながら運用していかなければならないという事情があります。部員が増えれば、コーチの人数も必要になります。今は、外部コーチ、トレーナーを含めて13名のスタッフがいますが、そのうち7名は教え子です。青森山田イズムというか、青森山田の教育方針や理念、サッカーの指導を含めて、私の下で経験したことに間違いないという確信を持って、伝えてくれているところは、指導組織として大きな力になっているのだと思います。

もちろん、誰でも何でもできるわけではないので、指導能力に応じた適材適所の配置転換は必要です。その中でも、今は正木昌宣がヘッドコーチとしてメンバー編成を含めて動いてくれていて、中学校の監督は上田大貴、高校のセカンドチームの監督は千葉貴仁(いずれも高校OB)がやってくれていますが、それぞれが結果を残していて、中心となるスタッフは、どこの学校のサッカー部に行ってもそれなりにやれる力量を持ったスタッフが揃っていると自負しています。

少なくとも7人は1人の監督としてチームを采配

――セカンドチームは今季、スーパープリンスリーグ東北で準優勝。トップチームと東北最強の座を争いました。中学校は2017年まで全国大会を4連覇。2018、2019年は準優勝でした。結果を出せる指導者が育っている背景は?

黒田:私も含めて、最初から全員が監督として結果を残せるような経験を持っていたわけではありません。この10年で互いに指摘しながら、経験値をシェアしながら、変わってきています。ただ、高校で4カテゴリー、中学校で3カテゴリーのチームが動いていて、少なくとも7人は1人の監督としてチームを采配する機会があるので、その中で成長できるものはあると思います。

監督がいて、コーチがいて、その下に複数のコーチがいるという形ではなく、各自が監督としての立場で、相手チームの分析なども含めて、きっちりできる感覚と目を持ってくれています。ですから、彼らの言うことをうまく取り入れつつ、最後はやっぱり私が結論を出していかなければならないと思っています。27年の指導経験というのは、彼らにはなく私が持っているわけで、それを各スタッフの指導のスパイスにして、チーム(組織)全体を成長させるというスタンスを崩さずにやっているのが、マッチしているのかなと思います。

――指導者それぞれにも個性がある中で、束ねるための工夫は?

黒田:やはり教え子といっても、それぞれに、自分なりの方針や理念……いろいろな意思を持っているものです。人数が多ければ多いほど、まとまりにくくなるものです。しかし、それをまとめるのが青森山田の力です。大きく逸れてしまったら手遅れになってしまうので、監督がそこを見過ごしてはいけないし、早い段階でこまめに修正するようにしています。組織マネジメントにおいて早期発見、即座の軌道修正は監督の重要なスキルです。その点では、選手をまとめていくのと似ているところがあるかもしれません。状況の変化を早く察知して、どういう方法で修正していくか。任せるか、直接言うか。自分が選手に話すのを見ることで気付いてもらうか。方法もタイミングもさまざまに工夫があり、多くの経験なしにはできないことだと思っています。

青森山田流というか、もう黒田流ですね。青森山田の「進むべき方向性」というものを明確に示して、それをスタッフみんなで共有し、互いに歩み寄りとことん実践していくことが大事ですね。

中学校の副校長となり、選手を客観的に見れるように

――13人のスタッフとの意思疎通は、どのように行っていますか?

黒田:シーズンが始まると、それぞれのカテゴリーで練習時間や場所が違いますし、遠征の引率もバラバラになるので、一堂に会して話す機会は少なくなってしまいます。そこは割り切って、スタッフの中でも縦軸となる高校のトップ、セカンド、サードや、中学のトップ……という(各監督の)関係をしっかりと浸透させて、そこから横への伝達というピラミッド構造の作業ですね。その中で各スタッフが役割と責任を持たせることが大切ですね。

今は、教え子の正木がヘッドコーチとして、トップとセカンドの選手編成なども他のコーチの相談を受けながらやれるようになってきました。もちろん、スタッフ間の仲が良くて意思疎通が取れるというのが大事だと思います。選手権のときの役割分担の話をしましたけど、選手権の期間は、選手たちと多くのコミュニケーションを取る機会が増えますから、みんなとチームの改善点について話し合ったり、昔の苦い体験談を語ったり、そのようなことを積極的に行っています。

――現在、役割分担をしていることを、以前は一人ですべてやろうとしていたわけですよね?

