
侍ジャパンを「足」で救った周東佑京、スピード出世の礎となった高校・大学時代
日本の優勝で幕を閉じた第2回世界野球WBSCプレミア12。有力選手の辞退が相次ぎ、戦力ダウンが心配されていた侍ジャパンだったが、蓋を開けてみれば連覇を目指した韓国を破っての初優勝。この大会で最も強いインパクトを残した選手の一人が、プロ入り2年目ながら足のスペシャリストとして抜擢された周東佑京(福岡ソフトバンク・ホークス)。2017年の育成ドラフトでソフトバンクに入団、今年の開幕直前に育成枠から支配下選手になったばかりという“スピード出世”を果たした周東に高校時代から注目していたライター・西尾典文氏に寄稿いただいた。
(文=西尾典文、写真=Getty Images)
侍ジャパンを“足”で救った新星・周東佑京
スーパーラウンド初戦のオーストラリア戦。1点を追う7回裏、無死一塁の場面で代走として登場したのが周東佑京だった。二盗、三盗を決めると、源田壮亮(埼玉西武ライオンズ)のセーフティバントの間に相手投手のタッチをかいくぐって見事に生還し、同点のホームを踏んだのだ。もしこの試合に敗れていれば日本が決勝進出できたかはかなり微妙だっただけに、まさに周東の足が日本を救ったと言っても過言ではないだろう。
日本の救世主となった周東のプレーを高校時代から見続けている筆者が、過去のプレーぶりを振り返りながら一躍スターダムにのし上がった要因、そして今後に向けての課題などを探ってみたいと思う。
ノーマークだった“東農大二のショート”に釘付けに
周東のプレーを初めて見たのは2013年7月27日。群馬県営敷島球場で行われた夏の高校野球、群馬大会の準決勝でのことだった。第一試合はこの夏甲子園で優勝を果たすことになる前橋育英と樹徳の試合。当時前橋育英の2年生だった高橋光成(現西武)が最速144キロのストレートを武器に7回を投げて被安打4、8奪三振、1失点と見事なピッチングを見せていた。周東が登場したのはその後の第二試合、東農大二と前橋工の試合である。お目当ては前橋工の3番を打つ原沢健人(現SUBARU)だったが、試合前のシートノックで東農大二のショートを守っていた周東のプレーぶりに目がくぎ付けになったのをよく覚えている。
高校生の中に一人だけ大学生か社会人が混ざっているように錯覚するほどプレーにスピードがあったのだ。この時の周東のプレーを『アマチュア野球vol.35(日刊スポーツ出版社)』のドラフト候補スカウティングリポートというコーナーで以下のように書いた。
「細身だが下半身が強く、体のバランスが良いのが長所。とにかくプレーにスピード感があり、難しい打球も流れるような動きで軽やかにさばく。巧みなグラブさばき、強肩も間違いなく超高校級。打順は2番だがシュアな打撃も光る。併殺崩れのセカンドゴロでは一塁到達が3.95秒をマークしたように脚力も申し分ない。高校球界の守備名人とも呼べる存在で、打撃に力強さが出てくれば将来的には十分プロも狙える素材だろう」
一塁到達タイム3.95秒と紹介しているが、プロでも4.0秒を切れば十分俊足と言われる数字であり、高校生でこのタイムを記録する選手はなかなかいない。ちなみに今年高校卒のルーキーながら一軍でも活躍を見せた小園海斗(広島東洋カープ)の高校時代の一塁到達タイムは最速でも3.98秒だった。プロ入りするような野手は高校時代1番か中軸を打っていることが多いが、前述したように周東の打順は2番だった。それでも当時のドラフト候補一覧表ではランク『B』(ドラフト指名の可能性あり)として紹介している。守備と足がそれだけ飛び抜けていたことが分かっていただけるだろう。
“速さ”に加え“力強さ”を増してスピード出世 さらなる飛躍に期待
周東のいた東農大二は決勝で前橋育英に敗れて甲子園出場はならず、周東自身もプロ志望届は提出することなく東農大北海道オホーツクに進学することとなった。大学での周東のプレーを最初に見たのは2014年秋の明治神宮大会、対京都産業大戦だ。
1年生ながら8番、レフトで先発出場したが2打席凡退に倒れ、第3打席には代打を送られて交代となっている。大学生に入ると体が明らかに細く、木製バットでは強く弾き返せないバッティングが気になった。しかし第2打席のファーストゴロでは一塁到達3.94秒をマークしており、その俊足ぶりは健在だった。
東農大北海道オホーツクは翌年春の大学選手権にも出場。筆者が見た試合は1回戦の対富士大戦で、この時も周東は8番、レフトで先発出場している。この試合での結果は4回打席に入り3打数2安打1打点という上々のもので、第3打席のセンター前ヒットと第4打席のレフトへの犠牲フライは小野泰己(現阪神タイガース)から記録したものである。しかし結果は出ていたものの、打球は全てセンターから左方向で力強さは相変わらず感じることができなかった。翌年の大学選手権にも1番、サードで出場して4打数2安打という結果を残しているが、チームが初戦敗退ということもあってそのプレーを見ることはできなかった。
アマチュア時代の周東のプレーを最後に見たのは4年時の大学選手権、対福井工大戦だ。この試合も前年に続いて1番、サードで出場。プレーボール直後の第1打席で高めのストレートをとらえてセンターオーバーのスリーベースを放ち、三塁到達タイムは10.98秒をマークしたのだ。このタイムにも補足が必要だろう。通常12.00秒を切れば十分に俊足と言われるタイムである。筆者は年間約300試合アマチュア野球の現場でタイムを計っているが、三塁到達で11.00秒を切るのは年に1回あるかないかというレベルである。また大学2年時には60kgだった体重はこの時のパンフレットによると78kgまで増えており、高めのストレートをかぶせてとらえた打球はそれまでの周東にはない力強いものだった。
地方リーグに所属していたこともあってドラフトでは育成2位での指名となったが、高校、大学で見せていたスピードはプロでも絶大な威力を発揮し、2年目の今シーズン開幕前には支配下登録。そしてシーズンではチームトップの25盗塁をマークし、異例とも言える早さで日本代表にまで駆け上がった。
抜群のスピードに加えて、内野も外野も守れる守備力を備え、大学の最終学年にはパワーアップしたところも見せたことが、ここまでのスピード出世に繋がったと言えるだろう。しかしまだプロのトップレベルとなると、打撃が非力な感は否めない。今シーズンの打率は2割を下回っており、放った20安打のうち7本が内野安打だったところにもパワー不足がはっきりと表れている。
チームは野手の世代交代の真っただ中にあり、同じタイプの福田秀平の退団が濃厚というのも周東にとっては大きな追い風である。このチャンスを生かして課題の打撃を伸ばし、来季以降は常勝ホークスの不動の1番に定着するくらいの活躍を見せてくれることを期待したい。
<了>
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