黒田:確かに、昔は今ほどの選手数でないとはいえ、一人でやらなければならない時代でしたね。だから勝負ごとに関して、何か一歩足らなかったという点は多かったと思います。2回戦が終わったら、帰りのバスの中で3回戦の資料作りをしながらホテルに戻ったり、ビデオ編集などにも時間がかかったり……。いつも逼迫(ひっぱく)した時間を過ごしていたものです。今のほうが断然、効率的です。総括して肝になる部分を深く見れますし、時間と気持ちに余裕があるので、選手たちに話す言葉もちょっとチョイスしてタイミングを選んで声をかけられます。

――極度の多忙、一人で全部を背負うプレッシャーから解放された効果もあるのですね。

黒田:この5年間は、私が(教頭→副校長として)中学校の所属になったことで、高校の選手の普段の授業や担任を持つこともなくなりました。彼らの普段の授業態度や服装や頭髪などの学校生活を直接見ることもなくなりました。だから、グラウンドで新鮮な状態で会えるのは、すごくありがたいですね。以前は、ホームルームでカリカリ怒って、そこにはサッカー部の選手もいて、そのあとでサッカー部向けの連絡を落ち着いてやらなければいけないということもあり、選手が私の教員としての顔、サッカー指導者としての顔のどちらも見ているわけで、それをどう受け取るかを想像しながら接していくことで、練習前から私が精神的に疲れてしまっていた時期もありました。今は、いろいろな意味で客観的にチームを見られるようになってきたのが成長の要因ともいえると思います。

良い選手でも、できないものを見過ごさないこと

――組織力の向上は、中・高6年を青森山田で過ごした選手の中からプロに進む選手が増えている点にも影響しているのでは?

黒田:中学校、高校の連係は、常にやっています。それこそ、柴崎岳は(2006年の)中学2年生のときから高校のトップチームの公式戦(当時のプリンスリーグ東北)に出場していますし、また高校1年でJ1チームの練習参加も実現させています。そうやって、常に満足をさせずに上を目指せる環境を与えてきました。近年は、高校の選手層が厚くなってきてなかなか同じような形にはなっていませんが、今でも中学3年生の主力は高校の練習に参加させます。他チームの主力よりも早く、自分が上のレベルで何が通用して、何が通用しないのかを知るきっかけにもなりますし、より高いレベルを意識してチャレンジさせていくことを大切な指導方針としています。どれだけ良い選手であっても、できないものを見過ごさないこと。一人の人間として自立させ、上の年代に混じっても自分の意見を言えて、常にチャレンジしていけるメンタリティを育てていける育成環境が大切なのです。

マニュアル化をしているわけではありませんが、小学6年生の段階で必ずプロになるかは分からないものですが、最近は、今年の藤原優大(浦和内定)、昨年の武田英寿(浦和)、2年前の三國ケネディエブス(福岡)、檀崎竜孔(ブリスベン・ロアー)、4年前の三國スティビアエブス(順天堂大→水戸内定)、高橋壱晟(千葉)……と中・高の6年を経てプロになっていく選手が増えてきていて、青森山田流の育成モデルがうまく確立してきたということが言えるかなと思っています。

――最後に、今大会への意気込みを聞かせて下さい。

黒田:選手権は、何が起こるか分かりません。どのチームも、この大会にかける意気込みは計り知れません。ですから、まずは心身共に安定して最高のコンディションで臨むことが大事。その中で、これまでの試合と同様に、青森山田の隙のないサッカーを発揮していきたいと思っています。他チームの標的にされるかもしれませんが、気にすることはありません。ベストを尽くして通用しなければ、そこに次のヒントがあります。スタッフ陣としては、一人一人が担っている役割を十分に理解して務め、選手がスタッフのためにも頑張りたいと思うようなチームにしたいですし、またそういう選手たちであってほしいと思っています。目標は、もちろん、王座奪還です。

<了>

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PROFILE
黒田剛(くろだ・ごう)
1970年生まれ、北海道出身。登別大谷高校、大阪体育大学を経て、指導者の道へ。1994年から青森山田高校で指導を始め、翌年から指揮官に就任。2006年にはプロで監督を務められる公認S級コーチライセンスを取得し、日本代表の柴崎岳や室屋成らを育て上げた。2016年には高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグと冬の全国高校サッカー選手権大会を初制覇。2018年にも冬の檜舞台を制し、昨シーズンは2度目となるプレミアリーグ年間王者に輝いた。

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